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レポート

2021/10/05

第7回 リンチ症候群研究会シンポジウムより (2)

リンチ症候群への各科の取り組み

早期のサーベイランスと定期的な検査を

中西美荷=医学ライター

 リンチ症候群は、生まれながらに持っている遺伝子の変化により、大腸がん、子宮体がんをはじめとする、さまざまながんを発症しやすい遺伝性腫瘍症候群。診療科が多岐にわたることや、遺伝の情報を扱うこともあって、さまざまな領域の医療従事者が関わるチーム医療によって支えられている。9月4日に開催された第7回リンチ症候群研究会シンポジウム市民公開フォーラム「チーム医療でサポート!リンチ症候群の診療」では、がん研究会有明病院でリンチ症候群の診療を担うスタッフにより、リンチ症候群の人が安心して医療に向き合うための、さまざまな情報が提供された。その内容を2回に分けて紹介する。

 第2回は、病理医の役割、婦人科、消化器内科・外科でのサーベイランスの方法や治療についてと、リンチ症候群当事者のメッセージを紹介する。(第1回はこちら


病理医は患者に会うことはないが縁の下の力持ち

 第1回の診断の話で紹介した、リンチ症候群の第2次スクリーニングで行われる免疫組織化学染色(IHC)による診断を担うのは、外岡暁子氏(臨床病理センター病理部)ら病理医である。臨床医ががんを疑った場合、検査を行うことになるが、採った組織を顕微鏡で見て、病理医が最終診断を行う。臨床医が疑っていない場合でも、組織の状況からリンチ症候群を疑って、病理から臨床にフィードバックすることもある。

 臨床医が摘出した検体は、腐らないようにホルマリン処理(ホルマリン固定)される。一定時間の固定後、病理医が、顕微鏡で確認する部分を選んで小さく切り出す(切り出し)。その後、パラフィンを浸透させ(パラフィン包埋)、薄く切って(薄切)、染色して、顕微鏡で観察して診断を行う。リンチ症候群では、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2という4つのミスマッチ修復(MMR)蛋白のうちのどれかの蛋白の機能が失われているが、腫瘍の病理標本に対する免疫組織化学染色では、これらの蛋白のうち機能が失われた蛋白は染色されない(陰性化)。

 この流れの中で、検体摘出とホルマリン固定は臨床医、切り出しと診断は病理医、パラフィン包埋、薄切、染色といった標本作成は臨床検査技師が担っている。薄切はまさに職人技で、ミクロトームという専用の器械を用い、時には厚さ1000分の1ミリもの薄さで切るのだという。

 標本採取から標本完成までには3-4日を要し、その後、時間をかけて診断するため、血液検査などのように、その日に結果がわかるということはない。ただし、手術中に方針を決めなくてはならないような時には、検体提出から30-60分で結果を出す「術中迅速診断」も行っている。

 その場合は、ホルマリン固定の代わりに、検体を凍結するという方法がとられる。その場で病理医が診断し、インターフォンで手術室に結果を伝えるが、標本の質が劣ることや、病理医の診断も限られた方法で行っていることから、通常の診断を置き換えるものではないとされている。

 外岡氏によれば、診断結果を臨床医に伝えた後も、結果の解釈などについて問い合わせがあることも多く、主治医と一緒に標本をみて頭を悩ませたり、解釈が難しい場合は、他の病理医の意見を聞くこともある。週に1回以上、主治医や放射線科医など、専門分野の異なる人が集まって患者の治療方針を検討するカンファレンスにも参加しており、主治医を含む臨床医の診療を支えている。

 外岡氏は、「病理医は患者さんと直接会う機会はほとんどないが、これからも”縁の下の力持ち”として、診療を支えていきたい」と話した。

婦人科ではどんなサーベイランスをするの?

 「婦人科医から伝えます!リンチ症候群との付き合い方」と題して講演したがん研究会有明病院婦人科の野村秀高氏は、子宮の温存や、化学療法を行わないで済むがんの早期発見のためには、早期にサーベイランスを始めることが重要だと話した。

 婦人科で扱うがんとしては、子宮の下部1/3にできる子宮頸がん、上部2/3にできる子宮体がん、子宮の両側にある卵巣から発生する卵巣がんが多い。一般的に子宮体がん、卵巣がんになる確率(罹患率)はそれぞれ2%、1%だが、リンチ症候群ではそれぞれ26〜56%、10〜12%と、高いことがわかっている。

