このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2022/07/19

日本外科学会定期学術集会・市民公開講座より(3)

薬物療法で注目の免疫チェックポイント阻害薬とがんゲノム医療とは

福島安紀=医療ライター

 日本外科学会は、第122回定期学術集会の一環として、第48回市民公開講座「がん治療の未来を拓く~がん治療の最前線を丁寧に説明します~」を開催し、4月25日から5月31日までオンラインで公開。市民公開講座の第2部では、「がん薬物療法の最前線」と題して、熊本大学大学院消化器外科学講座講師の宮本裕士氏が免疫チェックポイント阻害薬とがん遺伝子パネル検査について講演した。


免疫細胞の攻撃力を回復させる免疫チェックポイント阻害薬

 これまでのがん治療は、手術、薬物療法、放射線療法の3本柱だったが、4つ目の柱としてさまざまながんの治療に用いられているのが、免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法だ。宮本氏は、講演の冒頭で、私たちの体に備わっている免疫の仕組みについて、次のように説明した。

宮本裕士 氏

 「免疫とは、細菌やウイルスなどの異物が体の中に入ってきたときに排除して、体を守る力のことです。この免疫は自然免疫と獲得免疫に分かれます。自然免疫は、免疫を担当する細胞が体の中に異物がないかパトロールを行い、異物を見つけると真っ先に攻撃します。自然免疫には、異物の情報を次の段階の獲得免疫に伝える役割もあります。一方、異物や異常細胞を見つけた場合に免疫を担当する細胞が増えて、攻撃を始めるのが獲得免疫です。また獲得免疫は、攻撃する異物の情報を自然免疫から受け取って、その情報を記憶し、同じ異物や異常細胞が再び体の中に発生したときに、素早く攻撃することができます」。

(宮本氏講演資料より)

 免疫細胞の中でがん攻撃の中心として働くのはリンパ球にあるT細胞だ。T細胞は情報を伝える抗原提示細胞からがん細胞特有のたんぱくである抗原を受け取ると活性化し、それを目印にがん細胞を攻撃する。

 「がん細胞を攻撃するT細胞の表面には、CTLA-4、PD-1といった情報を伝えるアンテナが出ています。このアンテナに抗原提示細胞やがん細胞が結合すると、攻撃を止めろという抑制信号が伝えられ、免疫細胞の働きにブレーキがかかります。こうした仕組みを免疫チェックポイント機構といいます。最近の研究から、がん細胞は、こうした仕組みを利用して、T細胞の攻撃から逃れていることが分かってきました」と宮本氏は話した。

 免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞のアンテナであるCTLA-4やPD-1、がん抗原提示細胞上のアンテナであるPD-L1を阻害する薬剤だ。これらを阻害することで、T細胞のがん細胞に対する攻撃力が回復し、がんに対して効果を発揮する。

(宮本氏講演資料より)

 免疫チェックポイント阻害薬には、CTLA-4阻害薬、PD-1阻害薬、PD-L1阻害薬があり、さまざまながん種の治療に使われている。2022年4月現在、保険適用になっているがん種は下記の表の通りで、これらのがん種では、免疫チェック阻害薬の臨床試験での有用性が証明されている。

(宮本氏講演資料より)

免疫チェックポイント阻害薬が良く効き手術可能になる例も

 宮本氏は、肺がん、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)、がん腫瘍を用いて行うマイクロサテライト不安定性検査などで高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)と診断された大腸がんに対して、これまでの標準的な化学療法より免疫チェックポイント阻害薬の方が効果は高いという結果が出た臨床試験のグラフを提示した。なお、MSI-Hは、細胞分裂などの際のDNAの複製にミスが起こったときに、ミスを修復する仕組みが働かず、異常な細胞が増殖してがんになりやすい状態になっていることを示す。

(宮本氏講演資料より)

 免疫チェックポイント阻害薬には、間質性肺疾患、肝機能障害、甲状腺機能障害、1型糖尿病、大腸炎、重度の下痢など、あらゆる臓器の組織に免疫関連の副作用が出るリスクがあることには注意が必要だ。

 「これらの副作用のほとんどは軽度から中等度で、早期に発見して適切に治療すれば改善可能です。従って、治療中の患者さんにとって大切な行動は、新しい症状や増悪してくる症状、患者さん自身が心配になる症状について、医師や治療チームに伝えることです」。

 宮本氏は、そう強調し、進行再発大腸がんで免疫チェックポイント阻害薬が良く効いた例を紹介した。53歳の女性は、結腸がんが腹壁に浸潤して膿瘍(膿が貯留した状態)を形成しているような状態で、遺伝子検査でMSI-H大腸がんと診断されていた。再発した段階では手術ができない状態だったので、標準的な化学療法であるFOLFIRI(フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカンを同時併用)療法を開始した。しかし、FOLFIRI療法では、がんの増殖が抑えられなかったため、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブとイピリムマブの併用療法を行った。この女性の場合は、免疫チェックポイント阻害薬による治療の効果で腫瘍が縮小して手術が可能になり、術後の病理検査では、体内のがん細胞はすべて消失した状態になっていたという。

