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レポート

2021/07/27

第6回日本がんサポーティブケア学会学術集会Year in reviewより

リンパ浮腫の危険因子を知って予防と早期発見を

高齢者に起こりやすいリンパ浮腫の悪循環

八倉巻尚子=医学ライター

 がん治療などが原因で、腕や脚などにリンパ液がたまってむくみが起こるリンパ浮腫。一度発症すると治りにくいため、予防や早期発見のためのセルフケアが大切といわれる。高齢化とともにがん患者が増える中、リンパ浮腫の予防と治療が重要視されている。

 2021年5月29日から6月30日までWEB形式で開催された第6回日本がんサポーティブケア学会学術集会のYear in reviewリンパ浮腫部会で、静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科の加藤るみ子氏が、リンパ浮腫の危険因子や高齢リンパ浮腫の現状について解説した。



リンパ浮腫は時間をかけて顕在化してくる進行性の浮腫

 リンパ浮腫は、リンパ管に回収されなかったリンパ液が貯留する状態のことで、水分が貯留する浮腫(むくみ)とは区別されている。リンパ浮腫は、生まれつきなどの一次性(原発性)のリンパ浮腫と、がん治療や外傷などが原因で起こる二次性(続発性)のリンパ浮腫に分けられる。二次性のリンパ浮腫の人のほうが多く、特にがん治療による発症が多いという。

 「リンパ浮腫は、急激に悪化するものではなく、時間をかけて顕在化してくる進行性の浮腫であるため、リンパ浮腫の予防や早期発見のための、自己管理指導が重要です」と加藤氏は説明する。ただし「完治が困難で一度発症すると、生涯にわたり継続的な管理が必要となるため、がん医療においてもリンパ浮腫は大きなテーマとなっています」。

 そこでがん医療における支持療法の一つとして、日本がんサポーティブケア学会のリンパ浮腫部会では、医師や看護師、理学療法士、作業療法士が、患者の身体症状の改善、QOLの維持・向上を図ることを目的に活動している。2019年には「Q&Aで学ぶリンパ浮腫の診療」(日本がんサポーティブケア学会編)を発行。「Q&A方式で、患者さんの悩みや疑問に簡潔にわかりやすく説明している内容となっています」(加藤氏)。動画も付いていて、パソコンやスマホでケアの仕方を見ることができる。

リンパ浮腫のセルフケアは感染症と肥満の予防が重要

 がん治療によるリンパ浮腫の発症率は、乳がんでは手術で腋窩リンパ節郭清を行なった場合は約20%、センチネルリンパ節生検では6%と報告されている(Nat Rev Dis Primers. 2019;5(1):22)。婦人科がんでのリンパ浮腫発症率はおよそ3割、皮膚がん(悪性黒色腫)では切除部位により発症率に差はあるが、鼠径リンパ節郭清の場合は8割強という報告もあった。頭頸部がんや泌尿器がんなどでも、がん治療後にリンパ浮腫を発症する場合がある。

 リンパ浮腫を防ぐには、危険因子を知っておくことが大切だ。「リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版」(日本リンパ浮腫学会編)では、続発性リンパ浮腫の発症や増悪の危険因子について、生活関連の因子として、感染と肥満はエビデンス(科学的根拠)が高いとしている。

 そのためセルフケアでは、感染症、特に皮下組織に細菌が感染して炎症を起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)の予防と肥満予防が重要となる。上記ガイドラインによれば、外傷ややけど、虫刺されなどの皮膚のけがに気をつけ、けがをしたときは患部をよく洗い、清潔にすることを奨めている。肥満予防には体重管理を行う。特に乳がん治療で起こった上肢のリンパ浮腫の場合は、体重管理によって、リンパ浮腫による上肢の体積の増加が抑えられ、浮腫が軽減することが報告されている。

 このほかガイドラインでは、採血や血圧測定、空旅はリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる可能性は低く、空旅と下肢の浮腫との関連性も根拠が十分でないとしている。また点滴や温度差、日焼けは、関連する可能性はあるが、その根拠は十分でないという。

 また危険因子のうち、がん治療因子として、放射線照射とタキサン系薬剤(ドセタキセルなど)はリンパ浮腫との関連性を示す報告が多い。リンパ節郭清もリンパ浮腫の原因となるが、センチネルリンパ節生検が行われるようになって、腋窩リンパ節郭清が省略されることが増え、乳がん患者の上肢リンパ浮腫は減少しているという。しかしセンチネルリンパ節生検のみの場合も、頻度は低いが、上肢リンパ浮腫を発症することがあり、リンパ浮腫に対するケアは重要としている。また乳房再建術は複数の報告から、再建方法にかかわらず、リンパ浮腫の発症には影響しないと、ガイドラインには記載されている。

高齢者ほど発症しやすい? 若年ほど発症しやすい?

