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レポート

2021/12/21

shared decision makingの時代の乳癌治療(3)

HER2陽性ホルモン受容体陽性/陰性進行乳がんのベストな治療とは?

HER2陽性乳がんの2次治療で有望な治療法が登場

東海大学乳腺内分泌外科教授 新倉直樹氏に聞く

 急速に進展を遂げる乳がん診療では、患者の希望を聞いて治療を決める「shared decision making」(協働意思決定)が浸透しつつある。ただし、乳がん診療に携わっている医師全員が必ずしも薬剤の最新の状況に精通しているわけではない。患者が自分の知識をアップデートし、医師に希望を述べることが、最適で納得のいく医療を受けるためには大切である。

 近年、進行・再発のホルモン受容体(HR)陽性乳がんでは、薬物療法の開発が進み、1次治療では内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用療法が標準治療として定着してきた。

 またHER2陽性進行乳がんでは、2次治療において、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)のトラスツズマブ デルクステカンが、同じくADCであるトラスツズマブ エムタンシンとの比較で高い有効性を示すことが最近報告され、大きな注目を集めている。

 現状における患者にベストな治療は何か、東海大学乳腺内分泌外科教授の新倉直樹氏に解説してもらう3回目は、HER2陽性進行乳がん、HR陽性・HER2陽性のトリプルポジティブ乳がん、HR陰性・HER2陰性のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)などについて。

(まとめ:森下紀代美=医学ライター)

HER2陽性HR陰性乳がんの1次治療と2次治療

 進行・再発のHER2陽性HR陰性乳がんに対する1次治療は、トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン系薬剤の3剤併用療法が現在の標準治療となっている。

 2018年版Ver.4として、2020年8月に公開されたWEB改訂版の乳癌診療ガイドラインでは、「CQ22. HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次治療で推奨される治療は何か?」という設問に対し、推奨として「トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルの併用療法を行うことを強く推奨する」と記載されている。そして2次治療は、乳癌診療ガイドラインでは、「CQ23. HER2陽性転移・再発乳がんに対する二次治療で推奨される治療は何か?」という設問に対し、推奨として「トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢進行となったHER2陽性転移・再発乳癌に対する二次治療では、トラスツズマブ エムタンシンの投与を強く推奨する」と記載されている通り、抗がん薬とトラスツズマブを結合させた薬剤であるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)が標準となる。乳癌診療ガイドラインには明確に記載されてはいないが、3次治療は別の抗がん薬とトラスツズマブを結合させた薬剤であるトラスツズマブ デルクステカン(T-Dxd)が事実上の標準治療となっている。

 ただし、この順番は近く変わることになると考えられている。2021年9月に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、治療歴があるHER2陽性進行乳癌がんを対象とした第3相のDESTINY-Breast 03試験から、トラスツズマブ デルクステカン(T-Dxd)が、やはりADCで、現在2次治療に位置づけられているトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)と比較して、非常に高い有効性を示すことが明らかになった。

 DESTINY-Breast03試験では、治療歴のある切除不能または転移を有するHER2陽性乳がんを対象に、T-DxdとT-DM1の直接比較が行われた。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)は、中央値がT-Dxd群未到達、T-DM1群6.8カ月、ハザード比0.28(95%信頼区間:0.22-0.37)、p=7.8×10-22となり、T-Dxd群で有意に延長していた。

 新倉氏は「この結果を見て、T-DM1を2次治療で使おうと考える人はいなくなると思う」と話した。現時点では保険上、T-DM1を投与した後しかT-Dxdが使えないが、いずれは条件が外れて2次治療の標準となると考えられている。

 T-Dxdは2次治療で高い有効性が示されたことから、1次治療での使用に関する検討も期待され、臨床試験が開始されている。新倉氏は「HER2陽性乳がんは、20年前とは全く状況が異なる。一つ、またひとつと、薬剤が出てくることで状況が次々と変わっている印象がある」と話した。また、その他にもHER2を標的とした新しい低分子薬剤であるツカチニブなどの開発も進められており、今後新たな抗HER2薬の登場が期待されているという。

