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レポート

2022/05/17

日本肺癌学会市民公開講座2022 in京都より(3)

日進月歩で発展し個別化が進む「肺がんの薬物療法」

福島安紀=医療ライター

 肺がん治療の中で年々進化しているのが薬物療法だ。日本肺癌学会は、3月26日、肺がん医療・疾患啓発のための市民公開講座「肺がんへの向き合い方と最新治療をみんなで学ぼう2022 in京都」をオンライン開催した。市民公開講座では、京都府立医科大学附属病院呼吸器内科准教授の山田忠明氏が、がんの進行度や遺伝子変異の有無などによって個別化治療が進む「肺がんの薬物療法」をテーマに講演した。


肺がんの薬物療法は早期から進行期まですべてのステージで活用

 肺がんは大きく、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2つに分けられる。非小細胞肺がんには、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんが含まれる。タバコなどの影響で、正常細胞ががん化していくがんの代表例が小細胞肺がんと扁平上皮がんで、患者数が最も多い腺がんは喫煙とはあまり関係がなく、「ドライバー遺伝子」と呼ばれる一つの遺伝子の異常で、一挙に発がんするケースが多いとされる。

(山田忠明氏講演資料より)

 山田氏は、肺がんのステージ別の治療方針について、「手術と放射線治療は、局所のがんを駆逐する治療なので、比較的早期のがんが対象になります。薬物療法は、早期がんであるⅠ期から手術療法、あるいは、放射線治療の成績をより改善する目的で用いられ、Ⅳ期は薬物療法が中心です」と説明した。

(山田氏講演資料より)

肺腺がんの初回治療はドライバー遺伝子の有無を確認し分子標的薬を考慮

 肺がんの薬物治療には、「抗がん剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」という3つの柱がある。肺がん治療に用いられる分子標的薬は飲み薬で、がんの発生と増殖の原因となるドライバー遺伝子を標的とした薬だ。「ドライバー遺伝子は、いわばがんのアキレス腱です。ドライバー遺伝子の異常によっていっきにがんになりますが、このアキレス腱を分子標的薬で治療することでがんが動けなくなり、治療効果が出ます。日本人の肺腺がんの半分にEGFR遺伝子変異があり、ALKという遺伝子に異常がある人が5%、全体では約7~8割の患者さんにドライバー遺伝子の異常が見つかるのが現状です」(山田氏)。

(山田氏講演資料より)

 ドライバー遺伝子異常の有無を確認する遺伝子診断には、手術や生検で採取した腫瘍組織を用いる。これまでは1つ1つの遺伝子異常を調べていたが、現在は、複数の遺伝子異常の有無を一度に網羅的に確認できるような方法も選択できるようになった。また、最近、血液を用いてドライバー遺伝子異常の有無を調べるリキッドバイオプシーが保険適用になり、臨床現場でも使えるようになっている。

(山田氏講演資料より)

遺伝子異常を標的にした分子標的薬治療で治療成績が大きく改善

 「ドライバー遺伝子を標的とした分子標的薬を使った患者さんに関しては、使わなかった患者さんに比べて長い生存期間が得られています。非小細胞肺がん、中でも肺腺がんのIV期では、ドライバー遺伝子の異常を確認し、それに紐づく分子標的薬を患者さんにしっかり届けるということが重要です」と山田氏は話した。

 現在(2022年4月)、8つの遺伝子異常に対して使える分子標的薬は18種類、保険承認されている(下表)。

 「EGFR遺伝子変異のある肺がんの患者さんには、最初に開発された第一世代の阻害薬に比べて、新しい第三世代の阻害薬で治療するほうが、より長い患者さんの生存期間が得られることも分かっています。また、ALK融合遺伝子という遺伝子異常に関しては、抗がん剤だけで治療していた時代には約1年だった平均生存期間が、最新のALK阻害薬を最初に用いることによって約6.8年と、画期的な生存期間の延長が得られるようになっています。今現在も、新薬の開発が進んでおり、これからも生存期間がさらに延びることが期待されています」と山田氏。

 例えば、40代の男性は、IV期の非小細胞肺がんと診断されたときには、右側の肺の半分以上に病変が広がり、呼吸不全、胸の痛み、強い倦怠感があった。遺伝子検査でEGFR遺伝子変異が見つかり、分子標的薬のEGFR阻害薬による治療を2カ月続けたところ、がんが縮小してつらい症状も軽減し、今のところその状態を維持できているという。
 
 ただ、分子標的薬にも副作用がある。例えば、EGFR阻害薬の1つでは、発疹、肝機能障害、下痢といった副作用が一定の割合で起こる。最も注意が必要なのは、薬剤による「間質性肺炎」と呼ばれるアレルギー性の肺炎だ。「特に喫煙歴がある患者さんや、もともとアレルギー性の肺炎がある患者さんではリスクが高いことも分かっています。やはり、お薬で治療をするときには副作用が起こる危険性があるということには、注意が必要です」と山田氏は語った。

支持療法によって副作用の軽減が進む抗がん剤治療

 一方、抗がん剤は、現在でも肺がんの薬物療法の柱の1つであり、非小細胞肺がん、小細胞肺がんのすべてのステージの治療に用いられている。ただ、抗がん剤は、がん細胞だけでなく、正常細胞にもダメージを与えるため、さまざまな副作用が出る。例えば血液の細胞がダメージを受けると、感染しやすくなったり、貧血になったり、あるいは出血しやすくなるといった症状が一時的に出る。脱毛、吐き気、食欲低下、しびれなどが発生することも多い。

