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レポート

2021/08/24

第29回日本乳癌学会学術総会教育セミナーより Vol.3

がん免疫療法の基礎を知ろう

乳がんでも標準治療の一つに

森下紀代美=医学ライター

 免疫チェックポイント阻害薬は、従来の抗がん薬や分子標的薬のように直接がん細胞に作用するのではなく、T細胞などのリンパ球を活性化させ、それらががん細胞を攻撃する仕組みになっている。乳がんでは、PD-L1陽性のホルモン受容体(HR)陰性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんに対する抗PD-L1抗体アテゾリズマブとnab-パクリタキセルの併用療法、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)の乳がんに対する抗PD-1抗体ペムブロリズマブが、それぞれ標準治療の一つとなっている。

 2021年7月に現地開催とWEB配信(8月31日まで)で行われた第29回日本乳癌学会学術総会の教育セミナーから、3つの講演の様子を紹介する。3回目は、がん研究会有明病院先端医療開発センターがん免疫治療開発部部長の北野滋久氏の講演「これだけは知っておきたいがん免疫療法の基礎」。


免疫系が認識するのはがん細胞そのものではない

 講演の中で北野氏は、がん免疫療法が効果を発揮するために体の中でどのようなことが起こるのかを示す「腫瘍免疫応答」、がんの発生から免疫応答のせめぎ合いの基本的な概念である「がん免疫編集(Cancer immunoediting)」、体の中にできたがんを私たちの免疫がどのように認識して排除しようとするのかを示す「がん免疫サイクル(Cancer-Immunity Cycle)」、これまで開発されてきた主ながん免疫療法について解説した。

 まず、腫瘍免疫応答について。 腫瘍免疫応答とは、がんに対して起こる私たちの体の免疫応答のことで、その出発点は体の中にがんが発生することである。がんが発生すると、私たちの体の免疫系は、がん細胞そのものではなく、がん細胞の中に存在するタンパク質レベルのがん抗原を認識する。このがん抗原を、主にリンパ節に存在する抗原提示細胞(樹状細胞やマクロファージなど)が細胞内に取り込み、短いペプチド断片に分解・処理する。そして、自己と非自己を認識する主要組織適合抗原(MHC、ヒトではヒト白血球[HLA])上にペプチド断片を抗原として提示する。この提示されたがん抗原ペプチドとHLAの複合体をT細胞上のT細胞受容体(TCR)が認識し、T細胞が活性化した状態(エフェクターT細胞)となり、がん細胞を死滅させる(北野滋久, 玉田耕治:第18章 抗体療法(免疫チェックポイント阻害療法), がんと免疫 南山堂 2015)。

 ただし、抗原提示細胞からHLAを介してがん抗原ペプチドが提示される「主刺激シグナル」がエフェクターT細胞にあるだけでは、不十分である。エフェクターT細胞上のCD28分子から「副刺激シグナル」も同時にエフェクターT細胞に入らないと、がん抗原特異的な活性化と増殖ができないことが報告されている。また、がん細胞自身も、自分の細胞内にあるがん抗原をペプチド断片まで分解し、HLA上に提示するが、これは抗原提示細胞が提示するがん抗原ペプチドと同じものであることが、免疫療法の成立に必要になる。

免疫チェックポイント阻害薬は免疫系をすり抜けたがんを引き戻す

 次に、がん免疫編集について。当初提唱されたがんの免疫監視機構の考え方では、私たちの体の中では毎日のようにがん細胞が発生し、それを免疫が排除するとされていた。しかし、その後多くの修正が加えられた。がんと私たち宿主の免疫系のせめぎ合いについて、現時点で最も広く信じられているのががん免疫編集の考え方である。

 がん免疫編集の考え方では、「排除(Elimination)相」、「平衡(Equilibrium)相」、「逃避(Escape)相」の3つの相がある(R. D. Schreiber, et al. Science 2011;331:1565-70)。

