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レポート

2021/11/09

第83回日本血液学会学術集会教育講演より

多発性骨髄腫の治療は奏効と安全性が両立し健康関連QOLは向上

将来的に進行リスクの高い無症候性(くすぶり型)骨髄腫は治療対象になる可能性も

八倉巻尚子=医学ライター

 移植が適応とならない多発性骨髄腫の治療は化学療法であり、近年、その進歩は目覚ましい。新しい薬剤が次々に登場し、効果と安全性のバランスがとれ、長期に治療を続けるほど健康関連の生活の質(QOL)は向上することもわかってきた。

 第83回日本血液学会学術集会の教育講演で、がん研究会有明病院血液腫瘍科の西村倫子氏が、「長期生存を目指した移植非適応多発性骨髄腫患者の治療戦略」と題して講演。治療の現状、治療開始時期、初回治療、将来展望について解説した。


長期に治療を続けるほど健康関連QOLは向上する

 西村氏は、最初に伝えたいこととして、多発性骨髄腫の治療状況を以下のように説明した。新規薬剤の初発治療の奏効は、移植適応、移植非適応に関わらず90%以上得られていること、高齢者でも長期継続治療で生存率が向上していること、高齢者初発治療のキードラッグは現状では抗CD38抗体のダラツムマブであること。ただし、新薬がさらに開発されつつあるため、多発性骨髄腫の治療は「来年にはまた違っているかもしれない。常にアップデートする必要がある」と話した。

 多発性骨髄腫の化学療法は「20世紀に基礎研究が進み、それが一気に21世紀に花開いた」。プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブを皮切りに、免疫調節薬(IMiDs:サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド)の登場、最近になって3種類の抗体医薬(エロツズマブ、ダラツムマブ、イサツキマブ)が使えるようになっている。これらの化学療法によって、多発性骨髄腫の5年生存率は著しく改善した。

 多発性骨髄腫の治療目標は、深い奏効、QOLが保たれること、副作用が少ないことであるが、移植非適応の場合は、QOLが保たれることと副作用が少ないことが今までは重要視されてきた。というのも、限られた治療薬の中で、安全性をとるか、リスクを背負っても奏効をとるかといった選択が求められる時代が長く続いた。ところが「今や両立できる時代になっている」と西村氏は言う。

 骨髄腫では、痛みなどの症状によって、行動が制限され、QOLは低下する。しかし新薬により症状は改善し、しかも副作用は管理可能なものとなってきた。「長期に治療を続けるほど、健康関連QOLは向上することが、エビデンスを持って示されている」。

 たとえば、移植非適応の未治療多発性骨髄腫患者において、長期のRd(Ld)療法(レナリドミド、低用量デキサメタゾン)は、標準治療だったMPT療法(メルファラン、プレドニゾン、サリドマイド)に比べて、健康関連QOLが改善することが第3相FIRST試験で示されている。またRd療法にダラツムマブを追加したD-Rd療法でも、Rd療法に比べ、健康関連QOLの改善が第3相MAIA試験で認められた。

 ただ、多発性骨髄腫の患者は高齢者が多く、中には加齢に伴って心身の機能が低下し、健康障害が起こりやすくなる。こうしたフレイルの患者に3剤の化学療法はできるのだろうか。それを判断するため、Frailty Scoreという評価法が作られた。年齢、併存疾患などで点数化して3群に分ける(Palumbo et al. Blood 2015)。しかしかなり多くの項目を入力しなければならないため、その後、簡便化された方法が考案された。

 先ほどのFIRST試験で使われたのは、年齢、併存疾患(Charlson Comorbidity Index)、全身状態(ECOG PS)によって点数化し、フレイルと非フレイルの2群に分けるもの(Facon et al. Leukemia 2020)。解析の結果、フレイル群と非フレイル群には生存期間に有意差があり、フレイル群はグレード3/4の有害事象が発生するリスクが高かった。

治療を開始すべき時期とは

 多発性骨髄腫の治療は、多発性骨髄腫による症状が出現した段階(症候性骨髄腫)から開始される。しかし最近は、より早期に症候性骨髄腫と定義され、早くから治療される傾向にあるという。

