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レポート

2022/02/22

コロナ時代の最先端がん放射線治療(1)

定位放射線治療により放射線は少しずつ長期間から短期・低侵襲へ

日本放射線腫瘍学会学術大会市民公開講座より

中西美荷=医学ライター

 がん治療の三本柱の一つである放射線治療は、臓器や機能を保持したまま完治を狙うことのできる治療法である。従来の放射線治療は、正常細胞への影響をできるだけ抑えるために「少しずつ長期間」の照射が基本で、1〜2カ月間にわたって毎日通院する必要があった。しかし近年、放射線治療は急速な進歩をみせ、通院回数が問題となる状況にも適した「短期・低侵襲の治療」を可能とするさまざまな照射法や機器が開発されている。

 その最前線を、日本放射線腫瘍学会第34回学術大会市民公開講座「コロナ時代の最先端がん放射線治療―短期・低侵襲放射線治療の最前線―」から3回に分けて紹介する。第1回は「定位放射線治療」について。



 細胞は、X線、電子線、ガンマ線などの放射線が照射されると、DNAが傷つけられ、やがて死に至る。正常細胞にはDNAの傷を修復して回復する機能が備わっているが、がん細胞は正常細胞と比べて、その能力が劣るため、細胞が回復しきらないうちに繰り返し放射線を照射すると、やがて死に至る。放射線治療は、正常細胞が死なずに回復できるような量の放射線を繰り返し照射することにより、がん細胞だけを殺し、腫瘍を縮小させる治療法である。

 できるだけ多くの放射線をがん細胞に集中させる一方で、正常細胞にはできるだけ放射線を当てないことで、治療効果が高まり、副作用は軽減される。放射線治療は、放射線の量や照射範囲、照射回数などを綿密に計画した上で行われているが、放射線生物学の発達や、放射線治療機器の改良、コンピューターの発達などによって、急速な進歩を遂げている。

 東北大学大学院放射線腫瘍学講座教授の神宮啓一氏は、いわゆる「ピンポイント照射」である「定位放射線療法」について解説した。

高線量を腫瘍だけに集中させるピンポイント照射によって短期間での治療が可能に

 放射線治療では、リニアック(直線加速器)という装置を用いて、高エネルギーのX線や電子線を体外から照射する。この装置のガントリーと呼ばれる部分の出口には、マルチリーフコリメーターと呼ばれる放射線を遮断する分厚い金属板が並んでいて、その隙間からのみ放射線が出てくるようになっている。この隙間を調節することにより、がんの形に合わせた放射線治療が行われる。

 ただ、従来のリニアックでは、がんの形に合わせても、近くにある正常組織にも放射線が強く当たってしまうことが問題視されていた。そこで考えられたのが、「定位放射線治療」で、この方法自体は20年近く前から行われているという。

 定位放射線治療では、さまざまな方向から照射することにより、放射線を腫瘍に集中させる。少しずつ角度を変えてさまざまな方向から照射することにより、2方向、3方向からの照射よりも、がんの周囲への照射量を少なくするというものだ。そしてその分、がんに対する放射線量を高くすることができるため、治療を短期間で終えることが可能である。

 たとえば脳転移や脳腫瘍に対する治療で用いられるガンマーナイフやサイバーナイフも定位放射線治療の一つだという。日本で最初に、体幹部に対する定位放射線治療(体幹部定位放射線治療:SBRT)が適用された臓器は肺である。従来の肺に対する放射線治療は、前と後から放射線を集める方法が用いられていたが、正常な部分にも放射線が強く当たってしまうことによって、副作用である放射線肺炎を起こすことがあった。これをできるだけ抑制するために、少量の放射線を30日、40日かけて照射することが一般的だった。放射線を病変(がん)に集中させることができる定位放射線治療では、治療期間は1週間ほどにまで短縮できるようになっている。

 神宮氏は、1回の定位放射線治療の後、4年間がんが制御されているという72歳の早期肺がんの男性を例に挙げ、(がんの状態などによっては)「たった1回で治療することもできるという治療である」と話した。

早期肺がんや「オリゴメタ」で有用性が認められている

 早期肺がんを対象に、30日かけて治療する従来の放射線治療と、1週間程度で一気に治療する定位放射線治療を比較した海外の無作為化比較試験では、放射線を当てたところの制御率(局所制御率)、生命予後(生存率)いずれにおいても、定位放射線治療の方が良好であり、早期肺がんに対して、定位放射線治療が大変有効な治療であることが判明した(David Ball et al. Lancet Oncol. 2019; 20(4): 494-503)。

 また無作為化試験ではないが、定位放射線治療の治療成績、生命予後は、いずれも手術と同等であることも示されている(Shervin M Shiravani et al., Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012; 84(5): 1060-1070)。こうしたことから、世界的にも肺がんに対する定位放射線治療の有用性が認められた。

 定位放射線治療は、肺がんに限らず、転移病巣が限局的かつ数が限られている状態(オリゴメタ)の患者に対する治療法としても、世界的に大変注目されているという。遠隔転移があるような、がんが大変進んだ状態(ステージIV)であっても、オリゴメタであれば、従来の抗がん薬と緩和的な放射線治療を行うよりも、積極的に定位放射線治療を行った方が生命予後が延長することがわかってきたためだ(David A Palma et al. J Clin Oncol. 2020; 38(25): 2830-2838)。

