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レポート

2022/04/26

日本肺癌学会市民公開講座2022 in京都より

肺がん手術は傷も切除範囲もできる限り小さくする方向へ進化

福島安紀=医療ライター

 日本肺癌学会は、3月26日、肺がん医療・疾患啓発のための市民公開講座「肺がんへの向き合い方と最新治療をみんなで学ぼう2022 in京都」をオンライン開催した。肺がんの治療には、外科治療(手術)、放射線療法、薬物療法があり、どれか1つ、あるいは2つか3つの治療を組み合わせて治療する。市民公開講座では、京都大学医学部附属病院呼吸器外科講師の濱路政嗣氏が、肺がんの外科治療について講演した。その内容をレポートする。


肺がん手術のアプローチは開胸、胸腔鏡、ロボット手術の3種類

 濱路氏はまず、日本肺癌学会が作成した肺がんの診断と治療の指針、『日本肺癌診療ガイドライン2021年度版』に沿って、ステージ別の外科治療について次のように説明した。「ステージ1からステージ4になるにつれて、手術の役割が少なくなり、それ以外の治療の役割が大きくなるということが肺がん治療の特徴です。そして手術と一口にいっても、さまざまな形があります。アプローチ、つまり皮膚切開や手術方法をどのようにするかという点では、開胸、胸腔鏡手術、ロボット手術に分けられます。肺をどれくらい切除するかという切除範囲については、肺全摘、肺葉切除、区域切除、楔状(けつじょう)切除があります」。

肺がん手術のアプローチ、切除範囲はステージによって異なる(濱路政嗣氏講演資料より)

 開胸手術は、胸部の皮膚を切開して肋骨と肋骨の間を開き、手術に関わる医師全員が胸の中を直接見ながら切除を進める、最も歴史のある従来通りの手術だ。胸腔鏡手術は、胸の周辺に3つ程度の孔を開け、そこから小型カメラと手術器具を入れて、モニター画面を見ながら手術を進める。ロボット手術は、ダ・ヴィンチと呼ばれる手術支援ロボットを使った手術で、執刀医はコンソールと呼ばれる操作室に座って画面をのぞきながら操作を行い、その他のスタッフは画面を見ながら手術器具や小型カメラのついた鉗子を操作し手術を進める。ロボット手術は胸腔鏡手術と似ているが、カメラが3次元で鉗子、執刀医自身が多くの操作ができることが特徴だ。

(濱路氏講演資料より)

ステージ1なら区域切除や楔状切除という縮小手術で治療できる場合も

 そして切除範囲について、濱路氏は「片側の肺を全部摘出することを、肺全摘と呼びます。右の肺は上葉、中葉、下葉という3つの袋に分かれており、左は上葉と下葉という2つの袋に分かれています。その袋をまるごと切除することを肺葉切除と言います」と説明した。下のX線の図では、赤で示した範囲が肺葉切除の切除範囲だ。肺葉はいくつかの区域に分かれており、例えばオレンジの領域の区域を切除することを区域切除と呼ぶ。それよりも小さな切除は楔状(けつじょう)切除、くさび状切除で、区域切除と楔状切除をまとめて、縮小手術と呼ばれる。

左側の赤の部分が肺葉切除、オレンジ部分が区域切除、黄色が楔状切除。がんの位置や広がり方によって、切除範囲は変わる(濱路氏講演資料より)

 肺がんの進行度を示すステージによって手術の方法自体は変わり、基本的には、ステージ2以上になるととロボット手術や胸腔鏡手術より、開胸手術の対象になる人が増える。

 「ステージ1の治療は、元気な方にとっては手術が原則です。外科手術の対象は、ステージ1が圧倒的に多く、縮小手術で対応できる場合があります。ステージ2は腫瘍がやや大きかったり、近くのリンパ節のみに転移したりしている場合で、やはり元気な方は原則、手術で治療します。ステージ2では開胸を必要とする可能性がステージ1より高く、また肺葉切除が原則となります」と濱路氏。

切除範囲を少なくする工夫や微小病変を同定する手術支援システムも開発

 そして、ステージ3の治療は、抗がん剤と放射線治療を併用する化学放射線療法が中心になるが、一部の人には手術を行う。病変が上葉と下葉にまたがっていたり肺動脈や気管支に広がっていたりする場合には、片肺を摘出する全摘手術を検討するが、濱路氏は、全摘を避けるためにさまざまな工夫が行われていることを紹介した。その一つは、気管支形成による左下葉温存手術で、下の右図のように、気管支の一部を残して再建することで下葉を残すことができるという。

