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レポート

2022/06/07

日本食道学会・第1回市民公開講座より(1)

早期食道がん、局所再発の治療選択肢として進化する内視鏡治療

福島安紀=医療ライター

 特定非営利活動法人・日本食道学会と患者支援団体の一般社団法人食道がんサバイバーズシェアリングスが4月9日、第1回市民公開講座「知って備えて学んで予防 正しく知ろう食道がんの事」をオンライン開催した。食道がんの治療には、主に、内視鏡治療、外科手術、放射線治療、薬物療法があり、単独、あるいは複数を組み合わせた治療が行われる。市民公開講座では、国立がん研究センター東病院消化管内視鏡科長の矢野友規氏が、「食道がん患者さんに内視鏡で出来ること」をテーマに講演した。今回は、その内容をレポートする。

日本は早期発見で食道がんが治る人が多い内視鏡先進国

 内視鏡は、主に1. 直接、体の中を見ることが出来る、2. 組織を取ってくることが出来る、3. がんの治療が出来る――といった特徴を持つ医療機器だ。上部消化管内視鏡検査では、鼻や口から、小型カメラと器具が付いた内視鏡を挿入し、リアルタイムに高画質のハイビジョン画像で食道、胃などの消化管を観察する。

 「そもそも内視鏡が開発された目的は、がんの早期発見ということに尽きます。食道がんでは、内視鏡検査でなければ発見が難しいステージ(Stage)Iの早期がんの患者さんと、残念ながらステージIVで発見された患者さんでは5年生存率が大きく異なります。がんが治るためのもっとも重要な近道、王道はやはり早期発見ではないかと考えています」。

 矢野氏はそう説明し、上部消化管内視鏡検査の普及と進化によって、早期がんのステージⅠで発見される人の割合が高まっていることを紹介した。

(矢野友規氏講演資料より)

 タジキスタンや中国、日本などの東アジアでは、扁平上皮がんというタイプの食道がんが多い。しかし、日本以外の国では早期発見が難しく、人口10万人当たりの患者数と死亡数にほとんど差がない状態が続いている。

 「唯一、日本だけが発見割合と亡くなる方の割合に差があり、死亡率が低くなっています。日本では内視鏡専門クリニックが非常に多く、いずれのクリニックでもかなり高画質の画像を撮影できる内視鏡システムが導入されているので、早期発見、早期治療が進んでいます。また、産業面では、PET(陽電子放出断層撮影)やCT(コンピュータ断層撮影)は海外のメーカーのものが多いのに対し、内視鏡は日本の企業の製品が全世界の市場を独占しており、そういう意味でも、日本は内視鏡先進国だと言えると思います」と矢野氏は話した。

ESDの登場で大きい食道がんも内視鏡で一括切除できる時代に

 食道がんの治療方針は、病気の進行度を表すステージによって異なり、内視鏡で治療ができるのはステージ0かステージⅠの一部だ。内視鏡だけで病変を切除するだけで治療が完了すれば食道が温存できるため、患者のメリットも大きい。

(矢野氏講演資料より)

 がんの病変を消化管の内側から切除する内視鏡治療の方法には、主に、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の2種類がある。EMRは、病変のある粘膜の下に生理食塩水などを注入し、浮き上がった部分にスネアと呼ばれるワイヤーをかけて、高周波の電気を流して焼き切り、内側から病変を切除する方法だ。

(矢野氏講演資料より)

 またESDでは、ITナイフなどの電気メスを用いて、やはり、体の中から、病変のある粘膜層をくり抜くように切除する。ESDを使えば、EMRでは一度に取り切るのが難しい大きい病変でも一括して切除できるのが利点だ。ITナイフを使ったESDは、当初早期胃がんの治療法として、国立がん研究センターの医師とオリンパス社が共同開発し、食道がんに対する治療として2008年に保険適用が認められた。現在では、ITナイフ以外にもさまざまな電気メスが使われている。

(矢野氏講演資料より)

 「食道は胃と比べると消化管の内側が狭く、粘膜から粘膜下層の層が非常に薄く、内視鏡による切除が技術的に難しいというハードルがあります。しかし、さまざまな先生方のご努力によってこのハードルが克服され、現在では、EMRでは切除が難しいような広い食道がんも、ESDできれいに切除することができる時代になりました」と矢野氏。上部消化管内視鏡検査の普及で食道がんの早期発見が増えていることもあり、ESDの件数は全国的にも増えている。厚生労働省のNDBオープンデータベース((レセプト情報・特定健診等情報データベース)に2018年度に登録された食道がんの手術数は5822例だったのに対し、ESDは11234例と2倍近く多かった。

 なお、EMRやESDで取り除いた病変は、病理専門の医師が顕微鏡でじっくり観察し、取り除いた一番深いところや断端、血管やリンパ管にがん細胞が広がっていないか確認する。粘膜下層、血管やリンパ管にがんが入り込んでいることが分かった場合には、内視鏡治療だけではがんが取り切れていない可能性があるため、外科手術、または化学放射線療法を追加するのが一般的だ。