 がんは、後天的に遺伝子変異が積み重なって発生する。私たちの免疫系は、がん細胞のクローンを認識し、これらは排除相で排除される。その後、免疫系に認識されないクローンが徐々に残るようになり、がん細胞の増殖と免疫系が平衡状態となる平衡相に至る。最終的には、臨床的にがんが検出される大きさになり、受診する患者のがんは免疫系からすりぬけた状態、すなわち排除から逃れた逃避相に至ったことになる。

 逃避相にはさまざまなメカニズムがある。広く知られているのは、がんがPD-L1分子を出し、T細胞に発現するPD-1分子に結合してT細胞の働きを止めるメカニズムである。また、免疫系を抑える働きをする制御性T細胞や骨髄由来抑制細胞(MDSC)がエフェクターT細胞を妨げ、がんを攻撃できなくさせるメカニズムもある。免疫チェックポイント阻害薬が画期的とされるのは、免疫系をすり抜け、一度逃避相に入ったがんを再び排除相や平衡相に戻すことが人為的にできるようになったためである。

免疫系ががんを認識して排除するまでの7つのステップ

 次に、がん免疫サイクルについて。私たちの免疫系がどのようにがんを認識して、排除するかが7つのステップで示されている(D. S. Chen and I. Mellamn, et al. Immunity 2013;39:1-10)。それによると、がんができた後の最初のステップに「がん抗原の放出」がある。

 私たちの免疫系は、がん細胞をそのまま認識することは得意ではない。がんが自然に増殖していく中で起こる細胞死や壊死、または治療関連ストレス(化学療法、放射線療法、ラジオ波焼灼療法など)を与えてがん細胞を破壊することにより、がん抗原が放出され、それを免疫系が認識することになる。同時に、がん細胞に含まれるエネルギー貯蔵分子のATPやサイトカインの一種であるHMGB1などが放出され、がん抗原と複合体を作ることで、より抗原提示細胞に取り込まれやすくなると言われている(G. Kromer, et al. Ann Rev Immunology 2013;31:51-72)。

 次のステップが「がん抗原の提示」である。抗原提示細胞による抗原提示には、MHC class I経路とMHC class II経路の2つの経路がある。MHC class I経路は、細胞傷害性のCD8+T細胞に抗原を提示し、これを活性化させる経路である。免疫チェックポイント阻害薬は、この経路に強く作用するよう設計されている。MHC class II経路は、CD4+T細胞に抗原を提示し、これを活性化させ、さらにB細胞からも抗体を産生する経路である。

 3番目のステップが「プライミングと活性化」で、抗原提示細胞にがん抗原が取り込まれ、抗原提示され、T細胞に移動する。4番目のステップが「細胞傷害性T細胞の腫瘍局所への移動」で、プライミングされたT細胞が血流に乗り、腫瘍局所に入る。5番目のステップは「T細胞の腫瘍局所への浸潤」、6番目のステップは「T細胞ががん細胞を認識」、7番目のステップは「がん細胞の殺傷」となる。

自分自身の免疫細胞を利用してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害薬

 次に、がん免疫療法についてである。従来の治療法との違いについて、北野氏は次のように説明した。従来のがんに対する薬物療法、すなわち殺細胞性抗がん薬や分子標的薬は、薬剤自身が直接がん細胞に作用して殺傷するものがほとんどだった。一方、がん免疫療法は、「自分自身の免疫細胞、リンパ球を利用してがん細胞を制御しようとするものであり、これまでの薬物療法とはコンセプトが全く異なるもの」と北野氏。

 1990年代以降に開発されてきたがん免疫療法は3つある。一つはがんペプチドワクチンで、既知のがん抗原タンパク由来のアミノ酸ぺプチドを投与して、リンパ球を活性化し、がんを攻撃させる治療法だ。ただし、承認に至ったものはない。患者毎に個別の抗原の選択ができていなかったことが原因と考えられ、最近は欧米を中心に、ネオ抗原と言われる後天的な患者個別の遺伝子変異を標的としたワクチンの開発が再度行われているという。

