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レポート

2022/04/19

AYAがんの医療と支援のあり方研究会が市民公開講座を開催(3)

第二の患者・家族の就労を考えよう

福島安紀=医療ライター

 国立がん研究センターが2019年に実施した「小児患者体験調査」では、患者のために仕事や働き方を変えた家族がいたと回答した人が65.5%に上った。しかし、小児・AYA世代のがん患者の治療や療養を支える家族の就労、育児の支援は、課題があるにも関わらず、これまであまり注目されて来なかった。こうした実態を受けて、AYA (Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人))がんの医療と支援のあり方研究会が3月19日に開催した市民公開講座では、「第二の患者・家族の就労を考えよう」と題したパネルディスカッションを行った。


患児のきょうだいの世話のために父親が半年間看護休暇を取得

 パネルディスカッション「第二の患者・家族の就労を考えよう」では、がんと子どもを守る会静岡支部代表幹事の谷井晃子氏が、4歳のときに小児がんを発症した長女、ことねちゃんの闘病中の体験を語った。

 ことねちゃんは、幼稚園の年中組だった年の2月の買い物中に急に倒れ、小児脳腫瘍の一種である小児脳幹部グリオーマと診断された。そのとき静岡県立こども病院の放射線療法の病棟が改装中だったこともあって、静岡県内では治療ができず、東京の病院に入院して治療を受けることになった。

 「東京の病院に入院するにあたっては、条件があると言われました。保護者が付き添ってもらいたい。しかも、母子保健センターなので、お母さんが一緒に入院して欲しいと言われました。ことねには弟が1人おりました。当時2歳だった息子の世話をどうするかが最初に問題になりました。主人と私の両親にも相談しましたが、入院が長期に渡ることが分かっていましたし、両家とも仕事を持っていたので預けるところがなかったのです」と谷井氏は説明した。

 そこで、患児の父親である夫が会社の上司に相談したところ、半年間、看護休暇を取得できることが分かった。谷井氏自身はパート勤務で働いていた仕事を辞め、ことねちゃんと一緒に東京の病院に入院し、夫が半年間、看護休暇を取得して静岡県内の自宅で下の子の世話をした。看護休暇中、給与は通常の7割支給されたという。

 ことねちゃんが入院したのは4人部屋で、がん以外の病気の子も含めて、すべての子に母親が付き添っていた。当時は今ほどインターネットが普及していなかったこともあって、付き添いの母親同士の情報交換の中で、小児慢性特定疾患の医療費助成制度や高額療養費制度といった医療費の自己負担を軽減できる制度のことを知ったそうだ。

看病と育児の両立のために保育園と小児がん治療中家族のための宿泊施設を活用

 半年間が過ぎて、夫の看護休暇が終わって仕事に復帰するときが来たが、ことねちゃんの治療は続いていた。再び浮上したのが、2歳の弟の世話を誰がするのかという悩みだった。感染症対策のため、きょうだいであっても12歳以下の子どもは小児病棟へ入れない。幼いきょうだいの世話をどうするかは、小児・思春期世代のがん患者の家族にとって切実な問題だ。

 谷井氏が選択したのは、母子同室看病をやめ、息子を東京に呼び寄せて保育園へ入れて、昼間はことねちゃんの看病をしに病院に通うという生活だった。夫は経済的に家族を支えるために静岡県で仕事を続けた。しかし、東京と静岡の二重生活では生活費がかさむ。特に、ことねちゃんが入院していた病院の近くは家賃が高額な地域だった。

 「それで、がんの子どもを守る会に相談したところ、安い金額で病院の近くの部屋を貸してあげられると言われました。当時、東京都港区にあった、小児がん治療中の家族のための宿泊施設『しろくまさんの家』というところに仮住まいをし、息子と2人で生活し始めました。平日は、朝、息子を保育園へ送り、そのまま病院へ行き付き添い看病をする。夕方になったら病院を出て保育園へ息子を迎えに行き、一緒に夕食を食べるという生活でした」(谷井氏)

 土日は保育園が休みだったが、東京医科歯科大学の学生ボランティアに依頼し、ことねちゃんが入院していた病棟の待合室で弟と1~2時間遊んでもらい、その間だけ患児に付き添ったという。

 治療が終了し、母子共に静岡県内へ帰る日がやってきた。ことねちゃんは、頭蓋内にたまった髄液を腹腔内にチューブで流すVPシャントという治療を受けており、その器具と点滴が手放せない状態だったため、東京の病院から転院先の静岡県立静岡がんセンターまで民間の救急車で移動した。「片道18万円かかったのですが、主人が会社に相談したところ、福利厚生で負担してくれる制度があり、それを活用することになりました」と谷井氏。