 リンチ症候群の4つの原因遺伝子ごとに、平均発症年齢や(80歳までの)発症率が異なり、MLH1では49歳、34〜54%、MSH2では47〜48歳、21〜57%、MSH6では53〜55歳、16〜49%、PMS2では49〜50歳、13〜26%とされる(NCCNガイドラインver.1. 2021)。

 野村氏によれば、子宮体がんの検診の開始時期や方法は、世界各地のガイドラインによって若干異なる。アメリカでは30〜35歳から子宮内膜生検、イギリスでは35歳から子宮内膜生検と経腟超音波検査、ヨーロッパでは35歳から、これらに加えてリスク低減手術を考慮すると記されている。

 子宮内膜生検では、子宮の中を、耳かきのような小さい機器(キュレット)で擦って組織を採ってきて、がんがあるかどうかを調べる。日本で広く行われている内膜細胞診では、がんがあれば、約90%の精度で診断がつくとされる。細いストローのようなものを子宮の中に入れて注射器で引いて細胞を採取したり、細いブラシで内膜を擦って細胞を採る検査である。これらの検査は、いずれも痛みを伴う。

 経腟超音波検査は、腟から子宮、卵巣を超音波で見て異常がないかを調べる検査で、そこでがんが疑われた場合には、やはり細胞診や組織診が必要となる。

 リスク低減手術は、がんになる前に手術で子宮や卵巣を摘出してしまうこと。一部の遺伝性疾患では、家族計画終了後にリスク低減手術を行うことで明らかに死亡リスクが低減することがわかっていて、そのような疾患では保険診療でリスク低減手術を行うことが可能となっている。しかしリンチ症候群に関しては、子宮体がんや卵巣がんになるリスクは減っても、これによって長生きするかどうか(生存率が上がるかどうか)については明らかになっていないため、保険適用となっていない。

早期のサーベイランス開始による早期発見で低侵襲の手術や子宮温存が可能に

 一方、アメリカやヨーロッパと異なり、オーストラリアのガイドラインでは、「検診不要」とされているという。不要とは、いったいどういうことなのだろう?

 「実際には日本でも子宮体がん検診は、あまり一般的ではない」(野村氏)。がん検診が有効であるかどうかの評価において、一番大切なのはがんの死亡率である。「つまり、有効な検診というのは、亡くなる方が少ない、その検診を行うことで、その病気で亡くなる方が減るかどうかが1番の大事なポイントになる」と野村氏は説明した。

 子宮体がんの5年生存率はステージ(病期)によって異なり、ステージ1、ステージ2では95.7%に上る。加えて、子宮体がんは8割がステージ1または2でみつかる。そしてステージ1でも、診断がつく人の8〜9割は不正出血がある。こうしたことを考えると、不正出血や茶色いおりものといった症状が出てから病院に行っても、ほとんどの場合はステージ1か2で、5年生存率は95.7%だということになる。無症状の人に痛みを伴う検査を行うことで、5年生存率が100%になるかというと、これはなかなか難しい話だという。

 「検診の出る幕はないのでしょうか?我々は、あまりそうは思っていない」と野村氏は話す。がんを早期発見できれば、手術侵襲を軽くしたり、抗がん薬の投与(化学療法)が不要になったり、もっと早く発見できれば妊孕性を保てる可能性もあるためだ。

 子宮体がんは子宮内膜から発生し、がんが大きくなるにつれて子宮の筋肉(筋層)に入り込む(筋層浸潤)。筋層には血管やリンパ管が張り巡らされていて、がんが大きくなればなるほど、筋層に深く入れば入るほど、血管やリンパ管にもがん細胞が入っていき、他の臓器やリンパ節に転移する危険性が高くなる。病期としては、筋層浸潤が浅い場合にはステージ1A、深くなるとステージ1B、またがんが子宮の下の方に下りてきて子宮頸部に入るとステージ2となる。

 子宮体がんの治療は、子宮と卵巣をとることが基本だが、ステージ1Aであれば、腹腔鏡手術、ロボット手術といった低侵襲の手術を行うことが保険で認められている。お腹に小さい傷をつけるだけで、子宮をとることができる。一方、ステージ1B以上になってしまうと、大きな傷が残る開腹手術をして、リンパ節も取る(リンパ節郭清)ことになる。さらにステージ1B以上では、抗がん薬治療により再発頻度が減るため、抗がん薬を勧めることになる。

 リンパ節郭清では、転移しうるリンパ節をすべて取る。術後、10〜15%の人でリンパ浮腫(足がむくんでしまう)が起きるが、がん研有明病院のデータによれば、抗がん薬治療を行なった場合、その頻度はさらに高く20〜25%に上る。弾性ストッキングの着用やリンパのマッサージ(リンパドレナージ)、時にはリンパ管吻合手術が行われるが、治療には難渋するという。「できればリンパ節郭清が不要な段階であるステージ1Aで早期発見したい」(野村氏)。

