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レポート

2021/06/29

第61回日本呼吸器学会学術講演会より

進歩し続ける非小細胞肺がんの薬物療法

この半年間の新しいエビデンス

中西美荷=医学ライター

分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の新たなエビデンス

 昨年の日本呼吸器学会で行った講演「肺がん診療最近1年間の進歩」で山本氏は、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を治療に組み込む動きは、今後さらに広がるだろうと予想していた。

 ICIであるデュルバルマブは、PACIFIC試験の優れた成績に基づき、III期患者の術前化学放射線療法(CRT)後の維持療法として標準治療となった。新たな4年追跡のデータでは、長期間にわたって高い有効性が保たれることが示された(J Thorac Oncol. 2021;16(5): 860-867)。OSは前回の報告(N Engl J Med.2018; 379:2342-2350)におけるハザード比0.68(死亡リスクが32%低減)とほぼ変わらず経過し(ハザード比0.71)、非常に優れた治療成績が継続していた。

 山本氏は、「特に注目に値するのは、がん免疫療法の特徴であるTail Plateau(ある時点から死亡数がほとんど増えず生存曲線が下がらずに経過する)である」と話す。そして4年OS率49.6%、4年PFS率35.3%という成績について、「CRT後の維持療法としてデュルバルマブを加えることにより、3人にひとりは、がんが全く再発することなく4年、もしくはおそらく5年以上生存するだろうという成績」と説明した。

 ADAURA試験では、術後補助化学療法施行の有無や病期に関わらず、術後にオシメルチニブを投与することでPFSが延長する(ハザード比0.20、99.12%信頼区間:0.14-0.30、p<0.001)ことが学会で発表されていたが、この半年の間に論文が公表された。中枢神経系(CNS)の再発抑制効果(ハザード比0.18、95%信頼区間:0.10-0.33)も優れていることが記載されている(N Engl J Med 2020;383:1711-23)。

 このオシメルチニブによる術後補助療法に関しては、日本以外の数多くの国で、すでに承認されており、「日本においても、できるだけ早い承認が待ち望まれる」(山本氏)。

 抗PD-L1抗体アテゾリズマブについても、II期もしくはIIIA期の完全切除例を対象とする第3相試験IMpower 010において、術後補助療法として用いることにより、支持療法と比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長することが明らかになった。

 日本では3月25日にDFS延長についてプレスリリースされていたが、6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で中間解析結果として詳細が発表された。DFS中央値は、アテゾリズマブ群で推定不能(NE)(95%信頼区間:36.1-NE)、支持療法群35.3カ月(95%信頼区間:29.0-NE)、層別ハザード比0.66(95%信頼区間:0.50-0.88、p=0.004)だった(ASCO 2021 #8500)。

腫瘍の大きさではなく生きている腫瘍細胞の割合で治療効果を評価する

 4月の米国癌研究会議(AACR)では、IB-IIIA期NSCLCに対して、術前補助療法としての化学療法とニボルマブ+化学療法を比較したCheckMate 816試験の成績が発表された。主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)、副次評価項目は病理学的奏効(MPR)などであった。

 MPRは病理学的効果を評価する指標の1つで、「腫瘍の中の生きている細胞が10%以下であるような状態」を指す。肺がんではまだ馴染みが薄いが、世界肺癌学会議(IASLC)では、臨床試験において病理学的効果を評価することを推奨している(J Thorac Oncol. 2020; 15(5): 709-740)。最近では、病理学的奏効に注目し、MPRもしくはpCRを主要評価項目とする臨床試験が数多く行われるようになっている。

 CheckMate 816試験で懸念されたのは、術前にICIであるニボルマブを使用することで、手術できない患者が増えるのではないか、免疫関連有害事象(irAE)の影響が出るのではないかということだった。しかし、ニボルマブの有害事象で手術ができなかった人はなく、むしろ、化学療法単独よりも手術対象患者が増える傾向が認められた。

 また化学療法群とニボルマブ+化学療法群において、腫瘍縮小効果に差はなかった(CR:3% vs. 1%)が、病理学的な反応性は主要評価項目のpCRが2.2% vs. 24%、副次評価項目のMPRが8.9% vs. 36.9%で、非常に大きな差が認められた。

 「ニボルマブを追加しても、見かけ上の反応性は化学療法と大きな違いはないが、実際は病理学的奏効が極端に増えているということである」と山本氏は説明し、「今後、IV期NSCLCの治療反応性を考えるにあたっても、こういう点を注意しながら進めることが必要ではないか」との見解を示した。

