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レポート

2021/05/25

第61回日本呼吸器学会学術講演会 会長講演より

がん治療で起こる肺障害を知っておこう

EGFR-TKI、mTOR阻害薬、がん免疫療法で報告された間質性肺疾患

八倉巻尚子=医学ライター

 肺がん治療に分子標的薬が登場して以降、薬剤に関連した肺の障害(薬剤性肺障害)が注目されるようになった。咳や息切れ、呼吸困難が主な症状だが、日本人は薬剤性肺障害が起こりやすいこともわかっている。過度に心配する必要はないが、定期的な検査と、気になる症状が出たときは早めに医療機関に相談することが大切だ。

 2021年4月にハイブリッドで開催された第61回日本呼吸器学会学術講演会において、日本医科大学学長/呼吸器内科学分野大学院教授の弦間昭彦氏が、会長講演「悪性腫瘍分子標的治療と薬剤性肺障害」で、分子標的薬を中心に薬剤性肺障害の現状とエビデンスを解釈する時の注意点について解説した。


分子標的薬が登場しドライバー遺伝子に対する個別化治療へ

 肺がんの分子標的薬として最初に登場したのがEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)のゲフィチニブである。それまで進行非小細胞肺がんには、シスプラチンやカルボプラチンなどの白金系薬剤やパクリタキセルなどの第3世代抗がん剤が使われてきたが、その効果は限定的だった。

 2004年にEGFR遺伝子変異が発見され、EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がんに対して、ゲフィチニブの効果が高いことが明らかになってきた。大規模な臨床試験(IPASS試験)で、1次治療として、ゲフィチニブは化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル)に比べて、EGFR遺伝子変異陽性の患者で、有意に無増悪生存期間(PFS)を改善することが示された(Mok T, et al. N Engl J Med. 2009)。反対にEGFR遺伝子変異陰性の患者ではゲフィチニブの効果は低いことが確認された。

 弦間氏らも2010年に、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象とした第III相試験のNEJ002試験で、1次治療として、ゲフィチニブはカルボプラチン+パクリタキセル併用療法に比べて、明らかに良好なPFSを示すことを発表している(Maemondo M, et al. N Engl J Med.2010)。

 さらに第II相試験のNEJ001試験では、EGFR遺伝子変異陽性で、化学療法の適応がない全身状態が不良な患者(PS 3/4)や高齢者を対象に、ゲフィチニブの有効性を明らかにした(Inoue A, et al. J Clin Oncol. 2009)。

 このような成果を踏まえ、現在では進行非小細胞肺がんの治療は、EGFRなどのドライバー遺伝子に基づいた個別化治療が推奨されている。

分子標的薬の光の部分と影の部分

 ゲフィチニブは、世界に先駆けて日本で2002年夏に発売された。ところが間質性肺炎を含む肺障害が報告され、同年10月には「緊急安全性情報」が出され、医療機関に配布された。12月に「ゲフィチニブ専門家会議」が立ち上がり、弦間氏も会議のメンバーとして、集積された全症例のデータを検討した。

 裁判になったが原告は敗訴。その理由は、承認や発売の時点では間質性肺疾患(ILD)の状況は予見できなかったというものだった。ただ「日本人において、こういった問題が提示されたことで、今では情報開示(インフォメーション ディスクロージャー)が必須の案件になっています」と弦間氏は語った。

 その後、薬剤性肺障害に関する初めての前向き大規模調査において、非小細胞肺がんのコホートから、ILDを発症した患者と発症していない患者を1:4の割合で抽出して比較した結果、ゲフィチニブは化学療法に比べて、ILDの発症率が高いことが確認された(Kudo S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2008)。特に治療開始後4週以内で発症率は高いことも示された。

 またILD発症の因子として、治療(ゲフィチニブか化学療法)、全身状態(PS)、喫煙歴、既存の間質性肺炎(IP)の重症度、正常肺の占有率(10-50%か60-100%)が挙げられた。つまり薬剤性のILDには、薬剤の特性、遺伝素因や既存肺疾患、生体の状況といった患者背景が関連していることがわかってきた。

 間質性肺炎合併肺がんの研究から、肺の上皮細胞のFHIT遺伝子の異常が高頻度に認められ(2001年)、間質性肺炎ではすでに上皮細胞の遺伝子にダメージがあり、それがILD悪化につながる可能性が示唆されている。また遺伝素因について、日本人の4%以上に見られるMUC4遺伝子変異が、薬剤性肺障害や術後肺炎などに関与しているのではないかといわれている。

ゲフィチニブ以降のEGFR-TKIによる肺障害

 続いて登場したEGFR-TKIのエルロチニブは2007年に承認され、「ゲフィチニブの後であったため、1万例を超える観察研究がされました」(弦間氏)。そのデータから、ILD様の事象の発現因子として、PS、喫煙歴、肺感染症、肝障害、肺気腫または慢性閉塞性肺疾患(COPD)が挙げられた。ゲフィチニブで抽出された因子と類似しているが、既存の間質性肺炎は因子に含まれていない。

