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レポート

2021/06/29

第61回日本呼吸器学会学術講演会より

進歩し続ける非小細胞肺がんの薬物療法

この半年間の新しいエビデンス

中西美荷=医学ライター

 肺がん治療は、薬物療法の目覚ましい進歩により、変化の時を迎えている。特に進行非小細胞肺がん(NSCLC)では、ドライバー変異に対する分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による予後の改善が臨床試験で次々と示され、標準治療も書き換えられつつある。

 4月にハイブリット形式で開催された第61回日本呼吸器学会におけるYear Review in 腫瘍学術部会「この半年間の新しいエビデンス」では、和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科教授の山本信之氏が、昨年9月の同学会以降に得られた肺がん薬物療法の新たなエビデンスや、現在進行中の臨床試験、個々の患者に最適の治療を届けるための取り組みなどを紹介した。


頻度の低いドライバー変異を標的とする薬剤も次々と開発

 肺がんでは、がん発生の直接の原因となるような遺伝子変異や転座(ドライバー変異)が陽性の場合、これを標的とする治療が行われる。日本人においては、ドライバー変異のうちEGFR遺伝子変異は肺腺がんの約半数に存在するが、ALK遺伝子転座、ROS1遺伝子転座、BRAF遺伝子変異、MET遺伝子エクソン14スキッピングはNSCLCの2〜3%と希少であることが明らかになっている(ASCO 2020 #9085)。

 進行NSCLCの薬物療法において、NTRK転座、MET変異に対する治療が開発され、治療標的となるドライバー変異として加わったことにより、現在、臨床の現場で分子診断として検査すべきドライバー変異は6種類(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、MET)となっている。山本氏によれば、RET、KRAS、HER2を標的とする治療薬も開発中であり、治療薬が臨床で使えるようになれば、これらの変異についても検査を行うようになる。

 RET遺伝子異常(変異または融合)に対するRET阻害薬selpercatinibは、米国では5月8日に食品医薬品局(FDA)により承認され、日本でも申請中である。

 KRAS遺伝子エクソン2の点突然変異G12C(KRAS G12C変異)は、NSCLCで13%に認められるとされ、KRAS阻害薬sotorasibは、2021年5月に米国で迅速承認された。日本でも4月に承認申請されている。

 HER2を標的とする薬剤としては、EGFR 遺伝子およびHER2 遺伝子のエクソン20挿入変異を標的とする経口非可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)poziotinibが、第2相試験ZENITH20において一定の効果を示した。またHER2に対する抗体薬物複合体(ADC:がん細胞上の標的に結合する抗体と、低分子の薬物を結合させた薬剤)であるトラスツズマブ デルクステカンのNSCLC患者を対象とする多施設共同ランダム化第2相試験(DESTINY-LUNG02)が実施されている。

EGFR変異陽性例に対するオシメルチニブと他の薬剤との併用効果は

 この半年間で、EGFR遺伝子異常については、major mutation(頻度の高い変異)であるエクソン19の欠失変異(Ex19 del)とエクソン21のL858R点突然変異(L858R)に対する治療の最新成績や、エクソン20挿入変異に関するエビデンスが出てきている。

 2020年度版肺癌診療ガイドライン(2020年11月公表)では、EGFRのmajor mutationを有し全身状態良好(PS 0-1)な場合の1次治療として、第3世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブによる治療を行うよう推奨している(推奨の強さ1、エビデンスの強さB、合意率93%)。

 また1次治療として「提案する」とされているのは、ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド(推奨の強さ2、エビデンスの強さA、合意率79%)、エルロチニブと血管新生阻害薬の併用(推奨の強さ2、エビデンスの強さA、合意率85%)、ダコミチニブ(推奨の強さ2、エビデンスの強さB、合意率86%)などとなっている。

 山本氏によれば、今後は、現在の標準治療であるオシメルチニブと、殺細胞性抗がん薬もしくは血管新生阻害薬との併用が、新たな治療戦略の一手になると考えられる。

 オシメルチニブは、major mutationだけでなく、他のEGFR-TKIに抵抗性となった患者でしばしば認められるエクソン20の点突然変異T790Mに対しても有効な薬剤として登場した。そのためまず、他のEGFR-TKI治療で増悪したT790M変異陽性の患者を対象として、オシメルチニブ単剤と、オシメルチニブと血管新生阻害薬(ベバシズマブ)の併用療法を比較するランダム化第2相試験WJOG8715Lが行われた。