HER2陽性HR陰性乳がんの周術期治療はHER2陽性のみの場合と同じ

 HER2陽性HR陰性の早期乳がんの周術期治療は、ステージ1に関しては術後にタキサン系抗がん薬とトラスツズマブを投与することが標準である。トラスツズマブの投与期間は1年間。そしてステージ2以降においては、術前化学療法を考慮し、ペルツズマブ+トラスツズマブ+抗がん薬を投与する。そして、病理学的完全奏効(pCR、病理検査で見えるがんが完全になくなる)が得られていれば、術後化学療法はトラスツズマブ+ペルツズマブ、non-pCRであれば、T-DM1の投与を行うことが現在の標準である。「II期以上の場合は術前化学療法を行って予後不良なグループを見つけ出し、そこにT-DM1を追加するかどうかが、OSを延長するうえで重要になる。術前化学療法は、高齢などで難しい場合を除き、標準となると考えられる」と新倉氏は話した。

トリプルポジティブの周術期治療はHER2陽性のみの場合と同じ

 次に、進行・再発のトリプルポジティブ乳がんである。治療は前述のHER2陽性のみのがんと同様に考え、抗HER2治療を開始し、その後、維持療法として内分泌療法を行う。周術期治療も、HER2陽性のみのがんと同様に考えてよい。

 そして、HER2、HRともに陰性のトリプルネガティブ乳がんである。進行トリプルネガティブ乳がんの現在の標準治療は抗がん薬の投与である。アンスラサイクリン系抗がん薬、タキサン系抗がん薬が中心に行われ、さらにS-1、カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、ビノレルビンが用いられる。

 最近、ようやく一部のトリプルネガティブ乳がんで抗がん薬以外の治療を行えるようになった。BRCA変異が陽性の場合には2次治療でPARP阻害薬であるオラパリブが投与される。さらに免疫チェックポイント阻害薬が一部のトリプルネガティブ乳がん患者で使用可能になっている。PD-L1が一定以上発現している患者で、抗PD-L1抗体アテゾリズマブ、抗PD-1抗体ペムブロリズマブが使用可能になった。どちらの薬剤を使っても効果に大きな差はないとみられるが、パートナーの抗がん薬に制約がある、コンパニオン診断薬が違うといった点には注意が必要だ。アテゾリズマブの場合には併用する抗癌薬はアルブミン懸濁型パクリタキセルになるが、ペムブロリズマブの場合にはパクリタキセルまたはアルブミン懸濁型パクリタキセルまたはゲムシタビン/カルボプラチンとなる。

 トリプルネガティブ乳がんの周術期治療は、原則としてアンスラサイクリン系、タキサン系抗がん薬を使うのが標準治療である。しかし、最近、術後と術前に免疫チェックポイント阻害薬を使うことの有用性が報告され、2022年には周術期で使用されることも期待されている。さらにBRCA遺伝子を調べ、変異が陽性であれば術後の補助療法でオラパリブを1年投与することも来年には標準になる可能性が高い。

 最後に新倉氏は、患者に向けて次のように述べた。「このページをご覧になる患者さんは、いろいろ調べられていると思う。良い情報を上手にピックアップするうえで、注意していただきたいのは、情報にはフィルターをかけて、科学的で、学会や国が保証している情報だけを見てほしい」。サイエンス的な発想ではなく、きちんとした臨床試験も行わずに、個人的な考えを押し付けている“医学博士”は多い。

 また新倉氏は、「患者さんにお願いしたいのは、医師を教育してくださいということ。医師が言っていることすべてが正しいわけでも、知識が十分というわけでもない。中小の病院の中には、乳がんも胃がんも診なければいけない、大腸がんも診なければいけない、手術も化学療法も行う医師もいる。患者さん自身にもよく勉強していただき、医師と議論をして、どういう治療がいいのか、自分に合った治療は何なのかをよく相談していただきたい」と話した。


shared decision makingの時代の乳癌治療

閉経後ホルモン受容体陽性進行乳がんにベストな治療とは?
1次治療は内分泌療法+CDK4/6阻害薬が標準治療として定着


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