 現在、乳がん領域を含めて最も成功しているがん免疫療法が免疫チェックポイント阻害薬である。T細胞にブレーキをかける働きをする分子、免疫チェックポイント分子を抗体でブロックすることにより、リンパ球の活性化を持続させる治療法である。

 もう一つは、B細胞系の造血器腫瘍の領域などで成功している遺伝子改変T細胞療法である。ウイルスベクターなどにがんを攻撃する部品、例えばキメラ抗原受容体と呼ばれる細胞表面を認識できる分子やがん抗原特異的なTCRの遺伝子を組込み、患者から採取したリンパ球にウイルスを導入して発現させ、リンパ球を増やしてから体内に戻す治療法である。

 北野氏は、前述のがん免疫サイクルを踏まえ、免疫チェックポイント阻害薬の作用機序を説明した。抗原提示される前のナイーブなT細胞は、まだ細胞表面にチェックポイント分子は出ていない。しかし、抗原提示されてプライミングされると、チェックポイント分子のCTLA-4分子やPD-1分子を発現し、ブレーキを作動させ、がんに対する免疫応答を止めてしまう。そうならないようにCTLA-4分子やPD-1分子、またはPD-1に特異的に結合するリガンド分子であるPD-L1分子を抗体でブロックする。そうすることにより、リガンドとチェックポイント分子が結合できなくなり、ブレーキが入らなくなるという仕組みだ。

 現在、免疫チェックポイント阻害薬は、単独療法では抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ)の3つのカテゴリーの薬剤が承認されている。最も適応の拡大が進んでいるのが抗PD-1抗体である。ペムブロリズマブは、PD-L1陽性の非小細胞肺がんなど複数のがん種に承認されていることに加え、MSI-Hまたはミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)を有する固形がんに対し、臓器横断的に承認されている。

 dMMRがある患者では、本来細胞が持つ遺伝子の傷を修復する機構が落ちているため、遺伝子変異が積み重なり、体細胞変異が増え、腫瘍遺伝子変異量(TMB)が増加する。TMBが多いほど、免疫チェックポイント阻害薬の奏効率が上昇することが報告されているが、ウイルス感染が原因になるようながんではさらに高い効果を認める場合があるなど、例外もある(M. Yarchoan, et al. N Engl J Med. 2017;377:2500-01)。

 従来の抗がん薬や分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬では、効果の出方にも違いがある。免疫チェックポイント阻害薬が投与された一部の症例では、投与後、一定の期間が過ぎると生存曲線が落ちなくなり、全身に広がった固形癌の患者でも生存曲線が延びることがわかってきている。

複合的ながん免疫療法ではこれまで経験しなかった有害事象に注意

 そうした中でさらに生存率を改善するため、免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の開発も進められている。免疫チェックポイント阻害薬同士の併用、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法と分子標的薬の併用が国内でも承認されている。乳がんでは、PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに対し、アテゾリズマブとnab-パクリタキセルの併用療法が承認されている。

 今後の展望について、北野氏は「免疫チェックポイント阻害薬の臨床的な恩恵を被る患者はまだ一部であり、単剤で効果が得られる腫瘍、単剤では効果が得られない腫瘍を含め、さまざまな治療法との併用療法、複合がん免疫療法でさらに臨床成績の向上を目指したい」と話した。

 現在、がんの新規薬物療法では、がん免疫療法が主体となっている。多くは非臨床から早期臨床試験の段階であるものの、2018年9月の時点で、世界では3394種類の薬剤が開発されている(J. Tang, et al. Nat Rev Drug Discovery 2018;17:465-66)。

 ただし、複合的ながん免疫療法では、従来の抗がん薬では経験されなかった有害事象が出現する可能性がある。北野氏は「同時併用による有害事象の増強、異なる治療様式との併用による未知の有害事象、さらに免疫療法は抗原に対する記憶に基づくものであるため、投与順序による有害事象の出現などに注意が必要である」と話した。


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