このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2021/05/04

オンラインセミナー「AYA世代のがんとセクシュアリティのこと」より

性への影響も副作用の一つとして支援を

福島安紀=医療ライター

 がんの治療によって、性機能や性生活に影響が出る患者は少なくない。しかし、性の問題は後回しにされがちで相談できる場も限られる。そういった現状の改善を目指す、患者支援団体の認定NPO法人キャンサーネットジャパンが、3月19日、「もっと知ってほしいAYA世代(15~39歳)のがんとセクシュアリティのこと」をオンライン開催した。
 昭和大学保健医療学部教授(がん看護学)の渡邊知映氏、精巣がんと急性前骨髄球性白血病の体験者の佐藤崇宏氏、横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター泌尿器科部長の湯村寧氏が講演を行った後、がん患者やその家族から寄せられた質問に答えた。



AYAがん患者の約5割が性についての情報を求めていたが支援得られず

 昭和大学保健医療学部教授の渡邊知映氏は、講演の冒頭で、「性の健康は生活の一部であり、病気になっても、自分の性に関して満足した生活を送るのは大切なことです」と指摘した。

渡邊知映 氏

 厚生労働省の「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」班が、2014年にAYA世代のがん患者とがん体験者各200人を対象に実施した調査※1の結果では、46.1%の人がセックスのことについて情報が欲しかったが得られなかったと回答。セックスについて相談したかったが支援が得られなかった人も36.2%に上った。

 「その背景には、患者さんたちには、『性のことを性別の異なる医療者に話すのが恥ずかしい』『命を助けてもらったのに性の話をするなんて贅沢な悩みだと言われるのではないか』などという遠慮があるからではないでしょうか」と渡邊さん。思春期だったり、子どもの頃にがんになったりした場合には、「自分のことを子ども扱いして心配するから恋愛の話をしにくい」との声もあるという。

 「医療者も、『性のことを聞いたら患者さんやパートナーが気分を悪くするのではないか』『性の問題はがんの患者さんにとって優先順位が低いのではないか』と勝手に思ってしまっています。でも、私たち医療者は、がんの患者さんが治療とうまく向き合い、治療が終わった後も生きやすいように、性の問題も含めて支援する必要があると考えています」と渡邊さん。

※1 平成27~29年厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」(研究代表者・堀部敬三氏)の「AYA世代がん医療の包括的実態調査」

手術、抗がん剤、放射線、外見の変化、精神面が性生活に影響

 性機能に影響があるのは、女性の場合、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどで、子宮と膣の一部、卵巣、卵管、骨盤内のリンパ節を切除する広汎子宮全摘手術を受けたとき、卵巣摘出、抗がん剤やホルモン剤の投与、脳の下垂体への放射線照射などで卵巣機能が一時的あるいは長期的に低下しているときだ。広汎子宮全摘手術後は、膣の長さが短くなり分泌物が少なくなったりするため、性交時に痛みを生じる人が多い。また、卵巣を摘出したり機能が低下したりすると膣の潤いが低下し、性交時に痛みを感じやすい。膣の中への放射線照射、血液がんに対する造血幹細胞移植の影響で、膣粘膜の萎縮や狭窄が起こることもある。

 男性に造精機能障害が起こるのは、精巣腫瘍、前立腺がん、膀胱がんなどで、両側の精巣や前立腺を切除したとき、血液がんや脳腫瘍などで放射線治療を受けたときなどだ。直腸がん、膀胱がん、前立腺がんなどで勃起や射精に関わる神経を切除したとき、骨盤内の放射線照射は、勃起障害など性機能障害の原因になる。

 性別に関わらず、治療によって外見が変化し手術のキズに触れられるのが嫌、抗がん剤の副作用による吐き気や倦怠感、ホルモン環境の変化、精神的な影響で、性生活に前向きになれない人もいる。下垂体腫瘍、免疫チェックポイント阻害薬の副作用で下垂体の機能が低下した場合にも性ホルモンの分泌が低下し性機能に影響する。
         
 「抗がん剤治療の副作用で好中球が低下しているとき(抗がん剤投与7~14日後)には、セックスやキスによる感染に注意が必要で、そういう時期の性生活は控えたほうがよいとされています。また、薬物療法中は胎児へ影響がある恐れがあるので、コンドームなどを用いて避妊する必要があります。ピルやペッサリーなどの使用は、担当医に相談してください」(渡邊氏)

 AYA世代のがん患者456人を対象にした米国の調査※2では、診断から1年後に性機能にネガティブな影響があった人は48.8%、2年後も43.4%は悪影響があるとした。配偶者やパートナーとの関係は、19.4%が診断から2年後時点で悪化していると答えたのに対し、46%は「やや、または非常によくなった」と回答している。

※2 Psychooncology.2017 Oct;26(10):1632-1639.

