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レポート

2021/11/30

第52回日本膵癌学会大会市民公開講座より(2)

切除不能膵がんが薬物療法の進歩で切除可能となる場合も

放射線療法は有効だが十分利用されていない

中西美荷=医学ライター

 もっとも予後の悪いがんのひとつとされる膵がんだが、近年、その診断や、薬物療法を中心とする治療は大きな進歩をみせている。日本の膵がん治療のトップランナーが講師として招かれた第52回日本膵癌学会大会市民公開講「膵がんの最前線—私たちは今、何が可能になったか—」から、膵がんの診断、治療の現状を2回に分けて紹介する。

 第2回はゲノム医療を含む最新の薬物療法と放射線療法について。


切除不能膵がんに対する薬物療法の種類とその効果は

 切除不能膵がんに対する治療は薬物療法が中心となる。また、ステージI あるいはIIといった切除可能膵がんであっても、周術期に薬物療法が行われることが一般的である。薬物療法については、池田公史氏(国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長)が講演した。

 1990年代、切除不能膵がんに対する化学療法の効果は芳しいものではなかった。しかし1997年にゲムシタビン単剤療法が5-FUと比較して全生存期間(OS)を有意に延長することが第3相試験で示されて以降(J Clin Oncol. 1997; 15(6): 2403-13)、さまざまな化学療法が開発され、膵がんの生命予後は改善されてきている。

 各治療法の開発に際して行われた臨床試験は、ゲムシタビン(日本では2001年に承認)を対照薬として行われている。第3相試験における各治療法のOS中央値とハザード比(1の場合ゲムシタビンと同等で、1より小さいほど治療効果が高い)は以下の通りである。

 ゲムシタビン vs. S-1 vs. ゲムシタビン+S-1のOS中央値は8.8カ月 vs. 9.7カ月 vs. 10.1カ月で、S-1、ゲムシタビン+S-1のハザード比はそれぞれ0.96、0.88(GEST試験:J Clin Oncol. 2013; 31)30: 1640-8)、ゲムシタビンvs. ゲムシタビン+エルロチニブのOS中央値は5.9カ月 vs. 6.2カ月でハザード比0.82(NCIC CTG PA.3試験:J Clin Oncol. 2007; 25(15): 1960-6)、ゲムシタビン vs. FOLFIRINOXのOS中央値は6.8カ月 vs. 11.1カ月でハザード比0.57(ACCORD11試験:N Engl J Med. 2011; 364(19): 1817-25)、ゲムシタビンvs. ゲムシタビン+ナブパクリタキセルのOS中央値6.7カ月 vs. 8.5カ月でハザード比0.72(MPACT試験:N Engl J Med. 2013; 369(18): 1691-703)。

FOLFIRINOX療法の副作用を和らげるため開発されたmFOLFIRINOX療法

 FOLFIRINOX療法は、オキサリプラチン85mg/m2を2時間かけて、ロイコボリン400mg/m2を2時間かけて、イリノテカン180mg/m2を1.5時間かけて投与する。その後5-FUの静注(400mg/m2)を挟んだ上で、5-FUの持続静注(2400mg/m2)を約2日間(48時間)かけて2週ごとに繰り返すというもので、有効性が高いが副作用も強い。そのため、毒性を和らげるレジメンとして、イリノテカンを150mg/m2に減らし、5-FUの静注を省いたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法が開発された。

 日本で行われた第2相試験では、FOLFIRINOX療法およびmFOLFIRINOX療法のOS中央値はそれぞれ10.7カ月、11.2カ月と同等(海外で行われたACCORD 11試験とも同等)で、副作用はグレード3/4の好中球減少がそれぞれ78%、47.8%、発熱性好中球減少がそれぞれ22%、8.7%でmFOLFIRINOX療法の方が軽微だった。現在では、世界各国でもmFOLFORINOX療法が汎用されるようになっているという。

効果の高い治療法の登場によりConversion surgeryが可能となる症例も

 切除不能膵がんでは、FOLFIRINOX療法やゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法のような効果の高い治療法が登場したことにより、Conversion surgeryが可能な症例も出てきた。Conversion surgeryというのは、最初の診断で切除不能膵がんと診断されて手術以外の治療法を行った結果、病勢がコントロールされて、治癒切除(R0切除)ができると判断された場合に行われる手術である。

 「ただその割合はまだ低率で、局所進行膵がんで10-20%、転移を有する膵がんでは数%といわれており、まだまだ厳しいのが現状である」(池田氏)。

遠隔転移を有する膵がんに対する薬物療法とは?

