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レポート

2021/08/31

自分らしく生きるために-知っておきたい・がん介護Vol.6

1人暮らしでも自宅で最期まで過ごせる?

福島安紀=医療ライター

 核家族化、独身率の増加によって、いわゆる〝おひとりさま″が増えている。国民生活基礎調査(2019年)によると、世帯員が1人の単独世帯は年々増加し、2019年6月時点で全世帯の3分の1の28.8%。2040年には40%が単独世帯になると推計されている。もしもがんが治らない状態になったとき、1人暮らしで介護してくれる家族がいなくても、自宅で最期まで過ごせるのだろうか。
 首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)で17カ所、沖縄県で1カ所の在宅療養支援診療所を運営しチームで6000人以上の患者の訪問診療をする、医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木淳さんが解説する。


1人暮らしで家族の助けが得られない人でも在宅療養は可能

 「1人暮らしだから、もしも身の回りのことが自分でできなくなったら、在宅療養は無理」と考えてはいないだろうか。しかし、「1人暮らしのがんの患者さんでも、本人が望めば在宅療養は可能ですし、最期まで自宅で過ごせます。実際に、1人暮らしのがんの患者さんの在宅看取りは増えています」と佐々木さんは話す。

佐々木淳さん

 1人暮らしは、大きく2つのパターンに分けられる。介護が必要な状態になったとき、わが子やきょうだい、親戚などの助けが得られる場合と、家族や親戚の助けが得られない場合だ。「一見、在宅療養が難しそうな後者のパターンでも、訪問診療、訪問看護、介護保険による訪問介護などを組み合わせて利用することで、最期まで自宅で過ごせます。本人の意向だけで物事を決めればよいので、1人暮らしで家族がいない人のほうが、かえって在宅看取りを実現しやすいくらいかもしれません」と佐々木さん。

訪問診療、訪問看護、介護保険サービスを活用し最期まで自宅で

 乳がんの診断を受けたときに骨転移と肺転移があり、ステージ4と診断された70代のYさんは、夫に先立たれ、東京都内の集合住宅で1人暮らしをしていた。通院で薬物療法を受けていたが、がん専門病院の主治医に「これが最後」と言われた抗がん剤が効かなくなった際、在宅療養を希望した。病院の相談室では緩和ケア病棟への入院を勧められたが、以前の経験から、「入院は絶対に嫌」と周囲の人に話していたという。Yさんに子どもはいない。きょうだいは遠方に住む姉のみだが認知症で高齢者施設に入っており、介護に協力を得るのは難しい状況だった。

 Yさんは、最後の薬物療法が終わってから介護保険申請をし、「要介護2」と認定された。介護認定を受ける前に、通院できない状態になっており、健康保険で週1回の訪問診療と週3回訪問看護を利用。ケアマネジャーが「暫定ケアプラン(介護サービス計画書)」を作成し、介護用ベッド、床ずれ防止エアマットなどをレンタルし、トイレと浴室に手すりをつけ、週3回訪問介護を受けた。暫定ケアプランは、要介護度がどのくらいになるか予想を立てたうえで、暫定的に作成するケアプランのことだ。暫定ケアプランがあれば、介護保険の申請中でも介護ベッドなど福祉用具のレンタルや介護サービスが受けられる。Yさんの場合は、介護保険認定をされた後もしばらくの間は、暫定ケアプランと同じ内容で介護保険サービスを利用した。

 この連載のVOL.3「要介護度はどう決まる?」で触れたように、介護保険サービスには利用限度額があり、その範囲内であれば1~3割の自己負担額でサービスが受けられる。一般的に訪問看護は、介護保険を使っている人はそのサービスの1つとして利用するが、がんで人生の最終段階が近づいている患者の場合には健康保険の対象になる。そのため、介護保険では訪問介護、訪問入浴などのサービスが最大限利用できる。

金銭管理、死後の手続きを誰に託すか検討を

 1人暮らしの人で問題になることの1つが金銭管理だ。Yさんの場合は、姉の長男である50代の甥に金銭管理を依頼していた。甥は、遠方に住んでいて仕事もあるので介護には協力できないが、在宅療養が始まるときには上京して訪問診療医の説明を聞き、金銭管理をすることや死亡後の手続きをすることにも同意した。

