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レポート

2021/12/07

shared decision makingの時代の乳癌治療 (1)

閉経後ホルモン受容体陽性進行乳がんにベストな治療とは?

1次治療は内分泌療法+CDK4/6阻害薬が標準治療として定着

東海大学乳腺内分泌外科教授 新倉直樹氏に聞く

 乳がんの治療は急速に進展を遂げている。その中で、薬の処方の決定権を持っているのは医師だが、患者の希望を聞いて治療を決める「shared decision making」(協働意思決定)が乳がんでは当たり前になりつつある。一方、乳がん診療に携わっている医師全員が薬剤の最新の状況を知っているわけではないことから、患者が自分の知識をアップデートし医師に希望を述べることが、最適で納得のいく医療を受けるためにはとても大切になっている。

 進行・再発のホルモン受容体(HR)陽性乳がんでは、薬物療法の開発が進み、1次治療では内分泌療法とCDK4/6阻害薬の併用療法が標準治療として定着してきた。それに伴い、長期の有効性や安全性のデータも報告されつつある。最近では、CDK4/6阻害薬としては初めて、ribociclib(日本未承認)が閉経後進行乳がん患者の全生存期間(OS)を延長したことが明らかになった。

 ただし、課題も残されている。1次治療で増悪し2次治療に移行する際に、複数あるCDK4/6阻害薬を治療の順序(シークエンス)の中でどのように投与していくことが最適なのか。患者の状態や希望、経済の状況などを併せて考慮し、どのように治療を進めていくべきか。こうした疑問への明確な答えは得られていない。

 そこで、進行・再発の閉経後HR陽性乳がん、閉経前HR陽性乳がん、HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)など、さまざまなタイプの進行乳がんについて、現状における患者にベストな治療は何か、東海大学乳腺内分泌外科教授の新倉直樹氏に解説してもらった。3回に分けて紹介する。1回目は、閉経後HR陽性乳がんについて。
(まとめ:森下紀代美=医学ライター)


閉経後のHR陽性進行乳がんでは初、1次治療のCDK4/6阻害薬でOSが延長

 進行・再発の閉経後HR陽性乳がんの1次治療は、CDK4/6阻害薬(パルボシクリブまたはアベマシクリブ)をベースとする治療が定着してきた。CDK4/6阻害薬の併用で、長期の安全性やOSの延長を示すデータが徐々に報告されてきている。「進行・再発のHR陽性乳がんといっても、進行が速いものから遅いものまで幅広い。そういった乳がんのどれにもCDK4/6阻害薬が効くというデータが示されている」と新倉氏は話した。

 2018年版Ver.4として2020年8月に公開されたWEB改訂版の乳癌診療ガイドラインでは、「CQ15. 閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法として、何が推奨されるか?」という設問に対し、推奨は「アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用を行うことを強く推奨する」と記載され、第一選択に位置づけられている。一方、内分泌療法薬で選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD)のフルベストラント、アロマターゼ阻害薬(AI)の単剤での使用は弱い推奨となっている。

 CDK4/6阻害薬は有効性が高い反面、医療費は高額となり、治療を続ける間の患者の経済的な負担は大きい。患者は高額療養費制度を利用することができるが、それでも毎月収入に応じた一定額を支払う必要があり、このような経済毒性は重要な課題の一つだ。

 1次治療でCDK4/6阻害薬と併用する薬剤は、AIが標準となる。AIは経口薬で、1日1錠の内服がきちんと継続できる患者では、注射用製剤よりも経口薬のほうが負担は少なく、効果の面では注射用製剤と経口薬でほぼ差がない。

 CDK4/6阻害薬のメリットが大きいことは、最近開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2021)でも報告されている。閉経後のHR陽性進行乳がんの1次治療として、ribociclib+レトロゾールの併用を評価した第3相のMONALEESA-2試験である。ribociclib+レトロゾールを併用した群(ribociclib群)は、プラセボ+レトロゾールを投与した群(プラセボ群)と比べて、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することがすでに報告されていた(G. N. Hortobagyi, et al. ESMO 2016 Abstract No. 3552)。

 ESMO 2021で新たに発表されたOSは、ribociclib群で5年を超え、大きな注目を集めた。観察期間中央値80カ月において、中央値がribociclib群63.9カ月(5.3年)、プラセボ群51.4カ月(4.3年)、ハザード比0.76(95%信頼区間:0.63-0.93)、p=0.004となり、ribociclib群で有意に延長していた(G. N. Hortobagyi, et al. ESMO 2021 Abstract No.LBA17)。

 新倉氏は「これまでの報告では4年前後だったが、今回は5年を超え、CDK4/6阻害薬の大きなメリットになると思う」と話した。

CDK4/6阻害薬+AIによる1次治療の次の治療は?