 結果は、オシメルチニブにベバシズマブを追加しても、無増悪生存期間(PFS)は延長せず、むしろ短くなるというものだった。PFS中央値はオシメルチニブ群(40例)13.5カ月、オシメルチニブ+ベバシズマブ群(40例)9.4カ月、ハザード比は1.44(95%信頼区間:0.83-2.52)だった(JAMA Oncol. 2021; 7(3): 386-394)。

 同様の患者(IIIB/IV期でEGFR-TKI治療歴あり、T790M陽性)を対象に、九州肺癌研究機構(LOGIK)と北東日本研究機構(NEJSG)が共同で行ったオシメルチニブと殺細胞性抗がん薬(カルボプラチン+ペメトレキセド)併用のランダム化第2相試験TAKUMI(LOGIK1604/NEJ032A)でも、抗がん薬による追加効果はないことが明らかになっている。

 奏効率(ORR)はオシメルチニブ群71.4%、併用群53.6%、PFSはそれぞれ15.8カ月、 14.6カ月でハザード比1.09(95%信頼区間:0.52-2.32、p=0.83)、全生存期間(OS)はどちらの群もまだ中央値に達していない(ASCO 2020 e21594)。

 「従来のEGFR阻害薬、特にゲフィチニブなどでは、血管新生阻害薬や殺細胞性抗がん薬との併用による上乗せ効果が認められたが、これらの結果がオシメルチニブの特性なのか、今回対象としたT790M変異陽性という患者集団によるものかは分かっていない」(山本氏)。

 他のEGFR-TKI治療歴のない患者に対する1次治療としてのオシメルチニブについても、VEGF阻害薬(ベバシズマブもしくはラムシルマブ)との併用などについて、複数の臨床試験が進行中である。

 またFLAURA2試験では、オシメルチニブ単剤とオシメルチニブ+殺細胞性抗がん薬(プラチナ製剤+ペメトレキセド)との比較が行われる。グローバルスタディ(国際共同治験)として600名前後の患者参加が予定されており、山本氏は「ぜひこのスタディを成功裡に終わらせていただきたいと思っている」と話した。

新たな第3世代EGFR-TKIにも注目

 このように、EGFR変異例に対してはオシメルチニブが標準治療となり、その他の薬剤との併用療法が研究されるようになっているが、amonertinib、lazartinibといった新しい第3世代EGFR TKIも開発されている。これらの薬剤は、2020年から2021年にかけて中国や韓国で承認されている(J Thorac Oncol. 2021; 16(5): 740-763)。しかし、いずれもオシメルチニブと比較して特に成績が良好というわけではなかったため、山本氏は「我々の日常臨床には影響はないであろう」と考えていたという。

 ただし、EGFR変異例を対象としたグローバル第3相試験MARIPOSAでは、オシメルチニブ単剤、lazertinib単剤、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体であるamivantamabとlazertinibの併用という、3群の比較が行われる。「この試験でamivantamab+lazertinib療法の成績が優れ、標準治療として確立された場合には、lazertinibという薬剤を使用することになるので、これら新しい第3世代のEGFR-TKIについても注目が必要」だという。

 肺癌診療ガイドライン2020年度版では、EGFRエクソン20挿入変異に対しては、EGFR-TKI治療を行わないよう推奨している(推奨の強さ1、エビデンスの強さC、合意率70%)が、amivantamabはこの変異に対して有効ということで注目されている。エクソン20挿入変異を有するNSCLC患者に対する第2相試験では、ORRが40%(95%信頼区間:29-51)、さらに臨床ベネフィット率74%(95%信頼区間:63-83)という非常に良好な成績が得られている(WCLC 2020 OA04.04)。