 金銭管理を依頼できるような身内がいない、あるいは、家族がいても金銭管理を依頼できない場合には、成年後見人に契約の締結や財産管理などを任せる成年後見制度を利用する手もある。ただ、成年後見人の選定などについては家庭裁判所での審理に2~3カ月かかるため、がんで訪問診療や介護が必要な状態になってからこの制度を使うのは難しいかもしれない。認知症の人の場合には、都道府県・指定都市社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を活用して、日常生活費用の管理を依頼することもできる。死亡届の提出、遺品の整理などの死後事務については、行政書士やNPO法人に依頼する手もある。成年後見制度、日常生活自立支援事業については、権利擁護センター、社会福祉協議会などで相談してみるとよいだろう。

 Yさんは、在宅療養を始めて1カ月くらい経った頃から、ベッドに横になっている時間が長くなり、訪問介護を毎日利用したほうがよいような状態になった。介護の必要度(要介護度)が上がったので、ケアマネジャーが介護保険の「区分変更申請」を行った。要介護認定区分が現状に合わないときに、区分変更申請は、自治体や地域包括支援センターの介護保険申請窓口へ要介護度の見直しを求める手続きだ。自分でできなければケアマネジャーや地域包括支援センターに代行してもらうこともできる。Yさんは、区分変更申請の結果、「要介護4」になり、訪問介護を朝夕1日2回利用した。

亡くなるときに1人であることを受け入れられるかがポイント

 在宅療養を始めて2カ月ほど経ったある日の朝、ホームヘルパーが訪問した際、Yさんが息をしていないことに気づいた。連絡を受けた訪問診療医がかけつけ、この時点で死亡が確認された。1人暮らしか同居の家族がいるかに関係なく、自宅で突然亡くなったときには警察の検視が必要になる。しかし、訪問診療を定期的に受けていて、その病気で亡くなったとみられるときには、訪問診療医が死亡診断書を作成し、警察が入ることはない。

 「家族が同居していても、近くに誰もいないときや就寝中に息を引き取るというのはよくあることです。1人暮らしでも、在宅医療を利用している人が、誰もいないときに息を引き取っても異状死や孤独死にはなりません。一般的には意識がなくなってしばらく経って眠るように息を引き取るので、亡くなる直前に孤独を感じることもほとんどないとみられます。1人暮らしのがん患者さんが最期まで自宅で過ごせるかどうかは、不安になったときや亡くなるときに1人でいることを受け入れられるかどうかがポイントになると思います」。佐々木さんはそう指摘する。

 Yさんも、在宅療養の最初の頃には、夜中に目が覚めたときに不安になって訪問看護師に電話したことが何度かあったようだ。24時間365日連絡が取れる機能強化型の訪問看護ステーションや在宅療養診療所・病院を利用していれば、必要に応じて、夜間や早朝に訪問診療や訪問看護、訪問介護を受けることもできる。長年1人暮らしだった人でも、調子が悪いときや人生の最終段階では心細くなったり、不安になったりするのは当然のことだ。訪問看護師やホームヘルパーなどの専門家だけではなく、ときどき様子を見に来てくれる隣人や不安な気持ちを電話などで聞いてくれる友人など支えてくれる人がいると心強い。

 隣人などに自宅の鍵を預けている人は、何かあったときには訪問看護師や訪問診療医に連絡先を伝えておくことも大切だ。Yさんは、寝室と電話のそばに、訪問看護師と訪問診療医、甥の電話番号を大きく書いた紙を貼っていた。

 身寄りのない人が息を引き取った場合の死亡届の提出は、家主、地主、土地の管理人、後見人など。火葬や埋葬、財産の処理は、基本的に、住んでいた市区町村がすることになる。親族間のもめ事を避けたい、自宅や財産を国庫に取られたくない、財産の使い道を自分で指定したいという場合には、公正証書遺言を作成し、信託会社などに遺言の執行まで依頼しておくとよいだろう。そういった金銭管理、財産管理、死後事務手続きの依頼などは、ある程度、自分で相談窓口へ行ったりできるうちにやっておくと安心だ。

 「がんで認知症の患者さんでも、ご本人が望むなら、自宅で最期まで過ごすことは可能です。最期まで自宅で過ごしたいと考えているのなら、在宅看取りの経験豊富な訪問診療医や訪問看護師などにその希望を伝えましょう」と佐々木さん。

 在宅療養をしてみて、最期は自宅ではなく、看護師やケアスタッフがそばにいてくれる緩和ケア病棟や高齢者施設などで過ごしたいという場合には、途中で方針を変えることもできる。がんが治らない状態になった時点で、自分で身の回りのことができなくなったときにどこで過ごすのか、金銭管理や死後の手続きなどは誰に託すのか、考えておく必要がありそうだ。


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