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レポート

2022/01/18

胃がんの1次治療で免疫療法が新しいスタンダードに

半世紀ぶりに大きく変わる胃がんの1次治療

大阪大学大学院医学系研究科先進癌薬物療法開発学寄附講座教授 佐藤太郎氏に聞く

 2021年11月、治癒切除不能な進行・再発胃がんに、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブと化学療法の併用療法が承認され、1次治療からのニボルマブ使用が可能になった。切除不能進行・再発胃がんの1次治療は長年、フッ化ピリミジン系抗がん剤とプラチナ系抗がん剤の併用療法が標準的治療法であったが、ここに免疫療法が加わることになる。

 大阪大学大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座教授の佐藤太郎氏に、ニボルマブによる1次治療の意義と注意点について解説してもらった。

(まとめ:八倉巻尚子=医学ライター)


トラスツズマブが対象となる人は2割ほどだった

 切除不能進行・再発胃がんの1次治療は、HER2陰性の場合、S-1+シスプラチンが最も推奨されるレジメンとなっていました。「胃癌治療ガイドライン第3版」(2010年発行)にはすでにS-1+シスプラチンの推奨が明記されています。

 S-1はフッ化ピリミジン系抗がん剤の1つで、5-フルオロウラシル(5-FU)の効果を高めた薬剤として開発されました。5-FUは1967年に承認され、その後、5-FUの投与法が検討される中で、プラチナ系抗がん剤であるシスプラチンとの併用療法が研究されていきました。その間には、ドセタキセルなど、ほかの薬剤との併用も工夫されましたが、根本的な胃がん治療のスタンダードはフッ化ピリミジン系抗がん剤とプラチナ系抗がん剤の併用療法です。そして5-FUの代わりとして、S-1あるいはカペシタビンが臨床試験で良い結果を得て使われてきました。

 HER2陽性進行胃がんには、抗体薬のトラスツズマブが抗がん剤への上乗せで2011年に承認されています。しかし対象となる人は2割ほどで、大部分の胃がんの1次治療は本質的には変わらない状況が50年間続きました。そこに今回、免疫チェックポイント阻害薬が加わり、抗がん剤との組み合わせで有効性が証明され、ついに新しいスタンダードができてきたことのインパクトは非常に大きいと思います。

 すでに3次治療以降でニボルマブが導入されている施設では、ごくまれな自己免疫疾患のある場合を除き、ほとんど全ての患者さんが年齢にかかわらず、ニボルマブ+化学療法による治療を受けることができます。

ニボルマブ+化学療法で期待される効果

 胃がんの1次治療におけるニボルマブ+化学療法は、国際共同第3相のCheckMate 649試験とアジア(日本・韓国・台湾)で行われた第2/3相のATTRACTION-4試験において、その有効性が証明されています。

 CheckMate 649試験は、治癒切除不能な進行・再発胃がん、食道胃接合部がん、食道腺がんの1次治療として、ニボルマブ+化学療法、さらにニボルマブ+免疫チェックポイント阻害薬イピリムマブ、そして化学療法が検討されました。

 この試験では、免疫応答に関係するPD-L1の発現程度を示すCPS(combined positive score)で分けて評価されています。CPSは、全腫瘍細胞中のPD-L1を発現した腫瘍細胞と免疫細胞の割合です。主要評価項目はPD-L1発現がCPS 5以上での全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)で、どちらも化学療法群に比べて、ニボルマブ+化学療法群で有意に改善しました。

 またCPS 5以上で、ニボルマブ+化学療法群の奏効率は60%、化学療法群は45%、CPS 5未満では55%と46%でしたから、ニボルマブを使うことで約10%の上乗せがあります。これは1割の患者さんにより症状緩和が期待できる、あるいは切除不能だったところが切除できるようになるかもしれないということを意味しています。

 効果の持続期間は中央値で1年を超えています。治癒切除不能な進行・再発胃がん、食道胃接合部がんの患者を対象に行われたATTRACTION-4試験において、ニボルマブ+化学療法群の奏効率は57.5%、奏効期間中央値は12.91カ月でした。

 奏効率は、腫瘍が消失した完全奏効と、腫瘍の長径の和が30%以上縮小した部分奏効を足した割合のことですから、体積に換算すると半分以下になります。6割の患者さんで腫瘍の大きさは半分になり、しかも同じ治療を1年以上も続けられるとなれば、患者さんのQOLは改善します。治療をしながら普通に生活ができ、場合によっては治ったのかもしれないと思えるくらいに日常を過ごしていただけるのではないかと思います。

