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レポート

2021/09/28

第7回 リンチ症候群研究会シンポジウムより (1)

「リンチ症候群」の診断はがん予防や早期発見への扉

原因となる遺伝子の変化を知って自分と家族の健康管理につなげる

中西美荷=医学ライター

 リンチ症候群は、生まれながらに持っている遺伝子の変化により、大腸がん、子宮体がんをはじめとする、さまざまながんを発症しやすい遺伝性腫瘍症候群。「いろいろながんにかかりやすいなんて嫌だなあ」と思うかも知れないが、リンチ症候群であることや、どんな遺伝子の変化が原因になっているのかが分かれば、がんの予防や早期発見の方法があり、予後は良好であることも知られている。遺伝子の変化は家系で引き継がれるため、「知っておくこと」で、自分だけでなく家族の健康管理にもつなげることができる。

 診療科が多岐にわたることや、遺伝の情報を扱うこともあって、リンチ症候群の医療は、さまざまな領域の医療従事者が関わるチーム医療によって支えられている。9月4日に開催された第7回リンチ症候群研究会シンポジウム市民公開フォーラム「チーム医療でサポート!リンチ症候群の診療」では、がん研究会有明病院でリンチ症候群の診療を担うスタッフにより、リンチ症候群の人が安心して医療に向き合うための、さまざまな情報が提供された。その内容を2回に分けて紹介する。

 第1回はリンチ症候群について知っておきたい基本的なことと、遺伝カウンセリングについて。


リンチ症候群は、遺伝子に変化があってがんを発症しやすくなる遺伝的な体質の1つ

 シンポジウムではまず、がん研究会有明病院臨床遺伝医療部の植木有紗氏が、リンチ症候群について知っておきたい基本的なことについて説明した。

 リンチ症候群は、生まれつき持っている遺伝子の変化(病的バリアント)が原因でがんを発症しやすい体質(遺伝性腫瘍症候群)の1つである。リンチ症候群の場合は、主に、DNAが複製する時に起こるエラーを正す働きをする遺伝子(ミスマッチ修復[MMR]遺伝子)であるMLH1、MSH2、MSH6、PMS2という4つの遺伝子のいずれかが関わっていて、大腸、子宮体部、卵巣、胃、小腸、尿路(腎盂・尿管・膀胱)や膵胆道、脳、皮膚などに悪性腫瘍を好発する(がんが起こりやすい)とされる。

 かつて「遺伝性非ポリポーシス大腸がん」(HNPCC:Hereditary non-polyposis colorectal cancer)と呼ばれたこともあるが、大腸がん以外にも、さまざまながんを発症することから、最初に報告したリンチ(Lynch)博士の名前にちなんで、今は「リンチ症候群」という名称が用いられる。

 「de novoと呼ばれる、突然変異での発症も2-3%ある(J Med Genet. 2011; 48(8): 530-4)ため、家族歴が全くなくても看過できない」(植木氏)が、ほとんどは家系内発症で、「常染色体優性遺伝」という遺伝形式で遺伝し、親子で同じ遺伝子の変化を共有する(遺伝して、親子が同じ病的バリアントを持つ)確率は50%である。

 リンチ症候群で発症しやすいがん(関連腫瘍)として特に多いのは大腸がん、子宮体がんだが、「いわゆるがん家系の人に、いろいろな臓器に起きてくるということが特徴的」と植木氏は話す。がんの浸透率(かかる確率)は、大腸がんが男性54-74%、女性30-52%、子宮体がんが28-60%、卵巣がんが6.1-13.5%、胃がんが5.8-13%、小腸がんが2.5-4.3%、膵がんが0.4-4.3%、脳腫瘍が2.1-3.7%、腎盂・尿管がんが3.2-8.4%、胆道がんが1.4-2.0%と報告されている(大腸がん研究会 遺伝性大腸がん診療ガイドライン2020年版)。

遺伝子の変化や、作られる蛋白質に変化がないかを検査する

 診断においては、まず、50歳未満で発症した大腸がん、子宮体がんなど若年発症のがん、リンチ症候群関連腫瘍が同じ時に2つ、あるいは時を別にして2回、3回と発症する(異時・同時性の重複がん)場合、そして家族にリンチ症候群関連腫瘍を持つ人がいる(家族歴がある)場合に、リンチ症候群を疑って、検査を進めていく。