遺伝子異常に合わせて治療を選ぶ「がんゲノム医療」

 一方、近年注目されている「がんゲノム医療」は、主にがんの組織を用いて多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異を明らかにすることにより、患者一人ひとりのがんの性質や体質に合わせた治療を行う個別化治療だ。

 「がんの薬物療法は、がん種ごとに承認された抗がん剤による治療が中心でしたが、2000年代に入ると、特定の遺伝子の異常を標的とした分子標的薬が使われるようになりました。さらに、特定の分子標的薬の効果を事前に調べる検査が導入され、より効果的に分子標的薬が使えるようになりました。検査技術の進歩により、多くの遺伝子の異常を一度に調べる検査である『がん遺伝子パネル検査』(がんゲノムプロファイリング検査)が開発され、日本では、2019年6月からがん遺伝子検査が保険で利用できるようになっています。がん遺伝子パネル検査では、結果を総合的に判断して最適な治療法を探ります」と宮本氏は解説した。

 がん遺伝子パネル検査が可能になった背景には、この10年の間に、遺伝子を調べるコストが1000分の1に下がったこと、解析時間が短縮化したことがある。2019年6月から保険適用になっているがん遺伝子パネル検査は、「Oncogide NCCオンコパネル」と「FOUNDATION One CDx」の2種類だ。どちらを選択するかは、担当医と話し合って決めることになる。

 遺伝子パネル検査を受ける際には、まずは担当医による検査の説明を受ける。この検査には、これまでに採取された手術検体、生検検体を用いるが、それがない場合には新たに検体を採取する必要がある。検体の準備ができたら、病理組織検体から遺伝子を取り出し、遺伝子解析装置で遺伝子の異常の有無を調べる。がんの遺伝子異常が見つかった場合には、この解析結果を基に、エキスパートパネル会議という専門家集団による議論を行い、実際にできる治療法がないか探す。患者には、担当医から結果が説明される。

(宮本氏講演資料より)

担当医と話し合い、一人ひとりの患者に合わせた治療法選択を

 保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けられるのは、固形がんで1. 標準治療がない、あるいは、2. 局所進行・転移がんで標準治療が終了し、新たな薬物療法を希望する場合だ。

 「これらの条件は今後変わっていく可能性が高いので、がん遺伝子パネル検査を受けられるかどうかは担当医におたずねください」と宮本氏は語り、がん遺伝子パネル検査の注意点をこう話した。

 「まず検査技術には限界があります。検査を受けた人のうち、検査結果に基づいた治療が受けられるのは1~2割の患者さんです。また、治療の限界があります。がんの種類によっては、保険適用になっていない薬剤しかなく、それを使うためには高額な代金がかかる場合があります。日本国内では販売が承認されておらず臨床試験、治験でのみ使われている薬剤だった場合には、その参加条件を満たさなければ使えません。さらに、この検査によって、がんに対する遺伝情報、遺伝性腫瘍が判明する可能性があります」

 遺伝性腫瘍と関連のある遺伝子異常が判明した場合には、患者だけではなく家族に関わる問題であるため、必要に応じて、遺伝カウンセラーや遺伝学的検査を受けるなど追加の費用が発生することもある。

 そして、がん遺伝子パネル検査の結果、候補になる薬が未承認薬で治験などが実施されていない場合、その薬を自費で使うと診療費も含めて公的医療保険が使えず全額自己負担になってしまう懸念もある。その場合、「患者申出療養制度」という制度を使って、診療費などは保険診療で利用できるようにしたり、未承認薬を製薬企業が無償で提供したりするなど、患者の金銭的な負担を軽減する試みも始まっている。

 厚生労働省は、全国どこにいても、必要な時にがん遺伝子パネル検査が受けられるように、(「がんゲノム医療中核拠点病院」、「がんゲノム医療拠点病院」、「がんゲノム医療連携病院」 )を指定し、がんゲノム医療診療体制の整備を進めている。

 「がんは一つの疾患ではなく、腫瘍の遺伝子情報の違い、患者本人の情報や腫瘍の情報などを考慮しながら治療を行っていくべきだとされています。これからのがん治療は、がんの種類だけではなく、遺伝子異常などの情報にも基づいて治療法を選ぶように変化していくものと考えられます。また、免疫チェックポイント阻害薬がよく使われるようになり、新たな治療法として認知されてきています。患者さんに最もよい治療は一人一人で異なりますので、担当の先生と十分によく話し合って決めていくべきです」と宮本氏は講演を結んだ。

日本外科学会定期学術集会・市民公開講座より

食道がんと胃がんのロボット支援下手術の最前線

大腸がんと肝胆膵がんのロボット支援下手術の最前線

この記事を友達に伝える印刷用ページ
  • 大腸がんを生きるガイド
  • がん文献情報ナビ
  • 「がん情報文献ナビ」は、がんと治療薬に関する最新の英語論文を、ビジュアル検索できるサービスです(株式会社ワールドフージョンが運営しています)。 ご意見・お問い合わせはこちら