 また第3相試験PAPILLONには日本の施設も参加しており、エクソン20挿入変異陽性の局所進行または転移性NSCLCに対して、カルボプラチン+ペメトレキセドを標準治療として、amivantamabの追加効果が検討される。主要評価項目はPFSだが、minor mutation(頻度の低い変異)であるため、25カ国から200施設が参加する大規模な試験となる。「もし良好な成績が得られた場合、エクソン20挿入変異に対しても有望な治療が確立されたということになるので、この試験の結果にも注目したい」と山本氏は話した。

遺伝子検査は手技の工夫により成功率が上昇、得られた情報の利活用が課題

 このように、NSCLCにおいては、適切な治療を行うために複数の遺伝子変異を調べなくてはならない時代となっている。検査について肺癌診療ガイドラインでは、「検査項目に優先順位をつけず、同時に行うよう提案する」(推奨の強さ2、エビデンスの強さD、合意率68%)としている。

 また「肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き」(第1.1版:2019年12月23日)では、早急な治療開始が望まれる場合には、それぞれの遺伝子変異に対する検査を順次行い(Multiple Stand-alone Testing:頻度の高い変異から検査して陽性であれば治療開始する)、十分な検体量があり治療開始を急がなくても良い場合には、複数の遺伝子を同時に調べるパネル検査(オンコマインDx Target Test マルチCDxシステム[オンコマインDxTT])を行うこととされている。

 山本氏は、こうした手順となっている背景について「(遺伝子変異の検査の)方策としてもっとも重要なものは複数の遺伝子を同時に調べられるパネル検査だが、これは当時、オンコマインDxTTの陽性率がそれほど高くなかったことに起因すると考えられる」と説明した。

 しかし昨年から今年にかけて、オンコマインDxTTの成功率は非常に高いということが、さまざまな学会で報告されているという。

 新潟県立がんセンター、神戸市立医療センター中央市民病院、埼玉県立がんセンター、県立広島病院、東京医科大学、獨協医科大学、滋賀県立総合病院、松坂市民病院、日本赤十字社医療センターにおいては、成功率はいずれも80〜90%台と報告されている。

 「これはひとえに各施設の先生方の工夫によるものと考えている」と山本氏は話した。たとえばがん研究会有明病院では、生検検体の薄切り枚数の増量によって、成功率が72%から90%に改善している。

 山本氏が所属する和歌山県立医科大学でも、手技の工夫によりオンコマインDxTTの成功率は上がっている。承認時の2019年9月からの3カ月間は、対象となる患者で検査に提出できた患者は71.0%で、成功率は59.1%と、60%に満たなかった。

 そこで検体の腫瘍含有率の閾値(それ以上必要とされる値)を、推奨されている30%に厳格化し、10%ホルマリン固定の時間も過固定とならないよう7時間程度とするように厳格化した。これにより、2020年1月〜4月の3カ月における成功率は90.3%にまで上がった。

 しかし、提出検体を厳密化した結果、検査に提出できた患者が34.8%に半減した。そこでさらに組織採取方法に工夫をしたところ、次の3カ月間(2020年9月〜12月)には69.8%の患者検体を提出でき、89.2%という高い成功率が維持できるようになったという。

 山本氏によれば、今後、各施設とも検査に慣れてきて成功率は高くなり、提出検体数も増えて来ると予想される。ただ、提出する組織量がさらに少なくなることが望まれること、turn around time(TAT:検査提出から結果が得られるまでの時間)が長いことが課題だという。TATについては、まだ保険承認には至っていないが、新しいタイプのオンコマインや、開発中の別のパネル検査では格段に短くなることが期待されている。山本氏は、「さらには今後、リキッドバイオプシーの活用も可能になるのではないか」との見解を示した。

 それでも残る問題点は、データの利活用だという。現在、遺伝子パネル検査として、肺がん以外では、FoundationOne CDxがんゲノムプロファイルあるいはNCCオンコパネルシステムが用いられる。これらの検査で得られた遺伝子情報は、今後のがんゲノム医療発展に生かすべく、患者情報とともにがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に集約されている。しかし、肺がんの1次治療で数多く利用されているオンコマインDxTTについては、データ集約の仕組みがない。「今後、このオンコマインの、日本でしか収集できない貴重なデータを集約する仕組みを作る必要があるのではないか」と山本氏は話した。

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