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レポート

2022/03/01

コロナ時代の最先端がん放射線治療(2)

中性子捕捉療法(BNCT)1回の治療で再発頭頸部がんの多くが完全寛解

日本放射線腫瘍学会学術大会市民公開講座より

中西美荷=医学ライター

 がん治療の三本柱のひとつである放射線治療は、臓器や機能を保持したまま完治を狙うことのできる優れた治療法である。従来の放射線治療は、正常細胞への影響をできるだけ抑えるために「少しずつ長期間」の照射が基本で、1カ月〜2カ月間にわたって毎日通院する必要があった。しかし近年、放射線治療は急速な進歩をみせ、通院回数が問題となるコロナ時代にも適した「短期・低侵襲の治療」を可能とするさまざまな照射法や機器が開発されている。

 その最前線について、日本放射線腫瘍学会第34回学術大会市民公開講座「コロナ時代の最先端がん放射線治療―短期・低侵襲放射線治療の最前線―」から3回に分けて紹介する。第2回は「中性子捕捉療法」について。南東北BNCT研究センターセンター長の高井良尋氏が講演した。


BNCTは日本が世界をリードしてきた放射線治療

 中性子捕捉療法は、英語ではBoron Neutron Capture Therapy、略してBNCTという。最先端のがん治療の1つだが、実は歴史は古く、その概念は、中性子発見の4年後の1936年に、すでに提唱されている。

 世界で初めての臨床研究は、1951年にアメリカのブルックヘブン国立研究所で開始された。10年間行われたが、当時、使用されていたホウ素化合物や中性子ビームが品質不良であったため、期待した結果は得られず、アメリカではこの臨床研究を30年間休止した。

 その30年間に、日本の研究者がいろいろながんに対してこの治療を行い、有効あるいは非常に効いた(著効)ということを報告している。しかし、この臨床研究は、すべて原子炉を使って行われたものだった。原子炉を使っている限り、施設を病院に作るわけにはいかないため、実臨床にはつながらない。そこで2000年ぐらいから、これを加速器でできないかということで、世界中で装置開発の機運が高まった。

 そして2012年、京都大学と住友重機械工業の共同で、日本が初めて、BNCT用加速器の開発に成功した。南東北BNCT研究センターでは2016年にこの装置を入手し、悪性脳腫瘍と頭頸部がん(再発耳下腺がん)に対して第2相臨床試験を行った。その結果に基づく薬事申請は2020年3月に承認され、6月には頭頸部がんに対する保険診療が開始された。「BNCTというのは日本がリードしてきた放射線治療である」(高井氏)。

高線量の照射が可能で1回で終了するがん細胞選択的治療

 通常の放射線治療は、主に照射した放射線の直接的な作用で細胞に影響を与えるが、BNCTは異なる原理でがん細胞を死滅させる。がん細胞にホウ素という元素を取り込ませ、そこに中性子を照射すると、ホウ素は中性子を捕獲して核反応(核変換反応)を起こし、2つの分子(アルファ粒子とリチウム原子核)に分裂する。これらの粒子のエネルギーによってがん細胞のDNAなどが傷つき、細胞が死に至る。

 がん細胞の大きさは10〜20μmだが、2つの粒子の動く範囲は9μmあるいは5μmと非常に短いため、放出されるエネルギーはすべてひとつの細胞内に与えられる。「BNCTというのは、がん細胞1個の中で起こる重粒子線治療であるということが言える」と高井氏は説明した。

 BNCTでは、2時間かけて点滴静注したホウ素化合物が血流に乗ってがん組織に到達し、がん細胞に選択的に取り込まれる。その状態になったところで中性子を照射すると、核反応が起きて、がん細胞のみが選択的に破壊される、「がん細胞選択的治療」である。がん組織に大線量を与えても正常細胞はそれほど影響を受けないので、たった1回で治療できるということが最大の特徴だという。

 ただし、物理要件によって、適用できるがんは限られている。BNCTで使う中性子はエネルギーが低く、体の奥まで届かないため、体表面から6~7cmのところにある「浅在腫瘍」が対象となる。

南東北BNCT研究センターは病院併設として世界初のBNCT施設

 南東北BNCT研究センターは、病院併設としては世界初の加速器BNCT施設である。事業費の一部を東日本災害復興関連事業からの補助金(2012年6月福島県「国際的先端医療機器開発事業費補助金」採択、経産省平成23年度[2011]第3次補正予算・東日本災害復興関連事業)で賄い、2014年9月に竣工、2015年11月に開設した。地上5階地下2階の建物で、1階、2階と地下1階をBNCTの施設として使い、3階から上は患者や付き添いの人のための宿泊施設になっている。

 2階には診察室やシミュレーション室、CT室があり、サイクロトロン室(サイクロトロンやビーム輸送システムを配置)やホウ素濃度の測定室など、BNCTのための主要な施設は地下1階に設置されている。