 山田氏は、「がん治療薬の開発と同様、これらの副作用に対する支持療法と呼ばれる治療薬の開発も同時に進歩しており、以前に比べて、嘔吐・吐き気などの副作用を軽減できるようになってきているのが現状です」と話した。

進行肺がんでも免疫チェックポイント阻害薬により長期生存する場合が

 そして、近年、注目されているのが、免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法だ。「がん免疫療法は、がん細胞に直接作用するわけではなく、がんを監視している免疫システムを活性化することで、がん細胞を駆逐する治療です。がん細胞は、免疫を担当する細胞にブレーキをかけてがん細胞を攻撃できないようにしています。これに伴ってがん細胞はどんどん増殖するわけですが、このブレーキが外れれば、免疫担当細胞ががん細胞を駆逐できるようになります。これらのがん免疫のブレーキを外すような薬、具体的には、PD-1、PD-L1、CTLA-4というタンパク質を標的にした薬が、今現在、免疫療法として使われています」と山田氏は解説した。

 肺がんでは、現在、5種類の免疫チェックポイント阻害薬が保険診療で使えるようになっている。この5種類の薬はすべて点滴薬だ(下表)。

(山田氏講演資料より)

 免疫チェックポイント阻害薬については、がんの組織を調べPD-L1というタンパク質の発現が高い場合には、一般的に薬が効きやすいことが分かってきた。ただし、PD-L1が全く発現していなくても効果がある場合があり、逆に、高発現でも効果がない場合があることには注意が必要だ。

 「免疫療法が注目を集めているのは、非常に長い期間、この免疫療法だけで病気がコントロールされ、ほぼ治ったように見える患者さんが、進行期の肺がんの患者さんの一部にいるからです。このような患者さんの効果は、テイルプラトーと呼ばれ、5年を越えても、この治療薬だけで病気をコントロールできるというような状況が生まれるということが、大きな特徴です」と山田氏。

(山田氏講演資料より)

 免疫治療を受けた一部の患者さんでは、5年生存率が30%を超えるとの報告も出てきている。現在は、免疫治療と抗がん剤の併用、あるいは免疫治療に別の免疫治療を併用する方法など、さらに、進行期の肺がんの治療成績を上げるための臨床試験が実施されている。

 しかし、免疫チェックポイント阻害薬でも、甲状腺機能障害、1型糖尿病、重症筋無力症、肝機能障害、腎障害などさまざまな臓器に、分子標的薬や抗がん剤による治療とは異なる重篤な副作用が出る場合があることには注意が必要だ。

薬剤耐性への対応、薬剤費の高騰が課題

 「本日お話ししてきましたように肺がんの薬物治療には多くの選択肢があります。大事なことは、遺伝子異常の有無、年齢、全身状態、臓器の機能、合併疾患の有無などを総合的に判断し、その患者さんに最適な治療を届けることです」

 そう話す山田氏は、肺がんの薬物療法の課題として、「1つの薬がよく効いても、薬剤耐性が生じ、いずれ効かなくなること」を挙げた。現在、薬剤耐性が生じて薬が効かなくなった後、どのような治療を行えば生存期間が延びるのか様々な臨床試験が行われている。

 そして、もう一つの課題として挙げたのは、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は高額で、医療経済のひっ迫につながっているという経済的な観点だ。例えば、EGFR阻害薬のオシメルチニブの単価は1錠約2万4000円で、10割負担で考えると月額約72万円、ALK阻害薬のアレクチニブは1錠6347円だが1日4錠服用する必要があるので月額約81万円(10割負担)かかる。高額療養費制度が使えるので、患者の自己負担は軽減されるが、国民皆保険制度を維持するために、薬剤費の高騰をどう抑えるかは社会的な課題となっている。

 肺がん治療については、日本肺癌学会が、2021年11月、患者・家族向けに、『患者さんのための肺がんガイドブック2021年版』(金原出版)を発刊している。
 
 山田氏は、「さまざまな薬の組み合わせや新しい治療薬が日進月歩で開発されていますので、そのような情報に関しても、主治医の先生との密な連携が、個人的には非常に重要ではないかと考えております」と話し、講演を結んだ。

 視聴者からは、「免疫チェックポイント阻害薬が効いて肺がんがコントロールできている場合、いつまで治療を継続するべきか」という質問が出た。山田氏は、「最初に出された臨床試験の結果では、治療を中断しても効果が持続している患者さんもいます。しかしながら、途中で中断した患者さんと、治療を継続した患者さんを比較した研究では、続けたほうが治療成績は良いという結果でした。そのため、今のところ、こちらから治療を区切ることはしていないのが実情です。『治療に通い続けるのがつらいから、いったん止めてみたい』という方や、副作用が出たタイミングで休薬を希望する患者さんには、リスクを説明して、患者さんと相談しながら休薬するかを決めています」と回答した。

 また、「1つの免疫チェックポイント阻害薬が効かなくなった場合には、他の薬も効果がないのか」という質問には、次のように答えた。「免疫チェックポイント阻害薬が中止された理由によって考え方は異なります。治療効果があるものの副作用が出て仕方なく免疫チェックポイント阻害薬による治療を中止した場合には、他の種類の治療薬が効く可能性がありますが、効果が得られなくなり中止した場合は、たとえ抗がん剤治療を挟んで再投与しても、1回目ほどの治療効果は得られないのが実情です」。

 日本肺癌学会では、1~2カ月に1回、「肺がん医療・疾患啓発のための市民公開講座」を開催している。次回は5月28日(土)に宮城県仙台市、6月25日(土)に福岡市、7月23日(土)岐阜市で開催される予定だ(https://convention.kijima-p.co.jp/jalca2022_shimin/)。

日本肺癌学会市民公開講座2022 in京都より

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