 診断には、国際骨髄腫作業部会(IMWG)による診断規準が用いられる。骨髄中にクローン性の形質細胞が10%以上、または生検で証明された形質細胞腫があること。それに加えて、CRAB症状がある場合に症候性骨髄腫と診断される。CRAB症状とは、高Ca血症(C)、腎障害(R)、貧血(A)、骨病変(B)を指す。「これが2015年までの定義だった」。

 現在は、SLiM-CRABに変更された。SLiMとは、骨髄中の形質細胞が60%以上(SixtyのS)、腫瘍由来(involved)と非腫瘍由来(uninvolved)の血清遊離軽鎖(FLC)比が100以上、もしくはMRIで証明された巣状病変が2カ所以上あること。いずれか1つ以上を満たした場合を症候性骨髄腫に含める。「今までは無症候性とされたものを、症候性として治療することになった」。このためCRABあるいはSLiMがある患者には、多発性骨髄腫治療の開始が推奨されている(IMWG2021)。

 一方、無症候性(くすぶり型)骨髄腫に関して、2018年に米国メイヨークリニックが発表したモデル(2/20/20モデル)がある。血清M蛋白が2g/dL以上、FLCの比が20以上、骨髄中の形質細胞比率が20%以上の3項目を点数化してリスク分類した。その結果、2つまたは3つの因子を持つ場合、2年後の進行リスクは50%と予測された(Blood Cancer J. 2018)。

 IMWGは、くすぶり型骨髄腫患者1996人を対象に、2/20/20モデルの有用性を検証した。その結果、上記3つの項目により、2年後の進行リスクは3つのカテゴリーに分けられ、低リスクは2年後の進行リスクが6.2%、中リスクは17.9%、高リスクは44.2%と予想された。さらに染色体異常(t(4;14)、t(14;16)など)を加えて、リスクスコアを算出した結果、低リスク(0-4点)では2年後の進行リスクが3.8%、低中リスク(5-8点)では26.2%、中リスク(9-12点)で51.1%、高リスク(12点超)は72.5%となった(Blood Cancer L. 2020)。

 現状ではくすぶり型骨髄腫は、治療介入はなく経過観察となっている。しかし2年後の進行リスクが高い患者には、多発性骨髄腫の発症を防ぐため、早期の介入が必要であり、現在、臨床試験が行われている。進行リスクが高い場合、「今後はおそらく症候性に入ってくるのではないかと思われる」と西村氏は話した。

多発性骨髄腫と診断されたときの初回治療は

 初回治療は、長期生存を目指して、「効果を最大に、副作用は最小にすることが目標」となる。米国NCCNガイドラインでは、移植非適応の患者に対する推奨レジメンとして、RVd療法(レナリドミド、ボルテゾミブ、デキサメタゾン)、D-Rd療法(ダラツムマブ、レナリドミド、デキサメタゾン)、Rd療法、もしくはCVd(VCd)療法(シクロホスファミド、ボルテゾミブ、デキサメタゾン)が挙げられている。

 日本では、移植非適応の初発症候性骨髄腫に対し、D-Rd(D-Ld)療法に加えて、D-MPB(D-VMP)療法(ダラツムマブ、メルファラン、プレドニゾロン、ボルテゾミブ)などが日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版」で推奨されている。

 D-Rd療法について、「一番大事な試験だと思われるのがMAIA試験」。ランダム化比較対照第3相試験として、Rd療法へのダラツムマブの上乗せ効果が検討された。対象は、初発の移植非適応患者で、ECOG PSが0-2、また「レナリドミドが腎障害を惹起する可能性があるため、クレアチニンクリアランス(CrCl)が30mL/分以上の患者」となっている。

 登録された患者の年齢中央値がD-Rd療法の群は73歳、Rd療法の群は74歳で、「今までの前向きの移植非適応の試験の中で、年齢層が最も高い」。75歳以上が両群とも44%を占めた。