 これは、「エルロチニブを使う段階では、間質性肺炎を合併している人は危ないことが既にわかっていたため」、ILDを合併あるいは既往のある人には使用が控えられたことによる。弦間氏は、「リアルワールドのデータでは、こういったバイアスに注意が必要で、これは典型的な例だと思います」と述べ、「我々はどういった環境下で出てきたデータなのかを、しっかりと認識しなければいけないと身をもって感じました」と語った。

 さらにエルロチニブのILDデータから、原発臓器による発生状況の差異も明らかになった。

 膵がんの治療にエルロチニブは使われているが、使用に際して、薬剤性肺障害を想定し、「かなりシビアな手順で使われました」。施設要件として特定機能病院やがん診療連携拠点病院で使うこと、医師はE-learningの修了も求められた。膵がんでのILD発症率は、国内第II相試験では106人中9人(8.5%)、グレード3以上が2人(Okusaka T, et al. Cancer Sci. 2011)、市販後調査では312人中21人(6.7%)で、グレード3以上が9人だった。

 CT画像のパターンも異なる。非小細胞肺がんではILD発症例のうちDAD(びまん性肺胞傷害)様パターンを示した患者は2割、そのうち死亡は6割以上を占めた(Gemma A, et al. Cancer Sci.2014)。一方、膵がんではDADパターンを示した患者は少なかった。そのため薬剤を「他の臓器に適応拡大したときに、(それまでのデータを)鵜呑みにしてはいけない」と弦間氏は述べた。

 エルロチニブのILDデータから、さらにFirst-in class(画期的医薬品)の特殊性も明らかになった。ゲフィチニブのILD発現は、発売から最初の四半期に非常に増え、死亡例も報告されたが、その後は徐々に減少した。一方、エルロチニブでは、ILD発症は発売開始後、使用量に応じて徐々に増えていき、早期に大きく増えることはなかった。ゲフィチニブのようなFirst-in classを使うときは、「この薬を待ちに待って、かなり状態の悪い患者さんにも投与する」という特殊性に気をつけなければいけないとした。

 第2世代EGFR-TKIと呼ばれるアファチニブでは、市販後全例調査1602人においてILDは4.4%に認められ、グレード3/4が2%、グレード5は1%と、「ゲフィチニブ、エルロチニブとほぼ同様のデータでした」。アファチニブは第1世代EGFR-TKIのゲフィチニブやエルロチニブに比べて効果が高いとされるが、下痢の発症は多かった。このため全身状態の良い患者さんに使うなど、症例選択にバイアスがあった可能性もあり、「そういった症例に使われたデータであることも考慮しなければならない」と弦間氏は指摘した。

作用機序の異なる薬剤による肺障害の特徴

 mTOR阻害薬であるエベロリムスは腎細胞がんなどで用いられている。左右の肺はいくつかの区域に分けられているが、mTOR阻害薬におけるILDは特徴的で、画像所見で非区域性の浸潤影とすりガラス陰影が認められるという。気管支肺胞洗浄(BAL)所見ではリンパ球が優位で、血中のKL-6やSP-Dは間質性肺炎の良いマーカーとされる。

 腎細胞がんに対するエベロリムスの市販後全例調査で、安全性解析対象の1067人において、ILDの発症率は22.9%(244人)、ILDによる死亡は0.7%(8人)だった。KL-6は「グレード1の間質性肺疾患と認識される前に上昇し、CT所見よりも早くKL-6が上がる可能性があります」。SP-Dもグレード1の段階から上昇しているという。

 欧米の治験では、グレード1の場合は治療を継続するが、「DADが比較的多いと言われている日本人でも本当に良いのか」を確認するため、企業の協力でグレード1のILD患者68人について、エベロリムス投与継続後の転帰が調べられた。その結果、死亡例はなく、回復・軽快した患者が約半数、悪化した患者でも9人中7人は回復・軽快した。このためグレード1では、日本人でも投与継続できることが市販後調査で確認された。

 ただしエベロリムスは免疫抑制作用があり、また長期に投与するため、感染症には注意が必要になる。市販後調査でニューモシスティス肺炎を発症した患者もいたため、末梢血リンパ球数のモニタリングを行い、またILDとニューモシスティス肺炎などの感染症との鑑別も重要であるとした。

 別のmTOR阻害薬であるテムシロリムスでも、ニューモシスティス肺炎が報告されている。日本医科大学のデータでは、間質性肺炎治療のためステロイド投与を受けた患者のうち、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)の予防投与例ではILDは1人も起きなかった。そういったデータを踏まえ、テムシロリムスの肺疾患評価委員会から「免疫が抑制されている患者に対しては、ST合剤等の抗菌薬の予防投与についても考慮する必要がある」との提言が出されている。

 多発性骨髄腫などに使われるプロテアソーム阻害薬のボルテゾミブでも、間質性肺炎が報告されている。当初、ドラッグラグがあったため個人輸入されており、間質性肺炎による死亡例もあった。観察研究が行われた結果、胸水や心嚢水を認め、肺水腫の関与が考えられるなど、他の薬剤で報告された間質性肺炎とは異なる特徴をもつことがわかった。しかし早期のステロイド治療が有効で、リスク因子を排除するなど、現在では「しっかりコントロールされています」。