パートナーへ自分の気持ちを伝え話し合うこと大切

 「がん治療と性の問題は個別性が高く、症状や合併症は全ての方に起こるわけではなく、時間の経過と共に改善する場合もあります。まずは、パートナーに、『私は』を主語にして、あなたのことをどう思っていてどうして欲しいかを話してみることが大切です。性生活やパートナーとの良好な関係は、がんに対する不安や孤独感といった荷物を降ろしてくれる大切なものの1つです。性の問題について、医療者と患者さんが気軽に話し合える社会を作ることが大切なのではないかと考えています」。渡邊氏は、そう強調した。

 神奈川県出身の佐藤崇宏氏は、20歳だった2014年1月に精巣腫瘍と診断され、片方の精巣を摘出した。右リンパ節に転移の疑いがあるため化学療法を受けることにしたが、その直前に精子の保存をどうするか聞かれ、そこで初めて将来子どもを持つことを考えた佐藤氏は、化学療法を延期して一時退院し、精子の凍結保存を行った。精子の活動は弱いものの性機能も含めて後遺症は残らなかったため、化学療法から2年後、凍結精子は破棄したという。

佐藤崇宏 氏

 24歳だった17年11月には、急性骨髄性白血病の一種である「急性前骨髄球性白血病」と診断され化学療法を受けた。このときには、精巣腫瘍になった後に患者会などで啓発活動を行ったこともあって知識はあったが、以前つきあっていた彼女と別れて交際相手もおらず、医師からも何も言われなかったので精子保存はしなかった。

 「すでに治療が終わって性機能には問題ありませんが、精子がどうなっているかは検査をしていないから分かりません。性の問題は家族にも友人にも言いづらいのは、どちらのがんでも同じでした。精巣腫瘍のときには自分ががんだったことも平気で口にしていたのですが、今は、あまり人に言わなくなりました。これから交際する相手に、いつ病気のことを伝えるかも迷うところです」と佐藤氏は語った。

勃起不全改善薬や腟潤滑ゼリー剤などを使う手も

 男性不妊が専門である横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター泌尿器科部長の湯村寧氏は、がん治療によって生殖機能や妊娠可能性が失われる恐れがある場合の妊孕性温存療法と性機能障害を改善するための対策などについて講演した。

湯村寧 氏

 妊孕性温存療法には、女性の場合、受精卵(胚)、卵子、卵巣、男性の場合は精子を凍結する方法があり、がん治療医と生殖医療医が連携して、将来子どもが欲しいと考えるAYA世代の患者が迅速に相談を受けられる体制が広がってきている。今年度から、国と都道府県が、がん・生殖医療ネットワークが構築されていることを要件に、妊孕性が低下するリスクのある治療の対象となるか、長期間の治療によって卵巣予備能が低下する恐れのある43歳未満のがん患者を対象に、受精卵(胚)・卵子・卵巣・精子の凍結保存費用を助成する生殖機能温存治療費助成事業がスタートしている。

 男性の精子の元となる精祖細胞は抗がん剤や放射線に弱く、治療開始後1~2カ月で精子が減少し、場合によっては無精子症になる。1~3年で回復してくることも多いが、無精子症のままになることもある。

 「男女に共通して言えるのは、外観の変化、ストーマ(人工肛門、人工膀胱)や傷がある、乳房や精巣などを切除すると、性欲や性的興奮が低下することです。精神面の影響もあるし、疲労やホルモンの問題で性機能障害が生じることもあります」と湯村氏。男性の小児がんサバイバーは、彼らの兄弟と比べて2.6倍、勃起不全(ED)になりやすく、精巣腫瘍サバイバー60人のうち24人は治療後セックスをしていないとの報告もあるという。