 切除不能膵がんのうち、遠隔転移を有する膵がんと、局所進行膵がんでは、推奨される治療が異なる。遠隔転移を有する膵がんに対する一次化学療法は、FOLFIRINOX(mFOLFIRINOXを含む)療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法を「行うことを推奨する」、ゲムシタビン単独療法やS-1単独療法、ゲムシタビン+エルロチニブ療法は、「行うことを提案する」とされている。

 ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とFOLFIRINOX療法のどちらを選ぶべきかについては明らかになっていないが、池田氏によれば、FOLFIRINOX療法は副作用が強く、高齢患者が多数を占める日本では、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が使われる割合の方が高い。

 現在、遠隔転移を有するまたは再発膵がんを対象として、この2つの治療法と、もうひとつ有望な治療法とされるS-IROX療法(2週ごとに第1日目にオキサリプラチン85mg/m2とイリノテカン150mg/m2を投与、第1-7日にS-1[80-120mg/日]を内服)のいずれがより好ましい治療法であるかを検討するJCOG 1611試験が行われている。

局所進行膵がんでは化学放射線療法も一次治療として推奨

 局所進行膵がんに対する一次化学療法は、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法、FOLFRINOX(mFOLFIRINOXを含む)療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が、いずれも「行うことを提案する」とされている。

 局所進行膵がんに対するゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とmFOLFIRINOX療法は、日本で行われたランダム化比較試験JCOG1407では差が認められなかった。生存曲線はほぼ重なっており、OS中央値はゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群1.8年、mFOLFIRINOX療法群2.0年、1年OS率はそれぞれ82.5%、77.4%、2年OS率はそれぞれ39.7%、48.2%だった(ASCO 2021 #4017)。

 局所進行膵がんでは、放射線療法とフッ化ピリミジン系薬剤(5-FUやS-1)およびゲムシタビンを併用する化学放射線療法も一次治療として提案されている。現在、S-1+放射線療法に、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を加えることで、効果が高まるかどうかを検討するJCOG1908試験が行われている。

 また、切除可能境界膵がん(手術できると考えられるが、標準的手術のみでは組織学的にがんが残ってしまう可能性が高い)に対して、術前S-1+放射線療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法を比較する試験も進行中である。

二次化学療法では一次治療と異なる薬剤を使う

 切除不能膵がんでは、一次化学療法の効果がみられなくなった場合、二次化学療法を行うことが推奨されている。一次化学療法としてゲムシタビン関連レジメン(ゲムシタビン、ゲムシタビン+エルロチニブ、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)を行った場合はフルオロウラシル関連レジメン(S-1、mFOLFIRINOX、ナノリポソーマルイリノテカン+5-FU/ロイコボリン)、フルオロウラシル関連レジメンを行った場合は、ゲムシタビン関連レジメンを行うことが提案されている。

 ナノリポソーマルイリノテカン+5-FU/ロイコボリン療法は、第3相試験NAPOLI-1で、5-FU/ロイコボリン療法と比較して良好な成績が示された。OS中央値は6.1カ月 vs. 4.2カ月(ハザード比0.67、p=0.012)、PFS中央値は3.1カ月 vs. 1.5カ月(ハザード比0.56、p=0.0001)、奏効割合は16% vs. 1%と報告されている(Lancet 2016; 387(10018): 545-557)。日本のランダム化第2相試験では、担当医判定の成績がPFS中央値 2.7カ月 vs. 1.5カ月(ハザード比0.60[95%信頼区間0.37-0.98])となり、2020年6月に保険承認された(Cancer Med. 2020; 9(24) : 9396-9408)。