セットアップに時間はかかるが連続照射40〜60分の1回照射で治療は終了

 サイクロトロンで加速された陽子線が、最後のところにあるベリリウムという軽金属のターゲットにぶつかると中性子に変換される。これを照射口から患者に照射すると、あらかじめホウ素を取り込んでいたがん細胞のみが選択的に破壊される。中性子はエネルギーが低く、照射口を出た後は、普通のX線のように直進はせず拡散する性質を持っているため、がんのあるところをなるべく照射口に近づける必要がある。

 頭頸部がんの患者は、がんのあるところ(顔の前方、顔の側方、頸部の側方など)を照射口に近づける体位で、座って治療を受けることになるわけだが、そのためには、事前にさまざまな準備が必要である。まず、腫瘍の位置を確かめ、線量分布を想定しながらビーム軸を設定し、照射口の適切な位置に頭頸部がんの患者を固定するためのマスク(患者が被る内シェルと、それを照射口に固定するための外シェル)を作成する。

 また、照射部位と照射線量を正確に評価するためには、座位で作成した体位でCTを撮る必要がある。つまり、作成された座位の体位を、側臥〜半腹臥位で再現しなくてはならない。こうした一連の作業(セットアップ)は大変な作業であり、通常の放射線治療では準備に要する時間は15分から20分程度であるのに対して、BNCTでは2〜3時間に及ぶ。

 ホウ素薬剤は2時間かけて点滴静注するが、血中濃度が下がらないように、照射中も半速度で点滴を続ける。照射回数は基本的に1回のみ、照射時間は連続照射で40〜60分程度である。

保険診療ができるのは現在のところ「頭頸部がん」のみ

 南東北BNCT研究センターでは、2016年1月に再発悪性神経膠腫(脳腫瘍:登録数24例)および頭頸部がん(切除不能な局所再発頭頸部扁平上皮がん、切除不能な頭頸部非扁平上皮がん:登録数21例)を対象とするBNCTの第2相臨床試験を開始し、いずれも2018年中に終了している。「頭頸部がん」というのは、口腔がん、喉頭がん、咽頭がんなどの口の中やのどに発生したがん、「扁平上皮がん」というのは、がんの種類(組織型)のひとつで、頭頸部がんでは約90%が扁平上皮がんである。

 頭頸部がんに関しては、この臨床試験の結果をもって、2020年3月にホウ素製剤、BNCT治療システム、BNCT線量計算プログラムに対する薬事承認が得られ、6月に保険診療が始まった。脳腫瘍については、さらにデータを提出するようにとのことで承認には至っておらず、現在、追加の資料を集めているところだという。これについても、「おそらくいずれ薬事承認されて収載されるが、1年半から2年ぐらいはかかるかと思う」と高井氏は話した。

 BNCTを保険診療で受けた場合の治療費は、技術料が238万5000円、薬剤費が44万4000円×3-5パック(体重18kg毎に1パック)で、体重60kgの場合、合計416万円となる。この1~3割が自己負担になるが、高額療養費制度で払い戻しを受けると、年収500万円の場合の実質の自己負担額は約12万円だという。

 現在、この治療を受けられる施設は、南東北BNCT研究センターと、大阪医科大学にある関西BNCT共同医療センター(大阪府高槻市)である。「非常に手間のかかる治療であるため、おそらく現状では2施設合わせて年間200-300例ぐらいが治療可能な症例数だと考えている」と高井氏は話す。そのため、現段階では、ある程度根治が期待できる症例に限る必要があるという。

BNCTでは治癒に結びつく完全奏効率が高い

 高井氏らの施設では、2021年9月16日までに保険診療として98回の治療が行われた。このうち3月15日までに治療を受け、3カ月以上観察された頭頸部扁平上皮がん55例の成績が紹介された。

 患者はいずれも以前に放射線治療を受けており、放射線治療ないしは化学放射線治療後に再発した時点で他に治療法がないか、以前の治療での照射野内に新たに喉頭癌がんや中・下咽頭がんなどの2次癌が生じて、喉頭全摘術などの手術を希望しなかった症例である。年齢中央値は70歳(範囲48-85)、男性41例、女性14例で、治療部位は下咽頭10例(18%)、口腔8例(15%)、傍咽頭間隙7例(13%)、外耳道5例(9%)、頸部リンパ節5例(9%)、その他、中咽頭、喉頭、上顎洞などであった。

 BNCTの効果は、完全奏効26例(47%)、部分奏効(30%以上の縮小)13例(24%)で、71%という高い奏効率が得られた。第2相試験でも21例中8例が扁平上皮がんだったが、完全奏効4例(50%)、奏効率は75%であり、ほぼ同等の治療成績だった。また局所再発の頭頸部扁平上皮がんに対する従来の治療法の有効性は、再照射±化学療法や、化学療法の臨床試験の結果によれば、完全奏効率が20-40%、奏効率が50-80%であり、奏効率に関しては、ほぼ同等だと思われるが、BNCTでは完全奏効率がやや高いと考えられる。「将来、治癒に結びつくのは、ほとんどが完全奏効した症例なので、完全奏効率が高いというのが非常に重要なポイントである。BNCTではそれが高いということである」と、高井氏は説明した。