 リンチ症候群が疑われた場合に行う検査として、マイクロサテライト不安定性(MSI)検査と免疫組織化学染色(IHC)がある。

 リンチ症候群の原因遺伝子であるMMR遺伝子が変化していると、DNAの複製の過程で起きたエラーを修復することができない(MMRの機能欠損)。そうした場合に起こる状態がMSIである。遺伝子の中には、一塩基から数塩基単位の繰り返しの配列であるマイクロサテライトというものがあるが、MSIでは、この繰り返し回数に変化が生じやすくなっている。

 たとえばAという塩基が21回繰り返している配列があるとすると、DNAが複製される時には、全く同じコピーが作られなくてはいけない。ただ、何事にもエラーはあるもので、DNAの複製においても、この繰り返しが5個抜け落ちてしまって、16回しか繰り返されていないものが作られるといったことがある。

 通常は、MMR遺伝子がこのエラーを正すのだが、リンチ症候群ではMMR遺伝子が変化して、その機能が失われやすくなっている。そのため繰り返しの配列が短いままで細胞が引き継がれてしまい、このことが、がん発症につながると考えられている。そのようながんは「MSI-High(MSI-H)のがん」とも呼ばれ、MSI検査は、MSI-Hのがんかどうかを調べる検査である。

 もう1つの検査である免疫組織化学染色(IHC)は、MMR遺伝子によって作られる蛋白質が細胞にある(発現している)かどうかを調べる検査である。MMR遺伝子に変化が起きて不活性化していると、その遺伝子を元にして作られる蛋白質の発現が失われることから、これを調べることで、リンチ症候群の可能性があるかどうか、原因遺伝子のうちどの遺伝子が変化している可能性が高いかを推測することができる。

MSI検査やIHCでリンチ症候群が疑われたら確定診断として遺伝学的検査に進む

 MSI検査でMSI-Hとなった場合や、IHCで蛋白質の発現が失われていた場合、リンチ症候群の原因遺伝子が実際に変化しているかどうかを調べる遺伝学的検査を行う。その前に、リンチ症候群であることを否定するための検査(BRAF遺伝子の変化があるかどうかを調べる検査など)を行うこともある。

 遺伝学的検査は、現時点で保険収載されておらず、自費診療となる。MMR関連遺伝子すべてについて調べるのが一般的だが、すでにリンチ症候群の診断を受けて、どの遺伝子が変化しているかわかっている人の家族が検査を受ける場合は、その遺伝子だけを調べる「シングルサイト検査」が可能で、その場合、費用負担が軽くなる。

 植木氏によれば、リンチ症候群の原因遺伝子として、大腸がんを中心に考えた場合、MLH1、MSH2の因果関係が大きいとされていたが、最近では、MSH6、PMS2の方が検出される頻度が高いとも言われている。子宮体がん、卵巣がんなど婦人科領域の腫瘍ではMSH6、乳がんではPMS2が比較的高い頻度で検出されることが報告されている(J Clin Oncol. 2017; 35(22):2568-2575)。

 また「IHCとMSI検査の結果は、必ずしも一致しないため、片方だけの検査では不完全になってしまう場面があることにも注意してほしい」と植木氏は話した。

リンチ症候群のがん治療はそうでないがんと同じ、予後は良好

 がん研有明病院では、リンチ症候群と診断された患者に対して、健康管理の一部として関連腫瘍のサーベイランス(がんが発症していないかの検査・監視)を、各診療科で提案、提供している。開始年齢や推奨度は、原因遺伝子によって少しずつ異なるという。

 治療については散発性がん(遺伝性腫瘍ではないがん)に準じて選択され、予後は比較的良好だという。ただ、大腸がんについては、広い範囲で切除する拡大手術(大腸亜全摘)が選択肢であるということが、ガイドラインに記載されている。

 最近の話題は、リンチ症候群の関連腫瘍を含めて、がん化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-Hを有する固形がん(標準的な治療が困難な場合に限る)に対して、臓器横断的に、免疫チェックポイント阻害薬の投与が、保険診療としてできるようになったことである。「リンチ症候群の患者にとって、非常に大切な治療選択が増えたということになる」(植木氏)。

 日本国内で、MSI-Hのがんの臓器別頻度を調べたところ、100例以上を調べたがんでは、大腸がん(3.78%)よりもむしろ子宮体がん(16.85%)、小腸がん(8.63%)、胃がん(6.74%)、十二指腸がん(5.6%)が多かったこと、調べた対象数が少なかった(100例未満)がんの中では、尿管がん(16.6%)でMSI-Hが多かったと報告されている(Cancer Sci. 2021; 112(3): 1105-1113)。

