このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2021/10/12

第83回日本血液学会学術集会教育講演より

遺伝子背景と病態進展が多様な骨髄異形成症候群、治療の選択は?

現在行われている薬物療法と期待される新規薬剤

森下紀代美=医学ライター

 骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes:MDS)では、骨髄中で血液細胞(赤血球、白血球、血小板)を造る造血幹細胞に異常が起こり、正常な血液細胞が造られなくなる。そのため、貧血が起こったり、出血が止まりにくくなったり、感染が起こりやすくなったりするなどの症状が現れる。MDSは一つの疾患ではなく、症候群の集まりであり、遺伝子背景や病態の進展はさまざまである。
 
 2021年9月にWEB開催された第83回日本血液学会学術集会で、埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科の前田智也氏が行った教育講演「MDSにおける薬物療法の現状と今後の展望」から、MDSの現在の薬物療法と今後導入が期待される新規薬剤を中心に紹介する。


MDSは症候群の集団

 MDSは、血球細胞が分化して成熟する途中で壊れてしまう「無効造血」と、急性白血病に移行する前の「前白血病状態」を併せ持つ、骨髄不全症候群の一つである。血球細胞の形態が異常になる「異形成」がみられることが特徴とされる。

 またMDSは、造血幹細胞に遺伝子変異が起こることで発症する、クローン性腫瘍疾患でもある。前田氏は「MDSは症候群の集団であり、症例ごとで遺伝子背景が異なるように、病態進展も症例ごとでさまざまである」と説明した。

 MDSの種類は、骨髄中の芽球(分化の途中の未熟な血液細胞。白血病などで増加する)の割合や異常な血液細胞の種類によって分けられる。造血幹細胞の5番染色体に欠失が生じる「5q-症候群」(H. V. den Berghe, et al. Nature 1974;251(5474):437-8)、環状鉄芽球(核の周囲に鉄が環状に付着した赤芽球)を特徴とし、予後が良好であることを示す唯一の遺伝子変異「SF3B1遺伝子変異」を有するMDS(L. Malcovati, et al. Blood 2011;118(24):6239-46)は、症候群の中でも独立した疾患として分類されている。

 MDSが進行する背景には遺伝子変異がある。低リスクのMDSから高リスクのMDSへの移行期にみられるType IIと呼ばれる遺伝子群、その後に急性白血病に移行する際に関与するType Iと呼ばれる遺伝子群があり、予後が異なることが示されている(H. Makishima, et al. Nat Genet. 2017;49(2):204-12, Rinsho Ketsueki 2021;62(4):278-88)。

 MDSのリスクは、予後に影響する因子(予後因子)をそれぞれ点数にし、その合計で分けられる。実臨床で治療方針を決定する際に用いる国際的な指標に、改訂版IPSS(International Prognostic Scoring System:IPSS-R)がある。IPSS-Rでは、核型、骨髄芽球の割合、ヘモグロビン値、血小板数、好中球数を予後因子としている。リスクは、点数の合計が>6の「Very High」、>4.5-6の「High」、>3-4.5の「Intermediate」、>1.5-3の「Low」、≦1.5の「Very low」となる(P. L. Greenberg, et al. Blood 2012;120:2454-65)。IPSS-Rは年齢で調整することが推奨されている。

 IPSS-Rは広く使用されているが、「遺伝子変異を反映していないという限界を抱えている」と前田氏。遺伝子変異数が多くなると予後も不良になる。IPSS-Rに遺伝子情報を組み込む試みも行われているが、現時点では、遺伝子情報を組み込んだ実臨床の確固とした指針はなく、既存の指標で予後を評価し、治療方針を決める必要がある。

日本と米国のガイドラインでみるMDSの治療アルゴリズム

 MDSの診療ガイドラインに、日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン」(2018年版補訂版)がある。この日本のガイドラインに大きな影響を与えているのが、毎年更新されている米国のNCCNガイドラインだ。NCCNガイドラインでは、IPSS-Rの「Intermediate」の3.5点を境界として、これを上回る場合を高リスク群、下回る場合を低リスク群として、それぞれに推奨する治療を提示している。

 NCCNガイドラインの2021年版のMDS治療アルゴリズムを見ると、高リスク群では、移植適応がある場合、同種造血幹細胞移植で治癒を目指すか、アザシチジンやdecitabineなどの低メチル化薬、強力化学療法の後に同種造血幹細胞移植を行うことが推奨される。移植適応がない場合は、まずアザシチジン、次にdecitabineの投与が推奨される(NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Myelodysplastic syndromes. 2021, Ver.3.)。

 低リスク群では、貧血以外の血小板減少、好中球減少、骨髄芽球の増加がある場合は、低メチル化薬または免疫抑制療法(治療に反応する可能性が高い場合)が推奨される。

 低リスク群で症候性貧血がある場合は、5q-症候群があればレナリドミドが推奨される。非5q-症候群では、環状鉄芽球が15%以上、SF3B1遺伝子変異が5%以上で、血清エリスロポエチンが低値でなければluspaterceptの投与が推奨され、血清エリスロポエチンが低値であれば補充し、治療反応がない場合にluspaterceptの投与が推奨される。環状鉄芽球が15%未満、SF3B1遺伝子変異が5%未満で、血清エリスロポエチンが低値でなければ免疫抑制療法(治療に反応する可能性がある場合)、血清エリスロポエチンが低値であれば補充し、治療反応がない場合に低メチル化薬またはレナリドミド、臨床試験が推奨される。

