このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2022/05/10

日本肺癌学会市民公開講座2022 in京都より(2)

治療効果を高め有害事象を減らす方向へ進化する肺がんの放射線治療

福島安紀=医療ライター

 日本肺癌学会は、3月26日、肺がん医療・疾患啓発のための市民公開講座「肺がんへの向き合い方と最新治療をみんなで学ぼう2022 in京都」をオンライン開催。肺がんの治療には、外科治療(手術)、放射線療法、薬物療法があり、ステージや患者の状態に合わせて適切な治療が選択される。市民公開講座では、京都府立医科大学附属病院放射線科特任教授の山崎秀哉氏が、「肺がんの放射線治療」をテーマに、体幹部定位放射線治療、陽子線治療などの最新治療について講演した。


小さな肺がんの放射線治療はピンポイントでX線を当てる定位照射が主流に

 肺がんでは、ステージⅠ、IIは手術で治療するのが基本だが、高齢者や合併疾患などで手術が難しい患者には、放射線治療が実施される。また、ステージⅢは放射線治療と薬物治療を同時併用する化学放射線療法が標準治療だ。ステージⅣでは、痛みやつらい症状を和らげる緩和目的で放射線治療が用いられることがある。

 山崎氏は、講演の冒頭、「欧米に比べると日本では、がん患者のうち放射線治療を受けている人の割合が非常に少ない。少しずつ伸びてはいますが、潜在的には放射線治療が必要だけれども、そこまでたどり着かない人がいるのではないかというのが放射線治療医の感覚です」と指摘した。

 そして、X線シミュレーション装置で透視画像を撮影して照射範囲を決めていた「二次元照射」から、CT画像上でシミュレーションしながら「三次元照射」ができる時代になり、さらに、固定具や呼吸の制御をすることで定位放射線治療(以下定位照射、SBRT)へと進化してきた放射線治療の歴史を紹介した。定位放射線治療は、CT画像によるシミュレーションで綿密な治療計画を立て、固定具で患者を固定し、さまざまな方向から病巣にピンポイントで強い放射線を当て、正常な組織にはできるだけ照射しないようにする方法だ。

定位照射は従来法より局所制御率と生存率が高く手術不能例に推奨される

 「やっていることは、放射線の照射範囲を小さく正確に病巣に当て、有害事象を減らして、制御率を上げることに尽きるわけです。定位照射によってがんが消えるようになり、手術可能例に比べると多少成績は劣るものの、手術不能例でも、結構治る時代になりました」と山崎氏。オーストラリアとニュージーランドでステージⅠの非小細胞肺がんの患者101人に対して、定位照射と従来通りの三次元照射を実施した結果を比べたランダム(無作為)化比較試験(RCT)では、定位照射の方が、明らかに局所制御率も生存率も高いとの結果が出ている。

(山崎氏講演資料より)

 「米国のNCCNガイドラインでは、定位照射は手術に匹敵する局所制御率と生存率が示されていることから、切除不能例や手術拒否例では推薦できる治療とされています。また、肺機能が低下しているケースや高齢者は、定位照射で治療しても良いのではないかという時代になってきたと思います」と山崎氏。日本での定位照射の保険適用は、原発性肺がんでは、直径5センチ以内で転移がないもの。転移性肺がんでは、直径5センチ以内で3個以内、他には病巣がないもの――となっている。

局所進行肺がんは免疫チェックポイント阻害薬併用化学放射線療法で治療成績UP

一 方、局所進行期のIIB期、IIIA期の手術不能例、あるいは、IIIB期、IIIC期の非小細胞肺がんに対する治療では、放射線照射の線量を上げ、さらに薬物療法を同時併用する化学放射線治療の実施によって治療成績が向上してきた。放射線治療単独(RT alone)では50%の患者さんが亡くなるまでの期間を示す生存期間中央値(MST)が10カ月だったが、パクリタキセルとカルボプラチンなどの抗がん剤投与と定位照射を同時併用する化学放射線治療ではMSTが28.9カ月に改善。2年生存率は57.6%で、5年生存率も2割を超えた。

