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レポート

2022/01/25

日本癌治療学会学術集会教育セッションより

希少がんの一つ、骨・軟部腫瘍の治療は?

さまざまな診療科の連携が必須

森下紀代美=医学ライター

 悪性骨・軟部腫瘍は、希少がんと呼ばれるがんの一つ。希少がんの患者数は少なく、患者数が多いがんと比べて、診療に多くの課題が残されている。

 第59回日本癌治療学会学術集会の教育セッションから、千葉県がんセンター整形外科部長/サルコーマセンター部長の米本司氏による講演「骨・軟部腫瘍~診療科の枠を越えた連携が重要~」の様子を紹介する。


特徴は希少性と多様性

 悪性骨・軟部腫瘍は、骨や軟部組織などの間葉系組織と呼ばれる部位にできる腫瘍で、肉腫(サルコーマ)と同義語となる。肉腫の特徴として希少性と多様性がある。

 まず、希少性について。日本では、希少がんは年間人口10万人あたり6人未満のがんとされる。骨の肉腫は年間10万人に約1人、軟部の肉腫は約3人に発生する。その希少性から、診断・治療などの診療上の課題が多くみられる。

 次に、多様性について。千葉県がんセンターサルコーマセンターでは、2020年度に115人の患者が肉腫で診療を受けた。そのうち66%は整形外科、13%は形成外科、5%は肝胆膵外科、5%は婦人科で診療を受けており、11の診療科が診療に関わっていた。

 肉腫は全身に発生することも特徴で、同センターでは、軟部組織の56%、後腹膜の11%、骨四肢の9%、子宮の7%、頭頸部の6%の順に多く発生していた。病理組織では、未分化多型肉腫が17%で最も多く、粘液線維肉腫の11%、脱分化型脂肪肉腫の10%が続いた。2020年度の1年間に登録された組織型は合わせて27種類となった。

 年齢分布も2歳から87歳まで多岐にわたり、39歳までのAYA世代にも比較的多くみられた。年齢中央値は64歳だった。

 米本氏は、「こうした肉腫の希少性、多様性により、診断と治療に精通した専門家が、診療科の枠を越えて緊密に連携し、集学的治療を行うことが重要になる」と話した。がんの治療では、どこに住んでいても高度のがん治療が受けられる「均てん化」が進められてきたが、希少がんでは均てん化を行うことは難しく、むしろ集約化して治療が行われるようになってきた。各大学やがんセンターにサルコーマセンターや希少がんセンターを設置し、診療科の枠を越えた診療が行われるようになってきている。

 こうした集学的な診療を治療開始前から行った群と、行わなかった群を比較した結果が、フランスから報告されている。治療開始前から集学的な診療が行われた群では、手術前の生検、画像診断、初回手術の質、再手術の少なさ、臨床診療ガイドラインの遵守度が非常に高く、無再発生存率は有意に良好だった。その結果、肉腫では集学的な診療、集約化した診療が重要と結論された(J-Y. Blay, et al. Annals of Oncology 2017;28:2852-59)。

悪性骨腫瘍で最も多い通常型肉腫、治療は手術療法+化学療法

 悪性骨腫瘍(骨原発肉腫)は、10歳代前半の小児では骨肉腫やユーイング肉腫、成人では軟骨肉種や脊索腫が多い。骨肉腫は四肢、ユーイング肉腫は骨盤や体幹に多くみられる。また、リンパ行性転移はがんよりも少なく、血行性転移が多い。

 骨原発肉腫の中で最も多いのは通常型骨肉腫で、約40%を占めるとされる。日本全体での年間発生数は約200人、10歳代後半に多くみられ、男性にやや多い。好発部位は四肢で、特に膝周辺と肩に多く発生する。

 通常型骨肉腫の治療は手術療法+化学療法で、放射線治療は手術の補助療法として行われる。手術療法は、1970年代には切断しかなかったが、1980年代から人工関節を用いた患肢温存が可能になった。手術療法の選択肢には、切断、人工関節置換術、関節固定術、回転形成術などがある。現在は人工関節が主流であるが、「それぞれの利点、欠点を理解したうえで、患者さん自身が術式を選択することにより、良好なQOLが得られると思う」と米本氏は話した。

 化学療法は、1970年代の生存率は50%だったが、1980年代にはシスプラチン、1990年代にはイホスファミドが登場し、生存率は70%に上昇した。術前化学療法を行い、手術を行った後、術後化学療法も行う。術前化学療法は、現在ではさまざまながん種で実施されているが、最初に導入されたのは骨肉腫である。術前化学療法の役割には、すでに存在している微小肺転移の根絶、抗がん剤の感受性を知ること、切除縁の縮小、患肢機能の温存がある。術後化学療法の役割は、微小肺転移の根絶、局所再発の防止である。

 ただし、進行期の骨肉腫に対する化学療法はまだ確立したものはなく、各施設で行われている治療はいずれも臨床研究レベルである。日本で開発された骨肉腫多施設共同プロトコールNECO95-Jは、メトトレキサート、シスプラチン、ドキソルビシン、イホスファミドからなり、良好な成績が報告されている。現在、第3相のJCOG0905試験において、メトトレキサート、シスプラチン、ドキソルビシンにイホスファミドを併用する効果が検証されている。