 「悩んでいるのは一人ではなく、たくさんいるということです。日本では、がんと性生活について情報が限られていますが、ストーマと性生活などについては、インターネットで検索してみるとストーマの会社などの情報が参考になります。あきらめずに情報を集め、パートナーとも話し合う機会を持って欲しいです」

 湯村氏はそう話し、男性の勃起障害を改善する商品をいくつか紹介した。ヨヒンビン(商品名・ガラナポーン)のように、勃起不全の治療薬もある。ただし健康保険は使えず自費で購入する必要があり、血圧に変動を与える副作用がある点には注意が必要だ。女性の場合、膣の潤いが低下して性交痛が生じているときには、リューブゼリーなどの潤滑ゼリー剤を使用してみてもよいという。膣の緊張をほぐすようなグッズも販売されている。

精子の状態や卵巣機能は産婦人科や生殖医療機関で検査可能

 Q&Aセッションでは、「抗がん剤治療中にオーラルセックスをするのは危険なのか」という質問が出た。渡邊氏は、「抗がん剤投与後48時間以内は、精液や体液が抗がん剤に曝露されている可能性がある」と回答。

 「白血病で全身放射線照射をしたが、一度失われた生殖機能は回復しないのか」との男性からの質問には、湯村氏が「無精子症になっても2~3年で回復してくる人もいますし、精巣の中を探すと精子が見つかる確率はゼロではありません。ただ、全身放射線照射をしていると生殖機能の回復が難しい場合が多いです」と答えた。男性の精子の状態は、不妊治療を行っている泌尿器科や産婦人科で調べられる。自宅で採取した精子を調べる郵送検査を行う業者もある。

 「10代でがんになって現在30代ですが、ここのところ生理不順です。これからの卵子凍結は可能か」という質問には、「まずは、生殖医療機関で、今の卵巣機能を調べることが大事です」と湯村氏。なお、現在、自治体が実施している生殖機能温存治療助成事業は、がん治療前か治療中の人が対象で、治療が終わったサバイバーが受ける場合にはこの制度が使えないことが多い点には留意したい。

 がん体験者からは、「がん経験と後遺症によって、なかなか恋愛に踏み出せない」「婚活中ですが、次に付き合う人にはどのタイミングでがん体験をカミングアウトしたらよいと思うか」という相談も。佐藤氏は、恋愛に積極的になれない気持ちはよく分かるとし、「ある程度、信頼関係ができたところで、病気のことを伝えたほうがよいのではないでしょうか。ただ、外見から病気の治療をしたことが分かる人は悩んでいますし、最初からカミングアウトして分かってもらえる人と付き合いたいという仲間もいます」と話した。

「がんと性」相談アプリをキャンサーネットジャパンが開設

 では、性についてがん患者が相談できる場を充実するにはどうしたらよいのか。「気軽に相談できるところが増えたらいいと思います。周囲の家族や交際相手については、がんと性だけではなく、性についてもっと理解が進まないとオープンに話せるようにならないのではないでしょうか」と佐藤氏。湯村氏は、「患者会でも性のことを話題にするのは難しいのかもしれません。医療者側も相談の場を作っていかなければならないと思いました。男性については相談に乗りますので、気軽に受診してください」と強調した。

 最後に、渡邊氏が次のようにまとめ、オンラインセミナーが閉会した。「性の問題について、いつでも相談できる窓口を開いておき、相談していいことなのだと知っていただくことが大切だと思いました。支援が必要になったときに適切な窓口につなげることも重要です。これからも、がんと性について知る機会を今後も作りたいですし、充実した情報発信をしていきたいです」

 キャンサーネットジャパンは、ホームページ上に「もっと知ってほしいがんと性のこと~安心して性について語り合える社会のために~」(https://www.cancernet.jp/seikatsu/sexuality/)を開設し、渡邊氏らが中心になって情報発信を進めている。また、スマートフォンのアプリから相談できる「がんと性~アプリ相談ルーム」も運営中だ。がん治療で性生活に影響が出ている場合には周囲の医療者へ相談すると共に、アプリなども活用して、一人で抱え込まないようにしたい。

この記事を友達に伝える印刷用ページ