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レポート

2022/07/05

日本外科学会定期学術集会・市民公開講座より(1)

食道がんと胃がんのロボット支援下手術の最前線

福島安紀=医療ライター

 日本外科学会は第122回定期学術集会の一環として、第48回市民公開講座を開催し、4月25日から5月31日までオンライン配信を行った。市民公開講座では、第1部「ロボット支援下手術の最前線」で、熊本大学大学院消化器外科学講座特任准教授の馬場祥史氏が食道がん、同講座助教の岩上志朗氏が胃がんのロボット手術のメリットなどについて講演した。その内容をレポートする。


3D画像を見ながら360度回転する鉗子で精緻な手術が可能

 食道がんの手術は、頸部(首)の食道のみを残して食道を亜全摘して、胃を細長くして食べ物の通り道を再建する。以前は、肋骨の間を大きく切開する開胸手術が主流だったが、現在は体の負担を軽減するために、胸腔鏡手術、ロボット支援下手術といった低侵襲手術が中心になっている。

馬場祥史 氏

 「食道がんはリンパ節へ転移しやすいがんで、頸部、胸部、腹部にまたがって転移する可能性があるので、この3領域のリンパ節を郭清(切除)します。特に、頸部と胸部の境目にある反回神経周囲のリンパ節郭清が重要です。反回神経は声帯の動きを司る神経なのですが、非常にデリケートな神経で、少し引っ張るだけでしびれて麻痺(まひ)してしまいます。そうすると、声帯の動きが悪くなり、術後に、『嗄声(させい)』と呼ばれる声のかすれが出現することがあります。嗄声は食道がん術後気を付けるべき合併症の一つです」と馬場氏は話した。

(馬場氏講演資料より)

 食道がんでは、2018年4月から、ロボット支援下手術が保険適用になった。ロボット手術と言ってもロボットが手術をするわけではなく、外科医が手術支援ロボットを操作しながら、手術を進める。執刀医は、サージャンコンソールと呼ばれるに手術装置に座り、3Dカメラの映像を見ながら、カメラや手術に使う道具である鉗子が装着されたロボットアームを操作する。手術室では、執刀医がサージャンコンソールで見ているのと同じ映像がモニターに映し出され、手術スタッフは執刀医が見ている映像を共有することができる。

 「ロボット手術の特徴は、3Dによる鮮明な視野が得られることです。3Dカメラで体内が立体的に写し出されますし、最大約10倍のズーム機能によって外科医は患部を拡大視野でとらえることができ、より繊細な解剖の理解、把握が可能となります。2つ目の特徴は、360度回転が可能な鉗子は人間の手以上の可動域があり、繊細な操作が可能であることです。また、手振れ防止機能がありますので、高い集中力が必要な繊細な手術において、正確な動作をロボットアームに伝達することができます」。

(馬場氏講演資料より)

食道がんのロボット手術は胸腔鏡手術に比べて治療成績が良好

 馬場氏は、ビデオ映像を示しながら、食道がんのロボット手術の利点について説明した。食道周囲には、心臓、肺、大動脈といった重要な臓器や血管があるが、ロボット手術では、拡大された画像を見ながら、関節機能のある鉗子を用いて、大動脈、肺、横隔膜などと食道と周囲のリンパ節の剥離(はくり)を進めて行く。

 馬場氏は、「関節機能がありますので、大きな血管の周りも慎重に剥離を進めて行くことが可能です。食道がんの手術では、反回神経周囲のリンパ節を過不足なく取ることが重要です。前述のように反回神経はデリケートな神経ですので、少し触るだけでもしびれてしまって、反回神経麻痺という合併症が起こることがあります。ロボット手術ではより繊細な手術が可能になりますので、反回神経麻痺が起こるリスクが軽減し、嗄声などの合併症の発生頻度が減ることが期待されます」と強調した。

 海外から発表された複数の論文をまとめて解析した研究では、ロボット手術は、胸腔鏡手術に比べて、合併症の発生率、術後死亡率が低いことが報告されている。日本では、開胸手術、胸腔鏡手術を含め、日本食道学会の食道外科専門医認定施設で手術を受けた方が、非認定に比べて術後30日以内の死亡率、手術関連死亡(術後90日以内の死亡)率、縫合不全などの合併症率が有意に低い。なお、熊本大学医学部附属病院消化器外科は、食道外科専門医が4名在籍する食道外科専門医認定施設で、胸腔鏡手術の専門医も在籍しており、ロボット手術にも精力的に取り組んでいるという。

(馬場氏講演資料より)

胃がんのロボット手術では膵液漏の合併症が腹腔鏡の3分の1に

 胃がんでは、ステージⅠ~Ⅲの患者に対して手術が行われる。その術式には、胃全摘術、幽門側胃切除術、噴門側胃切除術の3つがある。胃全摘術は、胃の上部に発生した進行がんに対して行われ、食道と十二指腸の一部、周囲のリンパ節を含めて胃を全て切除し、食道と小腸をつなぎ合わせて消化管を再建する。幽門側胃切除術は胃の下の方にできたがんが対象で、胃を約3分の2切除し、残った胃と十二指腸、または小腸を吻合する。噴門側胃切除術は、胃の上の方にできた早期がんや、最近増えている胃と食道の吻合部に発生したがんが対象になる。胃の上の方を3分の1から2分の1切除し、小腸、もしくは直接、残った胃と吻合し消化管を再建する方法だ。

