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レポート

2021/11/16

自分らしく生きるために―知っておきたい・がん介護 Vol.8

身体機能を維持し生活の質を高めるために活用したい「訪問リハビリ」

福島安紀=医療ライター

 がんが進行すると、心身の痛み、息苦しさ、気力や体力、食欲低下、だるさなどが生じ、これまで通り動けなくことが多い。また、がんの治療によって身体機能が低下したり損なわれたりすることもある。そういった状態になったとしても、日常生活を維持し、患者自身がその人らしい生活を送るために、がんの医療現場でも近年、リハビリテーション医療(リハビリ)が広がってきた。在宅療養中の患者が受けられる「訪問リハビリ」は、どのように活用したらよいのか。
 日本訪問リハビリテーション協会会長で、「神奈川リハビリ訪問看護ステーションあおば」の理学療法士、宮田昌司さんに、がんの患者を対象にした訪問リハビリの目的と活用法を聞いた。



患者のニーズと自宅の環境に合わせたリハビリを提供

 訪問リハビリは、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などの専門職種が、訪問診療を行う医師、訪問看護師などと連携しながら、定期的に利用者の自宅を訪問し、リハビリを提供する医療サービスだ。基本的に、医療機関への通院やリハビリ施設への通所ができない人が対象になる。

宮田昌司さん

 「がんの種類や体の状態によりますが、人生の最終段階に差しかかっているがんの患者さんのリハビリは、体の機能をできるだけ落とさないようにし、最後まで1人でトイレに行ったり食卓に家族と一緒に座って食事を共にしたりすることなど日常生活の維持が目的になります。また、例えば、家族のために料理や記念のものを作りたい、疎遠になっていた親戚や友人に会いたいなど、患者さん本人の希望を聞いて、それを実現する方法を一緒に考えて提案・サポートし、身体的、精神的、社会的にも生活の質を高く保つことを目指します。在宅療養を始める際に、手すりの設置位置など環境を整えるために、理学療法士や作業療法士などが訪問することもあります」と宮田さんは話す。

 訪問リハビリを受けるメリットは、個々の患者の心と体の状態に合わせ、日常生活を送っている自宅でリハビリを受けられることだ。同居をしている家族が介護負担を軽減する方法や福祉用具の使い方などのアドバイスも受けられる。

理学療法士と作業療法士、言語聴覚士がそれぞれの専門性を発揮

 訪問リハビリを実施する専門職種には、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士(ST)という3職種の国家資格がある。理学療法士は、主に、身体機能の改善・維持、動ける範囲の拡大を目指したり、呼吸などのトレーニングを提供したりする職種。作業療法士は、食事、着替え、パソコンを使う、料理、掃除など日常生活に必要な動作を福祉用具も活用しながらできるようにサポートする職種だ。言語聴覚士は、がんの進行や治療によって発声・発語などに障害が生じた患者が周囲の人とコミュニケーションを取れるようにしたり、食物がのみ込みにくくなったりした患者でも安全に食事がとれるようにサポートする(下表)。

 「リハビリというと、手足を動かす理学療法をイメージする人が多いかもしれませんが、作業療法は、畑仕事や料理などの作業によって心の安定につなげる精神科のリハビリがルーツになっており、精神的に落ち込んでいることも多いがんの患者さんへのリハビリでも重要な役割を果たします。作業療法士は、体や心の問題でできにくくなっている日常生活の動作を福祉用具などいろいろな手段を使ってできるようにし、残された時間をどう過ごしたいかご本人の希望を聞き、精神面のケアもしながらそれを一つひとつ実現するための提案をすることに長けた職種です。言語聴覚士は、食べ物をのみ込むことが難しくなった患者さんの自宅に訪問し、大好きな酒や食べ物を少しだけ安全に口に含ませるといったことをする場合もあります」と宮田さんは解説する。

体を動かし寝たきりを解消することで精神面も改善

 訪問リハビリの内容は、患者の心と体の状態や、本人や家族がどういったことを希望しているかによって多種多様だ。例えば、脳腫瘍で余命半年と言われた50代の男性Aさんは、病院の通院ができなくなって在宅療養に切り替えた際、訪問診療、訪問看護と共に、理学療法士による訪問リハビリを週3回利用した。脳の右側に腫瘍があったAさんには左側の足に軽い麻痺があり、最初は杖を使って歩くリハビリをした。左半身の麻痺は脚全体や手にも広がったため、Aさんの家族は、理学療法士や福祉用具業者と相談してトイレや浴室、廊下などに手すりを設置した。それからは、手すりを使って歩く練習をしたり、車椅子で移動したりしたが、2カ月後くらいには、ベッド上での生活が中心になった。

 意思の疎通が難しくなって、Aさんがベッドで横になっている時間が長くなってからは、少しでも起き上がって過ごすようにしたり体が硬くなることや褥瘡(床ずれ)を予防するように体位を変えたり手足を動かしたりするなど、機能を少しでも維持するリハビリを週1回程度続けた。