 試験の結果、4年時点の無増悪生存(PFS)率は、D-Rd群で60%、Rd群は38%、ハザード比が0.54で、有意にD-Rd群が良好だった(ASH 2020)。今年発表された最新のデータでは、5年PFS率が52.5%と28.7%で、ハザード比が0.53となった(EHA 2021)。「当初からD-Rd群はPFS中央値が5年を超えるのではないかと言われていたが、予想の通りになった」と西村氏。全生存期間(OS)も有意差があり、5年OS率は66.3%と53.1%、ハザード比は0.68であり、死亡リスクを32%低下させるという結果だった。

 微小残存病変(MRD)の解析も、ダラツムマブを加えることで、MRD陰性率がRd群の10%からD-Rd群は31%に上がった。しかもダラツムマブを使うことで、MRDが6カ月以上継続した人、12カ月以上継続した人が多くなった。

 「次の治療が効きづらいのではないかという懸念」に関して、PFS2が検討されている。PFS2とは、ランダム化から2つ目の治療後の病勢進行または死亡までの期間のこと。つまり、D-RdもしくはRdの治療が終わった後の2次治療がどのくらい効いたかを示す。解析の結果、D-Rd群はRd群よりもPFS2は良いという結果が得られた。2次治療にはボルテゾミブをベースとした治療であるVd療法、VCd療法、VMP療法が使われていた。

 安全性は、ダラツムマブを追加することで、好中球減少症やリンパ球減少症が増えていたことから、感染症には注意が必要であるという。またグレード3以上の肺炎はD-Rd群18%、Rd群11%だった。ただし有害事象による治療中止は、D-Rd群のほうが少なく、D-Rd群7%、Rd群16%だった(ASH 2019)。観察期間4年のアップデータ結果では11%と22%だった。「骨髄腫による病状が改善したことにより、腎障害や感染症といったリスクは総合して少なくなってくることが考えられる」と西村氏。「3剤を使うことで、治療がより長く継続できていることが見てとれる」と説明した。

有望なレジメンの治療成績を比べてみる

 このほか移植非適応の初発例に対する第3相試験として、D-VMP療法とVMP療法を比較したALCYONE試験がある。VMP療法はMP療法と比較したVISTA試験によって、移植非適応の患者の標準治療となっていた。そのVMP療法にダラツムマブを上乗せしたD-VMP療法は、VMP療法に比べて、奏効率も生存率も良いという結果が得られている。

 またVRd療法はRd療法に比べて、PFS、OS、奏効率を改善したことがSWOG0777試験で示されている。しかし試験に65歳以上の患者は38%だった。そのため「高齢者にこのままの量を使っていいのかという懸念があった」。そこで考えられたのがVRd-lite(RVd-lite)療法だった。VRd-lite療法は第2相試験で検証され、患者数も少ないため、エビデンスレベルはやや低いが、実臨床でもよく使われ、ボルテゾミブを週1回にしたり、レナリドミドを15mgに減らすなど、高齢者に合わせて調整されている。

 患者背景が違うので、別の臨床試験を比べることは本来できないが、MAIA試験のD-Rd療法とALCYONE試験のD-VMP療法、第2相試験のVRd-lite療法の結果を比べてみると、36カ月時点のPFS率はD-Rd療法が68%、D-VMP療法は50.7%で、VRd-lite療法はPFS中央値が35.1カ月のため、36カ月時点のPFS率は50%以下になる。奏効率はどれも9割前後、sCR(厳格な完全奏効)率は、D-Rd療法が33%で良く、D-VMP療法が23%、VRd-lite療法は12%だった。MRD陰性率はD-Rd療法が29%、D-VMP療法が28%であった。

 またMAIA試験のデータと患者データベース(FLATIRON electronic health record database)を使って、年齢や併存疾患、ECOG PS、クレアチニンクリアランス、移植非適応などの条件を揃えた解析が行われた。その結果、VRd療法に対するD-Rd療法のハザード比は0.66となり、D-Rd療法のほうが良いという結果になっている(ASH 2019)。

