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レポート

2021/06/08

第61回日本呼吸器学会学術講演会 特別講演より

肺がんの分子標的治療の最前線

新たに承認された薬剤、今後期待される薬剤

森下紀代美=医学ライター

 ドライバー遺伝子変異/転座陽性の非小細胞肺がんに対する分子標的治療は進歩を続けている。新たに国内で承認された分子標的薬、開発が進んでいる有望な分子標的薬が複数ある。

 2021年4月23日から25日まで対面とWEBのハイブリッド形式で開催された第61回日本呼吸器学会学術講演会の特別講演「肺がんの分子標的治療の最前線」では、金沢大学がん進展制御研究所腫瘍内科教授の矢野聖二氏が、肺がんの新しい分子標的と薬剤、分子標的薬の耐性について解説した。


ドライバー遺伝子異常に対応する分子標的薬が続々と登場

 進行期肺がんに対する薬剤治療方針の決定には、CTやMRIなどの画像で病変の局在診断をし、生検で腫瘍組織や細胞を採取して病理学的診断を行い、組織型を決定する。さらに非小細胞肺がんではPD-L1発現や遺伝子異常を判定し、結果に応じて最適な治療法を選択する。

 最新の「肺癌診療ガイドライン 2020年版」(日本肺癌学会編)においては、IV期非小細胞肺がんでは、ドライバー遺伝子変異/転座陽性の場合はそれぞれに対応するキナーゼ阻害薬、PD-L1の発現ががん細胞の50%以上(陽性)の場合は抗PD-1抗体のペムブロリズマブ、ドライバー遺伝子変異/転座陰性でPD-L1の発現ががん細胞の50%未満または不明の場合は抗がん薬と抗PD-1/PD-L1抗体の併用が推奨されている。

 日本人の肺がんでは、腺がんが50%を占めるとされる。さまざまなドライバー遺伝子異常は主に腺がんで検出され、その頻度は、EGFR遺伝子変異が50%、ALK融合遺伝子が5%、MET遺伝子エクソン14 スキッピング変異が2-4%、ROS1融合遺伝子が1-2%、BRAF遺伝子変異が1%、NTRK融合遺伝子が1%未満となっている。

 このような遺伝子異常がある場合は、分子標的薬が使用できる。最初に認可された分子標的薬は、EGFR遺伝子変異に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブで、2002年に承認された。その後、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダコミチニブの4剤が承認されている。

 またALK融合遺伝子に対するALK阻害薬は、2012年にクリゾチニブが承認され、その後、アレクチニブやセリチニブなど4剤が承認されている。

 BRAF V600E遺伝子変異に対しては、2016年にBRAF阻害薬のダブラフェニブとMEK阻害薬のトラメチニブの併用が承認された。ROS1融合遺伝子変異に対しては、クリゾチニブが2017年に適応拡大され、2020年にはROS1/TRK阻害薬のエヌトレクチニブが承認されている。

 NTRK融合遺伝子に対しては、2019年にエヌトレクチニブ、2021年にTRK阻害薬のラロトレクチニブが承認された。MET遺伝子エクソン14スキッピング変異に対しては、2020年にMET阻害薬のテポチニブとカプマチニブが承認されている。

 さらに、国内では未承認であるが、RET融合遺伝子に対しては、RET阻害薬のselpercatinibとpralsetinibが米国食品医薬品局(FDA)に承認されている。KRAS G12C遺伝子変異に対しては、KRAS G12C阻害薬のsotorasibが厚生労働省の希少疾病用医薬品の指定を受けている。EGFR エクソン20挿入変異に対しては、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体のamivantamabがFDAに承認申請中である。

国内で新たに承認されたTRK阻害薬とMET阻害薬

 矢野氏は、NTRK融合遺伝子、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異、RET融合遺伝子、KRAS G12C遺伝子変異、EGFRエクソン20挿入変異について、詳しく解説した。

 まず、NTRK融合遺伝子についてである。NTRK遺伝子には1、2、3があり、その遺伝子産物であるTRKにはA、B、Cの名前がつけられ、これらは神経系で何らかの役割を果たしている受容体である。NTRK遺伝子と他の遺伝子が融合遺伝子を形成すると、融合蛋白質によりさまざまながん種で発がんが起こる。

 NTRK融合遺伝子は、小児から成人まで幅広いがん種で検出される。ただし、非小細胞肺がんや大腸がんのような患者数が多いがんでの頻度は低く、小児の乳児型線維肉腫や成人の唾液腺分泌がん、乳腺分泌がんなどの希少がんでは、80%から100%の高い頻度で検出されている。

 ROS1/TRK阻害薬のエヌトレクチニブは、3つの第1-2相試験の統合解析から、NTRK融合遺伝子陽性の固形がん患者54人(非小細胞肺がん10人を含む)において、奏効率57%、奏効期間中央値10カ月となり、グレード3以上の有害事象も体重増加や貧血などが数%程度だったことが示された(R.C. Doebele, et al. Lancet Oncol. 2020;21:271-82)。この成績をもって、エヌトレクチニブは2019年6月に国内で承認された。適応症は、成人および小児のNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんで、がん種横断的な承認となっている。