内視鏡治療後の食道狭窄の予防が大切

 EMRかESDだけで治療が終われば患者の体への負担は最小限で済むが、内視鏡治療には課題もある。「一番大きな課題は、食道が狭くなる食道狭窄です。人間の体は、粘膜を取り除くと、瘢痕収縮(はんこんしゅうしゅく)といって、組織が縮まって狭くなるという特徴があるため、内視鏡治療後には15%の方が食道狭窄を起こしています。食事の通り道は食道1本しかなく迂回路がないので、食道が狭くなってしまうと、ご飯が食べられない、脱水、栄養不良、あるいは誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます」と矢野氏は話した。

 食道狭窄に対する治療には、内視鏡で風船を挿入して膨らませ、狭くなった食道を少しずつ広げる「バルーン拡張術」という方法がある。ただ、1回のバルーン拡張術で食道が広がり、普通に食事ができる例は極めて少なく、長期間、繰り返し治療が必要なケースが多い。

 「バルーン拡張術は保険点数の高い手技であり、患者さんやご家族の身体的、精神的苦痛や金銭的負担は大きいと言えます。この課題を克服するためには、食道狭窄を起こさないようにする予防が非常に重要です。狭窄予防法には、ステロイドの投与と、ESDなどによる切除によって粘膜がなくなったところにカバーをしてあげる被膜法の、大きく分けると2つがあります」と矢野氏。

 ステロイドを投与する方法には、病変を取り除いた部分にステロイドを直接注入する局所注射と、ステロイドの内服薬を約2カ月間服用する方法がある。また、粘膜が欠如した部分にポリグリコール酸シートを貼ることで、食道狭窄を予防する方法も開発され、功を奏しているという。再生医療の技術を応用し、口の中の粘膜を培養した口腔粘膜細胞シートによる狭窄予防法についても臨床研究が進んでいるが、この方法はまだ保険適用になっていない。

 矢野氏は、国立がん研究センター東病院栄養管理室が、がんの患者・家族向けに開催している「柏の葉料理教室」の特別企画として、食道がんの治療で食道狭窄になった人向けの料理教室を開催したことも紹介した。そのときのレシピは、柏の葉料理教室レシピ集の中で公開されている
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/nutrition_management/info/seminar/recipe/recipe179.pdf)。同栄養管理室が作成している「 CHEER!(チアー)」というサイトでは、食欲不振、食道炎・口内炎など、治療による副作用などの症状別のレシピが検索できるので、こちらも参考にしたい。

化学放射線後の局所再発には光線力学療法の選択肢も

 さらに矢野氏は、再発食道がんに対する内視鏡治療として実施している「光線力学療法(PDT)」について解説した。放射線治療と抗がん剤などの薬物療法を併用する化学放射線療法は、進行食道がんに有効な治療だが、食道にがんが再発することがある。局所再発の治療は、サルベージ手術と呼ばれる手術で病変を取り除くのが一般的だが、高齢者や合併疾患の問題で手術が難しいケースでは、ESDかPDTによる治療が検討される。

 PDTは、がんに取り込まれやすい特徴がある光感受性物質を患者に注射し、光感受性物質が腫瘍に最も集積する4~6時間後に内視鏡で病変にレーザーを当てる治療法だ。光感受性物質とレーザーが化学反応を起こし病変が壊死する。「EMR、ESDと比べるとより深いところまで治療効果が及ぶという特徴がありますし、内視鏡治療ですので、食道を残したまま治療できる侵襲の低い治療です」(矢野氏)。

(矢野氏講演資料より)

 例えば、放射線治療後に食道がんが局所再発した80歳の男性は、慢性心不全と腎機能障害があり、手術や抗がん剤治療が難しかったため、国立がん研究センター東病院でPDTを受けた。すでに3年が経過しているが、その後、再発や入院することもなく、妻の介護をしながら趣味の俳句を楽しんでいるという。

 市民公開講座の司会を務めた、慶應義塾大学医学部腫瘍センター准教授の浜本康夫氏からは、「食道がんのPDTが実施できる施設は限られるのではないか」との質問が出た。矢野氏は、「PDTについては少しずつ普及が進んでおり、全国約40施設できるようになっています。まだすべての都道府県で実施できる状況ではありませんが、各地方で、PDTが受けられる体制は整ってきています」と回答。日本食道学会を中心に、化学放射線療法または化学療法後の局所再発食道がん患者に対するPDT療法の講習会を実施しており、今後は徐々にPDT実施施設が増える見通しだ。

 また浜本氏は、再発頭頸部がんに対して保険適用になっている光免疫療法の食道がん治療への応用の可能性についても聞いた。光免疫療法は、光に反応する薬を注射し、薬ががんのある部分に集積したところでレーザー光を当てる治療法で、光線力学療法と免疫療法を組み合わせたような方法だ。すでに、再発頭頸部がんに対して保険適用になっている。

 矢野氏は、「光免疫療法には抗体薬を使った光感受性物質が使われていますので、よりがんに対する選択性が高いのではないかと期待されていますし、光の波長も光線力学療法よりも少し長い波長を使うので、より深いところまで治療効果が期待できるのではないかと思われます。食道がんに対しても医師主導治験で評価をしていますが、まだ食道に適正に光を当てるためのデバイス(医療機器)の開発が必要な段階ではないかと考えています」と答えた。実用化までには時間がかかる見通しというが、再発食道がんに関しても、治療の選択肢がさらに増えることを期待したい。


日本食道学会・第1回市民公開講座より

食道がんと診断され、手術を受けるということ

臓器を温存しつつ食道がんの完治を目指す放射線治療

食道がんの最新の抗がん剤治療とは

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