悪性軟部腫瘍の治療の主体は手術療法、補助的に化学療法、放射線療法も

 悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)は、骨原発肉腫と異なり、全年齢に発生するが、40歳以上に多くみられる。好発部位は大腿部であるが、どの部位にも発生する。リンパ行性転移は少なく、血行性転移が多い。軟部肉腫の一つである滑膜肉腫でみられるような融合遺伝子ががん化に関わっている可能性が報告されているが、まだ治療に結びつく段階には至っていない。

 軟部肉腫の治療の主体は外科的手術療法である。四肢に発生した場合は整形外科が中心となり、再建が必要になれば形成外科の協力も必要になる。胸壁や肺に発生した場合は胸部外科、腹部や後腹膜に発生した場合は腹部外科、頭頸部に発生した場合は頭頸部外科と、さまざまな科の協力が不可欠である。

 軟部肉腫の手術療法は、腫瘍内切除、腫瘍辺縁切除、腫瘍広範切除に分けられるが、いずれの場合も、腫瘍を正常組織で完全に包みこむようにして、一塊として切除する方法が推奨されている。

 米本氏は手術療法の解説の中で、不適切切除(unplanned excision)についても説明した。不適切切除とは、専門外の科が治療を担当したために、術前に十分な画像検査や生検が行われず、診断が曖昧なまま手術が行われてしまうことだ。その後に悪性と判明した場合、専門施設での追加広範切除が必要となるが、手術侵襲は大きく、より大きな再建が必要になる。日本の調査では、およそ11%に不適切切除が行われていると報告されている(T. Nakamura, et al. J. Orthop Sci 2021年2月5日オンライン版)。同氏は「医療者への啓発がさらに必要で、治療は専門の医療機関で行うべき」と強調した。

 また治療では、化学療法が補助的に行われることが多い。目的は生存率の向上、緩和・延命治療で、腫瘍内科や小児科との連携が重要になる。放射線治療も、局所再発の減少や緩和治療を目的として行われ、放射線科との連携が不可欠である。

 軟部肉腫に対する化学療法では、ドキソルビシン、イホスファミド、パゾパニブ、トラベクテジン、エリブリンが保険適応となっているが、他のがん種と比べると少ないのが現状だ。米本氏らの施設では、1次治療ではアドリアマイシンとイホスファミドの併用療法、2次治療ではゲムシタビンとドセタキセルの併用療法、3次治療ではトラベクテジン、パゾパニブ、エリブリンなどを使用している。ただし、ゲムシタビンとドセタキセルは保険適応となっていないため、院内の規程に従って使用している。

 悪性骨・軟部腫瘍の放射線感受性は、円形細胞肉腫(ユーイング肉腫、横紋筋肉腫)などを除くと一般的に低いとされる。そのため、放射線治療だけでは原発巣の根治は期待できず、手術療法の補助療法として行われることが多い。また日本では、2016年4月に切除不能骨軟部肉腫に対し、重粒子線治療が保険適応となった。効果は通常の放射線治療よりも高いとされている。現在、国内には7カ所に重粒子線の治療施設がある。

新しい治療にも期待

 最後に米本氏は、悪性骨・軟部腫瘍に対する新しい治療を紹介した。

 一つは、悪性骨・軟部腫瘍に対する新たな手術手技「ナビゲーション手術」である。脳外科など、すでにいろいろな分野でナビゲーション手術が行われているが、整形外科でも行われるようになった。

 ナビゲーション手術では、術前にコンピューターのナビゲーションシステムを用いて、手術で切離するラインを想定し、描いておく。術中はナビゲーションプローブを用いて位置を確認し、骨を切る方向などを確認し、実際に切除していく。

 新しい治療には、がんゲノム医療もある。がんゲノム医療は、遺伝子情報に基づくがんの個別化治療で、腫瘍内科、遺伝子診断科、エキスパートパネルとの連携が欠かせない。がんゲノム医療は、主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べるがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子変異を明らかにすることにより、一人一人の体質や病状に合わせて治療を行う医療である。

 ただし、がん遺伝子パネル検査が治療につながるのは、すべてのがんでも8-10%前後にとどまる(K. Sunami, et al. Cancer Sci. 2019;110:1480-90, M. Ueno, et al. JSMO 2021 Abstract No. O7-2, A. Zehir, et al. Nat Med 2017;23:703-13, 2020年9月厚労省実績調査[https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000748554.pdf]など)。肉腫ではわずか約1%にとどまるとされる。米本氏は「がん遺伝子パネル検査が高額であることを考えると、効率を改善し、使える薬としてつながるようになってくれればと思う」と話した。

 そうした中、有望な薬として、NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対し、チロシンキナーゼ阻害薬のエヌトレクチニブ、ラロトレクチニブが保険適応となった。

 米本氏らが診療した10代の男性患者は、針生検で下腿の軟部肉腫と診断され、1次治療としてアドリアマイシンとイホスファミドの併用療法を5コース行った。腫瘍は縮小したが、まだ血管や神経を巻き込んでおり、患肢温存は難しいと考えられる状況だった。その時点でがん遺伝子パネル検査を行ったところ、NTRK-1融合遺伝子陽性であることがわかり、ラロトレクチニブを投与した。その結果、腫瘍は劇的に縮小し、神経や血管から離れたため、無事に腫瘍広範切除を行うことができ、患肢温存ができた。

 最後に米本氏は「悪性骨・軟部腫瘍の診療においては、診療科の枠を越えて連携し、集学的な診療を行うことが最も重要になる」と述べた。

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