このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2022/07/12

日本外科学会定期学術集会・市民公開講座より(2)

大腸がんと肝胆膵がんのロボット支援下手術の最前線

福島安紀=医療ライター

 日本外科学会は、第122回定期学術集会の一環として、第48回市民公開講座「がん治療の未来を拓く~がん治療の最前線を丁寧に説明します~」を開催し、4月25日から5月31日までオンラインで公開した。市民公開講座では、第1部「ロボット支援下手術の最前線」で、熊本大学大学院消化器外科学講座助教の澤山浩氏が大腸がん、同講座診療講師の林洋光氏が肝細胞がん、胆道がん、膵がんのロボット手術のメリットと将来展望などについて講演した。その内容をレポートする。


ロボット手術では3D画像で血管や神経を認識し正確な手術操作が可能

 大腸がんで手術療法の対象となるのは、ステージIでリンパ節転移のリスクがある場合、ステージIIかIIIであるときだ。ステージIVは抗がん剤治療が中心だが、手術療法が行われることもある。

澤山浩 氏

 「結腸がんでは腫瘍から10cm離れた腸を切離して血管と共にリンパを切離し、腸をつなぎ合わせます。がん及びリンパ節を取り残さないように正確に切離する技術が求められます。直腸がんにおいては腫瘍が肛門に近いため、自動吻合機を用いてつなぎ合わせます。骨盤の狭いスペースで正確な切離を行う必要があり、結腸がんに比べて手術難度が高いとされます。肛門にさらに近いがんでは、肛門ギリギリで腸を切離してつなぎ合わせる手術が行われ、さらに高度な技術が必要とされます」と澤山氏は解説した。

(澤山氏講演資料より)

 大腸がんの手術は、以前は開腹して病変やその周囲を切除するのが当然だったが、1993年に日本で初めて腹腔鏡手術が行われて以来、腹腔鏡手術が次第に普及し、2010年代にはその安全性が複数の臨床試験で報告された。2018年4月からは直腸がん、今年4月からは結腸がんに対してロボット支援下手術が保険適用になっている。

 ロボット支援下手術では炭酸ガスで腹部を膨らませ、術者は、3D映像のモニターを見ながら、鉗子を用いて手術をする。腹腔鏡手術では術者が直接鉗子を持つのに対し、ロボット手術では、鉗子とカメラはロボットに装着され、術者は患者とは離れた場所に置かれたコンソールと呼ばれる手術装置に座って手術支援ロボットを操作する。術者がロボットを操作するコンソールという装置の機材をのぞき込むと、実際に患者の腹部がそこにあるかのように3D画像を見ることができる。

 ロボット手術を導入する際には、日本消化器外科学会専門医と日本内視鏡外科学会技術認定医を取得している外科医が、まずはロボット手術の知識に関する試験と実際に手術支援ロボットを用いたトレーニングを受ける。その後、症例見学と講習、専門施設でのトレーニングを受けたうえでライセンスを取得することが条件となる。

 澤山氏は、ロボット手術のビデオを示しながら、大腸がんのロボット手術の流れを説明した。「ロボット手術では3本のアームを術者が操作し手術を進めて行きます。左手で組織を引っ張り右手のはさみで切離を進めます。術者は3Dで見えているので奥行きが分かり、はさみを正確に動かせるために、膜1枚1枚を切離していくことができます。また、画像が拡大されることで赤く見える細い血管や白く見える細い神経などを一つひとつ確認しながら手術が進められます。細い血管を認識することができるので、出血することはほとんどありません」。

大腸がんのロボット手術を安全に進められる最新技術の導入も

 そして、「ロボット手術の神髄は骨盤内操作にあります」と強調した。狭い骨盤内は開腹手術では見えにくいが、ロボット手術では拡大画像を見ながら、自由に向きを変えることができる鉗子を使って、正確な切離を行うことができるからだ。鉗子の先端が曲がらない腹腔鏡では切りにくい部分もあるが、ロボット手術では鉗子の先端を曲げることで無理なく切離ができる。骨盤内には重要な血管や性機能や排せつに関わる神経があるが、少しずつ確認して手術を行うことで、出血や神経の損傷が少ない理想の手術が実現できるのだという。

 最後に澤山氏は、適切な位置を正確に切除しできる限り重要な神経などを温存するために、最近大腸がんのロボット手術に導入された新たな技術も紹介した。「タイルプロ」は、大腸カメラと連動した画像を見ながら腫瘍の正確な位置を確認できる機器だ。さらに、腸の厚さを機械が測定しながら、腸を切離する速度を調節する装置である「Sure Form」、安全な吻合のために、特殊光を用いて血流を確認する技術「Firefly」を用いることで、より緻密な手術が実現できる。

(澤山氏講演資料より)

膵がんのロボット手術では開腹や腹腔鏡に比べて重症合併症率が低い

 一方、肝臓、胆のう、胆管、膵臓のある肝胆膵領域に発生するがんには、肝細胞がん、肝内胆管がん、胆管がん、十二指腸乳頭部がん、膵がん、胆のうがん、肝門部領域胆管がんがある。このうち、胆管がんと十二指腸乳頭部がん、膵がんは2020(令和2)年4月から、肝細胞がんと肝内胆管がんは今年4月から、ロボット支援下手術が保険適用になっている。胆のうがんに対しては、今年4月から腹腔鏡手術が可能になったが、肝門部胆管がんに対する保険適用はまだ開腹のみ。肝胆膵領域の手術は難度が高いこともあって、体への負担が少ない低侵襲手術の導入が慎重に進められている分野だ。