 TRK阻害薬のラロトレクチニブは、2021年3月に承認されたばかりである。3つの第1-2相試験の統合解析から、NTRK融合遺伝子陽性の固形がん患者159人(肺がん12人を含む)において、奏効率79%、無増悪生存期間(PFS)中央値25.8カ月と良好な成績が示された(D.S. Hong, et al. Lancet Oncol. 2020;21:531-40)。グレード3以上の有害事象も少なかった。この成績をもって、ラロトレクチニブは2021年3月に承認された。適応症は、成人および小児のNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんで、がん種横断的な承認となっている。

 次に、MET遺伝子エクソン14 スキッピング変異について。MET遺伝子のエクソン14に変異が起こると、MET受容体の分解が起こらないため、METの増幅が起こったような状態になり、発がんが起こると考えられている(A. Drilon, et al. Clin Cancer Res. 2016;22:2832-34)。この変異は肺腺がんの3%程度にみられるとされる(G. M. Frampton, et al. Cancer Discov. 2015 Aug;5(8):850-9)。

 承認されたMET阻害薬の1つがテポチニブで、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がん患者152人において、奏効率46%、奏効期間中央値11.1カ月となり、グレード3以上の有害事象は浮腫が7%で最も多く、忍容性は良好なことが示された(P. K. Paik, et al. N Engl J Med 2020;383:931-43)。この結果から、テポチニブは2020年3月、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに承認された。

 もう1つの承認されたMET阻害薬がカプマチニブである。MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がんで、既治療の患者69人では、奏効率41%、奏効期間中央値9.7カ月、未治療の患者28人ではそれぞれ68%、12.6カ月となった。グレード3以上の有害事象は13%にみられ、浮腫が9%で最も多かったことが報告された(J. Wolf, et al. N Engl J Med 2020;383:944-57)。この結果をもって、カプマチニブは2020年6月、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに承認された。

RET阻害薬、KRAS G12C阻害薬、二重特異抗体の開発に期待

 RET融合遺伝子、KRAS G12C遺伝子変異、EGFRエクソン20挿入変異が陽性の非小細胞肺がんに対しては、国内で承認された薬剤はまだないが、有望な分子標的薬の開発が進行中である。

 まず、RET融合遺伝子について。RET融合遺伝子は甲状腺乳頭がんに多く、非小細胞肺がんでは2%程度で、KIF5B遺伝子との融合が8割を超えるとされる(V. Subbiah, et al. J Clin Oncol 2020;38:1209-21)。

 阻害薬として開発が最も進んでいるのが、RET阻害薬のselpercatinibである。RET融合遺伝子陽性肺がんの患者105人において、奏効率は64%となり、未治療の患者39人では85%、中枢神経系転移を有する患者11人では91%と高い値となった。グレード3以上の有害事象は28%でみられ、高血圧や肝酵素の上昇が報告された(A. Drilon, et al. N Engl J Med 2020;383:813-24)。selpercatinibは、2020年5月にFDAが迅速承認をしている。国内では2020年11月に厚生労働省が希少疾病用医薬品に指定しており、今年中の認可が期待されている。

 次に、KRAS遺伝子変異についてである。KRAS遺伝子は、増殖因子受容体の下流でMAPK経路を構成する分子の1つ。KRAS G12遺伝子変異の中で最も多いのはKRAS G12D遺伝子変異で、次がKRAS G12C遺伝子変異である。矢野氏は「KRAS分子は薬剤が結合するポケットがないが、KRAS G12C遺伝子変異が起こった時のみポケットができるとされ、そこに結合する阻害薬が最近開発されている」と説明した。

 それがKRAS G12C阻害薬のsotorasibで、KRAS G12C遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの患者59人において、奏効率32.2%、PFS中央値6.3カ月、病勢コントロール率88.1%という成績だった。グレード3以上の有害事象は11.6%と比較的少なかった(D. S. Hong, et al. N Engl J Med 2020;383:1207-17)。

 有効性については「少し物足りない感じがするかもしれないが、KRAS遺伝子変異陽性の肺がんは非常に予後不良で、この成績でもブレイクスルーと捉えられている」と矢野氏。sotorasibは2021年3月、厚生労働省が希少疾病用医薬品に指定しており、こちらも認可が期待されている。

 最後に、EGFRエクソン20挿入変異についてである。EGFR遺伝子変異では、エクソン19欠失変異とエクソン21の点突然変異(L858R)が約9割を占め、EGFRエクソン20挿入変異は約5%とされる。EGFRエクソン20挿入変異には、既存の第1-3世代のEGFR-TKIは効かないことが知られている。