 肺がんに使われるALK阻害薬のクリゾチニブでも、類似した肺障害が見られるという。市販後全例調査で、安全性解析対象の2028人において、クリゾチニブ関連のILDの発症率は5.77%、グレード3以上は3.45%で、肺水腫様の陰影のあるILDも認められた(Gemma A, et al. J Thorac Oncol. 2019)。

分子標的薬以外の薬剤の影響が考えられる肺障害

 大腸がんに対する抗EGFR抗体のセツキシマブとパニツムマブでは、市販後調査で、薬剤性肺障害の頻度は1.2%と1.1%だが、そのうち死亡率は41.7%、36.8%と高かった。その理由として、併用薬の影響が考えられるという。例えば、抗EGFR抗体と併用するオキサリプラチンでは、間質性肺炎の報告があり、画像所見ではDADパターンなどが認められる。またイリノテカンの併用療法も行われるが、イリノテカンで間質性肺炎が現れることがあり、「間質性肺炎または肺線維症の患者」へのイリノテカン投与は禁忌になっている。

 基本的に大腸がんでは治療が継続的に行われ、「ドラッグホリデーがないこと」も関係している可能性があり、「これには早期の対応が必要で、早期発見、早期治療が必要な領域かと思います」と弦間氏は話した。

 このほか、細胞障害性抗がん剤のアムルビシンやゲムシタビンでも、胸部単純X線写真で明らかで、かつ臨床症状のある間質性肺炎または肺線維症の患者には禁忌となっている。

免疫チェックポイント阻害薬とEGFR-TKIの相互作用も

 免疫チェックポイント阻害薬の1つである抗PD-1抗体のニボルマブでは、グレードの高い有害事象として、胃腸障害や呼吸器障害が認められる。肺障害の頻度は原発臓器によって異なり、非小細胞肺がんではおよそ4%、腎がんでも同じだが、悪性黒色腫(メラノーマ)では1.6%と低い(Nishio M, et al. JAMA Oncol. 2016)。画像所見では、腫瘍周囲のすりガラス陰影(Peritumoral infiltration:PTI)が特徴であるが、偽増悪(Pseudo-progression)との区別が非常に難しいという。

 ニボルマブ投与例での解析では、致死的なILDの予後因子として、男性、画像のDADパターン、治療前のCRP高値が抽出された(Kato T, et al.ASCO 2017)。

 抗PD-L1抗体薬デュルバルマブは、「切除不能な局所進行の非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法」に使用されている。この薬剤でも放射線肺臓炎を含むILDが報告されているが、「現時点において全肺に及ぼすようなダメージはそれほど多くないことがわかっています」。

 一方、問題になってきたのは、免疫チェックポイント阻害薬とEGFR-TKIの相互作用である。免疫チェックポイント阻害薬を先行して使用し、その後でEGFR遺伝子変異が見つかってEGFR-TKIを使用する場合がある。あるいは免疫チェックポイント阻害薬とEGFR-TKIを併用する場合もある。

 第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブのILD国内専門家委員会の報告では、およそ3600人において、ILDは245人(6.8%)に発現し、死亡は29人(11.8%)だった。さらに詳しい解析で、ILD発現因子として、ニボルマブの前治療歴と、ILDの病歴が挙げられた(Gemma A, et al. J Thorac Oncol. 2020)。

 しかしニボルマブ投与後、オシメルチニブを投与するまでの間隔が長いほど、ILDの頻度は減っていた。「5カ月くらい経った後ではあまり気にしなくてもいいのかなと思います」と弦間氏。また「免疫チェックポイント阻害薬を使った後に、別の薬をはさんで、EGFR-TKIを使ったほうがいいというデータでしょう」と説明した。

新薬のトラスツズマブ デルクステカンでも注意が必要

 抗体薬剤複合体(ADC)製剤であるトラスツズマブ デルクステカンは、HER2陽性進行乳がんの3次治療以降の薬剤として非常に効果が高いことが知られる。しかしHER2陽性乳がんを対象に行われた第II相試験のDESTINY-Breast01試験で、初回投与量5.4mg/kgにおいて、ILDは13.6%(184人中25人)、日本人では30.0%(30人中9人)に見られた。「効果が高いため、長期に使用される」という特徴があり、ILDの発現時期は「いつでも発現する状況」であるという。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺の画像は、すりガラス陰影など、薬剤性ILDと類似しており、また咳や息切れ、呼吸困難、発熱などの症状も共通している。画像所見や症状から鑑別することは難しく、鑑別にはPCR検査などが必要になるとした。

 講演の最後に「エビデンス解釈時の注意点」のまとめとして、(1)肺組織の状態はそれぞれ異なるので、肺組織の状態を考慮して、それまでのデータをどう解釈するか、どのように修正するかを考える必要があるとした。また(2)First-in classの特殊性を念頭におき、前もってそのリスクは予測しておくこと、(3)どういった形でデータが収集されているのかを確認すること。そして(4)他の薬剤との相互作用や併用状況の分析は必要であり、「それががん治療の進歩につながるのだろうと思います」と弦間氏は話した。

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