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レポート

2021/12/14

shared decision makingの時代の乳癌治療(2)

閉経前のホルモン受容体陽性進行乳がんにベストな治療とは?

周術期治療は何をどれだけ使うのか

東海大学乳腺内分泌外科教授 新倉直樹氏に聞く

 急速に進展を遂げる乳がん診療では、患者の希望を聞いて治療を決める「shared decision making」(協働意思決定)が浸透しつつある。ただし、乳がん診療に携わっている医師全員が必ずしも薬剤の最新の状況に精通しているわけではないことから、患者が自分の知識をアップデートし、医師に希望を述べることが、最適で納得のいく医療を受けるためには大切である。

 進行・再発のホルモン受容体(HR)陽性乳がんの1次治療では、内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用療法が標準治療として定着してきた。閉経前HR陽性乳がんには、これまで日本ではLH-RHアゴニスト+タモキシフェンの併用療法が推奨されてきたが、近年、閉経後HR陽性乳がんとほぼ同じ治療で良いとするコンセンサスが得られつつある。

 ただし、閉経前のHR陽性乳がんにおいても、閉経後のHR乳がんと同様に課題が残されている。治療を継続する中で、CDK4/6阻害薬をどのように投与してつないでいくことが最適なのか。患者の状態や希望、経済の状況などを併せて考慮し、どのように治療を進めていくべきか。

 進行・再発の閉経後HR陽性乳がん、閉経前HR陽性乳がん、HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)など、さまざまなタイプの進行乳がんについて、現状における患者にベストな治療は何か、東海大学乳腺内分泌外科教授の新倉直樹氏に解説してもらった。3回に分けて紹介する。2回目は、閉経前HR陽性進行乳がんと早期乳がんの術後補助療法について。
(まとめ:森下紀代美=医学ライター)


1次治療はLH-RHアゴニスト+タモキシフェンを推奨、コンセンサスには変化も

 2018年版Ver.4として、2020年8月に公開されたWEB改訂版の乳癌診療ガイドラインでは、「CQ13. 閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法として、何が推奨されるか?」という設問に対し、推奨として「卵巣機能抑制とタモキシフェンの併用療法を行うことを強く推奨する」と記載されている。また、「卵巣機能抑制を行い、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌の一次治療と同様の治療を行うことを弱く推奨する」ことも記載されている。

 日本では、閉経前HR陽性乳がんに対してはLH-RHアゴニスト+タモキシフェンを使用することとなっているが、これは歴史が長くエビデンスが多いためということで、実際には治療効果は一番劣る治療選択であり、日常診療で1次治療として使うことはなくなってきている。一方、世界的には、臨床試験データに基づいて、CDK4/6阻害薬ベースの治療が1次治療となっている。アジアの乳がんの特徴として閉経前乳がんが多く、乳がんのピークは米国では60歳代、70歳代が多いのに対し、日本では40歳代後半で社会的な役割が大きい方々が少なくない。

 このような背景もあり、「日本では閉経前の乳がん患者が多いが、臨床試験は欧米主導で組まれるため、適格基準を満たして日本から登録される閉経前の患者はどうしても少数になってしまう」と新倉氏は指摘する。しかし、最近では、LH-RHアゴニストを使用したうえで、閉経後の治療とほぼ同じで良いとするコンセンサスが、ガイドラインである程度得られてきている。

 日本では未承認のribociclibの試験では、閉経前の患者には内分泌療法薬としてAIまたはタモキシフェンが投与されていた。海外では閉経前患者もAI+CDK4/6阻害薬から始めるべきとのコンセンサスが得られている。そのため選択肢としては、LH-RHアゴニスト+AI、LH-RHアゴニスト+AI+CDK4/6阻害薬、LH-RHアゴニスト+フルベスラント+CDK4/6阻害薬の3つがあげられる。ただし、自治体によっては保険でLH-RHアゴニストとAIの併用が認められない場合もあり、その場合はLH-RHアゴニスト+フルベスラント+CDK4/6阻害薬を使用することになる。

 「保険で承認されている分、日本ではLH-RHアゴニスト+フルベストラントが使いやすいかもしれないが、フルベストラントとAIの間には大きな差はないと考えている」と新倉氏は話した。

2次以降の内分泌療法は何を使うか

 乳癌診療ガイドラインでは、「CQ14. 閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する二次以降の内分泌療法として、何が推奨されるか?」という設問に対し、推奨として「LH-RHアゴニスト+フルベストラント+サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法を行うことを弱く推奨する」と記載されている。「卵巣機能抑制を行い、アロマターゼ阻害薬などの閉経後に用いる内分泌療法との併用療法を行うことを弱く推奨する」との記載もある。術後補助療法中や早期に再発した患者や、1次治療でLH-RHアゴニスト+AIを使用していた場合は、LH-RHアゴニスト+フルベストラント+CDK4/6阻害薬を使うことが標準になる。1次治療でLH-RHアゴニスト+AI+CDK4/6阻害薬、LH-RHアゴニスト+フルベストラント+CDK4/6阻害薬を使用していた場合は、2次治療はまだ使用していない内分泌療法薬を使用するのが基本的な考え方になる。

 ただし、閉経前の患者には、mTOR阻害薬のエベロリムスは保険で認められてはいない。腫瘍のボリュームが大きくなく、内臓転移で差し迫った状況でなければ、LH-RHアゴニスト+タモキシフェンも考えられる。

 また、1次治療でCDK4/6阻害薬を投与している間に、BRCA遺伝子変異の検査を行っておき、陽性であればPARP阻害薬も一つの選択肢となる。ただし、この場合はアンスラサイクリンとタキサン系製剤による治療を行っていることとする条件が付くため、注意が必要だ。

