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レポート

2021/10/26

第33回肺がん医療向上委員会 WEBセミナーより

肺がんのゲノム医療を正しく理解しよう

コンパニオン診断とがんゲノムプロファイリング検査はどう違う?

森下紀代美=医学ライター

 2つのがん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)が保険適用されてから、2年以上が経過した。2019年6月に承認された、検査に腫瘍組織を用いる「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」と「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」である。さらに2021年8月には、検査に血液を用いる「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」も保険適用となった。

 がんゲノム医療、遺伝子検査といった言葉が身近で聞かれるようになりつつあるが、実際の検査の種類や行われるタイミング、どのように運用されているかなど、まだ十分知られていない部分もあるようだ。

 2021年9月に開催された第33回肺がん医療向上委員会WEBセミナー(委員長:北海道がんセンター呼吸器内科の大泉聡史氏)では、国立がん研究センター中央病院臨床検査科の角南久仁子氏による講演「肺がんのゲノム医療を考える」が行われた。その様子を紹介する。


非小細胞肺がんはゲノム医療が最も進んでいるがん種の一つ

 角南氏は、まずゲノム医療の背景について解説した。

 従来のがんの薬物治療は、がんの種類ごとに開発されてきた。肺がんであれば肺がんの薬、胃がんであれば胃がんの薬、といった具合だ。しかし、がんゲノム医療の研究が進み、ゲノムを調べ、がん種横断的に同じゲノムの異常があることが分かり、その異常に合った治療を選択する開発の方法が登場した。ゲノム医療とは、患者のゲノム情報に基づく医療である。

 背景には、遺伝子異常に対する分子標的治療薬の治療効果が高いことがある。EGFR遺伝子変異陽性の肺がんに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬のゲフィチニブは、日本においてゲノム医療の先駆けとなった薬剤の一つである。EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者において、ゲフィチニブが劇的に効く患者がいること(T. J. Lynch, et al. N Engl J Med 2004;350:2129-39)、そして無増悪生存期間(PFS)は従来の化学療法の5.4カ月に比べて、ゲフィチニブでは10.8カ月と有意に延長したことが報告された(M. Maemondo, et al. N Engl J Med 2010;362:2380-88)。

 非小細胞肺がんでは、治療の標的となる遺伝子異常(ドライバー遺伝子異常)が多く同定されている。国立がん研究センターが発表したデータでは、現時点で治療があるかないかを別にして、約4分の3の患者にドライバー遺伝子異常が検出された(M. Saito, et al. Cancer Sci 2016;107:713-20)。それぞれの遺伝子異常に対する治療薬の開発も進み、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、ROS1融合遺伝子、METエクソン14 スキッピング変異に対する阻害薬が次々と承認され、臨床で使用されている。2021年9月には、RET融合遺伝子に対する阻害薬も承認された。角南氏は「非小細胞肺がんは、2019年にがんゲノムプロファイリング検査が登場するよりも以前から、ゲノム医療が最も進んでいるがん種の一つと言えるのではないか」と話した。

 治療の標的となる遺伝子異常は、がん種横断的に存在することも分かってきた。例えばNTRK融合遺伝子は、肺がんだけでなくさまざまながんで認められ、TRK阻害薬ががんの種類を問わずに効くことが報告されている(R. C. Doebele, et al. Lancet Oncol 2020;21:271-82)。

 「ゲノム医療の最終的な理想像は、それぞれの遺伝子をくまなく調べ、患者さんにどの遺伝子異常があっても、いろいろな治療が選択できるようになること」と角南氏。ただし、現状ではまだエビデンスを蓄積している途中で、がん患者全員にゲノム医療、遺伝子検査が必要なのか、どの検査法が最も良いのかなどについて、直接比較するデータはない。また、遺伝子異常が検出されても、すべてが治療に結びつくわけではないことにも注意が必要だ。

コンパニオン診断とがんゲノムプロファイリング検査の違いを知る

 次に角南氏は、がんゲノム医療と遺伝子検査について解説した。がん遺伝子パネル検査では複数の遺伝子異常を一度に調べることができるが、その役割は分かれ、名前も「コンパニオン診断」と「がんゲノムプロファイリング検査」に分かれる。

