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レポート

2021/05/18

第61回日本呼吸器学会学術講演会 教育講演より

免疫チェックポイント阻害薬が変えた小細胞肺がんの薬物療法

新たな治療法がようやく登場

森下紀代美=医学ライター

 肺がんは、大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分けられる。小細胞肺がんは肺がん全体の約15-20%を占め、増殖が速く、悪性度が高い。

 2021年4月23日から25日まで対面とWEBのハイブリッド形式で開催された第61回日本呼吸器学会学術講演会の教育講演「小細胞肺癌の薬物療法―2021年アップデート―」では、北海道がんセンター呼吸器内科 臨床研究部長の大泉聡史氏が、小細胞肺がんの薬物療法の最近の進歩について解説した。


長らく治療開発が進まなかった小細胞肺がん

 非小細胞肺がんでは、ドライバー遺伝子異常に対する分子標的薬、さらに免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitor:ICI)が導入され、薬物療法が大きく変化してきた。一方、小細胞肺がんでは、長年にわたって治療開発のブレイクスルーがなく、基本的には殺細胞性抗がん薬による化学療法が行われてきた。

 小細胞肺がんは「限局型」と「進展型」に分類される。「肺癌診療ガイドライン 2020年版」(日本肺癌学会編)では、限局型は「病変が同側胸郭内に加え、対側縦郭、対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており悪性胸水、心嚢水を有さないもの」と定義されている。進展型は、限局型の範囲を超えているものとされる。

 進展型小細胞肺がんを対象に、日本で行われた重要な臨床試験が第2相のJCOG9511試験である。初回治療として、イリノテカン+シスプラチンとエトポシド+シスプラチンを比較し、全生存期間(OS)中央値はそれぞれ12.8カ月、9.4カ月、p=0.002となり、イリノテカン+シスプラチンの優越性が証明された(K. Noda, et al. N Engl J Med 2002;346:85-91)。この結果から、日本における進展型小細胞肺がんの初回治療は、イリノテカン+シスプラチンが標準治療となった。

 しかし、その後、新たな進展はなかなかみられなかった。進展型小細胞肺がんの初回治療として、アムルビシンの応用の可能性を検討した第3相のJCOG0509試験では、アムルビシン+シスプラチンはイリノテカン+シスプラチンに対し、OSで非劣性を証明することはできなかった(M. Satouchi, et al. J Clin Oncol. 2014;32:1262-8)。

 また、ICIの抗CTLA-4抗体イピリムマブをプラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)併用療法に追加する効果を検討した国際的な第3相のCA184-156試験では、イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法はプラセボ+プラチナ製剤併用療法に対し、OSで優越性を証明することはできなかった(M. Reck, et al. J Clin Oncol.2016;34:3740-48)。

 したがって、2018年までの進展型小細胞肺がんの治療アルゴリズムでは、初回治療として、全身状態(PS)良好例(PS 0-2)、70歳以下の場合はシスプラチン+イリノテカン、イリノテカンの毒性が懸念される場合はシスプラチン+エトポシド、PS不良例(PS 3)、71歳以上などの場合はカルボプラチン+エトポシド、シスプラチンの分割投与+エトポシドが推奨されている。

 2次治療は、初回治療終了から再発までの期間が長い(60-90日以上の場合が多い[肺癌診療ガイドライン2020年版])sensitive relapse、それ以外のrefractory relapseに分け、前者にはノギテカンや初回のプラチナ製剤併用療法の再投与など、後者にはアムルビシンが推奨されている。

 昨年の米国からの報告では、過去15年間、小細胞肺がんの罹患数や死亡数は減少傾向にあるものの、生存率はほとんど改善していないことが示された(N. Howlader, et al. N Engl J Med 2020;383:640-49)。この間、臨床研究で大きなブレイクスルーがなかったためである。

ICIが3つの第3相試験で同等の治療効果を示す

 多くのがんにおいて、ICIの抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体による治療が重要な治療戦略となり、これを軸として、化学療法との併用や、他のICIとの併用の開発研究が進んでいる。非小細胞肺がんでも、初回治療ではICI+プラチナ製剤併用療法がすでに標準治療となり、重要な治療戦略となっている。

