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レポート

2022/01/04

日本癌治療学会学術集会教育セッションより

小児の髄芽腫の治療とサバイバーにおける課題

治療効果を下げずに学習障害などによるQOL低下を軽減する治療が求められる

八倉巻尚子=医学ライター

 髄芽腫は小児の悪性脳腫瘍の代表的ながんで、小脳に発生する。手術、放射線療法、化学療法を組み合わせた治療法により予後は改善しているが、学習障害や内分泌障害などの晩期合併症によるQOLの低下が課題となっている。一方で、分子遺伝学的な研究から発生機序の解明が進み、それに基づく治療開発も行われている。

 第59回日本癌治療学会学術集会の教育セッション「中枢神経系悪性腫瘍」で、広島大学病院がん化学療法/がん治療センターの杉山一彦氏が、髄芽腫の病期分類、治療戦略と長期予後、髄芽腫経験者のQOLについて解説した。


髄芽腫は標準リスク群と高リスク群に分けられる

 髄芽腫(Medulloblastoma)は、「1980年代前半くらいまでは、非常に予後の悪い病気でしたが、その後、系統だった治療が普及し、長期生存が可能な疾患になっています」と杉山氏。一方で、認知機能の低下や2次性腫瘍、内分泌障害など、晩期合併症のため、小児がん生存者におけるQOLの低下が問題になっている。

 髄芽腫は、小脳の中心部にある虫部に発生することが多く、髄液中にがん細胞が広がることもある(播種)。日本の年間発生例は100人弱といわれる。好発年齢の中央値は4歳から5歳だが、1歳未満から40歳までの報告がある。成人での発生は10%ほどで、分子生物学的な背景が若干違うといわれる。

 治療は、臨床的なリスク分類(標準リスク、高リスク)に沿って行われる。高リスク群は、(1)診断時の年齢が3歳未満、(2)術後MRI上の残存腫瘍が1.5cm2以上、(3)髄液細胞診陽性あるいはMRI上原発巣以外の播種病変を認める――のいずれかが当てはまる場合。標準リスク群は、(1)から(3)のいずれも該当しない場合。また播種の広がりによる分類(M0-4)もある。

 形態的な病理診断による分類は、非常に分化したmedulloblastoma with extensive nodularity(MBEN:高度結節性髄芽腫)、desmoplastic / nodular medulloblastoma(線維形成結節性髄芽腫)、classical medulloblastoma(古典的髄芽腫)、large cell / anaplastic medulloblastoma(大細胞退形成性髄芽腫)に分けられ、この順番で生物学的悪性度は高くなる。悪性度が高い場合は治療を強化するなど、個々の治療では調整されているが、分類ごとの前向きな研究はまだ行われていないという。

 さらに分子遺伝学的な解析から、髄芽腫の発生に関わるメカニズムが明らかになっている。WNTシグナル伝達経路が活性化したもの、SHH(sonic hedgehog)シグナル伝達経路が活性化したものがあり、そのほかのもの(グループ3、グループ4)を加えた4つの分子サブグループに分類されている。各サブグループは形態的な病理型や遺伝子発現、染色体異常の特徴が違い、予後も異なる。

 WNTサブグループは、古典的髄芽腫が多く、転移はまれで予後は良好であり、βカテニン(CTNNB1)遺伝子変異、6番染色体の異常(モノソミー6)の頻度が高い。SHHサブグループは線維形成結節性髄芽腫が多いが、古典的髄芽腫や大細胞退形成性髄芽腫も見られる。予後良好なWNTサブグループに対しては、放射線療法の線量を減らすなど、治療を軽減するレジメンの臨床試験が実施されている。しかしサブグループによって、「どういった治療法をしたらいいかはまだ確立していません」と杉山氏。それぞれに対応する薬剤開発と適切な治療強度の確立が必要であるとした。

手術後に放射線療法と化学療法を施行

 髄芽腫の治療は、手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて行われる。3歳未満の髄芽腫には放射線療法を遅らせる、あるいは回避することが原則とされている。手術は、単回で主病変をほぼ全摘することを目的に施行される。手術を行なって、画像診断で最も大きな残存腫瘍が1.5cm2以上あれば高リスク群とする。臨床試験と同等の治療成績を担保するため、術後31日までに放射線療法や化学療法は開始される。

 放射線療法は、標準リスク群には、化学療法を併用して、全脳全脊髄照射(CSI:craniospinal irradiation)を23.4 Gy(1.8 Gy/日を13回)、後頭蓋窩に追加照射を32.4 Gy(1.8 Gy/日を18回)で総線量54 Gy程度が照射される。高リスク群には放射線の線量を上げて照射し、化学療法も強化する。将来的には、2次性腫瘍やIQ(知能指数)低下のリスク回避のため、高精度の強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線を用いた照射が期待されている。

 化学療法について、杉山氏は代表的な2つの臨床試験を紹介した。標準リスク群を対象とした無作為化第3相試験CCG9961試験は、3歳から21歳までの髄芽腫患者に対し、手術後31日以内に放射線療法を施行し、2種類の化学療法を比較した。放射線療法はCSI(23.4 Gy)と後頭蓋窩照射(総線量55.8 Gy)の照射を行なった。