 長期生存に関して、ATTRACTION-4試験では残念ながらあまり明瞭ではなかったのですが、CheckMate 649試験では中間解析でCPS 5以上でのOS中央値がニボルマブ+化学療法群で 14.4 カ月、化学療法群は11.1 カ月と、約3カ月の差がありました。OSハザード比は0.71でしたので、化学療法に比べてより長い生存が得られています。

 これらの試験では、OSの生存曲線が平坦になってそれ以上下がらず、治癒に近い状態を示すテールプラトー効果が、肺がんや悪性黒色腫で報告されているほどではないですが認められます。これまでニボルマブの投与は3次治療以降で行われてきましたが、3次治療を受けられる患者さんは、1次治療を受けた人の4割程度にすぎません。1次治療からニボルマブを使うことができれば、その恩恵を受けられる患者さんは2.5倍に増えると予想されます。もしかしたら治ったのではないかと思えるような患者さんが2倍から3倍の規模で増えるのではないかと期待されます。

術後の早期再発にもニボルマブが治療選択肢に

 初診時に進行胃がんと診断された人、手術をして再発した人にニボルマブ+化学療法は投与できますが、術後補助療法中あるいは終了後すぐに再発した場合にニボルマブを使うかどうかは難しいところです。しかしドセタキセル+S-1(DS)やS-1+オキサリプラチン(SOX)による術後補助療法を行なって早期再発したときも、オキサリプラチンをベースとした化学療法にニボルマブを乗せた治療を行ったほうがいいと考えています。

 そのほうが、3次治療でニボルマブを入れるよりも、確実にニボルマブを使ってあげられるためです。先ほど述べたように、免疫療法はテールプラトー効果が得られる可能性がありますので、胃がん治療においてニボルマブは必ず1回は使ってあげたい薬です。早期再発はその次の治療に進めないリスクも少なからずありますから、早期再発に対してニボルマブを使う流れはあっていいのではないかと思っています。
 
 胃がんの場所や組織型によって、ニボルマブの効果には若干違いがあります。例えば胃食道接合部がんよりも幽門側の胃がんのほうが高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)のある人が多く、免疫チェックポイント阻害薬が非常に効いて、手術ができるチャンスもあると思います。一方、スキルス胃がんも含めて、びまん性の胃がんには効果はやや低く、腹膜播種例にも上乗せ効果が少し乏しいところはあります。それでも全般的にニボルマブを加えたほうが、より効果が高いということは一貫して言えます。

PD-L1を測ることで患者さんに合った治療へ

 CheckMate 649試験はCPSで区切って評価されましたが、今回のニボルマブの承認条件においてPD-L1の発現程度による縛りはないため、CPS 5未満でも、自己免疫疾患などの特別な理由がない限り、全ての患者さんに投与できます。PD-L1の測定も必須ではないのですが、PD-L1発現率を確認することが望ましいと、厚生労働省の最適使用推進ガイドラインに記載されています。

 実際にPD-L1を測ることで患者さんに合った治療の工夫ができるのではないかと思っています。例えば、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブは、KEYNOTE-062試験において、CPS 10以上でのペムブロリズマブ単剤群の生存曲線が、ペムブロリズマブ+化学療法群よりも上を行っていました。

 仮説にすぎないのですが、CPS 10以上の場合、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法を行うときに、化学療法を早々に中止して免疫チェックポイント阻害薬のみにしたほうがベネフィットを受ける患者さんが多くなるのではないかと思います。今後われわれ医師はPD-L1を測定して、その経験を持ち寄り、ディスカッションをしていくことで、化学療法の至適投与回数をCPS値によって規定することができるかもしれないと考えています。

長期投与で気になる問題は?

 ニボルマブの併用薬(化学療法)として、CheckMate 649試験では、カペシタビン+オキサリプラチン(CapeOX)または5-FU+レボホリナート+オキサリプラチン(FOLFOX)が投与されました。ATTRACTION-4試験では、SOXまたはCapeOXが使用されています。日本では外来でできるSOXがほとんどになってくると思います。胃がん治療でS-1は使い慣れていますから、副作用も上手にマネジメントできるためです。

 ニボルマブとの併用療法でも、副作用は全般的にそれほど心配することはないですが、まれに重篤な経過になることも報告されています。間質性肺炎や1型糖尿病、甲状腺機能低下症のリスクは、より長く使う分だけ増えるとは思います。患者さんには、体がだるくなった、息苦しい、咳が出てくるといった症状が出たときは、それを見過ごさないで早めに相談していただく必要があります。長く使っているから大丈夫だというのではなく、いつでも起こりうるのだということを認識して、患者さんも患者さんの家族も注意して見ておくことが大切です。

