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レポート

2022/07/26

日本乳癌学会学術集会 患者・市民参画プログラムより

よりよい医療を実践するためのツール「乳癌診療ガイドライン」の読み解き方

今村美都=医療福祉ライター

 2022年6月30日〜7月2日に開催された第30回日本乳癌学会学術集会では、30年の歴史の中で初の試みとなる患者・市民参画プログラム、通称「BC-PAP(ビーシー・パップ:Breast Cancer Patients and Advocates Program)」が開催された。その最初のプログラム「ガイドラインの読み解き方」では、ガイドラインの作成に患者代表として参画してきたキャンサーソリューションズ株式会社/一般社団法人CSRプロジェクトの桜井なおみ氏、横浜労災病院乳腺外科の千島隆司氏が座長を務め、聖路加国際病院腫瘍内科の北野敦子氏による「ゼロから学ぶ『診療ガイドライン』の読み方」、国立病院機構九州がんセンターの徳永えり子氏による「ともに役立てたい『患者さんのための乳癌診療ガイドライン』」という2つの演題で講演と質疑が行われた。その様子をレポートする。


シェアード・ディシジョン・メイキングに欠かせない診療ガイドライン

 日本医療機能評価機能EBM医療情報部 Minds 診療ガイドライン評価委員を兼務し、診療ガイドラインの作成支援、評価選定、活用促進、患者・市民参画に深く関与する北野氏は、「世の中にはがんに関する様々な情報があふれていますが、医療者だけでなく患者にも診療ガイドラインを活用してほしい。診療ガイドラインは、医療者の教科書であり、最新の医学情報を伝えるものであり、学会の方針を示すもの。よりよい医療の実践に最も重要なのが協働意思決定、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)というプロセスですが、診療ガイドラインはよい医療を実践するためのツールです」と語る。

 かつてはインフォームド・コンセント(IC)、つまり説明と同意のプロセスが重要視されたが、現在はSDMの時代。SDMでは、質の高い厳選された科学的根拠に基づき、患者と医療者の間で十分な情報共有と対話を行う。そして患者の希望や意思を反映・尊重した上で、患者と医療者の双方が納得し、協働で意思を決定していく。「患者も医療の不確実性を引き受けること、そのために必要な科学的リテラシー(理解し活用する力)を持つことが求められます。診療ガイドラインは、患者と医療者の間の情報の非対称、溝を埋める役割を果たします」と北野氏。

 EBM普及推進事業(Medical Information Distribution Service:Minds)では、Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づいたガイドラインの作成を推奨している。それによると、ガイドラインの作成は、システマティックレビューパートと推奨作成パートの2つに大きく分かれる。推奨決定会議では、一定の方法で文献をくまなく調査し分析を行ったシステマティックレビューをまとめたレポートについて議論し、投票により推奨度を決めていく。推奨度は強い推奨、条件付き推奨と段階に分けていくが、近年は患者や市民の参画が重要視されており、2020年刊行の最新版Minds診療ガイドライン作成マニュアルでも作成開始からの患者・市民参画が明確に書き込まれた。

 患者や市民がガイドラインの作成に参画することで得られる改善点には、次の5つが挙げられる。1. 患者にとって重要であっても医療者が見落としてしまう対処すべき課題や疑問、クリニカルクエッション(CQ)のアウトカムを拾い上げることができる、2. 当該ガイドラインにおいて課題となる治療法が患者・市民に実際にどのように影響を与えるかについて知り、益と害の推定をより具体的に行うことができる、3. 推奨を作成する際、科学的エビデンスを補完・補強するもの、または疑義を呈するものとして、患者・市民の見解を反映できる、4. 推奨文などがわかりやすく記載されているか、患者・市民を尊重した表現で作成されているかを検証することができる、5. 診療ガイドラインの普及と活用について示唆が得られる。

 北野氏は「医療者の間で『患者の大多数も同じ価値観のはず』と強く推奨でまとまっていた意見が、参画していた患者代表からの『私は先生方と同じ価値観は持てない。夫のことや家族のことを考えると、必ずしも皆が同じ価値観だと思わない』といった主旨の意見により条件付推奨に。解説文の中にも、患者や家族の多様な価値観のあり方について追記するという形でガイドライン自体が変化した事例もあります」と、具体的なエピソードを交えて語った。

推奨はエキスパートの「見解」

 日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」は、総論、バックグランドクッション(BQ)と CQ、フューチャーリサーチクエスチョン(FQ)の4つで構成される。それぞれの違いは、総論:既知の事項に関する総説、BQ:既知の事項ではあるが、より強調して伝えたい臨床課題に関する解説・提言、CQ: 重要な臨床課題を EDM に基づく手法で検証し、推奨を提示したもの、FQ:現時点ではシステマティックレビューをできる程のエビデンスはないが、今後重要となる臨床課題に関する提言――である。

 「まずは一般的な知識を学びたいのであれば、総説やBQから読み始めるとわかりやすい。また、ガイドラインで推奨されていることは絶対にやらなくてはならないことではない、ということも押さえておきたい。診療ガイドラインは、協働意思決定のためのツールであり、あくまでエキスパートの見解として受け取ってほしい。最終的に、すべての治療の選択権は患者さん自身にあります」(北野氏)。2022年の最新版(第5版)では、これまで掲載されていなかった推奨結果と投票結果が開示されている。例えば投票10名のうち、強く推奨するが2人、弱く推奨するが7人、どちらでもないが1人というような投票結果を見れば、エキスパートの見解も分かれることがわかる。患者自身の見解との違いを把握する上でも役立つ。

