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レポート

2022/03/22

肺がん医療向上委員会WEBセミナーより

肺がん患者さんの就労支援

仕事の継続を考慮に入れた治療戦略を

福島安紀=医療ライター

 日本肺癌学会は2月24日、「肺がん患者さんの就労支援」をテーマに、第35回肺がん医療向上委員会WEBセミナーを開催した。セミナーでは、「肺がん治療革新の時代における就労支援~『生存』のさらに上を目指すために」と題して、和歌山医科大学附属病院呼吸器内科・腫瘍内科講師の小澤雄一氏が講演。肺がん医療向上委員会委員長で北海道がんセンター臨床研究部長の大泉聡史氏、熊本大学病院呼吸器外科教授の鈴木実氏をファシリテーターに、肺がんサバイバーで社会保険労務士事務所Cancer Work-Life Balance代表の清水 公一氏らと総合討論を行った。

治療成績の改善と高齢労働者の急増で肺がん領域でも就労支援のニーズが増加

 肺がんは約40%が手術のできない進行期で見つかり、乳がんなどと比べて予後があまりよくないイメージがある。また高齢者が多いため、「肺がんに就労支援は必要ないのではないか」と考えている人もいるのではないだろうか。

 しかし、講演の中でまず小澤氏が指摘したのは、「肺がん自体の予後が劇的に改善し、これまでは長期生存した場合のQOLを想定する必要性がそれほど高くありませんでしたが、治療の進歩によって今はステージⅣの進行期でも長期生存が珍しくない」という事実だ。

 例えば、米国立がん研究所(NCI)、米国癌学会などが発表した米国のがん統計(2021年)では、2014~18年の年齢標準化死亡率の年間平均変化率をみている。その中で肺がんの死亡率の年間平均変化率は男性が-5.2%、女性-4.3%で、メラノーマ(悪性黒色腫、男性-5.7%、女性-4.4%)に次いで2番目に改善率が高かった。

 肺がん患者の5年生存率が年々改善しているのは、EGFR阻害薬やALK阻害薬などがんの増殖に関わるドライバー遺伝子に応じた分子標的薬、そして、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブといった免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになるなど治療の進歩の影響が大きい。小澤氏は、5年生存率が約42.9%と局所進行期の肺がんの予後を大きく改善させるきっかけとなったPACIFIC試験、ステージⅣで2年生存率約45%、4年生存率約25%を達成したKEYNOTE189試験の結果を紹介した(グラフ)。

 PACIFIC試験は、日本も含む26カ国235施設で、白金製剤を用いた化学放射線療法の後、進行が認められなかったステージⅢの非小細胞肺がんの患者713例を対象に、デュルバルマブかプラセボを2週間に1回、1年間続ける維持療法の効果を検証した無作為化比較試験。KEYNOTE189試験は、化学療法未治療の、EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子陰性の進行・再発の非扁平上皮非小細胞肺がん患者616例(日本人10例を含む)に対して、ペムブロリズマブと化学療法を併用する効果が確認された臨床試験だ。

薬物療法を受けた肺がん患者の7割が退職など仕事の変化・対応を経験

 また小澤氏は、治療成績の改善と共に、肺がん好発年齢の高齢者の就労率が急速に上がってきていることを挙げ、就労支援の重要性を訴えた。その背景には、同氏が日本肺癌学会の支援を受け、2019年に肺がん患者と同学会会員の医師を対象に実施した「肺がん治療と就労の両立に関するアンケート」を実施したことがある。この調査では、インターネット上でアクセスした患者418人のうち、1. 肺がんの薬物療法を受けたことがあり、2. 診断時に就労していた、もしくはその後就労した人で、3. アンケートに1項目以上の回答があった287人を解析の対象とした。医師アンケート「患者さんの就労状況の把握について」には、日本肺癌学会会員の医師381人が回答した。

 「このアンケートの結果では、肺がんの薬物療法を受けた患者さんのうち、それまでの仕事を継続できたのは4人に1人(25.8%)、同じ職場で仕事を継続したが何らかの条件変更をした方が20.2%で、15.3%は退職していました。就労を両立するうえで最も問題になったのは、治療の副作用・病気に伴う身体的な不調(52.3%)、治療の副作用・病気に伴う精神的な不調(5.9%)、職場の理解・協力を得ること(17.4%)、職場への負担(5.9%)などで、約80%は介入の余地があったと考えています」(小澤氏)