 さらに、子宮温存という意味でもステージ1Aでの発見が望ましい。ステージ1Aで、がんが内膜にとどまっていれば、多くの場合、ホルモン療法を行うことができ、子宮を残して妊孕性を温存することができるという。

子宮体がんのサーベイランスは30歳から考慮したい

 がん研有明病院産婦人科では、不妊治療を契機に31歳で子宮内膜がんが発見され、その後にリンチ症候群であることがわかった患者を2人経験している。2人のがんはステージ2、ステージ1Bだったため、手術やリンパ節郭清、化学療法が必要だった。そして2人の血縁者は偶然、同院でがんの治療を受けていたが、その段階ではリンチ症候群であることはわかっていなかった。

 野村氏は、「これは我々の反省なのだが、お父さん、お母さんの段階で適切にリンチ症候群が診断され、なおかつ娘さんたちにその情報が伝わっていれば、より早期に診断がついて、もしかしたら子宮温存(妊孕性温存)もできたのではないか。(家族性腫瘍を適切に診断することは)、患者個人のみならず、血縁者にも重大な影響を与えるということを再認識した」と話した。

 こうした反省から、婦人科独自の家族歴聴取表を作成して、より多くのリンチ症候群の家系の発見に取り組んでいる。また最近では、50歳以下で子宮体がんと診断された全員に、スクリーニング検査を勧めているという。

 野村氏は、私見だと断った上で、「子宮体がんを早期発見し、子宮を温存するためには、35歳の検診開始では遅いのではないか、30歳から考慮すべきではないかと思う。それにより、治療を軽くできる可能性が高い。そして、今後希望される方には、選択肢としてリスク低減手術もできるようにしていきたい」と話した。

定期検査を継続した場合の治療対象となるポリープの83%はステージ0

 リンチ症候群の大腸がんについては、大腸内視鏡による検査を行い、そのまま内視鏡で治療を行う場合と、外科治療(手術)を行わなくてはならない場合がある。がん研究会有明病院下部消化管内科の千野晶子氏は、大腸内視鏡診療について説明した。

 リンチ症候群では、頻度の差はあるが遺伝的要因にさまざまな誘発因子(後天的要因)が加わることによりポリープが発生してがん化する。一方、遺伝的要因が解明されていないポリープハイリスクの人も、ポリープができやすい誘発因子が加わると、ポリープの一部からがん化する。誘発因子として、年齢に加えて、排便習慣(慢性便秘)、生活習慣(運動不足、高血糖)、嗜好品(酒やたばこ)などが挙げられる。

 千野氏によれば、ポリープハイリスクの人は、「1回の治療で10個以上のポリープの治療、20mm以上のポリープの治療、または早期大腸がんの治療歴を有する」ため、年1回の検査が推奨される。

 ポリープとは、「平たい部分から隆起したもの」という、形態学的な定義だという。通常観察である程度の大きさと潰瘍を有するものは、いわゆる進行がんと称されるのに対して、外来診察での会話のなかで、大腸ポリープと説明された場合には、「腫瘍でないものから前がん病変、早期がんまで、すべてを含む」という認識でいいという。

 大腸がんは、大きさや転移の有無によってステージ(病期)が分類されているが、ステージ0は最も浅い粘膜内の病変で転移がないものをいう。同院で2016年に集計した、リンチ症候群の患者から内視鏡治療で摘除した早期がんと前がん病変41個のポリープでは、内視鏡治療で完治するタイプのポリープである高異型度腺腫と粘膜内がん(ステージ0)が83%を占めていた(第85回大腸肛門病学会、2016年)。

定期的な検査でポリープを早期発見して治療すれば予後良好

 千野氏によれば、ポリープの中でも増殖して形が変わっていく(異型度が高くなる)ポリープは、前がん病変を経てがん化するという説があり(腺腫-がん化説)、この発がん過程が全大腸がんの8割を占めていると考えられる。しかし、がん家系のあるリンチ症候群の15年以上に及ぶ長期予後調査から、3年間隔であっても、定期的な内視鏡検査を受けていれば、大腸がんの発症リスクが下がることが報告されている(Gastroenterology. 2000; 118(5): 829-34、Gastroenterology. 2000;118(4): 808-9)。