 長期投与では医療費の負担も問題となる患者さんも出てくると思います。ニボルマブ+化学療法の奏効率と奏効期間から考えて、ニボルマブの対象となる患者さんは2.5倍に増え、使用期間も4倍に延長すると仮定しますと、ニボルマブの薬剤費だけで今までの10倍はかかります。患者さんは高額療養費制度を活用できますが、その上限額の20万円が1年続くとなると、負担が増える人は出てくると思います。

 海外では“financial toxicity”といって、医療費に関して熱心な議論が行われています。日本でも、自分の望む医療を家族や医療者と考える「人生会議」が広がりつつあります。がんの治療を受けて、長期生存ができるようになってきたからこそ、そういったことも考えていく必要があるように思います。

手術が可能になっても考えなくてはいけないこと

 近年、手術の侵襲は少なくなり、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術も浸透し、術後の回復が早いという要素も相まって、胃がんでは手術が増えています。化学療法へのニボルマブの追加で、奏効率は10%の上乗せがありますので、手術へのコンバージョン(手術ができるようになること)の割合も増えると見込まれます。

 ただ、胃がんの難しいところは、特に胃をすべて切除する全摘除術になると、3カ月から半年間は体重が減って、手術前とは違う体の状態に慣れないといけないわけです。その期間が何事もなく過ごせる場合はいいのですが、そのように持っていけなかった場合もあり、その見極めはとても難しいと思います。

 胃がん患者さんは高齢化しており、手術を受ける患者さんの年齢中央値が、後期高齢者の年代にかかってきています。コンバージョンができそうだとしても、その人の残りの人生を考えたときに、それがすべきことなのかということは考えていかなくてはいけないと思っています。

治療のパラダイムシフトで患者さんとの信頼関係は築きやすくなる

 振り返ってみると、1999年にS-1が導入されたときの衝撃は大きかったです。5-FUを用いた治療を行なっていた頃は、施設や医師によって投与スケジュールが違っていたのですが、経口薬のS-1が登場して、4週投与2週休薬あるいは2週投与1週休薬になり、またガイドラインの浸透も合わさって、どの施設でも均一な治療になっていきました。

 化学療法に関しては、医師の腕が要求される部分が少なくなり、薬のパワーがそれを凌駕してくれるところが増えています。ニボルマブによる1次治療というパラダイムシフトは、その傾向をさらに強めるのではないかと思います。

 胃がんの化学療法は地元で受けられる患者さんが多いと思いますが、治療期間が長くなることで、また治療がうまくいくことが蓄積されて、医師と患者さんとの信頼関係はより築きやすくなると思います。治療におけるギアチェンジがスムーズにいきやすくなる要素もあり、ニボルマブ治療にはそういう点での恩恵が大きいのではないかと感じています。

免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法の可能性

 免疫チェックポイント阻害薬を用いた周術期治療について3つの試験が進んでいます。ニボルマブによる術後補助療法、XP(カペシタビン、シスプラチン)+ペムブロリズマブの周術期治療、そしてFLOT(5-FU、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセル)+抗PD-L1抗体デュルバルマブの周術期治療の試験です。それらの結果が出てくれば、胃がんの周術期治療も変わっていくと思います。

 HER2陽性進行胃がんの1次治療として、トラスツズマブ+化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ効果がKEYNOTE-811試験で検討されています。奏効率はおよそ20%の上乗せがありましたが(中間解析で74%と52%)、奏効期間中央値は1カ月ほどしか延びていないのです(10.6カ月と9.5カ月)。今後、OSの有意な延長が得られるのかどうかが注目されています。

 胃がん治療においてアンメットニーズになっているのが、特に若い人でのスキルス胃がんです。それには従来よりもドラスティックな治療が必要になってくると考えています。たとえば細胞同士の結合に関わるタンパク質であるクローディンを標的とした薬剤の開発が、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法も含めて進んでいます。またスキルス胃がんは、細胞接着因子であるカドヘリンの遺伝子変異やカドヘリン蛋白の欠損が原因のほとんどであり、ウイルスベクターを使ってカドヘリンがきちんと発現してくれるようにする治療も考えられています。

 半世紀にわたり変化のなかった胃がん治療が大きく変わろうとしています。新しいタイプの薬剤が開発され、長期生存も期待できるようになりました。それに伴って、治療に対する患者さんの向き合い方や医療経済についても考えていかなければいけない時代になってきたように思います。

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