 この治療法について池田氏は自身の使用経験から、ナノリポソーマルイリノテカンが徐放性の薬剤であるために、副作用が遷延することが若干、懸念されるものの管理可能であり、効果は良好との印象を受けているという。

再発抑制のために切除可能膵がんに対する周術期治療は受けた方がいい

 切除可能膵がんでは、周術期補助療法として、術前にゲムシタビン+S-1療法を行い、術後にS-1療法(6カ月)を行うことが標準治療となっている。

 視聴者からの「術後療法は必ず行わなくてはならないのか」との質問に対して池田氏は、「再発を抑制することが示されており、受けることが可能であれば行うべき」との考えを示した。ただし体調不良などの場合には、体力消耗により予後不良となる場合もあるため、体調が回復してから行う方がよいとした。また、より有望なS-1療法が標準となっているが、ゲムシタビン単独療法についても術後補助療法としての有用性は示されているため、S-1療法で下痢などの副作用が管理できない場合、ゲムシタビンを使うことも考慮してよいとした。

がんは細胞の設計図に異常が生じ、細胞が秩序なく増殖する病態

 薬物療法は着実に進歩しており、今後も更なる発展が期待できる(池田氏)が、膵がんにおいてはさらに、遺伝子の変化に合わせた個別化医療(ゲノム医療)も行われるようになってきている。膵がんのゲノム医療については、森實千種氏(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科医長)が講演した。

 森實氏は、がんの領域で、なぜゲノム(DNAの塩基配列にあらわされた遺伝情報のすべて)が重要なのかについて、「がんは、“細胞の設計図”と言われるゲノムの異常により細胞が秩序なく増殖してしまう病態であるため」と説明した。設計図に異常があることがわかれば、前もって早期診断や予防的治療といった対策をとることができる。また、設計図のどこが異常であるかがわかれば、そこを重点的に治療することができる可能性がある。

「生殖細胞系列病的バリアント」と「体細胞病的バリアント」

 上の世代から下の世代に見た目や形質が伝わっていくように、がんになりやすい体質が引き継がれることで起きるがん(遺伝性腫瘍)があることが知られている。

 遺伝性腫瘍を起こすような遺伝子の異常は、「受精卵の段階ですでに父か母から引き継いでいる正常細胞の個性」であり、生殖細胞系列の「遺伝子変異」または「病的バリアント」と呼ばれる(最近、バリアントという言葉が使われるようになっており、特に生殖細胞系列変異については、日本でも「バリアント」を使うことを推奨するガイドラインもある)。

 生殖細胞系列病的バリアントを調べる主な目的は、本人や家族の発がんのリスクに関する情報を得ることである。たとえば、乳がんや卵巣がんになりやすい遺伝子の異常を持っていることがわかると、一般の人よりも濃厚な検査をしたり、予防的に乳房や卵巣を切除するといった治療を選択できる。

 一方、タバコを吸うと肺がんになりやすい、紫外線を浴びすぎると皮膚がんになりやすい、ウイルス肝炎で肝臓がんが出来やすいといった、何らかの要因によって後天的に起きる遺伝子の異常は「体細胞病的バリアント」と呼ばれる。がん細胞自体で起きている遺伝子の異常であり、検査の主な目的は、治療法を探すことである。

第一度近親者間の2名以上に膵がん罹患歴がある家系は「家族性膵がん」

 以前から、膵がんが多発する家系があることが知られていて、膵がんにかかった第一度近親者間の2名以上に膵がん罹患歴がある家系は「家族性膵がん家系」、その家系の人が膵がんを発症した場合「家族性膵がん」とされる。その頻度は膵がん患者の5-10%程度で、膵がん発症リスクは一般の人の9倍に上る。

 BRCA2、ATM、BTCA1、CDKN2A、PALB2、MMR、STK11、PRSS1といった生殖細胞系列の遺伝子に病的バリアントが認められると、膵がんの発症リスクが高くなることがわかってきている。早期診断や新しい治療法の開発につなげるべく、日本(JFPCR)でも世界でも登録制度が立ち上げられ、さまざまな情報が蓄積されつつあるという。