 アムステルダム基準(がん既往や家族歴のある場合)を満たすリンチ症候群の人では、定期的な内視鏡検査によって、一般症例に比べて、一定数の腺腫や前がん病変が発見できることが多く、治療により大腸がん発症リスクを減らせるという。ただ、この発がんリスクの低下は、「発見した前がん病変を摘除する」という条件があってのことだという(BMJ . 2005; 331(7525): 1047)。

 検査間隔は、3年間隔で大腸癌の発症を防げるが、1-2年間隔で検査することにより、より早い段階での腺腫の発見が可能となる(Clin Gastroenterol Hepatol. 2010; 8(2): 174-82)。

 検査間隔に関する議論は今も進行中で、2018年に代表3カ国が合同で行った多施設共同試験では、1年ごと(ドイツ)の検査を行なっても、1-2年(オランダ)や2-3年(フィンランド)と比べて大腸がんの発症リスクや進行度を下げることに寄与するわけではないことが報告された(Gastroenterology. 2018;155(5): 1400-1409)。

 ただ、海外では発症率のみならず検査で発見されるステージが高めであることに注意が必要である。その背景には、内視鏡診断の精度と保険体制の違いがあり、「特に日本の大腸内視鏡の精度は、かなり高い」(千野氏)。

 現在、日本のガイドラインでは、リンチ症候群の大腸内視鏡検査は1-2年間隔での定期検査が推奨されている。本邦での大腸内視鏡検査の目的は、大腸がんの発見前に、がんでも早期の段階、あるいは前がん病変である腺腫のうちに発見することである。「内視鏡診療は、発がん予防のためのメンテナンスと考えてもらえるといいと思う」と千野氏は話した。

代表的な内視鏡治療の手法とは?

 大腸内視鏡検査の前日には食事制限と、固形の便を出すための下剤が必要になる。検査当日には腸管洗浄液を(種類により)1〜2リットル、2時間かけて飲まなくてはならない。前処置の状態がよくないとポリープが発見できず、発見できても安全な治療ができない。そのため、問診の看護師が最終便の状態を聴取し、評価スケールを参考に、前処置の良し悪しを評価しているという。

 大腸内視鏡検査では、ポリープ発見と同時に診断と治療方針を決定する。がん研有明病院では、安全性と治療準備、治療にかかる時間から、定期検査中に外来でできる治療の目安を決めている。

 内視鏡治療には3つの代表的な手法がある。より小さく、程度の軽い良性のポリープ(大きさ4-9mmかつ非がん)に対しては、電流を使わずポリープを引きちぎる手法であるコールドポリペクトミーが行われる。「最大のメリットは外来でも安全にできるというところにある」(千野氏)。

 大きさ10-20mmまたはがん(疑)に対しては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われる。最もオーソドックスな方法だが、電気メスを使うため一定の出血リスクがあり(後出血が1.4-1.7%、穿孔が0.07%)、2泊3日程度の入院を要する場合もある。リンチ症候群の人で前がん病変を疑った場合には、診断と治療が同時にできるこの手法を選択することが多いという

 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、2012年に保険収載されるまでは高度先進医療として行われていた時期もある。大きさに関わらず、一括切除が必要な早期大腸がん(疑)が対象で、所要時間は30分から1時間以上に及ぶこともあり、治療後の合併症(後出血1.5-2.8%、穿孔0.1%)にも注意を要する。目的は根治的治療または診断的治療で、5泊6日程度の入院が必須になる。

大腸がんの手術では原発巣切除だけでなくリンパ節郭清が重要

 がん研究会有明病院大腸外科の長嵜寿矢氏は、リンチ症候群の大腸がんに対する手術療法について説明した。

 消化管は、食道から胃、小腸から、日本人では約1.5mの長さを持つ大腸へとつながっている。大腸は結腸と直腸に分かれていて、機能は水分やナトリウムなどの電解質の吸収であり、栄養分の吸収等にはあまり関わっていないが、肛門に近い直腸は排便という重要な機能も担っている。

 大腸は、網目のように流れる動脈により栄養を得ていて、動脈に沿ってリンパ節がある。また大腸の壁は、内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層構造になっている。千野氏が説明したように、がんであっても粘膜にとどまっていれば、転移するリスクはなく内視鏡で取ることで治療完遂となる。

 腸管外のリンパ節に転移するリスクは、粘膜下層に入っている(粘膜下浸潤がある)がんで10%、固有筋層浸潤では20%、さらに深いと30-40%に及ぶ。粘膜下層のがんは、技術的に切除可能であっても、リンパ節転移の可能性があることから、リンパ節ごと切除(リンパ節郭清を伴う腸管切除)する必要がある。がんがある部分の血管を根本で切って、その部位の腸管を切除した後に、再建を行う。