 またMSI-Hのがんを調べると、少なくない頻度でリンチ症候群の患者がみつかり、特に膀胱がん、尿管がんでは、リンチ症候群だった人が37.5%にも上っていたことが報告されている(J Clin Oncol. 2018; 37(4): 286-295)。

 ただ、ゲノム診療のガイドライン2019年版の中では、リンチ症候群とすでに診断されていたとしても、改めてMMRの機能が失われていることを、MSI検査やIHCで確認することを推奨している。それは、「MMRの機能が保たれている腫瘍では、免疫チェックポイント阻害薬の効果は期待できない可能性があるためで、注意が必要である」(植木氏)。

 現時点で、免疫チェックポイント阻害薬を投与できるかどうかを調べる検査(コンパニオン診断)以外の目的のMSI検査、すなわちリンチ症候群の診断のためのMSI検査の保険適用は、大腸がんに限定されてしまっているという問題もある。植木氏は「大腸がん以外の臓器を念頭に、遺伝学的な診断をつけていくということも、積極的に考えていきたい」と話した。

 また、これまでは典型的な遺伝医療として、既往歴/家族歴からリンチ症候群が疑われることが多かったが、最近、広く行われるようになってきた、がんゲノム医療やコンパニオン診断などによって遺伝学的な診断がなされる人も増えている。

 植木氏は、「そういった方々を発端に、未発症血縁者の方々に、いかに発症前に診断をつけてがん予防につなげるか。がんにかかってしまうリスクが高いということを、リンチ症候群の方々と共有することで、がんにならないために、早期発見、早期治療のために、そして、がんで命を落とさないためにどういったアプローチができるかを、遺伝カウンセリングや遺伝診療の場面で相談していきたい。何かあればお気軽にご相談いただければと思う」と話した。

遺伝相談外来ってどんなところ?何ができる?

 金子景香氏は、がん研有明病院の臨床遺伝医療部に所属する認定遺伝カウンセラー。認定遺伝カウンセラーとは、遺伝医療を必要とする患者や家族に適切な遺伝情報や社会の支援体制等を含むさまざまな情報提供を行い、心理的、社会的サポートを通して当事者の自律的な意思決定を支援する保険医療・専門職である。認定遺伝カウンセラー制度は、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会の共同認定で2005年に開始され、2021年4月現在、全国で289名が認定されている。

 遺伝相談外来は、病院によって遺伝カウンセリング外来、遺伝子診療部門などとも呼ばれ、遺伝性のがんや遺伝性の病気を専門とするスタッフが対応している。遺伝性のがんが疑われる場合には、まず、その可能性について、病歴(カルテ情報)や家族歴などを聞くことから始める。リンチ症候群など、遺伝性のがんを調べる遺伝学的検査についても情報を整理して伝え、遺伝学的検査を受けた患者に対しては、その結果についても説明するという。

 さらに、遺伝性のがんであることが確定した後には、健康管理(主に検査内容)について話し合ったり、適切な医療を受けられるよう受診調整などを行う。同じ体質を持っている可能性がある血縁者の健康管理のためのサポートを行う場合もある。

 リンチ症候群では、「主治医から、リンチ症候群の可能性があると言われたが、どういうこと?」「遺伝性ということは、子供も将来、がんを発症しやすいということですか?」「両親はがんと診断されたことがないのに、本当に遺伝性なんですかね?」「もしリンチ症候群だったら、どのような対策が立てられますか?」「遺伝子の検査はどんな検査で、いつ受けるのがいいですか?」「遠くに住んでいる兄弟姉妹にも、リンチ症候群の可能性について伝えた方がいいですか?」「将来結婚する時に、リンチ症候群のことも話した方がいいですか?」といった患者の疑問に丁寧に対応している。

50歳で横行結腸がんを罹患したAさんのケース

 ここに、架空の症例だが、Aさんという人がいたとする。大腸がんの手術を受け、化学療法の選択のためにMSI検査を受けたところ、MSI-Hの結果でリンチ症候群の可能性があるとして、主治医から遺伝相談外来の受診を勧められた。