 EGFRエクソン20挿入変異に対し、最近開発されているのがEGFRとMETを標的とする二重特異性抗体のamivantamab。この抗体は、MET抗体とEGFR抗体が半分ずつ合体したような構造をしたヒトIgG1抗体である。作用機序は、シグナル遮断、抗体依存性細胞傷害(ADCC)誘導、Trogocytosisの3つとされている。Trogocytosisとは、細胞同士が接触し、一方が他方の細胞膜をかじりとってその細胞を殺すという、独特な現象をいう。

 こうした3つの作用機序により、amivantamabはEGFRエクソン20挿入変異陽性の肺がん患者に効果を示した。既治療のEGFRエクソン20挿入変異陽性の肺がん患者81人において、奏効率40%、PFS中央値8.3カ月という成績が示され、グレード3以上の有害事象は4%と低かった(J. K.Sabari, et al. WCLC 2020 #3031)。今後の臨床開発が期待されている。

獲得耐性、抵抗性細胞のメカニズムの検討も進行中

 非小細胞肺がんでは、このような分子標的薬により、従来の抗がん薬と比べてPFSが4-7倍に延長するというブレイクスルーがみられている。ただし、分子標的薬単剤では、一度奏効が得られても、獲得耐性によりほぼ再発してしまうことが問題となっている。

 分子標的薬に耐性ができるメカニズムは複雑である。最も代表的なメカニズムは標的の変異で、EGFR-T790M遺伝子変異やALK-G1202R遺伝子変異などが知られている。次が側副経路の活性化で、標的は薬剤で抑えられているものの、別の受容体などが活性化され、がんが生存するためのシグナルを補うことで耐性が起こると考えられている。

 また、肺がんでは中枢神経系転移が比較的多く、EGFR遺伝子変異陽性やALK融合遺伝子陽性の肺がんで特に起こりやすいとされる。分子標的薬は初回投与時には有効であるが、中枢神経系転移があると獲得耐性が起こりやすく、また血液脳関門による薬剤の移行制限も問題となる。

 矢野氏らの研究チームでは、分子標的薬の耐性メカニズムを解明するため、多くの研究を行ってきた。その中で、中枢神経系とそれ以外の臓器では耐性メカニズムが異なることを見出している。

 ALK肺がんのマウスにアレクチニブを持続的に投与して獲得耐性を誘導し、そこから得たがん細胞株の研究では、EGFRに結合するアンフィレギュリンという分子の発現上昇が耐性に関与していることがわかった。アンフィレギュリンはEGFRに結合して生存シグナルを補っていることから、EGFRを遮断するため、中枢神経系への移行性が高いオシメルチニブをアレクチニブと併用すると、耐性を克服できる可能性が示された。また、アンフィレギュリンが形成に関連するとされる髄膜がん腫症でアレクチニブに耐性のマウスでは、アレクチニブとEGFR-TKIの併用により髄膜がん腫症の進行が抑えられ、アンフィレギュリンが髄膜がん腫症の制御と耐性における治療標的となる可能性が示された(S. Arai, et al. J Thorac Oncol 2020;15:752-65)。

 矢野氏は「今後、いかにこうした髄腔内あるいは脳転移で起こる耐性メカニズムを非侵襲的に検出するか、その検出手技の開発が必要と考える」と話した。

 また、分子標的薬を投与しても、一部のがん細胞が残存し、抵抗性細胞として生き残り、さらに耐性メカニズムが加わって獲得耐性が生じた場合には、さまざまな耐性メカニズムを併せ持ったがんができると考えられ、治療が困難になることが想定される。

 矢野氏らは、抵抗性となるメカニズムを解明し、それを阻害する薬剤を併用できれば、抵抗性細胞の出現を阻害し、治癒または再発までの期間の延長が得られるのではないかと考え、研究を行った。その結果、チロシンキナーゼ型受容体のAXLがEGFR遺伝子の再活性化に重要な働きをしていることが示された(H. Taniguchi, T. Yamada, et al. Nat Commun 2019;259)。

 AXLは、種々のがん種で予後不良と相関し、さまざまな分子標的薬の獲得耐性に関係していることが知られている。さらに研究から、EGFR遺伝子変異陽性肺がん細胞では、AXL発現が高い場合、多くの細胞が抵抗性細胞として残るが、オシメルチニブにAXL阻害薬を併用することにより、再発までの期間を延長できることもわかってきた。

 現在、FLT3阻害薬のギルテリチニブ(再発・難治性のFLT3遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病に承認されている)、DS-1205、ONO-7475の3つがAXL阻害薬として検討されており、「将来的には、こうしたAXL阻害薬とオシメルチニブの併用が有効になるのではないか」と矢野氏。

一方、AXL発現が低い場合は、IGF-1R阻害薬を短期間でも併用することにより、治癒またはPFSの大きな延長が期待できることが、AXL低発現EGFR遺伝子変異陽性の肺がん患者由来の腫瘍の研究から示されている(R. Wang, et al. Nat Commun 2020;4607)。

 最後に矢野氏は、「分子標的薬に対する抵抗性は、適切に抵抗性シグナルを遮断することにより、治療効果の増強が期待できるのではないかと考えている」と述べた。

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