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レポート

2022/02/15

自分らしく生きるために-知っておきたい・がん介護 Vol.10

納得感の高い療養生活と人生を送るために重要な「人生会議」とは

福島安紀=医療ライター

 患者本人の希望や意思を尊重した医療やケアを提供するために、がんの医療現場で、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)の重要性が高まっている。厚生労働省は、ACPの概念を広く一般の人に普及するために日本語の愛称を「人生会議」とした。がん患者が納得感の高い療養生活を送るためには、人生会議をどう進めたらよいのだろうか。厚生労働省の「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」のメンバーで、福井県福井市と長野県軽井沢町で在宅療養支援診療所などを運営するオレンジホームケアクリニック理事長の紅谷浩之さんに聞いた。


蘇生処置拒否などの結論ではなく、話し合いのプロセスが重要

 「人生会議」は、将来、意思決定能力が低下したときに備え、どのような医療やケア、療養生活を望んでいるか前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合って共有するプロセスを意味する。「単に、病気や医療のことに焦点を当てるのではなく、その人が好きなもの、大事にしたいものを明らかにして行く、とても大事なプロセスです。会議という形でかしこまらなくても、普段の会話の中で、自分が好きなものや大事にしていること、受けたい医療・ケアについて、家族や友人など周囲の人と共有しておくことが大切です」と紅谷さんは説明する。

紅谷浩之さん

 意思決定能力が低下したときを想定すると、「人工呼吸器や輸血・輸液(点滴)が必要になったときに使うかどうか」「最期はどこで過ごしたいか」などと決めておく生前意思(リビング・ウィル)や、「延命措置を望まない」と意思表示をしておく蘇生処置拒否を連想する人もいるかもしれない。しかし、「それはアドバンス・ディレクティブ(AD:Advance Directive、事前指示書)であって、人生会議ではありません。結論ではなく、話し合いのプロセスが重要です」と紅谷さんは指摘する。

 結論よりプロセスが重要なのは、たとえ「人工呼吸器や点滴は一切使わない」などと決めていても、医療・ケアの現場では、想定外のことが起こるからだ。意識はもうろうとしているけれども3日くらい点滴すれば呼吸が楽になりそうだというときに、『輸血や輸液は一切拒否します』などと結論だけ書いたリビング・ウィルがあると、どういう選択をしたらよいのか家族は迷ってしまう。だが、「知人が入院したときの様子を見て長期間たくさんの管につながれているのは嫌だと思った」というプロセスが分かっていれば、3日くらいの点滴で体が楽になるなら本人も受けたいのではないか、と推測できる。米国でACPが提唱され重視されるようになったのは、結論だけが書かれたADでは、想定外のことが起こったときにかえって混乱を招き、家族や代理人が意思決定を行えなかったり同意を拒否したりする事例が相次いだことが背景にある。

想定外のことが起こってもプロセスを共有しておくことで合意形成が可能

 「人生会議では、結論を決めなくてもいいので、長い時間をかけて、大切なものや望んでいることは何かなど、対話の中で繰り返し確認するプロセスを重ねておくことで大切です。そうすることで、想定外のことが起こったとしても、『この人だったら、こう考えるだろう』と家族や医療・ケアの提供者が推測しながら、合意形成をして行けます」と紅谷さんは話す。

 厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、「人生の最終段階における医療・ケアの在り方」として、人生会議の必要性を下記のように明記している。

 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。
 また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。
 さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者を含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要である。
 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。

どうしたいのかの希望や意思はその都度変わってもOK

 「本人の意思は変化しうるもの」で、その都度変わってもいいというのが、人生会議のキーワードでもある。人生会議が何度も必要なのは、意思疎通ができる状態でも気持ちが変わったり、本人が本心を隠したり見失ったりすることもあるからだ。例えば、「病院にいたいから転院先を探してください」と患者さんがはっきりと言った場合、病院の地域連携室などのソーシャルワーカーが転院先を紹介するのがこれまでは一般的だった。しかし、人生会議を重ね、「早く家に帰って孫やペットと過ごしたい」と繰り返し言っていたことが医療・ケアチームにも共有されていれば、「本当は家に帰りたいのに、家族に負担をかけたくないだけではないか」と推し量り、本心を再確認できる。そうなれば、転院先を探すより、在宅緩和ケアに力を入れる在宅療養支援診療所を紹介し、家族の負担を減らすために介護保険を利用する方法も説明する方向へ話が行く可能性が高い。迷っていて決められないということも重要なプロセスだ。

 「もしも、人生の最終段階は家で過ごしたいと考えているのなら、抗がん薬による治療を受けている段階でも在宅療養支援診療所へ相談に行ったり、訪問看護を利用したりしておくと、スムーズに在宅医療へ移行できます。どんな病気、病状でも、ご本人が望んでいれば在宅療養ができますし、一人暮らしや老老介護でも最期まで住み慣れた自宅で過ごせます。病院の医師や看護師から、『こんな状態では家に帰るのは無理ではないか』と言われることもまだあるかもしれませんが、そんなはずはないと考え、病院の地域連携室や最寄りの地域包括センターなどに相談してみるようにしましょう」と紅谷さんは強調する。