閉経前HR陽性乳がんの術後内分泌療法はタモキシフェン

 HR陽性乳がんに対する術後内分泌療法は、閉経前と閉経後では異なる。「日本では、閉経前はタモキシフェン、閉経後はAIに大きく分けられる」と新倉氏は話した。欧米では、閉経前HR陽性乳がんであっても、再発リスクが高い場合、LH-RHとAIの併用療法が一定のコンセンサスを得ているという。さらに、特に再発リスクが高い患者には、CDK4/6阻害薬であるアベマシクリブを併用することも行われるようになる見通しになっている。

 乳癌診療ガイドラインでは、「CQ1. 閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として何が推奨されるか?」という設問に対し、推奨として「タモキシフェンの使用を強く推奨する」、「LH-RHアゴニストとタモキシフェンの併用を強く推奨する」と記載されている。LH-RHアゴニスト+AIの併用は弱い推奨となっている。

術後内分泌療法の治療期間の延長が望ましいのはベースラインのリスクが高い患者

 内分泌療法の至適治療期間も、5年とするか、5年以上に延長するか、調整が必要なところだ。例えば、45歳前後の閉経前にタモキシフェンの内服を開始し、2-3年で閉経になった場合、その時点でAIに変更することが標準となっている。タモキシフェンを5年間内服し、閉経になった場合はAIに変更して5年間継続する。

 また、タモキシフェンのみを内服して5年または10年で終了することも選択肢の一つであるが、これはベースラインのリスクによる。例えばI期の場合、タモキシフェンによる治療期間を5年から10年にしても、再発が減少する割合は小さいが、III期では減少する割合が大きい。そのため新倉氏は、I期でタモキシフェンを5年間投与した後の治療については、患者の希望があれば追加処方をし、希望しない場合は5年間で終了するという。
 
 HR陽性HER2陰性の早期乳がん患者を対象に、21種類の遺伝子を調べて乳がんの再発リスクを評価する「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」が、2021年12月から保険適用される予定だったが、延期になった。この結果を用いて、術後内分泌療法の至適治療期間を判断することは可能だろうか。

 乳癌診療ガイドラインでは、「CQ29. ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対して、多遺伝子アッセイの結果によって、術後化学療法を省略することは推奨されるか?」の設問に対し、推奨として「ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌で、リンパ節転移陰性であれば、Oncotype DXのRSが25以下の場合には術後化学療法を省略することは強く勧められる」と記載されている。

 新倉氏は、「オンコタイプDXは、化学療法の効果の有無を判定するうえで素晴らしいデータが出ている。しかし、残念ながら、内分泌療法の至適治療期間に関するデータはまだ出てきていない」と話した。

 オンコタイプDXの結果の解釈はやや複雑になる。高リスクの患者では、2-3年以内の再発率は上昇するが、逆に3年以降の再発率は低下していく。一方、低リスクの患者では、最初の3年間の再発率は低いが、5年以後も一定の再発率が持続する。「これが乳がんの非常に難しいところである。」と新倉氏は強調した。

 オンコタイプDXは、HR陽性乳がんでリンパ節転移陰性の患者はほぼ全例が対象となるため、将来的にどのような形で応用するかについては、今後さまざまな形で研究が進むことが期待される。新倉氏は、「オンコタイプDXでRS(再発スコア)が25以上となるのは15%前後しかいないため、残る85%の患者さんで化学療法を省略できることには大きな意味がある」と話した。

 これらの知見から、術後内分泌療法の期間を延長することが望ましいのは、リンパ節転移陽性や腫瘍系が大きいなど、ベースラインのリスクが高い患者となる。リンパ節転移がない場合もしくはリンパ節転移が1-3個の場合は、オンコタイプ DXも測定し、化学療法が必要な患者を見極める必要がある。

 乳癌診療ガイドラインでは、「CQ3. 浸潤性乳癌に対する術後内分泌療法の至適治療期間はどれくらいか?」という設問に対し、推奨として「タモキシフェン5年投与後にタモキシフェン5年追加投与を行うことを強く推奨する」「タモキシフェン5年投与終了時に閉経している場合、アロマターゼ阻害薬5年追加投与を行うことを強く推奨する」、さらに「アロマターゼ阻害薬5年投与後にアロマターゼ阻害薬5年までの追加投与を推奨する」と記載されている。

 AIについては、AIの5年投与後の2年の追加投与、AIの5年投与後の5年の追加投与で差がないなど、さまざまなデータが出てきている。AIは5年以上投与する必要があるのか、さらに議論が必要とみられる。

 ただし、日本の第3相試験N-SAS BC 05(AERAS)では、AIを5年投与後、さらに同じAIを5年追加投与することにより、主要評価項目の無病生存(DFS)率と副次的評価項目の一つである遠隔無病生存(DDFS)率は、追加投与をしなかった場合と比べて、有意に改善したことが報告された。ただし、OS率は2群間で有意差はなかった(S. Ohtani, et al. SABCS 2018 Abstract NO.GS3-04)。

 AIの10年の投与で明確な差が示されたのはこの日本の試験だけであり、この結果をどのように理解すべきか、さらに検討が必要である。また、AIにはタモキシフェンよりも骨折の発生が増加するリスクもあり、国際的にはAIの5年以上の投与は必要ないとされる可能性もある。


shared decision makingの時代の乳癌治療

閉経後ホルモン受容体陽性進行乳がんにベストな治療とは?
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