 また国内では、家族性膵がん家系または遺伝性腫瘍症候群に対する早期膵がん発見のためのサーベイランス方法の確立を目指して、DIAMOND試験が行われている。半年ごとに超音波内視鏡検査とMRIを行うサーベイランス法の有用性を検討するもので、2016年4月から国立がん研究センターで開始され、2020年6月から多施設共同研究として全国45施設で実施されている。

オラパリブによる膵がん初のゲノム医療

 生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子(gBRCA1/2)病的バリアント陽性の場合、血縁者のがんのリスクがわかるだけではなく、PARP阻害薬オラパリブによる治療が可能である。オラパリブは、現時点において、「膵がんで唯一、“ものになった”ゲノム医療」(森實氏)である。

 オラパリブは、gBRCA1/2病的バリアント陽性の遠隔転移を有する膵がんで、プラチナ系抗がん薬を含むレジメンで病勢が制御されている患者を対象とする第3相試験POLOにおいて、維持療法(効いている状態をできるだけ長期間維持する)としての有用性が示され、保険適用された。オラパリブ群のPFS中央値は7.4カ月で、プラセボ群の3.8カ月と比較して有意に延長した(ハザード比0.53[95%信頼区間0.35-0.82]、p=0.004)(N Engl J Med. 2019; 381(4): 317-327)。ただ「現時点では(全)生存期間の延長が科学的に証明されているわけではないことは理解しておく必要がある」(森實氏)。

がん遺伝子パネル検査で治療対象となる遺伝子異常をみつける

 オラパリブが投与できるかどうか、gBRCA1/2病的バリアントを調べる検査(BRACAnalysis診断システム)も保険適用となっている。また2019年から、がんの治療法を探すゲノム検査として、一度に多くの遺伝子について情報を得ることのできる「がん遺伝子パネル検査」(FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル、OncoGuide NCCオンコパネルシステム)が保険診療で使えるようになった。ただ対象は「標準治療がない固形がん」、「局所進行もしくは転移があり標準治療が終了した(終了見込みを含む)固形がん」に限られる。

 その後、血中に漏れ出た腫瘍細胞由来の遺伝子を捉えるリキッドバイオプシーという方法でのがん遺伝子パネル検査(FoundationOne Liquid CDxがんゲノムプロファイル)も保険適用となり、8月から日常臨床で使うことができるようになった。がん組織を検体とする検査と比べて、採取が容易、結果判明までの時間が短い、組織検体による検査が困難な場合でも可能といったメリットがある。

 しかし現在、その実施は、「医学的な理由で固形腫瘍の腫瘍細胞を検体とすることが困難な場合」、「固形腫瘍の腫瘍細胞を検体として実施したパネル検査で包括的なゲノムプロファイルの結果を得られなかった場合」に限られる。また実際に遺伝子異常があっても、リキッドバイオプシーでは陽性とならない場合もあるなど、感度に関しては、今後、十分な検討が必要だと考えられる。

 森實氏によれば、将来的な活用方法はいろいろと論じられているが、当面は、理由があって腫瘍組織での遺伝子パネル検査ができない場合のレスキューという使い方が現実的だという。

ゲノム解析結果にマッチした治療を受けることができれば予後良好

 海外の大規模なプロジェクトKnow Your Tumorプログラムでは、遺伝子異常にマッチした治療を受けた患者では、マッチしない治療を受けた患者や遺伝子異常がみつからなかった患者と比較して、予後が良好だったことが示されている(ASCO 2019 #4138)。

 がんゲノム検査の結果については、遺伝子異常の意義づけや、どのように診療に生かすべきかについて、専門家集団からなるエキスパートパネルで議論され、患者に説明される。ただ、みつかった遺伝子異常のすべてに対して、保険適用となっている薬が存在するわけではない。

 Know Your Tumor プログラムでは、治療対象となりうるような遺伝子異常が26%の患者にみつかったと報告されたが、この数値は、「治療に反映できそうである」という定義や、その国でどういう治療にアクセスできるかという状況に大きく左右される。日本では、膵がんに限らずエキスパートパネルで提示された治療薬を投与できた患者は、7467人中607人、8.1%だったというデータがある(第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議資料)。「まだまだこの検査で、みなさんがHappyになっているわけではない」(森實氏)。