医師が思っている以上に就労について相談する機会を求める患者は多い

 この調査の結果、浮き彫りになったのは、医師は自分の担当患者の就労状況について、約8割が、おおよそ全ての患者、あるいは就労している可能性が高い年齢の患者については把握していると考えて居るのに対し、主治医が自分の就労状況について把握していると考えている患者は約6割と、ギャップがみられたことだ。

 治療開始前の就労についての話し合いについても、医師側は7割程度確認しているつもりである一方で、患者アンケートで治療前に話し合ったと答えた人は半数程度だった。しかも、「医師または医療者から質問があり、医師を含めて話し合った」と答えた患者は22.6%と少なかった。

 「このアンケートで一番興味深く重要だと思ったのは、医師に対しても、医療機関に関しても、『就労について相談する機会が欲しい』と答えた患者さんが少なくないことです。がんと診断されただけで仕事が続けられないと思ってしまう〝ビックリ離職″を防ぐためにも、できるだけ早い段階で医師が就労について患者さんに話を聞き、がん相談支援センターなどへ橋渡しをすることが大切です。診断時に患者さんの方から仕事のことを切り出すのは無理だと思いますので、医師側から一声かけて、見通しや治療戦略と共に仕事を辞めないように伝えることが重要です」と小澤氏は話した。

がん相談支援センターなどに早めに相談を

 がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでは、社会保険労務士や産業カウンセラー、キャリアコンサルタントなどの就労の専門家を配置し、がん患者の就労に対する相談に応じている。がん相談支援センターは、その病院にかかっていなくてもがん患者とその家族が利用できる相談機関だ。また、各都道府県の産業保健総合支援センター(https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx)も仕事と治療の両立支援の窓口となっている。仕事をどうしようか考えたときには、国立がん研究センターが作成した「仕事とがん治療の両立お役立ちノート」( https://tomonihataraku.jp/joho/)も参考になる。

仕事への影響に配慮したがん治療薬の選択が必要

 さらに小澤氏が指摘したのは、EGFR阻害薬の服用後に起こる爪周囲炎で爪がボロボロになったことで営業職に支障が出た患者がいるなど、医師側が軽微と思っている副作用が仕事によっては大きな影響をもたらすことがあるという点だ。

 「口内炎と突然の嘔吐の副作用があって運送業が続けられなかったという患者さんもいました。EGFR遺伝子変異陽性の患者さんの術後補助療法として、今後、EGFR阻害薬のオシメルチニブが使われるようになる可能性がありますが、出やすい副作用に下痢、皮疹、周囲炎があり、投与期間が3年と長いこともあって、仕事によってはどういう影響が出るか配慮が必要です。また、やはり今後、術後補助療法として使われる可能性がある免疫チェックポイント阻害薬のアテゾリズマブは、発熱、甲状腺機能低下、関節痛といった副作用が仕事にどう影響するか注目する必要があります。肺がんの薬物療法では治療の選択肢も増えてきていますから、仕事を念頭に置いた治療選択をすることも大事ではないかと思います」と語った。

 診療報酬では「療養・就労両立支援指導料」が2018年度から新設され、主治医が産業医に対して仕事と治療の両立に関する意見書を作成した場合に、医療機関に報酬が入るなど、がん患者の仕事の継続を後押しする仕組みもある。小澤氏は、主治医の意見書などを作成する際の留意点として、次のように話した。「がんのほとんどは、仕事が原因で発症したわけではない私傷病です。うつなどのメンタルヘルスとは異なり、事業者が配慮する義務がない病気なので、労働者の方に自己管理する義務があり、あくまで、事業者側にはいろんなことをお願いする立場であることに注意しなければなりません。診断書を書くときに、医師が配慮をしたつもりで夜勤禁止、デスクワークのみなどと書くと、仕事の内容によっては解雇されることがあります。職場にも患者さんにもメリットがあるうまい抜け道を探りながら、できるだけ患者さんの方で判断できる余地を残すことが大事なポイントです」。

肺がん手術の低侵襲化が早期職場復帰を後押し

 後半の総合討論では、社会保険労務士、両立支援コーディネーターとしてがん患者の支援にあたっている清水氏が、「医師の診断書や意見書に、『残業できません』、『満員電車無理です』、『立ち仕事無理です』などできないことばかり書くと、会社側がどうやって働かせたらいいのだと悩むことになります。診断書にはできないことではなく、できることをベースに書いて欲しい」と提案した。

