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レポート

2022/03/08

コロナ時代の最先端がん放射線治療(3)

効果が高く副作用の少ない短期治療が可能な重粒子線治療

日本放射線腫瘍学会学術大会市民公開講座より

中西美荷=医学ライター

 がん治療の三本柱のひとつである放射線治療は、臓器や機能を保持したまま完治を狙うことのできる優れた治療法である。従来の放射線治療は、正常細胞への影響をできるだけ抑えるために「少しずつ長期間」の照射が基本で、1カ月〜2カ月間にわたって毎日通院する必要があった。しかし近年、放射線治療は急速な進歩をみせ、通院回数が問題となるコロナ時代にも適した「短期・低侵襲の治療」を可能とするさまざまな照射法や機器が開発されている。

 その最前線について、日本放射線腫瘍学会第34回学術大会市民公開講座「コロナ時代の最先端がん放射線治療―短期・低侵襲放射線治療の最前線―」から3回に分けて紹介する。第3回は「重粒子線治療」について。

 重粒子線治療については、第34回日本放射線腫瘍学会学術大会大会長の根本建二氏(山形大学理事、副学長、山形大学医学部東日本重粒子センター センター長)が講演した。根本氏は、「放射線治療は、いかに正常細胞に影響を与えずに、がんのDNAだけを壊すかという工夫を重ねることで進歩を続けてきた。定位放射線治療もBNCTも、そして重粒子線治療も、その工夫の延長線上にある技術である」と話す。


「重粒子線治療」はがんへの線量集中性が高い

 通常の放射線治療では、リニアックと呼ばれる直線加速装置で電子を加速して、電子線あるいは高エネルギーのX線を体外から標的に向けて照射する。「粒子線治療」というのは、放射線として高エネルギー原子核の流れ(粒子線)を用いる放射線治療である。現在、粒子線治療に用いられている原子核は水素原子核と炭素原子核で、水素原子核を用いるものが「陽子線治療」、陽子より重い炭素の原子核を用いるものが「重粒子線治療」と呼ばれる。重粒子線治療では、炭素の原子核を光速の約70%にまで加速してがんにぶつけ、がんのDNAを壊す。

 重粒子線治療の1つ目の特徴は、がんへの線量集中性である。「X線も、いろいろな方向から治療する(定位放射線治療)ことにより、がんに集中的に照射することが可能になったが、重粒子線は、放射線の性質自体が異なるため、線量をがんに集中させやすい」(根本氏)。X線は光子線と呼ばれる光の波で電荷や質量を持たず、体表の近くで線量が最大となり、体の奥に行くにしたがって弱くなる。一方、粒子線は電荷や質量を持ち、体表では比較的低線量だが、ある深さ(ブラッグピーク)で最大のエネルギー(もっとも高い線量)を放出して、それ以上進まないという物理的特性を持つ。そのため、その深さを腫瘍の位置に合わせて照射することにより、腫瘍への高い線量集中性を得ることができる。

 がんの周りの正常組織に放射線が当たると、一定の比率で発がんが起きる。放射線治療をしなくとも二人に一人ががんになる時代であるため、手術後の患者でも一定の比率でがんが発生するし、すべてが放射線治療の影響とは言えないが、X線と重粒子線それぞれで前立腺がんを治療して、2年、4年、6年、8年、10年と観察した場合、重粒子線治療の方が発がん率が低いことがわかっている(Mohamad O et al., Lancet Oncol. 2019; 20(5): 674-685)。「これは周囲の組織に対する余計な放射線が少なかったことの表れだと言われている。いかにがんにだけ当てるかということが大事であるかを示した1つの例ではないかと思っている」(根本氏)。

これまでの放射線治療が効きにくかったがんにも効果

 重粒子の2つ目の特徴は、今まで放射線治療がなかなか効かなかったようながんにも効果があることである。たとえばX線治療がもっとも効きにくいがんのひとつである骨軟部腫瘍では、重粒子線治療により、X線治療と比較して生存率の大きな改善が認められている。X線治療では仙骨脊索腫の3年全生存(OS)率が31%、骨盤部の骨肉腫の5年OS率が0-10%、後腹膜軟部組織肉腫の5年OS率が0-13%などと報告されていて、効果はあまり高くない。根本氏によれば、重粒子線治療の試験では、5年生存(OS)率が仙骨脊索腫で83%、骨盤部の骨肉腫で39%、骨盤部の南部肉腫で43%、後腹膜軟部組織肉腫で40%という良好な成績が得られているという(J-CROS 1401試験データ)。