岩上志朗 氏

 胃がんに対しても、2018年4月からロボット支援下手術が保険適用になった。「従来の腹腔鏡手術で用いられている鉗子は先端が開閉するだけの比較的シンプルな道具ですが、手術支援ロボットでは多関節機能があり、より繊細な作業が可能になっています。この多関節機能の効果により、手術支援ロボットを用いた胃がんの手術では、腹腔鏡手術と比較して、手術合併症である膵液漏(膵液瘻:すいえきろう)の頻度が3分の1に抑えられると報告されています」と岩上氏は指摘した。

 膵液漏は、手術中に膵臓が傷つき、消化液である膵液が漏れる合併症で、重篤な場合には死亡するリスクもある。「腹腔鏡の鉗子は先端が曲がらず直線的な動きしかできないため、鉗子で膵臓を押してしまうことがあり、これが膵液漏の原因になります。ロボットの鉗子は先端が自在に曲がるため、膵臓を直接触らずにリンパ節郭清が可能であり、直接触らないので膵液漏の頻度が低いと考えられます」と岩上氏。超音波凝固切開技術などを用いるので、出血が少ないのもロボット手術の利点の一つだ。

(岩上氏講演資料より)

今後は手術支援ロボットを用いた遠隔手術、AI手術が広かる可能性も

 岩上氏は、今後の展望として、遠隔手術とAI手術について紹介した。もともと手術支援ロボットは、宇宙や戦場での手術を想定して開発されたため、遠隔手術がロボット手術の本来の目的でもある。2001年には、フランス・ストラスブールにいる患者を米国・ニューヨークにいる外科医が手術をするという大西洋をまたいだ世界初の遠隔手術が行われた。日本でも、2021年に藤田医科大学が国産手術支援ロボット「hinotori」を用いて、胃がんの模擬手術を行った。「遠隔手術が可能になれば、例えば離島であっても、地元の病院で中核病院同様の手術が受けられるようになります」と岩上氏は語った。

 ロボット手術を応用したAI手術の研究も進んでいる。グーグルとインテルが研究機関と協働で作り上げたAIロボット「Motion2Vec」は、人間の外科医に近い動作をロボットハンドで実現することが可能だという。

 「フランスの施設では、手術中の臓器に解剖画像を投影して、手術のナビゲーションを行う技術を開発しています。現在は、もちろん人間がロボットを操作していますが、いずれはAIがこの解剖画像を認識して手術を行うよう、開発が進んでいます。AI手術の開発が進めば、数十年先には、外科医は手術ロボットのスタートボタンを押すだけという時代が来るかもしれません」(岩上氏)。

(岩上氏講演資料より)

薬物療法との併用で治療成績を上げるためにも低侵襲手術が重要

 ただし、現在、胃がんの手術の主流になっている腹腔鏡手術、ロボット支援下手術といった低侵襲手術は、傷の痛みが少なく、回復は早いが、現時点では、予後がよくなるというデータはない。手術の方法に関わらず、縫合不全や膵液漏といった合併症が起こると予後が悪くなる。

 「唯一予後の改善が見込めるのは、手術前や手術後に化学療法、いわゆる抗がん剤治療を併用したときのみです。従って進行胃がんの治療成績をよくするためには、合併症が起きない手術を行い、術後は速やかに抗がん剤を導入することが大事です。手術と抗がん剤を組み合わせることにより、胃がんの治療成績が改善することがわかってきたので、現在では、手術と他の治療を組み合わせた集学的治療が行われるようになってきました」。

 岩上氏はそう話し、腹膜播種が見つかりステージⅣと診断された49歳の胃がん患者の例を紹介した。腹膜播種は、胃や腸などの臓器と腹部の壁を覆っている膜である腹膜への転移で、がん細胞が散らばったようになっているため、手術で取り切ることは難しい。ステージⅣだったので化学療法(薬物療法)を実施したところ、薬がよく効き腹膜播種が消失したため、胃全摘手術を施行し、がん細胞が体内から検出されない状態になった。術後10年以上経ったが、再発することなく経過しているという。ステージⅣの胃がんの生存期間中央値(50%の患者が亡くなるまでの期間)は化学療法単独では13.4カ月だが、外科治療などと組み合わせる集学的治療を行うことで39.1カ月まで延びてきた。

 最後に岩上氏は、これからの胃がんのキーワードを次のように話し、講演をまとめた。「これからの胃がんのキーワードは、まずはピロリ菌感染の減少です。従来の胃がんは胃の出口側にできやすいとされていましたが、現在はピロリ菌感染の減少により、胃の上の方にできるがんが増えています。次に低侵襲治療です。低侵襲治療はこれまで腹腔鏡手術が中心でしたが、手術支援ロボットの台数の増加や、胃がん手術ではロボット手術の保険加算がついたため、今後はロボット手術の件数が増えると予想されます。最後に集学的治療ですが、胃がんで使用可能な抗がん剤や免疫療法が増えてきました。手術と化学療法の組み合わせにより、今後、進行胃がんの治療成績の向上が期待されますが、治療がより複雑になっていくため、医師もそれに追いつくよう知識を増やしていかなければなりません」。

 日本胃癌学会では、変化する胃がん診療に対してさらなる治療成績の向上を目指し、専門性の高い施設で適切な治療を提供するために、2023年4月から「日本胃癌学会施設認定制度」をスタートする予定で準備を進めている。来年度以降は、同学会認定の施設かどうかが胃がんの治療を受ける病院を選ぶ目安になりそうだ。

日本外科学会定期学術集会・市民公開講座より

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