膵がんのビッグ4遺伝子に対する治療薬は開発されるか

 膵管の上皮ががん化していく様を調べた研究から、膵がんではほとんどの場合、BIG4遺伝子と言われるKRAS、CDKN2A、TP53、SMAD4のいずれかに異常が見つかることが報告されている(Gastroenterology. 2019; 156(7): 2041-2055)。特にKRAS遺伝子の異常は87%に認められるという(Clin Cancer Res. 2018; 24(20): 5018-5027)。しかし今のところ、ビッグ4遺伝子の異常に有効な治療薬はみつかっていない。

 ただ、希望の持てる研究成果も徐々に報告されつつあるという。肺がんにおいて、KRASの異常のうちG12Cというサブタイプ(KRAS G12C)に対してsotorasibという新しい薬が有効であると報告された(CodeBreak 100試験:N Engl J Med. 2020; 383(13): 1207-1217)。英国では今年10月、sotorasibがKRAS G12C陽性の肺がんに対して承認された。この試験では、肺がん、大腸がん以外を対象とするパートもあり、膵がん患者は12人登録されて1人がPR(腫瘍縮小)を得ている。ただ、膵がんのKRAS変異におけるKRAS G12Cは2-3%程度であり、今後、膵がんをターゲットとして開発されたとしても、対象となる患者はごく一部となりそうだ。

 KRASに変異がない(野生型と呼ばれる)膵がんに関しても研究は進められている。最近、少数例を対象とする研究ではあるが、zenocutuzumabという抗体薬が、膵がんをはじめとするNRG-1融合遺伝子陽性の固形がんに対して、良好な効果を示すことが報告された(ASCO 2021 #3003)。NRG-1融合遺伝子はKRAS野生型の膵がん患者に多いとされている。

 このように、いずれも対象となる患者の割合は少ないが、「膵がんに対しても、少しずつ治療方法が見つかってきている」(森實氏)。

がん種横断的治療薬の対象となる患者は多くない

 いくつかの、がん種横断的治療薬(該当する遺伝子異常があればがんの種類を問わず使うことができる)も保険適用されているが、膵がんでは、それらの異常を持つ患者の頻度は高くない。

 NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対しては、エヌトレクチニブまたはラロトレクチニブを使うことができるが、膵がんで対象となるのは0.56%という報告がある。また、高頻度マイクロサテライト不安定性がある(MSI-H:DNAを修復する機能が低下している)固形がんに対しては、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブを使うことができる。しかし日本でまとめられた報告によれば、膵がんにおけるMSI-Hの割合は0.74%だという(関連記事)。

 森實氏は「膵がんでゲノム医療が役に立つ場面はまだ限られているが、今後に期待したい報告も出始めている、夢のある医療である」と話した。

さまざまな場面で有用だが十分利用されていない放射線療法

 放射線療法は、外科療法、薬物療法と並んで、がんの集学的治療の3本柱の一つである。しかし、唐澤久美子氏(東京女子医科大学放射線腫瘍学講座教授・基幹分野長)によれば、日本ではあまり利用されておらず、欧米で50-70%であるのに対して、日本は30%に届かないような状況だという。

 「被爆という不幸な歴史があるために、放射線イコール体に悪いということが、日本人に染み付いているのではないか」。その一方で、X線を用いた検査であるCTは、世界でもっとも多く行われており、治療となると使わないというのは、不思議な現象だという。「上手く使えばもっと治るのに、患者が損をしているということ」と唐澤氏は話す。
 膵がんでは、術前照射や根治照射として、また術後再発や転移に対して、抗がん薬との併用で放射線療法が行われている。

 早期膵がんでは、外科的切除が標準であり成績もよいため、「手術ができるのであればした方がいい」。

 局所進行の切除不能膵がんでは、放射線療法と薬物療法を併用する根治的化学放射線療法が標準治療の一つとなっている。それには2つの理由があり、化学療法と併用することにより放射線療法の効果が増強されることと、全身療法である化学療法によって転移を抑制するためである。

 遠隔転移がある膵がんでは全身療法である薬物療法が適切だが、小さな転移が多くある場合は難しいが、1個2個といった転移であれば、その局所に対する照射は可能だという。ただ、「たとえば3個の転移に対して、ひとつずつ照射して、その局所の腫瘍がなくなっても、他の臓器への転移の可能性があるため、全身療法(薬物療法)を行い、それでも残ってしまった病変に照射をするといった作戦がいい」と唐澤氏は説明した。

なぜ放射線でがんを治療できるの?