 また非常に治療が難しいとされる切除不能の膵臓がんでは、現在、標準とされている線量(55.2Gy)での重粒子線治療による生存期間中央値は26カ月と報告されている(Kawashiro S et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2018; 101(5): 1212-1221)。「大したことないのではないかという方もいるかもしれないが、膵臓がんは、2年生きることがなかなか難しいタチの悪いがんなのだが、重粒子を使うことによって、こういった成績をあげることができている。ほかの治療に比べると優れていると考えている先生も多数いらっしゃる」と根本氏は説明した。

 また直腸がんは、術後に2-3割程度が再発するとされるが、再発した場合によい治療法がなかった。やはりX線治療が効きにくいとされるが、重粒子線治療ではベネフィットが認められていて、5年における局所制御率が88%、生存率が59%と報告されている(Yamada S et al. Int J Radiation Oncol Biol Phys. 2018; 96(1) : 93-101)。手術可能な場合は手術することが多いが、重粒子線治療は少なくとも手術と同等で、X線治療よりもやや良好だという。「術後に一定の割合で再発が起こることは避けられないが、そういった時に、非常に強力な治療ツールになるのではないかというふうに考えている」と根本氏は話した。

副作用の少ない短期治療が可能

 重粒子線治療の3つ目の特徴は、短期治療が可能なことである。X線治療も以前と比較して短期での治療が可能となっているが、現時点における一般的な範囲で比較すると、重粒子線治療の方がより短期で治療を終えることができる。頭頸部がんでは、重粒子線では12-16回、X線/陽子線では30-35回、肺・縦隔がんは重粒子線1-16 回、X線4-30回、消化管がんは重粒子線12-16回、X線30-35回、肝胆膵がんは重粒子線2-12回、X線4-38回、前立腺がんは重粒子線12 回、X線21-40回、骨軟部腫瘍は重粒子線12-16回、X線30-35回などである。

 短期治療の延長ともいえるのが、日帰りでがん治療が完了する1回照射で、これについては副作用が少ないことも良い点である。肺がんに対する放射線治療でのグレード3の肺炎の発症率は、X線治療では3.1-8.7%(Nagata, Y. et al. Int. J. Radiat. Oncol. 2015, 93, 989–996)、陽子線治療では1.0-3.6%(Ohnishi K et al. Int. J. Radiat. Oncol. 2020, 106(1) , 82–89)であるのに対して、重粒子線の1回照射では、後ろ向き解析の成績ではあるが0%と報告されている(Ono T et al. Cancers (Basel). 2020; 13(1): 112)。「X線も日進月歩でどんどん進歩しているので、この競争の中で、患者さんにどんどん利益が提供できるようになればと、われわれ放射線治療専門医は考えている」と根本氏は話した。

現在の保険適用の対象は前立腺がん、耳鼻科のがん、骨軟部腫瘍

 重粒子線治療の対象疾患として、保険適用となっているものは前立腺がん、耳鼻科のがんと骨軟部腫瘍である。高額療養制度で上限が設定されているため、医療費は所得に応じて数万円から数十万円となる。治療期間が短いため、むしろX線での治療よりも低額となる場合もあり、たとえば年収500万円の人が入院して前立腺がんの治療を受ける場合、入院期間が最短の場合にはX線治療2カ月で18.7万円に対して重粒子線治療1カ月で10.3万円、最長の場合はX線治療3カ月で26.4万円に対して重粒子線治療2カ月で18.4万円となる(山形大学医学部附属病院医事課算出値)。

 「決して、重粒子線治療がすべて高いという状況ではなくなってきているということを、是非、知っていただきたいと思う。少なくとも自己負担という観点からは、手が届くものも増えてきている」と根本氏は説明した。

 保険適用とはなっていないが、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、腎臓がん、直腸がん骨盤内再発、婦人科腫瘍、少数個転移(オリゴメタ)については先進医療として行うことができ、現時点での医療費は314万円だという。

 根本氏は、「今では先進医療をカバーする保険が多くあり、オプションとして加入している方も多いのではないかと思う。(特約ではない単体商品で)月500円、(先進医療特約であれば)50円など、いろいろな保険が出ていて、それほど大きな負担なく受けられる。先進医療特約というのも検討していただければと思うし、入っているのであれば、オプションとして少なくとも説明は受けるべきだと思う」とした。

 なお、1月6日の厚生労働省の先進医療会議では、大型の肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行膵がん、大腸がん術後局所再発、局所進行子宮頸部腺がんで切除不能のものに対する粒子線治療は、生存率の改善が明確に示されるなど、「十分な科学的根拠があるもの」との見解がまとめられた。今後、全額保険適用への移行について議論がなされ、認められた場合には、4月から適用となる見通しである。