小児がん患者の家族の65.5%が患者のケアのために仕事や働き方を変更

 寝たまま移動できる車椅子や頭の髄液が漏れないようにする保護器具を特注するなど、谷井氏夫妻は、ことねちゃんが少しでも快適に過ごせるようにした。車椅子や保護器具を特注する際には、業者の担当者の「治る見込みがないなら不要ではないか」という心ない言葉に、失望と怒りの気持ちでいっぱいになったこともあった。しかし、ことねちゃんのためにと強い思いで交渉を重ね、作ってもらえることになった。

 ことねちゃんは、一時、在宅療養も試みたが、高熱を出して救急車を呼ぶ頻度が多くなり、静岡がんセンターの緩和ケア病棟へ入院することになった。当時、静岡がんセンターの緩和ケア病棟は基本的に大人のがん患者が対象で、小児の入院は初めてだった。

 そのときにも、「できる限り娘のそばにいてあげたい」との思いで、弟を「親が同居家族を看護」との理由で保育園に預け、谷井氏は緩和ケア病棟に通ったという。ただ、その保育園は午後4時までで、1分でも過ぎると早く迎えに来るよう電話がかかってきた。「病院と保育園の板挟みでつらい思いをしました。それで町役場に相談したところ、保育園に迎えに行く子育てサポーター制度があることを知りました。迎えの時間が過ぎそうなときはサポーターさんに私の代わりに保育園へ迎えに行ってもらい、サポーターさんの自宅で息子を預かってもらったこともありました。いろいろな制度を使いながら娘の看病を続けました。もっともっと娘と一緒の時間を過ごしたかったのですが、娘はむなしく天国に旅立ってしまいました」と谷井氏は話した。

 国立がん研究センターがん対策情報センターが、2019年に実施した「小児患者体験調査」では、「患者のケアのために仕事や働き方を変えた家族がいた」と回答した人は65.5%、41.7%が「医療費を確保するために生活へ何らかの影響があった」とした。医療費以外に経済的な負担が大きかったものは交通費60.7%、付き添い家族の生活費・宿泊費57.8%、きょうだいの保育園等に関わる費用11.1%だった。「小児がん患者や家族の悩み・負担を相談んできる支援・サービス・場所が十分にあると思う」と回答した人は39.7%で、成人のがん患者を対象にした調査結果(47.7%)よりも少なく、相談できる場所があるという情報や支援が行き届いていないことが分かった。

小児・AYA世代の家族の就労に関しても職場や病院、患者支援団体に相談を

 サッポロビール人事部プランニング・ディレクターでがんサバイバーの村本高史氏は、「企業側として、看護・介護を目的にした制度も必要かもしれませんが、目的はどうであれ、フレックス勤務、時間有給、テレワークなど柔軟な働き方ができる制度が大切だと思います。上司と部下が1対1、1on1で、メンバー主体の成長支援をする中で相談できる仕組みも必要ですし、制度より風土、日頃から何でも言い合える風土の方がもっと大切です。なぜなら、制度があっても周囲に気兼ねして使うことを言い出しにくかったら仕方ないですし、制度がなくても対応の仕方を見つけていくことが大切だと思うからです」と指摘した。そして、秘密厳守を前提に、社内外に相談できる仕組み作りと、「お互いさま」と言い合える風土の醸成を提案した。

 一般社団法人CSRプロジェクト理事、社会保険労務士で、がんサバイバーでもある藤田久子氏は、がん診療連携拠点病院の相談支援センターで就労支援などの相談に応じている経験から、視聴者にこう呼びかけた。「最近はAYA世代の方からの相談も少しずつ増えていますが、ご家族からの相談はほとんどありません。谷井さんのお話をうかがって、ご家族だけで頑張っている方がすごく多いのではないかと思いました。会社に相談すると何か制度が利用できたり、制度がなくても何かしらの配慮をしてもらえたりするので、ぜひ声を上げてもらいたいです。がん診療連携拠点病院の相談支援センターもぜひ活用ください」

 がんの家族は「第二の患者」とも言われるが、精神的、社会的苦痛を抱え、就労や育児、生活への支援を必要とする当事者だ。「家族の病気など事情を開示することには迷いも大きいことと思います。けれども、味方は本人が思っているより多いということもあるのではないでしょうか」と村本氏。がんの子どもを守る会などの患者支援団体も、小児・AYA世代の家族の相談に応じている。最後に、谷井氏が、「初めて自分の子どもに大きな病気があると告げられたときには、本人も家族も痛みがあると思います。勇気をもって、後悔のない時間を過ごすという気持ちで当事者も家族もみんなで手を取り合って、周りにも助けを求めることが大事だと思います」と強調し、パネルディスカッションが終了した。



AYAがんの医療と支援のあり方研究会が市民公開講座を開催

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AYAがん患者の就労支援でも重要なダイバーシティ&インクルージョン

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