 放射線療法終了後6週間以内に化学療法を開始し、6週間を1サイクルとして8サイクル(1年間)施行した。シスプラチン+CCNU(ロムスチン)+ビンクリスチン(レジメンA)を標準治療として、シスプラチン+シクロホスファミド+ビンクリスチン(レジメンB)を比べた。解析対象379人において、レジメンAは電解質異常、レジメンBは感染症が多かったが、2群に決定的な差はなく、5年時点の無イベント生存(EFS)率は81%、5年生存率は86%だった(Packer et al. J Clin Oncol. 2006)。日本でCCNUは入手することができないため、レジメンBが標準治療になった。

 もう一つは、標準リスク群と高リスク群を対象にしたSt Jude Medulloblastoma-96試験。3歳から21歳の134人に対して、リスクに合わせた放射線療法を行い(標準リスク群にCSIは23.4 Gy、高リスク群は36.0-39.6 Gy)、大量化学療法で末梢血幹細胞(PBSC)を採取することを前提に、治療期間を短縮する治療を行なった。

 この結果、5 年生存率は標準リスク群で 85%、高リスク群で 70%、5 年EFS率は83%と70%だった(Gajjar et al. Lancet Oncol. 2006)。「標準リスク群ではPackerレジメンとほぼ同程度に、高リスク群でも非常に良い結果が得られ、これは一つの方法だろうと今でも考えられます」(杉山氏)。ただ、この治療を施行したSt Jude Children Hospitalは、小児がんのオンコロジストが50人以上、ソーシャルワーカーが30人以上と多く、「大量化学療法やPBSC採取を行うにしても、人手があり恵まれた環境」で、日本にそのまま導入するのは難しいかもしれないと話した。

 3歳未満の髄芽腫には、認知機能障害のリスクを避けるために、化学療法単独が行われる。高用量のメトトレキサートとシクロホスファミド、ビンクリスチン、カルボプラチン、エトポシドを組み合わせたレジメンが“王道”で、これは「Germanプロトコール」と言われている。HIT-SSK92試験で、手術完全摘出例の5年無増悪生存(PFS)率は82%、5年生存率は93%、術後に病変残存例では50%と56%、MRI上播種陽性例では33%と38%であり、転移のない髄芽腫に術後化学療法単独は有望な治療であると結論づけている(Rutlowski et al. N Engl J Med. 2005)。それでも「なかなか放射線療法を回避するというのは難しい状況ではあります」(杉山氏)。

 髄芽腫の長期予後は、PackerレジメンによるCCG9961試験で、標準リスク群の8年生存率は80%、St Jude96レジメンも同程度で、標準リスク群は9年生存率が85%、高リスク群は68%だった。3歳未満を対象としたHIT-SSK92試験では、全摘かつM0/M1症例では10年生存率が58%、播種のある症例(M2/M3/M4)では10年生存率が0%であった。

髄芽腫経験者のQOL低下が課題

 QOLを低下させるものには、まず再発がある。再発すると予後が悪く、追加の治療が必要になる。また大きな問題となるのは2次性腫瘍。照射野にできるグリオーマ(神経膠腫)、甲状腺・副鼻腔などの悪性腫瘍、化学療法あるいは脊髄照射に関係する白血病が挙げられる。学習障害(intellectual decline)や、内分泌障害(視床下部-下垂体、甲状腺、副腎、性腺)、骨格・歯牙障害、また照射野に中耳・内耳が含まれ、白金系製剤を使うため、聴力障害が起こることがある。

 小児において学習障害は大きな問題となる。髄芽腫の患者は健康な対照群に比べてIQが低下し、経年的にその差が開くことが報告されている(Palmer JCO 2001)。またIQの低下は、全身化学療法のみ、全身化学療法+脳室内への投薬、放射線療法+全身化学療法と、治療を強化するほど顕著になることが示されている(Rutlowski et al. N Engl J Med. 2005)。

 「化学療法や放射線治療をなんとか少なくしたいと思いますが、10年、15年先の予後を考えながらその現場で治療するのは、難しい問題ではあります」と杉山氏。なお学習障害には、海馬の形成障害や白質形成異常が関係しているといわれる。全脳全脊髄照射の際に海馬を避けて照射することは、「転移性脳腫瘍ではすでに行われており、小児でもいずれ始まるだろうと思っています」と話した。

 小脳性無言症(Cerebellar Mutlism)についても紹介した。髄芽腫の手術後に、1週間ほどして言葉を全く話さなくなることは時々経験しているという。2つの大規模な臨床試験(高リスク群を対象としたCCG9931試験、標準リスク群を対象としたCCG 9961試験)では450人中107人(24%)に小脳性無言症が認められ、107人のうち重度が43%、中等度が49%、軽度が8%だった(Robertson et al. J Neurosurg. 2006)。この論文では腫瘍の脳幹への浸潤は、小脳性無言症の発症と正の相関を示すとしている。小脳性無言症は小脳と脳幹の損傷に関連すると報告され、長期の認知機能障害を残すともいわれている(Wells et al. J Neurosurg Pediatrics 2010)。実際に、小脳性無言症が発現したときには小脳や大脳半球も含めて、血流が非常に低下しているという。

 髄芽腫の治療において、手術、放射線療法、化学療法を行うとともに、合併症に対する長期のフォローアップが必要になる。「チームで行うことが大切であり、患者さんが20歳を過ぎたら、内科の先生にも協力いただいて、包括的に診ていかなくてはいけないと思います」と杉山氏は話した。日本脳腫瘍学会では、髄芽腫のガイドラインを作成中で、近日中にアップロードされるという。

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