600

(山崎氏講演資料より)

 「さらに、免疫チェックポイント阻害薬と放射線を併用することでMSTが34カ月と3年が見えてきて、5年生存率の向上も期待できるのが現在の集学的治療の現状です」と山崎氏は話し、京都府立医科大学附属病院で2019年から導入された陽子線治療についても解説した。

さらに有害事象が少ない陽子線治療を先進医療で受ける選択肢も

 通常の放射線治療はX線を利用しているが、近年、がん治療の新たな武器として徐々に広がってきているのが、陽子線や重粒子線を用いた粒子線治療だ。陽子線は水素の原子核、重粒子線は炭素の原子核を活用している。陽子線治療では、水素の原子核である陽子を加速させ、体内を一定程度進んだ後、急激に止まり、一気に高いエネルギーを放出する。このエネルギーのピークは「ブラックピーク」と呼ばれる。

 「拡大ブラッグピークといって、腫瘍の場所だけ陽子線や重粒子線をたくさん当てることが可能になったわけです。これを利用しているのが陽子線などの粒子線治療で、腫瘍に均一に当てられ、正常組織には優しい。X線は定位照射であっても前後の細胞に放射線が当たってしまいますが、粒子線では後ろには全く当たらない。これが売りです」(山崎氏)。

(山崎氏講演資料より)

 がん治療に対して粒子線治療を行う施設は徐々に増えており、2022年4月現在、日本には、粒子線施設が25カ所(重粒子線6カ所、陽子線18カ所、重粒子線と陽子線と両方1カ所)ある(https://www.antm.or.jp/05_treatment/04.html)。

 「肺がんの粒子線治療は保険診療の対象ではなく、先進医療として実施しています。先進医療というのは、診察料や検査料などは保険診療で、治療の実費が自費診療になる医療のことです。陽子線治療は約280万円、重粒子線は約300万円と高いのですが、民間のがん保険や医療保険で先進医療特約に入っている人は保険料でその費用が賄われます。陽子線は、X線よりもさらにピンポイントで非常に小さく当てられますので、腫瘍が大きい、高齢者、肺機能が低下している人、再照射などには有効ではないかと考えています」と山崎氏は語った。局所制御率はX線の定位照射とほぼ同等だが、食道や反対側の肺にはほとんど放射線が当たらないで済む分、有害事象が少ない印象があるという。

 「治ればいいという時代は終わって、高齢化に伴う低侵襲治療としての放射線治療が期待されています。放射線では緩和治療もできます。早期肺がんの定位照射、進行肺がんの化学放射線治療、さらに陽子線治療など、有害事象が少なく制御率向上を目指す放射線治療が開発されています」と山崎氏は講演をまとめた。

 視聴者からは、「肺がんの陽子線治療は、早期がんにしか適応にならないのか」との質問が出た。山崎氏は、「どのステージでもやります。ステージIなら定位照射に似た照射になりますし、局所進行なら化学放射線療法の放射線の部分に陽子線を使うことになります。これは重粒子線を使っている施設でも同様だと考えられます」と回答した。

 日本肺癌学会では1~2カ月に1回、「肺がん医療・疾患啓発のための市民公開講座」を開催している。次回は5月28日(土)に宮城県仙台市、6月25日(土)に福岡市で開催される予定だ(https://convention.kijima-p.co.jp/jalca2022_shimin/)。


日本肺癌学会市民公開講座2022 in京都より

肺がん手術は傷も切除範囲もできる限り小さくする方向へ進化

この記事を友達に伝える印刷用ページ
  • 大腸がんを生きるガイド
  • がん文献情報ナビ
  • 「がん情報文献ナビ」は、がんと治療薬に関する最新の英語論文を、ビジュアル検索できるサービスです(株式会社ワールドフージョンが運営しています)。 ご意見・お問い合わせはこちら