被曝体積を減らして有害事象を防ぎQOLを維持する

 このように積極的な治療法ががんの生命予後を延ばすということがわかってきたが、やはり大線量を使うことは、「医師側としても怖いところはある」という。たとえば、ペースメーカーが入っており、手術はできず定位放射線治療を行った早期肺がん患者が、2カ月後に咳が止まらないといって来院し、調べたところ放射線肺炎を起こしていることがわかった。

 この患者は幸いステロイド投与により軽快したが、「放射線肺炎を起こさないためは、なるべく照射範囲を狭くして、被爆体積を軽減することが重要である」と神宮氏は話す。

 腫瘍は、呼吸やお腹の動き、心臓の動きなどによって動くものであるため、正常な部分にもある程度のX線が照射されてしまう。そのため放射線治療では、腫瘍が動く範囲や、毎回の照射における位置合わせの誤差も考慮した綿密な治療計画のもとに行われている。

 「こういう肺炎や有害事象を起こしたくない、患者さんのQOLを落としたくない」との思いから、機械的な工夫によって腫瘍の移動を抑えたり、セットアップエラーを抑えるなど、被爆体積を減らすために、日々、さまざまな工夫がなされている。それによって後遺症は軽減され、その分、ますます腫瘍に対する放射線を強くする(線量増加)ことが可能になってきている。

腫瘍の位置を追跡しながら照射できる動体追跡システム

 CTでも診断できないような早期の肝臓がんは、MRIや造影CTを撮れば微かに見えてくるが、これまで、照射の度に毎回、MRIあるいはCT画像を撮って治療するというわけにはいかなかった。

 しかし最近では、腫瘍のすぐ近くに、超音波で確認しながら体外から針を刺して小さな金属のマーカーを打ち込み、腫瘍と同期して動くこのマーカーが、ある範囲に入った時だけ放射線を打つという設定ができる、「動体追跡システム」も開発されている。

 金属マーカーが2mm四方あるいは5mm四方といった小さな範囲に入った時だけ治療用X線が出て、設定した範囲から出ると自動的にオフになるような装置もある。これによって、呼吸性の移動など、さまざまな動きを制御することができるようになっているという。

MRIでリアルタイムの腫瘍の動きを確認できる「MRリニアック」

 さらに、「できるだけ患者さんに侵襲を与えることなくがんの治療をしたい」という放射線治療医の願いから、CTやX線よりも高解像度で画像が見えるようなMRIと、放射線照射装置を一体化した「MRリニアック」と呼ばれる装置も開発されている。

 この装置では、これまで位置合わせで使っていたCTなどとは段違いの画質で、病変部分を描出することができるという。放射線治療中も、ほぼリアルタイム(0.2秒遅れ)でMRI画像がどんどん出てきて、腫瘍の動きそのものを追いかけることができる。東北大学では、2022年初旬に、この装置の稼働が開始される予定である。

 神宮氏は、「このように、高性能な治療法が開発されたことにより、これまでのように少しずつ、少しずつ照射する必要がなくなり、さまざまながんで定位放射線治療が行われるようになってくると期待している。これまで2カ月かかって治療をしていたものが、たった1週間、2週間で治療することができるようになる。コロナ禍で、病院に通うのが問題となるような時代だが、それも対応できる治療になる。前立腺がんや膵臓がん、ほかにもさまざまながんや少数転移に対して、この治療装置は大変有効であると期待されている」と話した。

照射部位の再発に対する再度のX線治療は避ける

 「放射線治療後の再発はどのようなものなら治療可能か」との質問に対して神宮氏は、「以前に放射線治療を当てたところ以外に出てきた転移などの場合には、問題なくできることが多い。ただし、逆に言えば放射線が以前に当たったところに出てきた場合には、できればX線治療は避けた方がいい」との見解を示した。1回目の治療において、限界ぎりぎりの放射線を使っているため、1年、2年が経過していたとしても、そのダメージは残っており、よほど範囲を絞らない限り、もう一度X線治療を行うと重篤な副作用が出る可能性が高くなるためだと説明した。

 保険診療の範囲および自由診療についての質問に対しては、「X線治療は基本的には保険診療がすべて(の臓器に対して)通っているが、定位放射線治療に関しては、現時点では臓器の制限がある」とした。頭頸部腫瘍(頭蓋内腫瘍を含む)、原発病巣が直径5cm以下で転移病巣のない原発性肺がん、原発性肝がん、原発性腎がん、3個以内で他病巣のない転移性肺がんまたは転移性肝がん、転移病巣のない限局性の前立腺がんまたは膵がん、直径5cm以下の転移性脊椎腫瘍、5個以内のオリゴ転移(オリゴメタ)が保険診療となっている。

 自由診療に関しては「意見が分かれるところがあるかも知れないが、私は自由診療で行うことはあまりお勧めしない。副作用がその治療で出た場合に、その副作用の治療も自費で行っていかねばならないというのが自由診療かと私は考えているので、自由診療で激しい治療を行うのは、あまりお勧めできないと思う」と話した。


コロナ時代の最先端がん放射線治療(2)
中性子捕捉療法(BNCT)1回の治療で再発頭頸部がんの多くが完全寛解


コロナ時代の最先端がん放射線治療(3)
効果が高く副作用の少ない短期治療が可能な重粒子線治療

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