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レポート

2021/11/23

第52回日本膵癌学会大会市民公開講座より(1)

ここまできた膵がんの早期診断・早期治療

ステージ0で切除できれば5年生存率90%

中西美荷=医学ライター

 最も予後の悪いがんの一つとされる膵がんだが、近年、その診断や、薬物療法を中心とする治療は大きな進歩をみせている。日本の膵がん治療のトップランナーが講師として招かれた第52回日本膵癌学会大会市民公開講「膵臓がんの最前線―私たちは今、何が可能になったか—」から、膵がんの診断、治療の現状を2回に分けて紹介する。

 座長で第52回日本膵癌学会大会会長の清水京子氏(東京女子医科大学消化器内科教授)は冒頭、「一般に予後が不良とされる膵がんだが、ステージ0の早期発見で手術をした場合の5年生存率は約90%と良好である。予後改善のためには早期発見・早期治療が非常に重要である」と話した。第1回は早期診断と外科療法(手術)について。


 膵がんの早期診断について講演した菊山正隆氏(がん・感染症センター東京都立駒込病院消化器内科医長)は、「早期発見だけが、がんによって命を奪われないようにするための具体的な方策だと思っている」と話す。

糖尿病や腹痛の背後に膵がんが隠れていることがある

 膵臓は胃の後側、腹部大動脈の前側に、十二指腸に挟まれるような形で存在し、その中心に葉脈のように膵管が走っている。膵臓の機能は内分泌と外分泌に分かれ、内分泌は膵臓で作られたインスリンなどが、直接、血液の中に流れ込むシステム、外分泌は、膵管を通して、消化液である膵液(1日約1リットル)を十二指腸に流し込むシステムである。

 膵がんは、膵管の壁の内側を覆っている膵管粘膜から発生するがんで、「膵管がん」とも称される。膵がんができると、膵臓の形や機能に変化が生じたり、何らかの症状が現れる。どんな時に、膵がんが疑われるのだろうか?

 がん細胞が増えると膵臓の細胞が破壊され、その結果、糖尿病が発症したり悪化したりする。そのため、50歳以上での糖尿病の発症、あるいは糖尿病治療中にもかかわらずHbA1cが急激に上昇した場合は、膵がんの発症を疑う必要があるという。

 がんができて膵管が詰まると、膵管内圧が上がって腹痛が起きたり、急性膵炎を発症したりする。たとえ軽い症状の胃痛であっても、がんが起きていることがある。それは、膵臓を含む腹部の神経が集まる神経節が胃の近くにあるため、膵臓の症状を胃の症状だと感じることがあるためだという。菊山氏によれば、胃痛で胃薬が効かない、あるいは通常の胃内視鏡検査を行っても異常がない場合、膵臓の病気も考える必要がある。

 急性膵炎の2大原因はアルコールと胆石だが、膵がんによって発症することもある。激しい腹痛が起き、血液中のアミラーゼ(膵臓で作られる消化酵素の一種)が異常値となる。膵がんが原因だった場合、発症時の画像所見で膵がんの影が見えなくても、2年以内に見えるようになることがあるため、2年間は膵がんに注意して経過観察する必要があるという。

 膵管が太くなる(膵管拡張)、あるいは膵管が袋状に拡張する(膵嚢胞)といった画像所見の異常を認めた場合も、膵がん発症に注意しなくてはならない。

 また、症状がない場合の診断として、CA19-9という腫瘍マーカーが早期診断に有効だという。CA19-9は、数ある腫瘍マーカーの中でも膵がん診断の感度に優れ、信頼性が高いことが報告されている。

IPMNは膵がんのハイリスク群、超音波内視鏡検査で早期発見を

 膵がんに関わる遺伝子異常を持っている人は、症状がなくても膵がんの発症リスクが高いことがわかっている。両親や兄弟など、身近に膵がんにかかったことがある人がいる(膵がんの家族歴がある)人や、膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)の診断を受けている人は、膵がんを発症するリスクが高い。こうした膵がんのハイリスク群に当たる人は、定期的(6カ月毎)に検査を受けることが推奨される。