 コンパニオン診断に使用されるのは「オンコマイン Dx Target Test CDxマルチシステム」、「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」、「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」、がんゲノムプロファイリング検査に使用されるのは、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」、「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」、「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」である。

 まず、コンパニオン診断は、「エビデンスが確立されている承認薬の適応があるかどうかを判断する検査」のことである。この検査の結果は、対象として調べようとしていたドライバー遺伝子異常があるかないか、陽性か陰性かで報告される。コンパニオン診断は、分子標的治療薬と同時に開発・申請されることが求められる。治療薬に直結する検査となるため、正しく測定できるだけでなく、対象となる患者に投与した際に、期待される効果が得られることを臨床試験で示す必要がある。

 コンパニオン診断を行うタイミングは、がんと診断された後で、最初に標準治療を選択するために行う。言い換えれば「標準治療としてのゲノム医療」である。これに対し、後述するがんゲノムプロファイリング検査は、標準治療がない、または終了(見込み)となった段階で行われ、「がんゲノムプロファイリング検査によるゲノム医療」となる。現在、がんゲノムプロファイリング検査は、1人の患者につき1回しか行うことができない。標準治療としてのゲノム医療とがんゲノムプロファイリング検査によるゲノム医療が分けられてしまっている現状があり、角南氏は「一つの大きな課題と感じている」と話した。

 非小細胞肺がんでは、ドライバー遺伝子異常が多く検出されているため、コンパニオン診断も複雑な状況になっている。例えば、EGFR遺伝子を調べる場合、コンパニオン診断に使用される3種の検査法に加え、単一の遺伝子を調べる検査もある。一方で、BRAF遺伝子を調べられるのはコンパニオン診断に使用される3種の検査法のうち、オンコマインDx Target Test CDxマルチシステムのみ。同じ遺伝子変異でも、承認された2つの薬剤で検査法が異なるものもある。こうした状況がある中で、臨床現場では、患者の検体の状況や全身状態などを見ながら使い分けがされている。

 一方、がんゲノムプロファイリング検査では、数十から数百の遺伝子を一度に解析すること、さまざまな遺伝子異常(変異、増幅、融合など)を検出することができる。試薬を用いて次世代シークエンサーにかけるための準備をし、塩基の配列が示されたデータをコンピューターで解析し、誰が見ても分かるような結果の報告書が作成される。保険適用された3種のがんゲノムプロファイリング検査から、臨床現場では特徴に応じた使い分けがされている。

 ただし、保険診療で使用できる薬がある遺伝子は一部に限られ、開発中の薬がある遺伝子、今後開発が期待されている遺伝子、がんに関連することはわかっているが薬には結びついていない遺伝子も含まれる。すべてが治療に直結するわけではない。

実際に治療に結びつく患者は1割程度

 続いて角南氏は、がんゲノムプロファイリング検査がどのように運用されているのかについて紹介した。

 がんゲノムプロファイリング検査は、実施できる施設が限られている。2021年10月1日の時点では、がんゲノム医療中核拠点病院12施設、がんゲノム医療拠点病院33施設、がんゲノム医療連携病院183施設で検査を行うことができる。このうち、がんゲノム医療中核拠点病院とがんゲノム医療拠点病院では、「エキスパートパネル」と呼ばれる専門家会議を自施設で開催し、検査の結果を検討し、推奨治療を決める機能を持つ。がんゲノム医療連携病院は、これらの連携施設にエキスパートパネルを依頼することになる。標準治療がない、または終了(見込み)の進行・再発固形がんの患者ががんゲノムプロファイリング検査を受けた場合、保険点数は5万6000点分となる。

 がんゲノムプロファイリング検査では、一般的な検査と同様に、担当医から患者に説明と同意の取得が行われた後、すでに採取されていた検体を選択したり、新たに採取したりする。検査を行った患者全例の解析結果は、エキスパートパネルで推奨治療が検討される。検討結果は担当医から各患者に説明され、候補となる治療がある場合は選択することができる。

 また国立がん研究センターには、がんゲノムプロファイリグ検査の運用開始とともに、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)が設立された。C-CATでは、がんゲノムプロファイリング検査の解析データを各検査企業から受領し、各医療機関から集めた臨床情報と統合させ、大規模なデータベースを作成している。また、国内外の臨床試験情報を含んだ知識データベースも作成しており、遺伝子異常と紐づく薬の情報や、その薬に関する国内外の治験の情報について、個々の患者に対するレポート「C-CAT調査結果」としてエキスパートパネルに提供される。