林洋光 氏

 「肝胆膵手術におけるロボット手術のメリットは、拡大視野、ぶれない視野、360度自在に動く鉗子、精緻な手術操作が可能になることです。胆管、膵管には直径1ミリ程度、あるいはそれ以下の非常に細い部分があるのですが、ロボット手術を用いることで、腹腔鏡ではこれまで難しかった縫合手技、胆管空腸吻合(胆管と腸をつなぐこと)、膵空腸吻合(膵管と腸をつなぐこと)が容易になると考えています」と林氏は指摘した。

 胆管空腸吻合、膵空腸吻合で縫合した部分がくっつかない縫合不全が起きると命に関わることもあり、そのリスクが減らせるメリットは大きいわけだ。例えば、膵臓の左半分を切除する膵体尾切除をロボット手術で行うと、開腹よりも手術時間は長くなるものの出血量が少なく、脾臓が温存できる確率が上がり、開腹や腹腔鏡に比べて在院日数や重症合併症が少なくなることが報告されている。

(林氏講演資料より)

 また、膵がんや胆管がん、胆のうがんに対して行われる膵頭十二指腸切除は、消化器外科領域でも高難度の手術に位置づけられる。ロボット手術による膵頭十二指腸切除は、開腹手術に比べて、合併症である膵液漏(膵液瘻:すいえきろう)の頻度が低下し出血量が軽減するほか、腹腔鏡手術と比べても開腹移行率が低下し、出血量、手術時間が軽減することが国内外の臨床試験の結果から分かっている。

「膵頭十二指腸切除後には膵液漏が問題になることが多いのですが、特にハイリスクの症例では、ロボット手術を用いた方が、開腹や腹腔鏡に比べてリスクが軽減することが報告されています」(林氏)。

(林氏講演資料より)

 海外のデータでは、ロボット手術による肝切除は腹腔鏡手術よりも開腹移行率や出血量が少なくなり、在院日数も短縮することが報告されている。肝細胞がんに対するロボット手術は今年の4月から保険適用になったばかりだが、国内でも、同じようなデータが出てくることが期待される。

肝胆膵外科手術は術後管理能力の高い修練施設で受けることが重要

 「なぜ、低侵襲手術がよいかというと、がん治療は近年、複数の治療を組み合わせて行う集学的治療の時代になっているからです。例えば、膵がんでは、術前化学療法を2~3カ月間行った後、手術を行います。また手術後も術後化学療法として抗がん剤の内服半年間、ここまでが1セットとなります。この集学的治療の中で、手術の部分をできるだけ低侵襲にすると、スムーズに抗がん剤治療に移行できますし、患者さんの体への負担も低くなると考えています」と林氏は話した。

 ところで、過去に肝胆膵分野では、腹腔鏡手術による死亡事故が続いたことがあった。腹腔鏡・ロボット手術は安全なのだろうか。

 林氏は、「腹腔鏡下肝切除は保険収載されて3年以上が経っていますが、こちらは術者基準、施設基準が定められており、多くの場合は経験を有するチームによる手術が行われています。最近保険収載されたロボット支援下膵切除、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除などは、さらに厳しい術者基準、施設基準が定められており、ほとんどがエキスパートのチームにより行われています」と語った。

 日本内視鏡外科学会では、消化器・一般外科のロボット支援下手術のプロクター(手術指導医)を認定しており、新たにロボット手術を始めるときには、プロクターの指導の下に手術を進めることになっている。手術支援ロボットの使い方を間違うと事故につながりかねないため、関連学会を中心に事故防止と安全管理体制が整えられている。

 「低侵襲の手術力が高い外科医とは、低侵襲手術がよいのか開腹がよいのか患者さんに応じた手術適応を決められ、腹腔鏡手術とロボット手術の技術力の高い医師です。肝胆膵領域においては、肝胆膵外科高度機能専門医や指導医と、内視鏡外科技術認定医がいる施設かどうかが参考になると思います。また、肝胆膵領域のがんの手術は合併症の発生率が高いため、合併症を起こした患者さんを助ける術後管理能力がチーム力としてあるかというのが非常に重要です」と林氏は強調した。

 日本肝胆膵外科学会では、同学会認定の高度技能専門医・指導医が1名以上常勤で在席して、高難度肝胆膵外科手術の症例数の多い施設を高度技能専門医修練施設A(高難度肝胆膵外科手術を年間50例以上実施)、同修練施設B(高難度肝胆膵外科手術を年間30~49例実施)に指定している。肝切除、膵頭十二指腸切除、肝膵同時切除における合併症発生率には修練施設かどうかで差がなかったが、救命失敗(failure to rescue)率は非修練施設では高く、症例数が多い高度技能専門医修練施設、とりわけ修練施設A で低かった。

(林氏講演資料より)

 肝胆膵外科領域のがんの治療を受ける際には、日本肝胆膵外科学会の修練施設かどうかが目安になる。なお、熊本大学医学部附属病院は年間約120件の高難度肝胆膵外科手術を行っており、修練施設Aの1つだ。

 症例数の多い病院でのロボット手術が今後さらに広がることで、合併症の発生率が下がり、患者のQOL(生活の質)は上がることが期待される。

日本外科学会定期学術集会・市民公開講座より

食道がんと胃がんのロボット支援下手術の最前線

薬物療法で注目の免疫チェックポイント阻害薬とがんゲノム医療とは

この記事を友達に伝える印刷用ページ
  • 大腸がんを生きるガイド
  • がん文献情報ナビ
  • 「がん情報文献ナビ」は、がんと治療薬に関する最新の英語論文を、ビジュアル検索できるサービスです(株式会社ワールドフージョンが運営しています)。 ご意見・お問い合わせはこちら