 進展型小細胞肺がんにおいても、初回治療としてICI+プラチナ製剤併用療法を検証する第3相試験が行われた。

 2018年に最初に報告されたのが、第3相のIMpower 133試験である。この試験では、進展型小細胞肺がんの初回治療として、抗PD-L1抗体アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド(アテゾリズマブ群)とプラセボ+カルボプラチン+エトポシド(プラセボ群)を比較した。主要評価項目は、OSと無増悪生存期間(PFS)だった(S. V. Liu, et al. WCLC 2018;PL02.07、L. Horn, et al. New Engl J Med 2018;379:2220-29)。

 OSの最新結果では、中央値はアテゾリズマブ群12.3カ月、プラセボ群10.3カ月、ハザード比0.76(95%信頼区間:0.60-0.95)、p=0.0154となり、アテゾリズマブ群のプラセボ群に対するOSの優越性が証明された(S. V. Liu, et al. J Clin Oncolg 2021;39:619-30)。

 PFSでも、アテゾリズマブ群のプラセボ群に対する優越性が示された。PFS中央値は、アテゾリズマブ群5.2カ月、プラセボ群4.3カ月、ハザード比0.77(95%信頼区間:0.62-0.96)、p=0.02となった(L. Horn, et al. New Engl J Med 2018;379:2220-29)。

 2019年には、第3相のCASPIAN試験の結果が報告された。この試験では、進展型小細胞肺がんの初回治療として、抗PD-L1抗体デュルバルマブ+プラチナ製剤(カルボプラチンまたはシスプラチン)+エトポシド(デュルバルマブ群)とプラチナ製剤+エトポシド(EP群)を比較した。主要評価項目はOSだった(L. Paz-Ares, et al. Lancet 2019;394:1929-39)。

 最新結果では、OS中央値はデュルバルマブ群12.9カ月、EP群10.5カ月、ハザード比0.75(95%信頼区間:0.62-0.91)、p=0.0032となり、デュルバルマブ群のEP群に対するOSの優越性が証明された(L. Paz-Ares, et al. ASCO 2020;Abstract No. 9002)。

 PFS中央値は、デュルバルマブ群5.1カ月、EP群5.4カ月、ハザード比0.80(95%信頼区間:0.66-0.96)となり、デュルバルマブ群のEP群に対する優越性が示された。

 さらに2020年には、第3相のKEYNOTE-604試験の結果も報告された。この試験では、進展型小細胞肺がんの初回治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ+プラチナ製剤(カルボプラチンまたはシスプラチン)+エトポシド(ペムブロリズマブ群)とプラセボ+プラチナ製剤+エトポシド(プラセボ群)を比較した。主要評価項目はPFSとOSだった(C. M. Rudin, et al. ASCO 2020;Abstract No. 9001)。

 最終解析では、OS中央値はペムブロリズマブ群10.8カ月、プラセボ群9.7カ月、ハザード比0.80(95%信頼区間:0.64-0.98)、p=0.0164となった。ただし、p=0.0128が必要とされたため、ペムブロリズマブ群の優越性は証明されなかった。

 PFS中央値は、ペムブロリズマブ群4.8カ月、プラセボ群4.3カ月、ハザード比0.73(95%信頼区間:0.60-0.88)となった。

 これら3つの第3相試験において、OSやPFSの成績はほぼ同等の結果となった。大泉氏は「進展型小細胞肺がんにおいて、プラチナ製剤併用療法にICIを追加する治療の効果が3つの臨床試験で証明されたことは、重要な知見と考えている」と話した。

 ICIの臨床試験では、評価項目が改めて注目されている。従来からの臨床試験の評価項目である生存率や生存期間中央値に加え、ICIでは「テイルプラトー」と呼ばれる長期生存の指標が重要になってきている(M. de Miguel, et al. Cancer Cell 2020;38:326-33)。テイルプラトーとは、生存曲線の端が平坦になって持続する状態のことで、ICIで効果が得られた患者が長期生存していることを表わしている。

 これらの臨床試験の結果を受け、最新の肺癌診療ガイドライン2020年版では、「CQ11. 進展型小細胞肺癌(PS 0-1)に対して、プラチナ製剤併用療法にPD-L1阻害薬の上乗せは勧められるか?」に対し、推奨として「進展型小細胞肺癌(PS 0-1)には、プラチナ製剤併用療法+PD-L1阻害薬を行うよう推奨する」と記載されている。