自分の人生にとって大切なことを話し合うのが人生会議の第一歩

 家族の会話の中での人生会議は、「抗がん薬治療をいつまで続けるか」「人生の最終段階の療養場所はどこにするか」など医療に関わる内容である必要はない。病気になっただけでショックを受けている患者は多く、本人が望んでもいないのに、いきなりそんな話を始めれば、傷ついたり怒り出してわだかまりが生じたりする場合もある。「がんの進行度などには関係なく、病気になったのをきっかけに、まずは自分の人生にとって大切なこと、これがないと生きていけないと思うくらい好きなことは何か、これから実現したいことはあるかなど、ポジティブ内容を家族や周囲の人と話し合うことから始めて欲しい」と紅谷さんは提案する。

 何しろ、現代のがん医療は、手術にするか放射線治療にするか、抗がん薬はどちらを選ぶかなど選択の連続だ。病状に一喜一憂して選択を繰り返しているうちに、自分の大事なことを考える時間さえ取れなかったり望むような療養生活が送れなかったりということになりかねない。自分が大切にしているものは何かなど、がんの治療をする医療チームにも伝えておくことで、例えば、とにかくやり遂げたい仕事があるという人なら通院でできる治療法を選ぶなど、治療の選択の仕方が変わる場合もある。

 また、一緒に住んでいる家族であっても、人生で最も大切なものが何か意外と知らないこともあり得る。無口で家族が話していても輪に入らない男性が、「妻と娘たちがおしゃべりしているのを聞くのが一番の楽しみ」と口にし、家族が「お父さんにうるさがられていると思ってた」と驚いたケースもあったという。

患者本人の意思決定と利益を複数の関係者で支援

 他の臓器に転移がある状態でがんが見つかり、「完治は難しい」と主治医に告げられた80代の女性Aさんは、「やり直したことはないし明日死んでも構わない」とし、抗がん剤治療や延命治療は一切受けないと決め在宅療養をスタートした。ところが、その翌週に、「できる治療はして、半年間だけ生きたい」と言い出した。結論だけ見ると真逆だが、家族や医療・ケアチームとじっくり話をしたところ、どちらも、一番かわいがっている孫娘のことを考えてのことだと分かった。「明日死んでも構わない」と考えたのは、Aさんのがんの完治が難しいと聞いて泣いてばかりいる孫娘が長期間涙を流さないようにするため。「半年間生きたい」のもその孫の成人式が半年後にあることを思い出したからだったのだ。孫娘のことを何より大事に思っていることが分かったので、その孫にAさんのケアに関わってもらい一緒にいられる時間を増やすようにしたという。

 がんの療養中には本人の気持ちにぶれや迷いが生じることも少なくない。肺がんのステージ4で在宅療養をしていた40代の男性Bさんは、大学生の娘のソフトボールの試合には、どんなに遠い場所でも毎回応援に駆けつける子煩悩な父親だった。しかし、病状が進んだある日、「来週の試合に行くのは止めておくよ」と言い出した。それまでの対話や人生会議の中で、Bさんが娘さんの試合の応援を何より楽しみにしていることは誰もが分かっていたので、その場にいた妻や娘も「何を言っているのお父さん、行けるよ」と反論。Bさんと共に家族で他県への遠征試合の応援へ向かった。Bさんは車椅子に座ったまま笑顔で試合を観戦し、ピッチャーを務める娘へ声援を送ったという。

 Bさんは試合観戦から自宅へ戻った翌日、静かに息を引き取った。「無理して遠征試合に連れて行かない方が良かったのではないか」と怒り出す親戚がいたが、小中学生だった娘たちが、「家族みんなで決めたことだし、お父さん、本当に嬉しそうだったよ。そんなこと言わないで」と異論を唱えたそうだ。

人生会議の実施が、家族の不安感を軽減し本人の満足感を高める可能性も

 「在宅医療の現場では、普段まったく関わっていなかった娘や息子、親戚が突然現れて、医療・ケアの方針に異論を呈する〝遠くの親戚問題″が起こることがあります。実際に、ご本人の希望通り自宅で看取れそうだというときに、突然、親戚が現れて救急車を呼んで病院へ入院させてしまったこともありました。以前は、そういうことが起こっても私たち医療・ケアチームは蚊帳の外でした。でも、『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』には、『十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う』と記されています。〝遠くの親戚問題″が起こったとしても、国のガイドラインに、関わった医療・ケアチームみんなで決めると書いてあると説明すれば、本人の意思を尊重しやすくなった面があります。いずれにせよ、人生会議を何度も重ねて、患者さん自身が大切にしていることや希望を共有して、治療や療養を続ければ、本人にとっても家族にとっても後悔は少ないはずです」と紅谷さん。

 親子やきょうだいで意見が食い違ってもめたりしても、最終的には、「本人がいたらどう言うか」、医療・ケアチームと一緒に話し合いを重ねることで本人の意思を推定して決めて行ける。米国では、高齢患者の終末期ケアでACPを実践した方が患者と家族の満足度が高く、亡くなったとしても、遺族となった家族のうつ病や不安が少なかったという報告もある。まずは、自分の最も大切にしているものは何か、家族や周囲の人に話し共有することから始めてみたい。

BMJ. 2010 Mar 23;340:c1345.


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