 ハイリスク染色体異常に対する効果は、初発例に対するMAIA試験のサブグループ解析で、2018年に発表されたデータでは2群に有意差がなかった。しかし観察期間が長期になり、4年時点では、PFS中央値がD-Rd群で45.3カ月、Rd群は29.6カ月で、ダラツムマブの上乗せ効果が示された。しかしALCYONE試験のD-VMP療法ではその有効性は明らかでなかった。また欧州でよく使用されているダラツムマブとVTd療法(ボルテゾミブ、サリドマイド、デキサメタゾン)も、第3相CASSIOPEIA試験でハイリスク染色体異常に対する効果は示されなかった。

 再発例では、ダラツムマブの試験は多く、D-Rd療法、D-Vd療法、D-Kd療法(カルフィルゾミブ、デキサメタゾン)は、ハイリスク染色体異常のある患者に対して、有意差をもってPFSの改善が示されている。抗CD38抗体のイサツキシマブを用いた試験では有意な改善は認めないが、「ダラツムマブでも観察期間が長くなると、有意差が示されたことがあったので、もう少し長期の結果を待つ必要があるかと思う」と西村氏は述べた。

 これらのことから、移植非適応の初発例には、ダラツムマブを用いた3剤(D-Rd療法)や4剤(D-VMP療法)が標準治療であり、ハイリスク染色体異常にも長期観察で有意にダラツムマブの上乗せ効果があることが示されているとまとめた。

ダラツムマブ-Rd療法後のレジメンは

 では、初回治療でD-Rd療法を行なった後の2次治療はどのようなレジメンが良いのか。MAIA試験ではD-Rd療法後に、ボルテゾミブベースの治療が行われていた。また基礎研究では、多発性骨髄腫細胞の表面のCD38発現は、抗CD38抗体のダラツムマブ投与によって減少するが、投与を中止すると、半年くらいで回復してくるというデータがある(Blood 2016)。

 西村氏は、ダラツムマブ耐性かつレナリドミド耐性になったときは、IMiDsを用いない治療、つまりKd療法、Vd療法、VCd療法、VMP療法、あるいはVPd療法(ボルテゾミブ、ポマリドミド、デキサメタゾン)やEPd療法(エロツズマブ、ポマリドミド、デキサメタゾン)が選択肢になると述べた。

 化学療法を継続するには、有害事象のマネジメントが重要となる。特に感染症は注意が必要な有害事象であり、その管理に「患者教育は大事」と西村氏は話す。必ず一度は入院して患者教育を行ない、外来に移行してから37.5度以上の発熱があった場合は受診するように患者に伝えている。それにより重症化を回避できているという。COVID19ワクチンやインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種も勧めている。

最近の話題として

 2021年5月、ダラツムマブの皮下注製剤が使用できるようになった。点滴静注製剤と皮下注製剤を比較した第3相COLUMBA試験で、主要評価項目である奏効率と3サイクル目1日目のダラツムマブ投与前の最大トラフ濃度において、非劣性が証明されている。PFS、OSに差はなく、患者満足度は皮下注製剤のほうが高かった。

 経口プロテアソーム阻害薬イキサゾミブは、第3相TOURMALINE-MM3試験で、プラセボに比べて再発を抑えることが示され、2020年3月に自家造血幹細胞移植後の維持療法として承認されている。また今年5月、移植歴のない多発性骨髄腫の初回治療後の維持療法として、適応拡大が承認された。これは第3相TOURMALINE-MM4試験で、PFSの有意な延長が示されたことによる。

多発性骨髄腫治療の将来は

 将来的には、くすぶり型(無症候性)骨髄腫の治療は、ハイリスクを選定して、より早期になるだろうと西村氏は言う。また移植適応の患者にはダラツムマブ-VRdやKRdといった4剤併用が行われる可能性がある。モニタリングには、血液の質量分析ツールMASS-FIXが新たに提案されており、予後を予測する非侵襲的な方法と期待されている(ASCO 2021, No. 8009)。治療にはCAR-T細胞療法(ASCO 2021)や二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体、ワクチンなどの免疫療法が台頭するだろうとした。

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