 このため、2019年からの進展型小細胞肺がんの治療アルゴリズムには、初回治療として、ICIを含む併用療法が新たに加わった。PS 良好例(PS 0-1)に対するプラチナ製剤+エトポシド+ICI(抗PD-L1抗体)であり、重要な治療戦略となっている。

 現在、進展型小細胞肺がんを対象に、ICI+プラチナ製剤併用療法、ICI 2剤+プラチナ製剤併用療法、ICI+プラチナ製剤併用療法+他の薬剤など、多くの開発研究が進行中である。

まだ特定されていないICIのバイオマーカー

 最後に大泉氏は、小細胞肺がんに対するICIのバイオマーカーについて考察した。

 前述のCASPIAN試験のサブグループ解析では、PFSが12カ月以上の患者集団において、デュルバルマブ群とEP群でPSや転移部位の差はなく、長期の治療効果に関連する臨床的特徴は認められなかった。

 小細胞肺がんへのICIの治療効果に関連する因子について、最近のレビューでは、バイオマーカーの候補として、体細胞変異、腫瘍遺伝子変異量(Tumor Mutation Burden:TMB)、血液中を循環しているTMB(循環TMB)、腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte:TIL)のシグネチャ、PD-L1発現、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells:CTC)などが挙げられている(W.T. Iams, et al. Nat Review Clin Oncol.2020;17:300-12)。

 一般的に、小細胞肺がんではPD-L1の発現は低いとされる。CASPIAN試験でも、腫瘍細胞で94.9%、免疫細胞で79.5%が陰性であったことが報告されている。しかし、同試験でPD-L1発現状況と治療効果(OS)の関連をみると、PD-L1発現に関わらず効果が得られたことが示されている(L. Paz-Ares, et al. ESMO 2019;Abstract No. 3837)。また、組織のTMBとOSの関連についての検討では、組織のTMBを複数のカットオフ値で分けているが、組織のTMBとOSは必ずしも関連していなかった(J. W. Goldman, et al. ESMO 2020;Abstract No. LBA86)。

 またIMpower 133試験のサブグループ解析では、循環TMBまたはPD-L1発現とOSの関連を検討している。循環TMBとPD-L1発現を複数のカットオフ値で分けているが、循環TMBまたはPD-L1発現とOSは必ずしも関連していなかった(S. V. Liu, et al. J Clin Oncol 2021;39:619-30)。さらに長期生存例の解析においても、循環TMBが高値またはPD-L1発現が高いほど、必ずしも長期生存例が増加しているわけではないことが示された(S. V. Liu, et al. ESMO 2020;Abstract No. 1781MO)。

 これらの結果について、前述の小細胞肺がんへのICIの治療効果に関連する因子のレビューと照らし合わせてみると、まず組織のTMBについては、CASPIAN試験のサブグループ解析から、OSの予測因子にならないことが示された。循環TMBについても、IMpower 133試験のサブグループ解析から、OSとは必ずしも関連していなかったことが示されている。さらにPD-L1発現についても、CASPIAN試験とIMpower 133試験のサブグループ解析から、OSとは関連性がなかったことが示された。

 このように決定的なバイオマーカーがない状況において、どのような因子が候補となる可能性があるのか。大泉氏らの研究グループの検討では、小細胞肺がんで切除を行った患者124例において、統計学的有意差がついていないデータもあるものの、CD4陽性TILとCD8陽性TILの浸潤が多いほど、無再発期間(RFS)やOSが長いことが示された。大泉氏は「必ずしもTILとICIによる治療との関連性を示すものではないが、ICIの作用機序を考えると、TILがバイオマーカーの候補となる可能性があることを示唆していると考える」と話した。

 また最近では、転写因子や遺伝子背景から小細胞肺がんをグループ化する試みも行われている。そうしたグループ化を行った中のあるグループでは、インターフェロン(IFN)-γの発現やTILが増加し、このグループはICI+化学療法でOSのベネフィットが得られていると報告された(C. M. Gay, et al. Cancer Cell 2021;39:346-60)。

 大泉氏は「小細胞肺がんのICI治療においてもバイオマーカーの確立が待たれるが、いまだ決定的なものはなく、今後の課題と考えている」と述べた。

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