 仕事との両立がうまくいくかは、治療の内容によっても異なる。鈴木氏は、外科医の立場から、「術後の就労支援ということでよく聞かれるのは、いつから仕事に復帰できるかですが、それは術後の回復と仕事の内容、ご本人の気持ち次第だと説明しています。胸腔鏡を使った手術ができるようになってから、術後の職場復帰の時期が劇的に短くなっています。手術の低侵襲化が就労支援に非常にいい影響を与えているのではないでしょうか」と言及した。最も短い例では、水曜日に入院して金曜日に手術を受け、次の週の火曜日に退院し、その翌日には職場復帰した事務職の人もいたという。

 ただ、開胸手術が必要な場合には、半年くらい肉体労働ができなくなるため、漁業、農業などの第一次産業の人の中には、手術を受けるか悩む人もいる。また、再発予防のために点滴薬での術後補助化学療法を受けている患者の多くは、4カ月程度休職し、その後職場復帰しているという。

 「悩ましいのは、局所進行期で化学放射線療法を受ける患者さんです」というのは小澤氏だ。「私たちとしては、手術に近い感覚で、化学放射線療法を乗り切れば完治する可能性もあると説明しているのですが、仕事を辞めて治療に専念したほうがいいのではないかと考える患者さんも多いのが実情です。デュルバルマブを1年間投与するので、仕事に関して配慮が必要です」

仕事の状況を最初に把握したうえで治療戦略を立てるのが当たり前の社会に

 一方、ステージⅣ、進行期の場合には、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異など非小細胞肺がんの増殖に関わるドライバー遺伝子の有無によっても異なる。

 「ALK融合遺伝子陽性、EGFR遺伝子変異陽性などの人は、飲み薬の分子標的薬でかなり長期の安定が望め、仕事も継続できます。まずは、分子標的薬を服用し、仕事をどうするか考えるのは後でいいのではないかと説明しています。ALKやEGFR遺伝子変異陰性の非小細胞肺がんの患者さんの場合には、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬併用療法の4コースが結構きついのですが、それが終わって維持療法へ移行すれば楽になります。治療効果や副作用の出方は個人差が大きいので、仕事をどうするか考えるのは、最初の4コースが終わってからにするように提案しています」と小澤氏。

 清水氏は、「基本的に、会社を辞めてしまうと、休職制度など広い意味での社会保障を手放すことになりますし、余程のスキルがないと同じ条件での就職が難しくなりますので、肺がんと診断されたからといって仕事は辞めないほうがいい」と強調した。ただし、進行期で最初の薬物療法が効かなくなり、セカンドライン、サードライン、フォースラインとなってきたときには、「自分がどう生きたいかが問題で、休職制度や障害年金などをうまく使いながら、仕事は辞めて家族との時間を大切にするという選択があってもいいのではないでしょうか」と問題提起した。

 これに対し、大泉氏は、「進行期はいろいろな選択があり得ます。仕事が生きがいだから続けたいという人もいるので、その辺は患者さんと医療者が相談しながら進めて行くことが大事なのではないでしょうか」と話した。

 今後の課題として、小澤氏は、「がん治療では、医師が患者さんに仕事のことを聞くのがまだ当たり前にはなっていないので、ルーチン化させる必要があります。仕事の状況を最初に聞いて、それを把握したうえで治療戦略や就労支援を考えていくのが当たり前になって欲しいです。働いているかどうかだけではなく、働かなきゃいけない、あるいは仕事が生きがいで仕事の継続を本当に希望されている方のニーズをどう拾い上げていくかも課題です」と述べた。

 「ひとくくりに就労支援といっても、一人ひとり状況は違います。肺がんの個別化治療が進んでいるように、就労に関しても個別化、患者さんから意見を拾い上げて本人が望む方向へ導いていただけたら患者としては嬉しいです」と清水氏。

 大泉氏は、「免疫チェックポイント阻害薬が出てきて、ステージⅣでも長期生存する方がいるなど肺がんの治療が変革を遂げています。事業者にそのことを知っていただくのは難しいかもしれませんが、我々は、そのことを広めることも含めて活動していくことが大事」と強調した。

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