 次に、日本の造血器腫瘍ガイドラインのMDS治療アルゴリズムをみると、高リスク群で同種造血幹細胞移植の適応の有無で分ける方針は、NCCNガイドラインと同様となっている。ただし、低メチル化薬のうち、decitabineは国内保険未承認であり、アザシチジンのみとなる。アザシチジン不応(反応しない)の5q-症候群では、レナリドミドも候補となる。

 低リスク群では、国内保険未承認ではあるものの、免疫抑制療法や蛋白同化ステロイドが治療選択肢に含まれ、5q-症候群があればレナリドミドが適応となる。

低リスク群の現在の治療選択肢と注意点

 日本における低リスク群の治療選択肢について、前田氏は詳細を説明した。低リスク群における治療の目的は、「造血不全への対応を主とした、QOLの維持」である。治療選択肢には、免疫抑制療法などの国内保険未承認のもの、蛋白同化ステロイドなどのエビデンスレベルが低いものも含まれる(特発性造血障害疾患の診療参照ガイド 令和1年改訂版(特発性造血障害に関する調査研究班))。

 レナリドミドの効果が期待されるのは5q-症候群であるが、非5q-症候群でも3割に貧血改善効果が認められる。ただし、催奇形性があるため、厳重な薬剤管理が必要となる。高リスク群でも血液学的改善効果はあるとされるが、「日本に多い付加的な染色体異常を伴う5q-症候群への効果は乏しいことが予測され、高リスク群ではアザシチジン不応例に限って使用されるべき」と前田氏は注意を呼びかけた。

 免疫抑制療法の効果が期待されるのは、骨髄低形成、若年(60歳以下)、ヒト白血球抗原(HLA)-DR15が存在する、グリコフォスファチジルイノシトールアンカー蛋白が欠失した血球(PNH型血球)陽性などの特徴を持つ場合である。骨髄低形成の特徴を持つMDSでは、再生不良性貧血との鑑別が重要になる。

 サイトカイン療法である赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の効果が期待されるのは、血清エリスロポエチンが低値の場合である。ダルベポエチン アルファが保険承認されている。日本人のデータから、ヘモグロビン値が8.2g/dL未満になる前に投与を開始することで効果が期待できる。

 鉄キレート剤の対象となるのは、1年以上の予後が見込まれる低リスク群のMDSである。開始条件は、血清フェリチン値が1000ng/mLを超えた時とし、治療目標は同値が500ng/mLとなることとされている。

 前田氏が「薬物療法の実施にあたり留意すべき点」としたのが、低リスク群のMDSの死因で最も多いのが感染症であることだ。肺炎、敗血症をはじめとする感染症は、全体の死因の約4割を占める(F. Gayyani, et al. Cancer 2010;116(9):2174-9)。

高リスク群の薬物療法ではアザシチジンが第一選択薬

 次に前田氏は、高リスク群のMDSの治療適用・承認の国内外比較について説明した。高リスク群における治療の目的は、「可能な限り治癒を目指した、白血病化(病態進展)の阻止、生存の延長」である。

 高リスク群で移植適応がない場合、薬物療法の第一選択薬はアザシチジンで、他の治療はアザシチジン不応や不耐容の場合に限られる。米国ではdecitabineも使用できるが、日本と欧州では保険未承認である。日本では前述したように、アザシチジン不応の5q-症候群に対し、レナリドミドも認められている(Y. Miyazaki, et al. Int J Hematol. 2020;111(4):481-93, S. B. Killick, et al. Br J Hematol. 2021;194(2):267-81, NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Myelodysplastic syndromes. 2021, Ver.3.)。

 アザシチジンには、DNA脱メチル化作用によるがん抑制遺伝子の復活効果と、蛋白合成阻害による増殖抑制効果の2つの機序がある。病勢増悪がない限り、治療の継続が望ましいとされる。留意点に、5日間の期間短縮投与や中2日休薬を挟む7日間投与も含めた至適投与法の検証は十分ではないことがある。アザシチジンは、低リスク群でも血球減少がある場合に選択肢となり、症候性貧血では他の治療が無効の場合にアザシチジンを選択し、5日間投与が有用である。ただし、低リスク群での延命効果は証明されていない。

 低メチル化薬は、TP53遺伝子との関係が今後の治療を考えるうえで重要になる。TP53遺伝子はがん抑制遺伝子で、この遺伝子に変異があると予後不良となり、decitabineの投与により、初期にはTP53遺伝子変異が消失して寛解に至ることが報告されている(J. S. Welch, et al. N Engl J Med 2016;375:2023-36)。しかし、その寛解期間は非常に短く、6サイクルを超えると再びTP53遺伝子変異が発現する。前田氏は「現行の治療法だけでは生存に結びつかないため、工夫が必要になる」と話した。また、臨床試験を生存の結果だけで見てしまうと、治療が有用な症例や治療候補薬を逃す可能性がある。「MDSは症候群の集団であり、遺伝子背景やその変化を踏まえた判断が治療反応を評価するうえで重要と言える」(前田氏)。