 IPMNは、遺伝子異常によって膵管粘膜細胞が腫瘍化し、本来は持っていない機能である粘液産生能力を獲得して粘液を作り、作られた粘液が嚢胞状に溜まったものである。膵嚢胞の中でもっとも高頻度であるために、IPMNでない膵嚢胞も、しばしばIPMNと診断されるという。そして、IPMNの診療ガイドラインでは、「膵嚢胞が30mm以上の場合には悪性化(がん化)が示唆され外科治療を考慮する」とされていて、通常、MRIなどを用いて、嚢胞の大きさだけで経過観察される。

 そのため、「30mm以下であれば大丈夫というふうに病院で言われている方も多いのではないか」と菊山氏は推察する。実際には、「膵嚢胞の大きさは粘液を作るか作らないかで決まり、粘液を作らない嚢胞は30mmという大きさに至らない小さな嚢胞である場合が多い。しかし、膵管粘膜細胞が腫瘍化しているということにおいては全く同じで、膵嚢胞を認める場合は、大きさに関わらず膵管粘膜細胞が腫瘍化していることを表す」という。

 さらに、IPMNに関わる遺伝子の異常は、膵がん発症に関わる遺伝子異常と共通のものであるため、膵嚢胞がある人は、その大きさにかかわらず膵がんに関わる遺伝子異常を持っていると考えられる。そして膵管粘膜の腫瘍化は、一カ所に限らず膵臓全体に何カ所にでも起こってくるため、膵嚢胞がある膵臓では、膵臓のいろいろな部位からがんが発生する危険性があるという。

 菊山氏はIPMNを穴があいた壁の向こうにいるネズミにたとえ、「いつ壁の穴から出てくるかはわからないわけで、(検査は)それを見張っているというような感覚に近い。患者さんにとって(症状がないのに定期的な検査を受けることは)、大変ではあるが、半年ごとに検査してほしい。遺伝子異常そのものを治せる日が来るまでは、がまんして続けていただければと思う」と話した。

CTやMRIで映し出されないがんの早期診断を超音波内視鏡検査で

 検査方法としては、一般にCTやMRIが行われるが、外科治療(手術)の対象となるような1cm、2cm以下の小さな膵がん(早期の膵がん)は、これらの画像検査では映し出されない可能性が大いにある。菊山氏によれば、「早期膵がんの診断としては超音波内視鏡(EUS)が有効」である。また造影CTは被曝量も多く、造影剤のアレルギーの問題もあるためメリットは少ないとし、「EUSだけというのは、色々な意味において少し危険性もあるので、6カ月ごとの超音波内視鏡を基本とし、1年から1年半に1回はMRIも行っていただければいい」との考えを示した。

 EUSは、機器も比較的高価で技術的にも難しい部分があり、現在のところ、通常の上部消化管あるいは下部消化管内視鏡のようにどの施設でもできるというものではないことが課題とされる。菊山氏は「これから少しずつ世の中に広まって、どんな方でも受けていただける環境ができることを期待している」と話した。

幻のがんと呼ばれるステージ0の膵がんは診断可能か?

 膵管の粘膜から発生したがんは、膵管から出て進行することによって一般的な膵がんを形成するが、膵管内にとどまっているステージ0の状態である「上皮内がん」は、幻のがんとも呼ばれる。このステージ0の状態で診断することは可能なのだろうか? 菊山氏は「ステージ0の早期膵がんの診断・治療は可能」と話す。

 菊山氏によれば、ステージ0の膵がん発見のきっかけになるのは、何らかのチャンスで撮られたMRI、CT画像である。膵管の近くに、まるでそこだけかじったような組織の欠損があったり、膵管を対称軸とする上下あるいは左右の非対称性が認められる場合、膵がんが疑われる。菊山氏らの研究では、このような所見(医学的には限局性膵萎縮[FPPA]と呼ばれる)が認められた患者で、連続膵液細胞診(SPACE)によりがん細胞が検出され、FPPAの近傍に膵管内にとどまるがんが発見されたという。

 SPACEは、内視鏡を使ってチューブの一端を膵管に入れ、もう一端を鼻から出して膵液の一部を体外に引き出し、がん細胞がないかどうかを繰り返し調べる検査である。精度90%以上という非常に精密な検査で、この検査によって、ステージ0のがんである上皮内がんの診断率が大きく向上したという。

 したがって、画像検査でFPPAを認めた場合には、「連続膵液細胞診ができるような施設で、詳しく調べてもらうことが推奨される」(菊山氏)。

ステージ0の膵がんに対する手術とは?