 放射線療法はX線、γ線、粒子線などのさまざまな放射線を用いて病気(主にがん)を治療する方法である。1895年のレントゲンによるX線発見の翌年からすでに行われ、1899年には放射線療法での治癒例が報告されている。1950年代には、現在使われているような高エネルギーX線治療装置が普及し、体の奥深くにある膵臓を含め、体のどの部位にでも十分な線量を照射することができるようになっているという。

 放射線を照射すると、細胞のDNAは、間接的あるいは直接的に切断される。正常細胞にはDNA修復機能があって同じ傷を受けても回復できるが、がん細胞は正常の細胞と比べてDNA修復機能が弱く、放射線を毎日少しずつ照射する(分割照射)ことで、細胞死に導かれる。がん細胞と正常組織の放射線感受性の差を利用して、がんを選択的に殺すことにより、がんを治療するわけだが、1回の線量が少なすぎるとがん細胞を殺すことができず、多すぎると正常細胞も死んでしまう。そのため、正常組織の傷害が許容できる範囲で、がんを制御できるように、線量を調節する必要があるという。

 放射線療法の方法として、もっとも一般的なものは、体の外から放射線を照射する外部照射で、用いられる放射線のほとんどは高エネルギーX線である。通常、分割照射では1日1回2グレイを週5回照射する。腫瘍治癒線量は、がんのミクロの遺残(温存術後照射など)は50グレイ、がん根治照射照射(手術なしの場合)では60〜70グレイで、正常組織の耐容線量は臓器によって異なるという。治療は、線量や照射部位についての綿密な計画を立てた上で行われている。

照射法の進歩により効果は増強、副作用は軽減

 がん細胞と正常細胞で放射線感受性が違うとはいえ、正常細胞にはできるだけ放射線が当たらないことが望ましい。そのため、照射法についても、さまざまな改善がなされてきた。

 1957年には病巣の形に合わせて照射する原体照射法、1991年には、体のいろいろな方向から強さを変えながら照射することによって病巣(腫瘍)に十分な線量を照射する一方で、正常組織には多く照射しなくて済む強度変調放射線療法(IMRT)が開発され、効果は増強され、副作用は軽減された。現在では、ほとんどの施設でIMRT、定位放射線治療(大線量を1回で照射するSRS/複数回に分割して行うSRT/体幹部定位照射SBRT)、画像誘導放射線療法(IGRT)などの高精度照射が標準的な外部照射として行われているという。

 定位放射線療法は多方向から放射線を集中させる照射方法で、1回の照射量が15-25グレイあるいは3回で25-35グレイと多く、1回2グレイあるいは1.8グレイを照射する通常のX線治療と比べて治療期間が短いという利点がある。ただし、胃や十二指腸などの放射線に弱い臓器から距離がある腫瘍にのみ使用可能である。膵がんを含む体幹部にある臓器では体位の固定が難しく、呼吸の影響で腫瘍が動いたりするため、個々の患者用に作成した固定用具に寝た状態で照射する(SBRT)。

 またIGRTというのは、画像情報を用いて位置合わせを行う技術で、患者が治療台に横たわった状態で撮影した画像から得た腫瘍や正常臓器の位置情報をもとに、治療時の位置を補正する。骨や体内に小さな金属マーカー等を留置し、放射線治療機や放射線治療室に搭載されたX線透視で位置を確認したり、CTが併設された放射線治療機(コーンビームCT)が用いられたりする。