 現在、MDSの高リスク群を対象とするさまざまな臨床試験が行われている。その一つに、多施設共同、単群の非ランダム化試験REPTATがあり、TP53遺伝子変異陽性のMDSを対象に、アザシチジンで寛解が得られた後に同種造血幹細胞移植を行い、長期の寛解が得られる可能性が検証されている。早い段階で移植につなげる効果の有無が明らかになるとみられ、結果が待たれる。

さまざまな作用機序の新規薬剤を検証中

 最後に、今後導入が期待される新規薬物療法についてである。米国最大の臨床試験登録サイト(ClinicalTrials.gov)によると、現在、200件を超える第3相試験でMDSの臨床試験が行われている。前田氏が「機序に注目し、有望と思われる」とした薬剤の一部を紹介する。

 海外の新規MDS治療薬の開発状況をみると、次世代の低メチル化薬、ターゲットを遺伝子のTP53やIDH、蛋白質のNEDD8のシグナル伝達経路とするものなどがある。高リスク群に対する薬剤が多くを占めている(C. Saygin, et al. Blood Rev.2021;48:100791)。

 低リスク群では、輸血負担を回避するための新規薬剤が期待される。luspaterceptは、エリスロポエチンとは独立して働く赤芽球系前駆細胞の後期の成熟を抑制する成長分化因子GDF-11と結合し、その働きを抑えることで赤血球の分化・増殖を促す。環状鉄芽球を伴うMDS(MDS-RS)、SF3B1遺伝子変異陽性のMDSが対象となる。第3相試験では、luspaterceptは、プラセボとの比較で血液学的改善や輸血非依存で効果を示した(P. Fenaux, et al. N Engl J Med. 2020;382(2):140-51)。現在米国では、非RS症例を対象に、luspaterceptとESAの比較が行われている。

 抗貧血薬では、テロメラーゼ阻害薬のimetelstat、低酸素誘導因子(HIF)の分解酵素を阻害するHIF活性化阻害薬roxadustatが検証されている。いずれも、低リスクの非5q-症候群の貧血に対する効果が期待されている。

 高リスク群では、延命の量・質を改善するための新規薬剤が期待される。decitabineの次世代薬として期待されているのが、低メチル化薬の抗腫瘍効果を失活させるシチジン脱アミノ化酵素(CDA)の阻害薬cedazuridineをdecitabineと配合した内服薬(C-Dec)だ。前田氏は「COVID-19の流行を考慮すると、内服薬の必要性はさらに高まったのではないか」と推察した。米国では、C-Decは高リスク群のMDSと慢性骨髄単球性白血病(CMML)に承認されている。

 他の次世代メチル化薬として、CC-486とguadecitabineがある。アザシチジンの経口薬であるCC-486は、CDA阻害薬を含まないため高用量で用いる必要があり、生物学的利用能の低さが問題となる。そのため現在は、移植後の維持療法や低リスク群に対する効果が検証されている。guadecitabineは、CDAに耐性となることで血中半減期の延長を可能にした注射製剤。第2相試験では有望な結果が示されたが、第3相試験では主要評価項目の全生存期間(OS)で有意差を示さなかったことが、2020年10月のプレスリリースで発表された。

 ベネトクラクスは、経口のBCL-2阻害薬で、最近日本でも急性骨髄性白血病(AML)に適応が拡大された。MDSに対する効果も期待され、現在検証中である。アザシチジンとの併用により、白血病幹細胞が必要とするエネルギーの生成が阻害されて死に至るものと考えられている。

 eprenetapopt(APR-246)は、TP53遺伝子の機能喪失に関わるチオール基に結合し、TP53遺伝子の野生型機能を再活性化させ、がん細胞を死に誘導する化合物。TP53遺伝子変異を有するMDSで効果が期待される。第2相試験では、TP53遺伝子変異を有するMDSとAMLを対象とし、完全奏効(CR)率47%、奏効率62%、奏効期間中央値10.4カ月と有望な結果が示された(T. Cluzeau, et al. J Clin Oncol 2021;39(14):1575-83)。現在、第3相試験で検証が行われている。

 pevonedistatは、NEDD8の活性化酵素を阻害する薬剤で、プロテアソーム分解を阻害し、不要な蛋白質を蓄積することにより、腫瘍の増殖や生存を阻害する。第2相試験では、アザシチジン単剤と比べて、pevonedistatとアザシチジンの併用の効果は高く、高リスク群のMDSにおいて無イベント生存(EFS)率で有意差が示された(M. A. Sekeres, et al. Leukemia 2021;35:2119-24)現在、第3相試験で検証が行われている。

 最後に前田氏は、「MDSの薬物療法の実施にあたっては、今後導入が期待されている新規治療薬も含め、薬物療法ごとにその効果がみられる症例の特徴を知ることが肝要になる」と述べた。

この記事を友達に伝える印刷用ページ