 次に、2次治療である。1次治療でCDK4/6阻害薬とAIを使用し、進行を認めて2次治療に移行する場合、標準治療はどのように考えればよいのか。

 新倉氏は、「CDK4/6阻害薬を使って効かなくなったからといって、すぐに抗がん薬治療を行わなければいけないということではない。例えば肝転移が大きくなり肝機能が上昇する、肺転移で呼吸が苦しくなるなど、患者にとって辛い症状がある状況でない限りはまずは内分泌療法の変更で治療をすることになる」と説明。患者にとって辛い症状がある状況では抗がん薬を使う。そうでなければ別の内分泌療法薬や、エベロリムスのような分子標的薬を加えても良いと考えられる。

 新倉氏は、2次治療で考えられる選択肢として、フルベストラント、エベロリムス+ステロイド性AI(エキセメスタン)、タモキシフェンを挙げた。使い分けの指標は特になく、これまでに使っていないものを使用することになる。内分泌療法が継続できるのであれば、できるだけ長く内分泌療法でつないでいく。根底にあるのは、進行・再発のHR陽性乳がんではQOLを低下させないことが非常に重要であることだ。抗がん薬は良く効く反面、QOLも低下させる。日常生活をある程度犠牲にし、治療に重きを置かなければならなくなる。

 「患者のQOLを維持し、そのうえで何を一番望んでいるかを考えると、今の生活が維持されることである。子供のお弁当を作りたい、会社でバリバリ働きたいなど、希望はさまざまだが、今の社会的なポジションに影響がなく、今まで通りの生活が行えることが最も重要。そう考えると内分泌療法になる」と新倉氏。

 CDK4/6阻害薬が1次治療で投与されるようになったのも、QOLを低下させず、副作用の好中球減少症や下痢などが起こっても、日常生活への影響は多くが軽微で済むためだ。

 術後内分泌療法中や術後内分泌療法の終了から1年以内に再発した場合には、その次に行う治療は2次治療と考える。前治療で内分泌療法薬が使われていて、1年以内に症状が出てくる、画像で再発が見つかるといった場合は、その前に使用していた内分泌療法薬は効いていないと判断する。閉経後の患者では、1次治療でAIが使用されていることが多いと考えられるため、2次治療はCDK4/6阻害薬+フルベストラントの併用が選択肢となる。術後内分泌療法がタモキシフェンだった場合は、AI+CDK4/6阻害薬、フルベストラント+CDK4/6阻害薬の併用など、タモキシフェン以外の薬が選択肢として考えられる。

術後内分泌療法終了から1年以上後に見つかった小さな転移にはCDK4/6阻害薬

 HR陽性乳がんに対する術後内分泌療法も、閉経前と閉経後では使う薬が異なる。「日本では、閉経前はタモキシフェン、閉経後はAIに大きく分けられる」と新倉氏は話した。

 術後内分泌療法は、閉経後HR陽性乳がんではAIが強い推奨となっている。乳癌診療ガイドラインでは、「CQ2. 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として何が推奨されるか?」という設問に対し、推奨として「アロマターゼ阻害薬の投与を強く推奨する」と記載されている。タモキシフェンを2-3年投与後にAIに変更する方法、AIを2年投与後にタモキシフェンに変更する方法、タモキシフェンやトレミフェンの単剤は、いずれも弱い推奨となっている。

 それでは、術後内分泌療法終了から1年以上経過した時点で、小さな再発が1個見つかった場合はどうするか。新倉氏によると、これはまだ結論が得られていない部分であるという。腫瘍が小さく、1カ所のみの転移であれば、根治すると考える医師もいる。例えば腋窩リンパ節転移に再発が1カ所のみの場合、切除して内分泌療法を継続してもよい。しかし、手術で切除できる部位の1カ所と、骨、肺、肝などの遠隔転移の1カ所では意味が違う。遠隔転移の1カ所に対し、放射線治療や追加の強い治療で治癒を目指せるかを検討する臨床試験も行われているが、新倉氏は「遠隔転移は従来通り治癒は困難という考えで、全身治療の継続で良いと思う」と述べた。

 中には、内分泌療法薬単剤で治療したいと希望する患者もいる。高額療養費制度を利用しても医療費の支払いが難しいと訴える患者もいる。例えば、AIを投与中に肝転移を認め、医師がCDK4/6阻害薬を使うことを勧めても、経済的に難しいという場合は、フルベストラント単剤を使用することもあると新倉氏は話した。

 ただし、医師から勧めるのは基本的にはCDK4/6阻害薬ベースの治療である。転移が1カ所のみで、内分泌療法終了後の期間も長いような場合、以前は内分泌療法薬単剤でもよいと考えられていたが、CDK4/6阻害薬を上乗せすると有効性が高まることが分かっているためだ。

 また、高齢者の中にはshared decision makingをすることが難しく、「先生にお任せします」という患者もいる。新倉氏は「shared decision makingでは、遠慮せずに医師と話をしてほしい」と話した。同氏は、患者が乳がんや再発乳がんと診断された80歳代後半から90歳前後の患者には、「あと何年生きたいですか?」と聞き、コミュニケーションを取る中で、患者が何を望んでいるかを把握していく。

 時代の変遷とともに、医師の患者に対する向き合い方も変化している。がんを告知するかしないかが議論になり、治療方針は医師がすべて決めていた時代から、治療選択肢が増え、その中から患者にベストの治療をどう選ぶか、医師と患者が話し合う時代へと移行している。進行・再発のHR陽性乳がんであっても、5年間の長期のOSが期待できる時代へと、時代は変わっているのである。


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