 がんゲノムプロファイリング検査では、遺伝子パネル検査の結果とC-CAT調査結果の結果を理解し、適切な治療選択につなげる必要があり、専門家によるさまざまな判断が求められる。例えば、検出されたさまざまな遺伝子異常に病的な意義はあるのか、多数挙げられた推奨治療からどのように選べばよいのか、挙げられた治験をどう判断すればいいのか、などだ。そこにエキスパートパネルが必要とされる理由がある。エキスパートパネルは、全国のがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院で行われるが、同じデータベースから作成されたC-CAT調査結果を参考資料とすることで、エキスパートパネル間で議論に質の差が出ないようにする配慮がされている。

 エキスパートパネルを構成するのは、がん薬物療法の専門的知識を持つ臨床医、遺伝医学の専門的知識を持つ医師、遺伝医学のカウンセリング技術を持つ者、病理医、分子遺伝学・ゲノム医療の知識を持つ者など、さまざまな分野の専門家。検討する内容は、日本のがんに関連する3つの学会(日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会)からガイダンスが出されている。具体的には、「病的意義が本当にあるのか」、「病的であれば対応する治療薬があるのか、どのくらい効きそうか(エビデンス)」、「実際にその薬が手に入りそうか(治験、先進医療、その他)」を検討し、患者にその情報を提供する。

 ただし、遺伝子異常に合致した治療薬が患者に届けられる割合は、まだまだ満足のいく結果にはなっていない。国内外のデータでは、到達率は10%前後にとどまる(K. Sunami, et al. Cancer Sci. 2019;110:1480-90, M. Ueno, et al. JSMO 2021 Abstract No. O7-2, A. Zehir, et al. Nat Med 2017;23:703-13など)。「薬剤の到達性の向上がゲノム医療の最大の課題」と角南氏は話した。

薬剤到達性の向上に向け、患者申出療養制度に基づく臨床試験が進行中

 最後に角南氏は、推奨される治療に結びつく患者の割合の向上を目指し、国立がん研究センターで行っている取り組みについて紹介した。

 米国の大規模ながんセンターの研究では、がん遺伝子パネル検査を行った後、実際に治療を受けた患者は11%だった。これらの患者では、既承認薬の適応外使用が候補となる遺伝子が一定の割合で存在した(A.Zehir, et al. Nat Med 2017;23:703-13)。

 既承認薬の適応外使用については、適応拡大のための臨床試験が行われる可能性は高いとは言えない。この部分への取り組みとして、国立がん研究センターを中心に、新たな治療選択肢としての患者申出療養試験(NCCH1901:jRCTs031190104)が行われている。

 受け皿試験とも呼ばれるこの試験は、次のようなものだ。がん遺伝子パネル検査の結果に基づき、ある薬が推奨されたとする。しかし、保険適用内の薬剤ではなく、その薬の治験がない、または治験があっても適格基準を満たさずに参加できない患者が存在する。もともと、こうした患者に対する制度として患者申出療養制度があった。ただし、個別に申請すると治療開始までに時間を要したり、データが散逸し、将来に活かされないなどの課題があった。そこで、それらを解決するため、患者申出療養制度を活用した特定臨床研究の形で、受け皿試験が組まれた。

 具体的には、保険診療もしくは先進医療などの評価療養においてがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子異常が検出され、ある阻害薬が候補に挙がったとする。その阻害薬がこの試験の対象薬であり、他のがん種では適応が通っているが、その患者のがんには適応外の薬である場合に、患者はこの受け皿試験の対象となる。特定臨床研究のため、固形腫瘍で、治癒切除不能な進行性病変がある、PS 0-1などの適格基準は設定されているが、それらを満たした場合、患者はこの受け皿試験の中で投薬を受けることになる。

 角南氏は「患者さんに適応外の薬を届けるハードルを下げることができるのではないかと考えている」と話した。この試験には、全国12のがんゲノム医療中核拠点病院が参加しており、対象となる薬剤は製薬会社から無償提供されている。

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