 術前補助療法としては他に、ニボルマブ(23例) vs. ニボルマブ+イピリムマブ(21例)のランダム化第2相比較試験NEOSTAR(Nat Med. 2021; 27(3): 504-514)でも有益なデータが報告されている。

 主要評価項目はMPRで、ニボルマブ群22%に対してニボルマブ+イピリムマブ群では38%であり、イピリムマブを併用することの有用性が示された。生きている腫瘍細胞の割合の中央値はニボルマブ群で50%、ニボルマブ+イピリムマブ群では10%という良好な成績だった(Nature Med. 2021; 27(3): 504-514)。

 さらに、生き残った腫瘍細胞へのリンパ球浸潤をみてみると、ニボルマブ+イピリムマブ群ではエフェクターメモリーT細胞(抗原を記憶していて、再度、同じ抗原に出会った時に速やかに免疫応答するT細胞)が有意に多いことも示されている。山本氏は「イピリムマブを併用することによって、長期間にわたって有効性が保たれるという作用機作が示唆される」と説明した。

 ほかにも、CheckMate 77T試験、ABVIL試験、NADIM II試験など、ニボルマブを使った術前補助療法の試験が複数実施されている(OncoTargets and Therapy 2020; 13:13307-13313)。これらの試験については、2023年から2024年にかけて結果が明らかになる予定であり、「それによって標準的治療が大きく変わることを期待したい」と山本氏は話した。

 現在、ICIを使った周術期補助療法は、ドライバー変異がない患者のみを対象にしている。しかし、これまでに示されている成績が非常に良好であることから、ドライバー変異陽性例に対する周術期治療においても、免疫療法の役割があるのではないかと考えられる。そこでWJOGでは現在、EGFR変異陽性の患者に対する術後補助療法として、シスプラチン+ビノレルビン+アテゾリズマブを検討する第2相試験(WJOG11719L/ADJUST study)を行っている(Ther Adv Med Oncol. 2021; 13: 1758835920987647)。

病理情報、画像情報、ゲノム情報が紐づいたリアルワールドデータの構築を

 既存の薬剤についても、治療成績をさらに向上させるための臨床研究が行われている。殺細胞性抗がん薬に関しては前回の講演で、術後補助化学療法におけるシスプラチン+ペメトレキセドの評価(JIPANG試験)、高齢者の非扁平上皮NSCLCに対するカルボプラチン+ペメトレキセドの確立について紹介した。

 その後、扁平上皮癌に対するカルボプラチン(CBDCA)+nab-パクリタキセルをドセタキセルと検討したCAPITAL試験の結果が明らかになった。CBDCA+nab-パクリタキセルによりドセタキセルと比較してOSが延長し、PFS、ORRもドセタキセルより良好だった。グレード3/4の有害事象はより高頻度で発現したが管理可能で、高齢の非扁平上皮NSCLC患者に対する1次治療の新たな標準治療になると結論づけられている(ASCO 2021 #9031)。

 またICIについては、日本人のデータが乏しかったプラチナ+ペメトレキセド+ペムブロリズマブについて、薬剤性肺障害を含む安全性調査として実施されたSUSPECT試験のステップ1の結果が論文として公表された(Eur J Cancer. 2021; 150: 63-72)。

 ステップ1の主要調査項目は90日以内の薬剤性肺臓炎の発現割合で、全グレードで5%以上、またはグレード3で3%以上となった場合にはステップ2に進むことになっていた。結果として、肺臓炎の発現割合は90日以内で全グレード7.0%、グレード3-5が3.0%であったことから、ステップ2において肺臓炎発症例のみを対象とした詳細な調査が行われることになる。

 論文では、immortal time bias(追跡中あるいは観察時間において死亡が起き得ない期間があることによるバイアス)を考慮して解析すると、irAEである肺臓炎が発現した患者は、発現しなかった患者と比較して予後不良であることも報告された。PFSのハザード比は1.99(95%信頼区間:1.07-3.69、p= 0.03)、OSのハザード比は3.03(95% 信頼区間:1.12-8.20、p= 0.03)だった。山本氏は、「今後、irAEをできるだけ起こさずに効果の高い治療方法を開発していく必要があるのではないかということを示唆する論文となっている」と説明した。

 SUSPECT試験についてはさらに、国立医療研究開発機構(AMED)の助成金を用いて、病理情報、画像情報、ゲノム情報が紐づいたリアルワールドデータ(RWD)を構築する取り組みが進められている。

 山本氏は、「今後、リアルワールドデータの収集・集約が重要だと思っている。特に電子カルテ情報では収集できないようなゲノム情報、さらにはWearable deviceを用いた生活情報等を収集する取り組みが必要だろうと考えており、取り組んでいきたい」と話した。

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