 2017年まで駒込病院で菊山氏とともに膵がん診療に携わり、手術を行なってきた本田五郎氏(東京女子医科大学消化器病センター消化器・一般外科教授)も、「術前治療の進歩などにより、現在、ステージIであれば5年生存率が50%を超えるところまで期待できる状況になってきている。それでもまだ50%であり、膵がんそのものの治療成績を上げるためには、本当の早期膵がんをもっとみつけなければいけない」「いわゆるステージ0の上皮内がんをいかに見つけるかが、今、大事なテーマのひとつになっている」と話す。

 本田氏は、2018年10月から2021年4月に、膵臓実質の萎縮(FPPA)や主膵管の不整(拡張・狭窄)、分枝膵管の拡張といった、がんの周囲で起こると考えられる変化(間接的所見)から膵がんが疑われた76名に対して手術を行ってきた。現在、73名の病理組織診断が完了しており、7割以上が上皮内がん(ステージ0)、もしくはもう少し進行したステージI初期の診断だった。

 ただ一部、がんの一歩手前の「異型上皮」あるいはIPMNと診断された患者も含まれており、本田氏は「非常に診断が微妙で難しいということがお分かりいただけると思うが、こうなると(ハイリスクとはいえがんでない場合もあるとすると)、やはり、われわれ外科医はできる限り患者さんの負担が少ない手術をしないといけない」と話した。

膵頭十二指腸切除の腹腔鏡下手術は膵液瘻の危険性があり勧められない

 膵臓の手術は、病変が膵頭部側であれば膵十二指腸切除術、膵体部よりも離れたところにある場合には膵体尾部切除術となる。開腹すると、膵臓は胃や大腸の後に隠れている。膵頭部側は、お腹の真ん中、表面にあるが、膵体尾部は、かなり奥深いところにあって、非常に術野が取りにくいという。

 本田氏は、開腹手術が「野球盤を上から見て野球をしているような状況」であるのに対して、術後の傷も小さく負担の少ない(低侵襲)手術として注目されている腹腔鏡下手術は膵臓の裏側もみることができ、「ドーム球場の中で、グラウンドに降りて野球をしているような状況、かつ、開腹手術とは野球盤と本物の野球ぐらいの違いがあって、ミクロの決死隊のように、臓器に非常に近いところにいって、拡大してみることができるので、細かい手術ができる」と説明した。

 腹腔鏡下手術の方がいいことばかりのようにも思えるが、膵がんの手術では、切除する部位によって必ずしも腹腔鏡下手術が「患者の負担が少ない手術」であるとはいえないという。それは「膵液瘻(膵臓と腸のつなぎ目から膵液がもれること)」という、膵臓の手術で一番難しい問題があるためだ。

 膵管を通って十二指腸に流れていく膵液の成分は、糖質を分解するアミラーゼ、蛋白質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなど、いずれも非常に活性の高い消化液で、もしこの消化液が、膵臓を切ったところから体の中に漏れると、非常に大きなトラブルになる。膵頭十二指腸切除術では、膵臓、十二指腸、胆管を切除するが、その後、膵液が腸に流れるように、膵臓と腸をつなぐ再建術(膵空腸吻合術)が必要である。

 本田氏らが2016年6月から2018年2月に行なった膵頭十二指腸切除術における膵液瘻の発生率は、経験が浅い初期には開腹手術で21.3%、腹腔鏡下手術で19.8%と差はなかったが、経験数が伸びるごとに開腹手術で成績が向上した一方で、腹腔鏡下手術ではあまり変わらず、開腹手術3.9%に対して腹腔鏡下手術18.2%という成績となった。