 肺がんで腰に骨転移のあった70代後半の女性Bさんは、もともと杖歩行で筋力が低下していたこともあって、ほとんど寝たきりの状態で、訪問診療や訪問看護、訪問介護を利用しながら80代の夫の介護を受けていた。Bさんは、病気になる前と同じように、ベッドから起き上がって夫と食事をすることを望んでいた。そこで、訪問診療医や訪問看護師、ケアマネジャーとも連携しながら理学療法士が訪問し、移動用リフトを使ってベッドから車椅子へ移乗する方法を提案した。約1カ月と短い期間ではあったが、Bさんは食卓に座って食事ができるようになり、夫も嬉しそうだったという。移動用リフトの本体は介護保険を使えば、1~3割負担でレンタルができる。リフトに設置する吊り具は購入する必要があるが、これも介護保険を使えば1~3割負担だ。

 また、乳がんの骨転移と肺転移があり在宅療養中だった60代の女性Cさんは、訪問リハビリを利用し、「もうすぐ生まれてくる予定の初孫の成長を見守れないのが心残り」と、作業療法士に話した。かなり前にCさんが絵手紙を習っていたことを知った作業療法士は、初孫とその母親である娘に対し、絵手紙を描くことを提案した。ふさぎ込んでいたCさんは、絵手紙を作成し始めてから笑顔が増え、その3カ月後に旅立った。

 必ずしも終末期だけではなく、医師の指示があれば、がんの手術後や薬物療法中でも、訪問リハビリは利用できる。食道がんの手術を受けた70代前半の男性Dさんは、入院中から病院で理学療法士にリハビリ指導を受けていたが、術後は激しい頭痛に襲われることが多くなり、食欲が低下して1日中体がだるく、思うように体が動かせなかった。退院後、自宅に帰ると同時に、医師の指示で週1回の訪問リハビリがスタートし、理学療法士と一緒に家の中で筋トレや歩行訓練を続けるうちに、だるさが軽減し、気力と体力が回復した。その後は、通所のリハビリを続けている。

がん末期の場合は年齢を問わず医療保険で訪問リハビリを利用

 訪問リハビリは、医療保険や介護保険で利用できる。少し制度が複雑だが、がんの患者が介護保険で訪問リハビリを利用できるのは、介護認定を受けていて、医師に訪問リハビリが必要とされた場合だ。介護保険で訪問リハビリを使うときには、ケアマネジャーがケアプランに訪問リハビリを組み込めば、サービスの利用がスタートする。介護保険のリハビリは1回20分を1単位とし週6回まで利用できる。その金額は地域によって若干異なるが、1割負担の人の自己負担額は1単位当たり1回約300~400円だ。

 年齢や心身の状態から介護認定を受けられない場合、あるいは、がん末期か急性憎悪時なら、子どもから高齢者まで年齢に関わらず医療保険で訪問リハビリを利用できる。がん末期の患者に対しては、訪問看護の一環として、訪問看護ステーションに勤務する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士によるリハビリが提供されることも多い。医師の指示の下、病院や診療所、老人保健施設かのリハビリ専門職が医療保険で在宅患者訪問リハビリを提供する場合の自己負担額は、3割負担の人で1回約1000円。訪問看護の一環として医療保険でリハビリが提供される場合には、3割負担の人で1回約3000円、1割負担の人で1回約1000円だ。医療保険では、訪問診療や訪問看護の回数が多くなり自己負担額が一定限度額を超えたときには、高額療養費制度を利用すれば負担を軽減できる。

 「言語聴覚士はまだ少ないものの、理学療法士や作業療法士が、医師や看護師と連携しながらがんの患者さんに訪問リハビリを提供する訪問看護ステーションが増えています。体を無理のない範囲で動かすことで精神状態が改善することも少なくありません。体調が悪いときにどう動いたらよいのか、その人らしく生きるにはどうしたらよいのか患者さんやご家族と一緒に考え、サポートしますので、がんで在宅ケアを受けるときには訪問リハビリを利用してみてください」と宮田さんは強調する。 
 
 がん患者に対する訪問リハビリを実施している医療機関や訪問看護ステーションがどこにあるか分からないときには、訪問診療医やケアマネジャーなどに相談してみるとよいだろう。入院や通院でリハビリを受けている人の病状が進行し、通院できない状態になったときには、在宅リハビリを提供している医療機関を紹介してもらう方法もある。

 なお、国立がん研究センター東病院のスタッフなどが、新型コロナウイルス感染症の影響で外出や運動の機会が減ったがんの患者向けに、自宅で簡単にできるホームエクササイズ動画集を作成し、ホームページで公開している(がん患者さんのためのホームエクササイズ動画集)。骨転移などの問題がなく、動画を見て自分で体を動かせる人は、そういったものも利用して身体機能低下を防ぐことが大切だ。



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