 こんな時、遺伝相談外来では、「今どんな気持ちか」を聞きながら、面談を開始する。まず家族歴を聞くことが多いが、Aさん本人は50歳で横行結腸がんを罹患し、MSI-Hの結果、そして48歳の弟、16歳と12歳の子供がいる。母親は86歳で今は元気だが、50代で子宮体がん、70代で大腸がんの診断を受けている。さらに上の世代で、母方の祖父は50代で胃がんと診断されていた。

 Aさんの場合は、MSI-Hの結果と家族の病歴からリンチ症候群の可能性があると考えられ、遺伝相談外来では、この体質だった場合に、それがどのように子供に受け継がれるのかについても説明する。

 人は、両親から受け継ぐ2つひと組の遺伝子を持っている。リンチ症候群に関係するMMR修復遺伝子も、両親のどちらかが病的バリアントを持っている場合、性別や血液型、体質が似ているかどうかに関係なく、50%の確率で子供に受け継がれる。Aさんがリンチ症候群の場合は、子供2人は、それぞれ50%の確率でリンチ症候群だということになる。また48歳の弟は今、元気だが、リンチ症候群かも知れないということになる。

 リンチ症候群かどうかを調べる遺伝子検査(遺伝学的検査)の方法は採血で、自費診療となっている。Aさんのように家系内で最初に検査する人は、リンチ症候群の原因遺伝子すべてについて調べる。いずれかの遺伝子に病的バリアントを認めた場合は、リンチ症候群であることがわかる。

 「リンチ症候群であるならば、それをはっきりさせることで、一般的ながん検診とは異なるリンチ症候群の特徴に合う検診を、比較的若い年齢から定期的に受けることで、がんの予防、あるいは早期発見につながる」ことを説明する。Aさんは遺伝学的検査を受けることに決め、その結果、MLH1遺伝子に病的バリアントを認めた。健康管理として、消化器科の主治医が、上部・下部の消化管内視鏡検査、尿の検査を計画した。また婦人科の予約を入れ、婦人科医からの説明を聞き、今後は定期的に受診することになった。

 子供や弟が同じ病的バリアントを持っているかどうかは、Aさんの遺伝子の情報を使って遺伝学的検査を受けることで、はっきりする。弟や母、母方の親戚は遠方に住んでいるため、居住地域で遺伝医療を受けられる病院をリストアップして渡したり、血縁者の健康管理にどうつなげていけるのかを話し合ったりする。Aさんにどの遺伝子の変化があるかがわかっているので、血縁者は同じ遺伝子のみを調べるシングルサイト検査を行うことが可能である。

 またAさんの息子は16歳、娘は12歳だが、金子氏によれば、リンチ症候群のがんの発症年齢は通常、20代以降であるため、遺伝学的検査に関しては、子供が成人して、本人が体質を知っておきたいと思った時に、話し合いをして決めるようにしているという。

 5年が経過して息子が21歳で来院し、面談をしてみるとリンチ症候群のことは以前から聞いて知っていた。「遺伝学的検査を受けて、もし自分もその体質ならば大腸の検査を受けていくことになるし、陰性であれば安心できる。これから就職活動、卒業研究で忙しくなるから、今のタイミングで受けようかな」との希望だった。

まずは主治医に相談、窓口はいつも開かれている

 「こうした遺伝カウンセリングの相談窓口について、どこに相談すればいいか分かりづらいとこともあると思うが、がんの治療を受けている、あるいは通院しているという場合は、まずは主治医の先生にご相談いただくのが良いかと思う。自身はがんと診断されたことはないが、家族歴から気になるなど、がんと遺伝について相談を希望する場合は、遺伝相談外来に相談するといい(ほとんどの場合予約は必要、自費)」と金子氏は話す。

 がん研有明病院では、コロナ禍の最近では、マスク着用はもちろんだが、アクリル板を設置するなどの感染予防をとっている。金子氏は「ひとつの病院の中でのチームというのはもちろんだが、今後は地域内での連携、全国での連携を目指して対応していきたい」と話した。また「(相談には)それぞれに適したタイミングというのがあると思うので、そのタイミングの中で、いつでも私たちが相談対応をして、窓口は広げているということを、常に伝えていきたい」とした。

 そして、「遺伝子の情報は、がんの治療のために知る、がんの治療の個別化(薬物療法の選択など)のために知るということはもちろん、がん予防に役立てることができる。さらには遺伝情報を共有する血縁者の健康管理(がんの一次、二次予防)にも役立てることができる」ことを改めて強調した。

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