 最後に北野氏は、「患者は市民患者という専門家。もし今後ガイドラインに参画していきたいという方はMindsホームページの『患者・市民の方へ』を見ていただくと、様々な情報提供があります。また、診療ガイドラインは難しく感じるかもしれませんが、医療者と同じ情報を持つことは協働意思決定の上でとても役立ちます。わからないことがあれば、診察室にガイドラインを持ち込んで聞いてみるのもいい。一緒にエビデンスを読み解きながら意思決定できることは、医療者にとっても嬉しいことではないでしょうか」と呼びかけた。

患者の声をガイドラインに活かす

 2演題目の「ともに役立てたい、『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』」の演者である徳永えり子氏は、日本乳癌学会の患者向けガイドライン小委員会委員長も務める。「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」は、医師向けのガイドラインが発刊された年の翌年に発刊されてきた。作成委員は、外科、内科、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科など様々な診断科の医師、看護師、薬剤師、そして乳がん体験者から構成されている。解説の多くは、医師向け乳癌診療ガイドラインの作成に携わった委員が執筆を担当するが、各委員はそれぞれの立場からの視点で、患者にとってわかりやすいものであるのか、役立つものであるのかを検討する。

 患者向けガイドラインには、乳がん検診と診断の進め方、乳がんと診断されたら、治療を受けるにあたっての総論、初期治療を受けるにあたって、初期治療後の診察と検査、再発転移の治療について、薬物療法に関連することについて、療養上の諸問題について、乳がんの原因と予防について、若年者の乳がん・男性乳がんについて、といった項目が含まれる。これらに加え質問集も掲載するが、これは実際に患者から寄せられた質問をもとに作成され、疑問の解消に役立つのみならず、診察時に医師にどのようなことを尋ねればよいのかのヒントにもなる。

 「EBM を行う上では、患者さん一人ひとりにおいて状況が異なることを認識することが大切です。意思決定には様々な要素があります。例えば、手術後に化学療法をすすめられた場合、受けるかどうかを患者さんが決める際に、様々な疑問が湧くと思います。術後のステージ、乳がんの性質、サブタイプ、最も推奨される術後治療。化学療法を受けた時と受けなかった時で再発率にどのくらいの差があるのか。副作用にはどのようなものがあるのか、髪は抜けるのか、通院でできるのか、仕事は続けられるのか。日常生活はこれまで通りできるのか、費用はどのくらいかかるのか。このように様々な疑問が湧いてきた時には、ぜひ患者さんのための乳がん診療ガイドラインを手に取っていただき、パラパラとページをめくってみてください。そして得た情報を医療者との話し合いに活かしていただければと思います」と徳永氏。

 一方で、「 Mindsの診療ガイドライン利用者向けQ&A には、「診療ガイドラインの推奨は、『設定した患者像に対して最適と考えられる診療行為』」とあります。目の前にいる患者が設定した患者像と同じとは限らず、患者各々の病態、年齢や合併症など体の状態、家庭環境、経済的な価値観など大きく異なるため、推奨されている診療行為が必ずしも最善とは言えません。患者が置かれている状況や希望などを考慮し、その患者にとって最善と考えられる診療行為を提案し、患者と協働で施行決定を行うSDMが重要になってきます」と強調する。

 患者さんのための乳がん診療ガイドラインも、2023年1月20日を目指して現在、改訂作業が行われている。「患者は医療者の前にいる時のみ患者であり、病院を一歩出たら、患者ではなく、一人の生活者としての様々な役割が待っています。このことに思いを馳せることが、一人ひとりの患者にとって何が大切で、どのような治療が最善かを考える際には重要です。日本に EBM の概念をいち早く取り入れ、普及に尽力された長尾先生は、その著書の中で、「明確な回答がないことに対して、ああでもないこうでもないと考え続けることが、EBM の実践である」と書かれています。患者と医療者がともに情報を共有し、様々な選択肢の中からああでもないこうでもないと話し合いながら、納得して決定していく過程で役立つものが診療ガイドラインです」(徳永氏)。

 患者さんのための乳がん診療ガイドラインでは、ボーディングに桜井氏など患者委員が参加し、議論の段階で患者の立場からの意見を反映した。「ページの初めの方に、一般的な流れの例として、乳がんと診断された後の治療の流れを示す図が掲載されています。これは、どのような流れで治療が進んでいくのか、簡単にわかった方が安心するという桜井さんの発案で、桜井さんが作成されたものです」と、徳永氏。患者委員がガイドライン作成において重要な役割を担う場面は少なくない。

 「患者向けガイドラインでは、1冊でわかりやすく読みやすいようにし、エビデンスの詳しい解説を省略した結果、網羅できていない部分も当然出てきます。診療ガイドラインとのギャップが生じることもある。今後、医師向けと患者向け診療ガイドラインがお互いにより使いやすくなるよう工夫していきたいと考えています」と徳永氏は語るが、患者も医療者向け診療ガイドラインを活用することで、よりよい協働意思決定につながっていくのではないだろうか。

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