 近年は高齢化が加速し、それに伴ってがんの罹患数は増え、「がん治療に伴う症状の一つでもあるリンパ浮腫は重要になっています」と加藤氏は話す。

 では、リンパ浮腫の起こりやすさは年齢と関係があるのだろうか。年齢とリンパ浮腫について系統的レビューを行なった研究で、乳がんでは26文献のうち、9文献が“高齢ほど発症しやすい”とし、4文献は“若年ほど発症しやすい”としていたが、全体の半数を占める13文献では“年齢は関係ない”と報告している(J Cancer Surviv. 2021 Jan 24)。また「研究のサンプルサイズが小さいものも含まれており、年齢は危険因子になるとは言い切れないと結論づけています」と加藤氏は解説した。

 婦人科がんでは文献数が少ないが、7文献のうち、“高齢ほど発症しやすい”という報告は2文献、“若年ほど発症しやすい”が3文献、“年齢は関係していない”が2文献と、文献数はそれほど大きく変わらない(Anticancer Research 2020, 40 (12) 6609-6612)。また観察期間が1年から5年程度とばらつきがあり、「婦人科がんも、年齢がリンパ浮腫の危険因子になるとは言い切れないという結論となっています」。

 若年者のほうがリンパ浮腫を発症しやすい理由としては、高齢者と比べて活動性が高いこと、浮腫に早く気づきやすいこと、がんが進行しやすいこと、その結果、侵襲性の高い治療を受ける可能性があることを挙げた。

 高齢者のほうがリンパ浮腫を発症しやすい理由としては、加齢に伴うリンパ系の変化がある。例えば、加齢によって筋細胞が減少すると、筋肉の収縮機能が低下し、筋ポンプ作用が弱くなって、リンパ逆流症を生じる可能性が指摘されている(Aging 2019; 11(16): 6602-6613)。

高齢者の浮腫にはさまざまな原因が

 高齢者について、リンパ浮腫だけでなく、慢性の浮腫に着目すると、慢性浮腫の有病率は一般的には1000人中4人程度だが、65歳以上になると1000人中およそ12人、85歳以上になると約29人と7倍近くに増加する。

 高齢者の慢性浮腫にはさまざまな原因がある。身体的側面としては、心不全、静脈疾患、動かないこと(不動)、肥満、浮腫が副作用として起こる薬の服用などがある。また精神的な側面としては、うつが挙げられており、加齢に伴って、うつの罹患率が高くなるとする報告もある。

 このため、浮腫の直接的な原因ががん治療だったとしても、静脈疾患の既往があれば、浮腫が増悪するリスクが高くなる。「これらの要因はそれぞれが独立しているものではなく、関連し合って、リンパ浮腫を生じているのです」と加藤氏。 

 高齢のリンパ浮腫患者の生活で考えてみると、加齢に伴い、関節炎やうつなど、がん以外の疾患を抱えることで、体を動かさず座っている生活が長くなる。その結果、足を下垂している時間が長くなり、重力の影響を受けやすくなる。それにより浮腫が悪化し、関節や筋肉への負担が強くなり、痛みや転倒への不安から、さらに身体を動かさない生活となり、浮腫が悪化するという悪循環が生じる。

 また別の側面で考えてみると、加齢に伴って、手の器用さや関節の可動域が低下すると、弾性着衣の装着や脱衣がしづらくなり、装着補助具などの物的サポートや看護師などの人的サポートが必要となってくる。しかしそれが得られない時は、浮腫の管理が不十分となり、蜂窩織炎や浮腫の悪化につながる。浮腫が悪化すれば、患肢の可動域制限や使いづらさが生じやすくなる。

 そういった悪循環にならないように、予防や早期発見が大切。早期発見ができれば、悪くならないうちに治療を開始できる。リンパ浮腫の治療には、弾性着衣や多層包帯法などの圧迫療法、リンパドレナージ、運動療法があり、スキンケアと用手的(医療)リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法を組み合わせた複合的治療が推奨されている。またリンパ液の流れをつくるリンパ管細静脈吻合術などの外科治療も推奨されている。

 なお、高齢リンパ浮腫に関しては、まだエビデンスが十分でないことから、リンパ浮腫部会は2020年度から高齢リンパ浮腫患者をテーマにした研究を開始している。リンパ浮腫治療(複合的治療)を行なった患者を対象とした後ろ向き観察研究で、現在はデータ収集中。最終的にはリンパ浮腫とその対応の実態調査、リンパ浮腫の発症要因の分析、高齢者のリンパ浮腫の特徴の分析を行って報告する予定であるとした。

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