 本田氏らは、70例まで行った2018年9月、「自分がこの手術を受けようと思えるか?」との思いから、腹腔鏡下での膵十二指腸切除術を中止することとした。

 腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(LPD)は、2016年から保険適用となっている。さらに2020年には、腹腔鏡下でのリンパ節・神経叢郭清等を伴う腫瘍切除術が保険適用となり、がんの手術やロボット支援下での手術も保険診療が可能となった。

 本田氏は、「膵液漏れが起こると、患者さんは手術後にいろいろと大変なのだが、それはあまり考慮されずに腹腔鏡手術が保険適用にまでなっているということは問題ではないか」と指摘し、「腹腔鏡下十二指腸膵頭切除術では、膵液が漏れないことが1番の低侵襲」「今、私は腹腔鏡での膵頭十二指腸切除は、患者さんにお勧めしておりません」と話した。

腹腔鏡下膵体尾部切除術(LDP)は施設を選べば低侵襲で安全

 一方、腹腔鏡下膵体尾部切除術(LDP)は、術式も標準化されて安定した成績が得られるようになっている。特に症例数が多い施設の手術成績は安定しており、たとえば韓国、米国の症例数が多い施設の平均手術時間はおおよそ4時間(韓国3.9±1.5時間、米国3.9±0.2時間)、数多くの手術を手がける本田氏らの成績は3.5±0.3時間である。膵液瘻の発生率も韓国7%、米国9%で、本田氏らの施設ではさらに低く3.2%、手術死亡はそれぞれ0%、3%、0%である。

 本田氏らが2014年8月から2021年5月にLDPを行った190例では、当初6例の膵液瘻発生があったものの、その後の連続138例では全く発生していない。本田氏は「膵体尾部切除は施設を選んで受ければ、低侵襲手術を安全に受けることができる。一方、膵頭十二指腸切除術は施設を選んで受けるとしても、ロボット手術を含む低侵襲手術の安全性は確立されていないので、よく考えて(手術の方法を選んで)ほしい」と話した。

切除可能なステージI/IIでも術前に薬物療法を受けた方が予後良好

 視聴者から、切除可能かどうかの判断の目安についての質問があり、本田氏は、「切除可能の定義はいろいろあるが、まずは外科的に切除可能かどうか、見た目できれいに取れるかという判断で、肉眼的に遠隔転移がないこと、膵臓の裏を通っている腸や胃に流れる動脈にがんが巻きついていない、染み込んでいないこと」と説明した。さらに、肉眼もしくはCT、MRI等で転移がみつからなくても、腫瘍マーカーが高い場合には、特に肝臓の転移が起きている可能性が高いことから、腫瘍マーカーも重視されるという。

 そして、「(外科的に)切除可能かどうかの定義だけで判断してしまわない方がいいという部分もあるので、よく主治医の先生と検討していただきたい」「いわゆるステージIあるいはIIの初期の切除可能例であっても、術前に化学療法を受ける方が予後良好であるため、一定期間の術前療法を行ってから手術を受けることが、お勧めの選択だとご理解頂ければと思う」と話した。

 逆に、はじめに切除不能と診断されても、一定期間、薬物療法を行うことで、切除が可能となる患者もいる。ただし腫瘍マーカーが正常化し、少なくとも半年、できれば1年近く抗がん薬が効いて安定した状態が続いていることが、手術を行う大事な条件だという。

 本田氏は「私は外科医なので、手術をお勧めしたい気持ちもないことはないのだが、やはり抗がん薬が(進歩して)良くなって、膵癌の予後が良くなってきているのは事実なので、メインの治療はやはり抗がん薬、その中で、うまく効いて非常によくコントロールされている方は手術をして、元々の病気を取り除くことで、抗がん薬治療もやめられる方向にいくというのが、理想的な流れではないか」と話した。


 次回はゲノム医療を含む薬物療法と放射線療法について。

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