BNCTは有害事象が少ない安全な治療

 BNCTでは、ホウ素はがん細胞のほか、粘膜などにもある程度、取り込まれる。したがって有害事象(副作用)が生じるが、その多くはグレード1、2である。有害事象は軽重によってグレード1からグレード5に分類され、1はもっとも軽く、5は死亡である。保険診療を行った55例のうち6カ月以上観察できた33例では、グレード3の口腔粘膜炎が7例(21%)に認められた。これ以外のグレード3の有害事象は、悪心、味覚異常、咽頭粘膜炎が各1例だった。

 高井氏によれば、従来の化学放射線療法では、口腔内に線量が入ると、おおよそ30-50%がグレード3の粘膜炎を起こすとされ、もっと高いという報告もある。今回の対象は、全例がすでに放射線治療を行っていたことを考えると、「加速器BNCTは有効性が高く、かつ安全な治療であると言える」(高井氏)。

再発時に他の治療選択がない患者で完全奏効

 左上顎洞がんで化学放射線療法を受けて1年後に局所再発した70代男性は、腫瘍の頬への突出、浸潤を認めたが、BNCTによって1カ月後にはこれが完全に消失(完全奏効)した。現在、治療後1年だが、再発は認めていない。

 左上顎歯肉がんで化学放射線療法を受け、4カ月後に局所再発した80代の女性は、皮膚に浸潤が認められたが、BNCT治療の1カ月後には腫瘍は完全に消失し、5カ月後には皮膚も再生されてきれいになり、鼻腔の粘膜も9カ月後には非常にきれいな状態となった。現在1年が経過しているが、再発の兆候は全くない。

 左下顎歯肉がんで化学放射線療法を受け、6年後に再発した70代女性は、腫瘍が大きく手術不能だったが、やはりBNCTにより腫瘍は完全に消失し、10カ月経過して再発は認められていない。

 「以上の3例は、再発時すでに治療法がなく、緩和ケアしか残されていない症例だった。このような症例で完全奏効が得られ、将来的には治癒も期待できるような効果が示されている。まさに驚くべき効果ではないかと思っている」と高井氏は話した。

以前の放射線治療の照射野内の2次がんに対しても有効

 BNCTは、以前、放射線治療が根治治療として最大の用量で行われた同じ部位に対しても、再度、最大用量での根治治療を行うことが可能である。それなりに粘膜炎などは起きるが、耐えられる範囲の障害だという。

 たとえば25年前に甲状腺悪性リンパ腫で放射線療法、6年以上前に顎歯肉がんに対する化学放射線療法を受けていた80代男性は、その照射野に2次がん(下咽頭がん)が生じ、喉頭全摘術を行う必要があったが希望せず、高井氏らの施設に紹介されてBNCTを受けた。3カ月後の内視鏡所見とPETでは、腫瘍は完全に消失していて、1年経過して再発はなかったが、他病死した。

 この症例と同様に、保険診療を受けた55例のうち9例が、以前の放射線治療の照射野内にできた2次がんあるいは誘発がんで、いずれも声を失う(機能を失う)ことになる手術を拒否した患者だった。高井氏によれば、BNCTにより全例が完全奏効を得て、つい最近、1例が再発したものの、ほか8例はその後も完全奏効を維持している。「BNCTは、以前放射線治療を行った部位に対しても十分に治療が可能で、それによって喉頭が温存できる可能性がある治療法」だと言える。

ホウ素を取り込む浅在腫瘍すべてに対する適応拡大を模索

 BNCTは、現時点では頭頸部がんのみが保険適用となっている。承認されているホウ素薬剤は頭頸部がんだけが対象であり、ほかのがんに使うと適応外使用となり、自由診療のために入手することはできないという。BNCTは、特定臨床研究(未承認・適用外の医薬品等を用いる臨床研究)や医師主導治験(医薬品の承認申請を目的として医師が実施する臨床試験)、あるいは先進医療Bとして認められれば、その中で行うことができるが、「いずれもハードルは高い」(高井氏)。

 ただ理論上、浅いところにあって、ホウ素薬剤が取り込まれるのであれば、BNCTを行うことは可能である。ホウ素薬剤が取り込まれるかどうかは、PETで判定できることから、現在、学会を中心に、ホウ素を取り込んだもので体表から6〜7cmぐらいまでのところにある腫瘍について、すべて薬事承認が取れないかどうかを模索しているという。「かなり先のことになると思うが、これが認められれば、全ての領域で治療が可能になる」と高井氏は話した。


コロナ時代の最先端がん放射線治療(1)
定位放射線治療により放射線は少しずつ長期間から短期・低侵襲へ


コロナ時代の最先端がん放射線治療(3)
効果が高く副作用の少ない短期治療が可能な重粒子線治療

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