 直腸のがんでは部位によっては手術術式が大きく変わり、肛門の出口のところや、肛門から距離があっても肛門括約筋まで浸潤がある場合は、肛門全体を切除し、内側の大腸をお腹の壁から出して、永久人工肛門を作る必要がある。

 手術の方法としては、従来、お腹を大きく開けて医師が両手を入れて、実際に腸に触って切る開腹手術が行われていたが、最近は腹腔鏡手術が普及している。へその傍に2cm程度の傷を開けてカメラ(腹腔鏡)を、ほかに4箇所程度の小さな傷(5-12mmあるいは3-5mm程度)を開けて器具(鉗子)を挿入する。そしてお腹の中で腸管や血管を切除する。術後には、切除した腸管の傍にリンパ節転移がないかどうかを調べる(病理検査)。

残った大腸に新たながんができるリスクが高いため定期的な内視鏡検査を

 大腸がんの場合、ステージ(病期)は0-4に分けられ、ステージ0は粘膜内病変、大腸の壁への浅い浸潤でリンパ節転移がないものはステージ1、リンパ節転移がないが深く浸潤しているものがステージ2、深さによらずリンパ節転移が1つでもあるとステージ3、そして他の臓器への転移(遠隔臓器転移)が1カ所でもあればステージ4となる。

 長嵜氏によれば、リンチ症候群の人の大腸がんに対する手術療法は、一般(散発性)の大腸がんとは異なる点がある。残った大腸に新たながん(異時性大腸がん)ができる頻度が、散発性大腸がんでは0.2-3.6%だが、リンチ症候群では15.7–25%と高頻度であるためだ。

 欧米などでは、最初の手術である程度広範囲に切除する(大腸亜全摘)という考え方がある。メリットは、異時性の大腸がん発症リスクが下がることだが、水分の吸収という大腸の機能が大幅に失われるため、水っぽい便(水様便)や便の回数が多い(頻便)などの排便障害が起こることが知られている。そのため、リンチ症候群の人に対する初回手術の様式については、まだ若干議論があるところだという。

 内視鏡治療で切除が可能な腺腫や正常粘膜にとどまっているがんの段階で発見して治療すれば、手術を避けられるため、「特にリンチ症候群の方は、内視鏡による経過観察が非常に重要だと思う」と長嵜氏は話す。がん研有明病院では、まず普通の大腸がんと同じように短い範囲での切除を行い、その後は異時性の大腸がんを手術が必要となる前に発見できるように、定期的な内視鏡検診を勧めているという。

知るまでが一番つらい時期、知ることはとても大切

 このシンポジウムでは、最後に、リンチ症候群の当事者である本村のり子さんの「がん治療と同時進行でリンチ症候群の検査を受けた時のこと」と題するメッセージが読み上げられた。

 本村さんの場合は、健康診断をきっかけにみつかった大腸がんから、リンチ症候群と診断された。がんの可能性を知ってから、リンチ症候群と診断され、治療と検査を進めていく過程の心の動きを率直に綴った、とても心を動かされるメッセージだった。

 本村さんは、健康診断の後、内視鏡専門の小さなクリニックで2cm大のポリープがみつかってから、がんの診断を受ける前の時期を、「今の自分がどういう状況にいるのか全く理解できず、立ち往生しているような状態で、今から思えば、この頃が一番苦しくて辛い、嫌な時期でした」としている。

 そして今、振り返って思うのは、「やはり知ることはとても大切。特に最初の混乱している時期には、しっかりと裏付けのある情報に触れることが肝心なのだと考えます。また、混乱している自分をそのまま受け止めてもらえる環境があると、その後の治療に向き合う心のありように、とてもいい影響を与えると感じました」ということだ。

 術後5年くらい経った頃、「当事者同士で話してみたい」と思ったのをきっかけに、がん研有明病院の医師や遺伝カウンセラーの協力のもと、患者家族会を立ち上げた。予定していた茶話会はコロナ禍のため実現に至っていないが、本村さんが他の患者と会ったときに感じた「まるで親戚にあったような親近感を覚えました。懐かしさ、愛おしさ、共感、すぐに打ち解けて、居心地の良さを感じました」という気持ちを、患者家族会のベースとして大切にしたいという。問い合わせ先は、

リンチ症候群 患者家族会 本村範子(もとむらのりこ)
メール:hnpcctokyo@gmail.com


第7回 リンチ症候群研究会シンポジウムより (1)
「リンチ症候群」の診断はがん予防や早期発見への扉
原因となる遺伝子の変化を知って自分と家族の健康管理につなげる

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