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レポート

2021/08/17

第29回日本乳癌学会学術総会教育セミナーより Vol.2

「Residual disease-guided approach」で乳がんのさらなる再発抑制を目指す

術後にpCRを指標に再発リスクを再度評価し、治療法を変える取り組み

森下紀代美=医学ライター

 乳がんによる死亡をなくすためには、治療の中で、個々の患者の病状を正確に把握し、最適な薬物療法を行うことが重要である。近年注目されているのが、術前化学療法後に病理学的完全奏効(pCR)を指標として再発リスクを再評価し、pCRではなかった状態を潜在的な微小転移が存在している可能性が高い状態と考え、追加治療を行う「Residual disease-guided approach」である。

 2021年7月に現地開催とWEB配信(8月31日まで)で行われた第29回日本乳癌学会学術総会の教育セミナーから、3つの講演の様子を紹介する。2回目は、大阪大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学の吉波哲大氏の講演「標準治療となったResidual disease-guided approachについて」。


再発リスクは変化する

 周術期(術前から術後までの一連の期間)薬物療法の目的は、全身に存在するかもしれない微小な転移を根絶させ、治癒をもたらすことである。

 そのため、これまでの治療では「乳がんはどのくらい進んでいるのか」「乳がんの質はどうか」が評価されてきた。どのくらい進んでいるかの評価の指標には、臨床病期を判断するTNM分類(腫瘍径を中心とするT因子、リンパ節転移の有無をみるN因子、遠隔転移の有無をみるM因子からなる)が用いられている。質の評価の指標には、サブタイプ(ルミナールA、B、Erb-B2過剰発現[HER2陽性]、Basal-like[トリプルネガティブ])をベースに、臨床的3因子(ホルモン受容体[HR]の発現、HER2の発現、Ki67の値)、組織学的グレードが用いられている。

 乳がんの診断時にこれらの指標を用いた評価から治療方針が立てられ、一度決まった治療は基本的に変更されることはなかった。その理由について、吉波氏は「目安にすべき確立された指標が他になかったためと考えられる」と説明した。

 そうした中、pCRという指標が確立された。pCRは、術前化学療法後の手術で切除された乳房組織とリンパ節で、がん細胞が消失していることを示す。12件の臨床試験の1万人を超える対象の統合解析から、術前化学療法によってpCRが得られた症例は、pCRが得られなかった(Non pCR)症例、すなわちResidual disease(残存病変)を認めた症例と比べて、顕著に予後が良好であったことが報告された。さらにpCRは、T因子やN因子に関わらない一貫した予後因子であることも示された(P. Cortazar, et al. Lancet 2014;384:164-72)。

 そこで注目されるのが、再発リスクは変化するということである。例えば、症例Aは、診断時に腫瘍径が大きく、リンパ節転移も複数あったが、術前化学療法でpCRとなった。症例Bは、診断時に腫瘍径が小さく、リンパ節転移も1個のみだったが、術前化学療法でNon pCRだった。診断当初の再発リスクは症例Aのほうが高く、予後が悪いと考えられたが、治療に反応してpCRとなったため、術後には症例Bよりも再発リスクは低くなったと考えられる。

 このように治療により再発リスクが変化することから、再発リスクの再評価を行うことが必要と認識されるようになってきた。そのための指標として確立されたのがpCRで、pCRを指標としたResidual disease-guided approachが注目を集めるようになった。全身に微小ながんが存在する可能性やその腫瘍量は、これまではTNM分類で間接的に推測されてきたが、pCRやNon pCRはこれらをより真実に近い位置で評価していると考えられる。局所での術前治療への反応性は、全身の微小転移の術前治療への反応性を反映しているという考え方である。「局所でpCRであれば、全身の微小転移でもpCRの可能性が高いということが、Residual disease-guided approachの基本的な考え方になっている」と吉波氏。

 ただし、このような局所と全身の関係性が成り立つには条件があり、HR陽性HER2陰性で組織学的グレードが1/2と低い増殖が穏やかな乳がんの場合は、この相関が弱いことが示されている。

Non pCRでHER2陰性の乳がんにカペシタビンによる追加治療は有効

 全身に存在する微小転移は、pCRであればない可能性が高いが、Non pCRであればある可能性が高い。したがって、Residual disease-guided approachでは、Non pCRの場合は全身微小転移の消失を目指して追加治療を行う必要があるとされる。