線量集中性と生物学的効果が高い粒子線治療

 放射線の線量分布は、放射線の種類によって異なり、X線は体表から数センチで最大となる。またγ線はこれよりやや浅いところで多くなるため、皮膚炎などが起こりやすい。これに対して粒子線(陽子線や重粒子線)は、運動エネルギーを失いながら進み、運動エネルギーがなくなった位置で残りのエネルギーを一気に放出する(ブラッグピークという現象)ため、その深さを腫瘍の位置に合わせて照射することで高い線量集中性が得られる。陽子線は質量が小さいので横ぶれがあるが、重粒子線は質量が大きく、いわば「大きい爆弾を加速して飛ばしているようなもの」で、横振れもないという。

 粒子線の生物学的効果(RBE)は、陽子線がX線の1.1倍、重粒子線は約3倍で、通常のX線治療では十分な効果が得られない悪性黒色腫や肉腫(骨肉腫、平滑筋肉腫など)、脊索腫、腺癌などにも有効だという。ただ強力であるがゆえ、重粒子線は胃や小腸に浸潤しているような腫瘍に対しては使用できない。

 陽子線の場合、50-56グレイ相当を25-28回、59.4グレイ相当を33回、60-67.5グレイを20-25回といった形で分割照射するため、治療回数はX線とあまり変わらない。一方、重粒子線は52.8-55.2グレイ相当を12回(週4回法)に分けて照射するため、治療期間は短くなる(3週間)。

 また、X線の場合、1回の治療ですでに周りの正常組織がある程度照射されているので、2回行うことは難しいが、粒子線は線量分布が非常に限局されているため再度の照射も可能である。重粒子線治療後の局所再発に対して、重粒子線治療を行うこともあるという。

 高い線量集中性と生物学的効果を持つ重粒子線の効果は高い。局所進行膵がんに対する化学放射線療法の効果は、紹介されたX線についての4報、陽子線についての2報、重粒子線についての2報によれば、生存期間(OS)中央値がX線で11.0〜16.2カ月、陽子線で18.4カ月、重粒子線では24〜24カ月超、1年生存率がX線で50〜72%、陽子線は61〜76.3%、重粒子線は80〜90%、2年生存率はX線12〜30%、陽子線31%、重粒子線48〜57%といった成績となっている。

日本が最新技術を持つ粒子線治療だが膵がんには保険適用されていない

 日本には多くの粒子線治療施設がある。特に重粒子線治療は日本で始まった治療で、世界13カ所の重粒子線治療施設のうち7カ所が日本にある。設備が大きいため東京にはなく、日本全国に均等に分布しているわけではないが、人口あたりの施設数は世界一であり、「世界の中で、日本人が一番恵まれている」(唐澤氏)。

 粒子線治療は、2018年に一部の疾患で保険適用となったが、現時点で膵がんに対する適用は承認されておらず、先進医療として行うことになる。そして先進医療の対象となるのは、他の根治治療が困難な臨床病期I、IIA、IIB、III期の原発性膵がんに限られる。

 また重粒子線治療は現在、希望すれば誰もが受けられる状況にはない。主治医から重粒子線治療施設に紹介状を送ってもらい、本当に必要だと判断されてOKをもらってはじめて予約・受診できるという。

元気がなくても高齢でもできる局所治療、放射線療法を有効に使おう

 「放射線療法の利点は、まず手術をしないということである」「がんの手術は、体にとっては大怪我である。また不必要な臓器はないはずで、臓器の機能と形態を温存できることが放射線療法の利点のひとつである」(唐澤氏)。

 「どんなに元気がない方でも、どんなにお年を召していてもできる。100歳でも問題ない」という。また、まとまったデータがあるわけではないが、唐澤氏は、腎機能障害で薬物療法が難しいなど臓器機能が十分でない患者であっても、何らかの放射線療法を使うと効果があるとの印象を持っているという。また大きい腫瘍は転移しやすいため、先に薬物療法を行って小さくなってから行う方がいいが、腫瘍の大きさの制限もない。

 唐澤氏は、放射線療法は手術と並ぶ有用な局所療法であり、不明な点は主治医や放射線腫瘍医に相談するなど、正しく知って有効に使って欲しいとした。


第52回日本膵癌学会大会市民公開講座より(1)
ここまできた膵がんの早期診断・早期治療

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