世界最小、大学病院直結の施設で回転ガントリーの稼働も間近

 根本氏によれば、MRリニアック(東北大学)、中性子捕捉療法ができる施設(南東北BNCT研究センター)、重粒子線治療施設である東日本重粒子センターという、放射線治療の先端施設3つが揃っている地区は、世界中を探しても、この南東北地区と京阪神のみである。

 これまで、日本で重粒子治療ができる施設は、関東3カ所(群馬、神奈川、千葉)、関西2カ所(兵庫、大阪)、北九州(佐賀)の6カ所で、概ね人口密集地にあった。山形大学では重粒子線治療の施設名を、関東以北では北海道も含めて初めての施設であり広いエリアで使って欲しいという希望を込めて、「東日本重粒子センター」と名付けた。「東日本をカバーするというのが、1つのミッション」だという。

 炭素の原子核を光速の約70%にまで加速するためには、非常に大きな施設が必要で、日本で最初にできた施設(千葉)は、サッカー場ぐらいの大きさだったという。東日本重粒子線センターは、重粒子治療施設としては世界最小で、「ちょっとした体育館ぐらいのところまで、小さくすることができている」(根本氏)。センターは渡り廊下で大学病院とつながっており、大学病院のさまざまな専門職や先端機器など、大学病院の資源をフルにつかった治療が可能である。

 また、これまで重粒子線治療では、真横と真上からのビームを、正常組織を避けて照射するために、患者を傾ける必要があったが、360度任意の方向から照射できる「回転ガントリー」を導入したことで、患者が自ら動くことなく腫瘍へより正確な治療が可能となった。回転ガントリーの導入は世界では3カ所目で、現在、稼働に向けて準備が進められている。

 根本氏は、東日本重粒子センターのもうひとつのミッションは、「次世代型(山形モデル)の標準機を開発して、世界に普及させること」と話す。重粒子線治療施設は、実は世界でも13カ所のみで、そのうちの7施設が日本にある(日本の7施設とハイデルベルグ、マールブルグ、ミラノ、ウイーン、蘭州、上海)。アメリカには1カ所もないし、南半球にも1カ所もない。重粒子線治療の機器に関して先進国である日本だが、これまで輸出に成功したことがなかった。しかし回転ガントリーを備えた装置は、韓国への輸出に成功し、現在、2カ所(延世大、ソウル大)で工事が進んでいるという。

重粒子線治療を受けるには?

 横からビームが出てくる(水平ビーム)前立腺用の機械は2021年2月から稼働しており、すでに140名ほどが治療を終了している。山形県からが大半を占めるが、宮城あるいは福島からも予約が入っている。

 「ぜひ、広域で、東日本の装置として有効に使って欲しい」「重粒子というと、高いからとか、遠いからダメだとか、いろいろイメージはあったのではないかと思うが、高いということに関しても、保険が少し通ってきたということと、先進医療特約等に加入されている方も増えているということで、だいぶん改善されたのではないか。遠いのは、距離が変わるわけではないのだが、高速交通網も整備されてきているし、前に比べると行ったり来たりはしやすいのではないか」と根本氏は話した。

 重粒子線治療を受けたい場合、直接、施設を訪ねるのではなく、紹介状を持って山形大学を受診することを勧めている。その上で、重粒子線治療について説明し、「いいと思ったら是非、選んで欲しい」という。「推奨されるがん治療にはいろいろな意見があるのが普通である。手術かも知れないし薬かも知れないし、その組み合わせかも知れない。やはり客観的にいろいろな方の説明を聞いて納得して治療を受けて欲しいというのが、われわれの基本的なスタンスである」と、根本氏はその理由を説明した。

放射線治療後の再発に対する再照射や自由診療は推奨しない

 放射線治療を受けて再発した場合に、重粒子治療ができるかどうかとの質問に対して根本氏は、「X線での放射線治療とほぼ同じで、基本的には1回勝負の治療だと考えられる。広い範囲に治療して、そのごく一部に再発があるような場合であれば2度目の照射は可能かも知れないが、やはり基本的には1回の治療で、再発に対する治療として積極的にファーストチョイスとして選択するものではない」とした。

 また自由診療については、「再発した時に抗がん剤が使いにくくなるなど、いろいろな制約がつくのが自由診療で、お金が無尽蔵にあるといった時以外は、あまり積極的に使うことは勧めない」とした。


コロナ時代の最先端がん放射線治療(1)
定位放射線治療により放射線は少しずつ長期間から短期・低侵襲へ


コロナ時代の最先端がん放射線治療(2)
中性子捕捉療法(BNCT)1回の治療で再発頭頸部がんの多くが完全寛解

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