 この方法の有用性を臨床試験で証明したのが、第3相のCREATE-X試験(N. Masuda, et al. N Engl J Med 2017;376:2147-59)であり、日本発のパラダイムシフトの試験となった。

 対象は、HER2陰性、Stage I-IIIBの乳がんで、術前化学療法を行った後にNon pCR、つまり残存病変があった患者だった。HRの状態は不問とされた。標準的な術後療法のみを行う群(対照群)と術後療法にカペシタビンを追加する群(カペシタビン群)に、患者を1対1でランダムに割り付けた。主要評価項目は無病生存期間(DFS)だった。

 対象のうち、HR陽性は68.6%、HR陰性は31.4%、トリプルネガティブは32.2%だった。術前化学療法は、当時最強と考えられていたアンスラサイクリン6サイクル、またはアンスラサイクリン→タキサンが行われていた。Non pCRの定義は、乳房またはリンパ節の浸潤がんの遺残とし、DCIS(非浸潤性乳管がん)は不問とされた。術後療法に追加するカペシタビンは1250mg/m2を2週間投与、1週間休薬するスケジュールで6-8サイクル行った。

 試験の結果、DFSは、HR陽性とHR陰性の両方を含む全対象でハザード比が0.70となり、カペシタビン群で有意に改善した。トリプルネガティブの患者では、ハザード比は0.58とさらに小さくなり、大きなDFSの改善効果が示された。

 副次的評価項目の全生存期間(OS)も、HR陽性とHR陰性を含む全対象でハザード比が0.59となり、カペシタビン群で有意に改善した。トリプルネガティブの患者では、ハザード比は0.52とさらに小さくなり、大きなOSの改善効果が示された。

 ただし、標準治療にカペシタビンを追加するため、有害事象は増加する。例えばグレード3以上の手足症候群はカペシタビン群の11.1%、グレード3以上の下痢は2.9%に発現した。対照群ではいずれも0%だった。

 米国のNCCNガイドラインでは、トリプルネガティブ乳がんにおいて、術前薬物療法後にNon pCR、残存病変がある場合には、術後薬物療法としてカペシタビン6-8サイクルの投与を考慮するよう記載されている。

 日本の乳癌診療ガイドラインでは、Future Research Question16(FQ16)として、術前化学療法でpCRが得られなかった症例に対し、術後治療としてHER2陰性ではカペシタビンの追加を行うことで、「有害事象は増加するものの予後が改善する可能性が示された」と記載されている。ただし、現時点では、術後療法としてのカペシタビンは保険適用となっていない。

Non pCRでHER2陽性の乳がんではT-DM1がトラスツズマブより高い効果

 Residual disease-guided approachのもう一つの重要な試験が、第3相のKATHERINE試験である(G. von Minckwitz, et al. N Engl J Med 2019;380:617-28)。

 対象は、HER2陽性乳がんで、臨床病期のT1a-b/N0は除き、術前化学療法を行った後にNon pCRの患者だった。術後療法として、当時の標準治療であるトラスツズマブを14サイクル投与する群(トラスツズマブ群)とトラスツズマブに替えてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を14サイクル投与する群(T-DM1群)に、患者を1対1でランダムに割り付けた。主要評価項目はIDFS(浸潤性疾患のない生存期間)だった。

 この試験では、HER2の評価は診断時に行われていた。術前化学療法は最低6サイクル行われていることとされ、タキサンベースの治療は9週以上、トラスツズマブによる治療も9週以上行われていることが求められた。CREATE-X試験と同様、当時最強と考えられる治療が行われたがNon pCRだった患者が対象で、Non pCRの定義も同じだった。

 試験の結果、IDFSは、HR陽性とHR陰性の両方を含む全対象でハザード比が0.50となり、T-DM1群で有意に改善した。サブグループ解析でも、T-DM1群で一貫したIDFSの改善効果が示された。

 NCCNガイドラインでは、HER2陽性であれば、HR陽性、陰性に関わらず、術前薬物療法後にNon pCR、残存病変がある場合には、術後薬物療法としてT-DM1を14サイクル投与することが推奨されている。