(濱路氏講演資料より)

 例えば、左上葉に病変があるステージ3の肺がんと診断された64歳の男性は、化学放射線療法でがんが少し小さくなり、開胸手術を受けることになった。開胸手術で左上葉と気管支の一部を切除し、気管支と肺動脈を形成し再建することで左下葉を温存できた。「気管支や肺動脈は心臓の近くにあるので、慎重にはがして形成し、血流をコントロールして手術を進めることが重要です」と濱路氏は話した。

 一方、ステージ4は、肺がんが脳や肝臓など離れた臓器に転移している状態だ。基本的には薬物療法で治療するが、ごくまれに手術ができる状態になることがある。ステージ4と診断された74歳の男性は、薬物療法がよく効き、一時はがんが消えたような状態になった。しかし、少し経ってから肺の原発巣だけが再び大きくなったので、手術をすることに。小さな孔を3つ開けるだけの胸腔鏡手術で、ほぼステージ1と同様の手順で左下葉を切除し、3年以上無再発だという。

 濱路氏は、「外科治療は、傷をより小さく、より小さな切除範囲でがんを治療する方向へ進化しています。従来、胸腔鏡は3カ所の傷で行うことが多かったのですが、ときに1カ所で行うことも試みています。1カ所の傷でもさまざまな工夫をすることにより、従来とほぼ同様の胸腔鏡の手術を行うことができます」と述べた。

 さらに、胸腔鏡手術やロボット手術のときに位置が分かりにくかった深部病変を同定する手術支援システムとして、2019年から京都大学医学部附属病院で臨床応用が始まったRFIDマイクロチップを用いた肺がん手術を紹介。福岡大学病院呼吸器・乳腺内分泌・小児外科教授の佐藤寿彦氏らが京大病院在職中に開発した方法で、スマートフォンやプリペイドカードなどに使われているRFIDマイクロチップを搭載した小型無線センターが腫瘍を感知すると音が鳴るシステムだ。このシステムを用いることで、直接腫瘍を見たり手で触れたりできない胸腔鏡手術やロボット手術でも、肺の少し深い位置にある病変の位置を正確に同定し切除できる。

胸腔鏡手術やロボット手術でも、触知が困難な微小な病変の位置を正確に同定できるRDIDマイクロチップを用いた術中マーキング法。右上の写真は、開発者の佐藤寿彦氏(福岡大学病院呼吸器・乳腺内分泌・小児外科教授)(濱路氏講演資料より)

肺がん手術を受けるなら経験豊かな外科医のいる学会認定修練施設で

 肺がん手術後、いつ仕事に戻れるかも気になるところだが、デスクワークなら術後1カ月、肉体労働の場合は1~2カ月程度が目安という。

 濱路氏は、「患者さんには、手術は誰がしてくれるのですかとよく聞かれますが、基本的には呼吸器外科専門医が手術の責任者となります。重要なことは、手術はチームで行うので、チーム力がものをいうことです。外科治療も進化をしています。そして十分なトレーニングを積んだ外科医のいる、日本呼吸器外科学会と日本胸部外科学会の呼吸器外科専門医合同委員会認定修練施設(http://chest.umin.jp/inst/inst_list.html)で手術を受けていただければと思います」と強調した。

 1年前に左肺下葉切除を受けという視聴者からは、「未だに息苦しく重い物を持つと痛みがあります。息苦しさは切除の範囲に比例するものですか」という質問があった。濱路氏は、「息苦しさが残るかどうかは切除範囲にもよりますが、手術前の肺活量にも左右されます。もともと肺機能が良好で肺活量が高かった患者さんは肺を半分切除してもほとんど症状が出ませんが、もともと肺機能が低下していた場合には階段を昇ったときに息切れするなどの症状が出やすくなります」と回答。喫煙者は禁煙し手術前の肺機能を正常に保つことが重要になるという。

 痛みに関しては、肋間を小さく切開したときでも腫れが引くのに一般的には半年から1年程度かかる。「1年以上経っても完全に痛みが消えない方が一部いて、冬場の寒い時期だけ痛みが出るという人もいます。痛みが残ってつらい人は、痛みの治療が専門のペインクリニックの先生に相談することもあります」と話した。

 日本肺癌学会の肺がん医療・疾患啓発のための市民公開講座は1~2カ月に1回開催され、次回は、5月28日(土)、宮城県仙台市で開催される予定だ。詳しくは、同学会のホームページ(https://convention.kijima-p.co.jp/jalca2022_shimin/)を参照していただきたい。

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