 日本の乳癌診療ガイドラインでは、FQ16として、術前化学療法でpCRが得られなかった症例に対し、術後治療としてHER2陽性ではT-DM1への変更を行うことで、「有害事象は増加するものの予後が改善する可能性が示された」と記載されている。T-DM1はすでに術後療法として保険適用されており、日本でも利用可能な標準治療として確立されている。

両試験の結果を臨床導入する際に必要な注意

 吉波氏は、T-DM1では有害事象が増加することへの注意を呼びかけた。KATHERINE試験の有害事象のデータでは、感覚性末梢神経障害は、T-DM1群では全グレードで18.6%、グレード2/3は6.5%に発現した。

 術前化学療法でタキサンを使用すると、術後も末梢神経障害が残る場合がある。同試験の最近発表されたデータから、T-DM1群では、投与開始前にすでに末梢神経障害がある場合、グレード2/3の末梢神経障害の発現率は約18%に上った(E. P. Mamounas, et al. Ann Oncol. 2021;32:1005-14)。対照のトラスツズマブ群と比べると約3倍の発現率である。

 T-DM1では、肝障害や血小板減少も観察される。これらの有害事象は、術後療法であっても、転移・再発期の治療と同様に起こる。手足のしびれのチェックや定期的な肝障害のモニタリングなど、慎重に観察していく必要がある。さらにKATHERINE試験から、T-DM1はトラスツズマブよりもQOLに影響する可能性が示されており、こちらも注意が必要だ。

 吉波氏は、CREATE-X試験、KATHERINE試験の結果を臨床導入する際の注意を2点挙げた。まず、術後療法としてのT-DM1は「エスカレーションの治療」であり、安全性が高いトラスツズマブとは違う心掛けが求められることだ。術後療法でT-DM1を投与する際には、「予後を良くするために、毒性の高い治療をしているという認識を持っていただきたい。安全性を担保するためにしっかりとした管理を心掛けてほしい」と同氏は強調した。

 もう一つは、両試験ともに、術前化学療法で最強の強度の治療が行われていることである。「そうした治療がなされたうえで残存病変がある症例に、これらの試験のエビデンスが使えるということを理解していただきたい」と吉波氏。ここで問題になるのが、予後改善が期待される反面、高い強度の術前化学療法を行うことによるOvertreatment(過剰治療)への懸念である。予後改善と治療強度のバランスを判断し、適応となる対象を選ぶ必要がある。

Residual disease-guided approachの今後の課題

 最後に吉波氏は、Residual disease-guided approachの今後の課題として、「対象とapproachの細分化」と「pCRより精度の高い指標の検証」を挙げた。

 CREATE-X試験やKATHERINE試験では予後の改善が示されたが、まだ改善の余地がある。また第3相のPenelope-B試験からは、Residual diseaseを指標にしても、approachの方法が適切でなければ予後の改善につながらないことが示唆された。対象とする集団とapproachを細分化し、より緻密な治療を行っていくことが今後の課題と考えられる。

 また、pCRよりもさらに近くで微小転移の有無を評価できる指標となる可能性があるものに、がん由来の血中循環腫瘍DNA(ctDNA)がある。海外の報告では、pCRであればctDNAは必ず陰性となるが、Non pCRにはctDNA陽性とctDNA陰性の両方があることが示された。さらに、Non pCRでも、ctDNAが陰性であればpCRと同等の予後となる可能性も示唆された(M. J. M. Magbanua, et al. Ann Oncol 2021;32:229-39)。pCRではResidual diseaseの評価が厳しすぎる可能性もあり、より精度の高い指標の検証も今後の課題と考えられる。

 最後に吉波氏は、「潜在的な微小転移が存在する可能性について、治療の途中で再評価することが重要。現在の指標はpCRで、approachとしては、HER2陰性にはカペシタビン、HER2陽性にはT-DM1が現在の標準である。ただし、これらの治療はエスカレーションであるという認識を持ち、慎重な管理を心掛けていただきたい」と述べた。


第29回日本乳癌学会学術総会教育セミナーより Vol.1
乳がんの術後化学療法で最適な治療選択とは?
再発リスクと感受性を見極めてレジメンを選択

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