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レポート

2021/04/13

第18回日本臨床腫瘍学会学術集会より

多発性骨髄腫治療の今を知る

新規薬剤の登場で微小残存病変(MRD)消失も望める時代に

中西美荷=医学ライター

 多発性骨髄腫(MM)は、従来は治療法が乏しく治癒は困難で、治療目標は症状緩和や生存延長を目指すことだったが、新規薬剤の登場により治療成績は大幅に改善されている。特にダラツムマブやイサツキシマブといった抗体医薬を使えるようになったことで、予後良好の指標とされる微小残存病変(MRD)の消失も望めるようになってきた。

 ウエブ開催された第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2021)の教育講演「多発性骨髄腫治療アルゴリズム」では、愛媛県立中央病院血液内科の名和由一郎氏が多発性骨髄腫の診断と治療について講演した。


多発性骨髄腫は高齢者に多い造血器腫瘍

 多発性骨髄腫は、すべてのがん罹患率の1%未満という比較的少ない疾患で、推定罹患率は人口10万人中5.3人(男性5.8人、女性4.8人)。造血器腫瘍の中でも白血病の1/2、悪性リンパ腫の1/4の罹患率である。初診時年齢の中央値は男性70歳、女性67歳と高齢者に多く、年齢階級別の罹患率は男女ともに高齢になるほど高い。推定死亡率は人口10万人中男性3.6人、女性3.1人である(がん情報サービス、全国がん罹患モニタリング集計2014、国立がん研究センターがん対策情報センター)。

 多発性骨髄腫は造血器腫瘍の1つで、Bリンパ球(B細胞)の最終分化段階である形質細胞が腫瘍化(がん化)したものである。形質細胞は、免疫反応を引き起こすさまざまな物質(抗原)に結合する免疫グロブリン(抗体)を作る役割を担っている。がん化した形質細胞は、単クローン性(同一起源の均一な遺伝情報を持つ)免疫グロブリンを異常産生する。

 この免疫グロブリンはM蛋白と呼ばれ、血清・尿中で増加する。多発性骨髄腫では、M蛋白が腎臓の尿細管に沈着することで腎障害を起こしたり、骨髄中で形質細胞が増加して正常な血液細胞を作る過程(造血)が妨げられて貧血になるなど、さまざまな症状を引き起こす。

 骨髄腫診断事象(MDE)のうち1つ以上がある場合、症候性多発性骨髄腫として治療対象となる。MDEとは、高カルシウム血症(Calcium elevation)、腎障害(Renal impairment)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)の4つで、これらの頭文字をとってCRAB症状とも呼ばれる。

 ほぼすべての多発性骨髄腫は、「意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)」期を経て発症する。このMGUS期において、すでに14番染色体長腕(14q)転座や、染色体の高二倍体化などが起こっていて、これに13q欠失、RAS突然変異、さらにはc-Mycの強発現、NFκBの突然変異などの遺伝子異常が加わって病気が進展すると考えられている(Int J Hematol. 2020; 111(4): 496-511)。

CRAB症状とM蛋白や骨病変の存在から診断

 国際骨髄腫作業部会(International Myeloma Working Group:IMWG)による診断基準では、骨髄に単クローン性の形質細胞が10%以上または生検で証明された随外形質細胞腫の存在に加えて、CRAB症状またはSLiMと呼ばれる悪性バイオマーカー(骨髄中の形質細胞が60%以上、または血清遊離軽鎖[FLC]のκ鎖とλ鎖の比が100以上、またはMRIで2箇所以上に5mmを超える骨病変)があれば、多発性骨髄腫と診断される。

 血清M蛋白(IgGまたはIgA)が3g/dLまたは蓄尿中M蛋白が500mg/24時間または骨髄の単クローン性形質細胞が10%以上60%未満で、MDE(CRAB症状)がないものは、くすぶり型多発性骨髄腫(SMM)と診断する。

 多発性骨髄腫を診断するために、血液検査では赤血球、白血球、血小板などの血液細胞の数(血算)やカルシウム量を調べ、M蛋白(血清蛋白分画、血清免疫固定法)やFLCを検出する。尿検査では尿中M蛋白を検出する。また骨髄検査で骨髄腫細胞の割合や表面抗原(CD38:細胞の活性化マーカー)、染色体を調べる。レントゲン、MRI、PET-CTなどの画像検査では、骨の状態(骨折の有無、骨のもろさ)を確認する。

 これらの検査のうち、FLCの検出は2011年に保険適応となった。抗体は2本の軽鎖と2本の重鎖が結合してできているが、重鎖と結合できず、あまった軽鎖が細胞外に放出されてFLCとなる。軽鎖にはκ鎖とγ鎖があるが、多発性骨髄腫では単クローン性(モノクローナル)の抗体が異常産生されるため、κ鎖かγ鎖のどちらかが多くなっている。そのためκ鎖とγ鎖の比は、治療効果や早期再発の診断に活用されている。

LDH高値やハイリスク染色体異常があると予後不良

 多発性骨髄腫の病期診断は、血清アルブミンと血清β2マイクログログロブリン(MG)によって分類する国際病期分類(ISS)が用いられてきた。最近では、これに血清乳酸脱水素酵素(LDH)とハイリスク染色体異常の項目を加えたRevied-ISS(R-ISS)が使用されている。

 ハイリスク染色体とは、これらを持っていると病気が進行しやすいことが分かっている染色体異常で、7番染色体の短腕欠失del (17p) 、4番と14番の染色体が入れ替わる転座t(4; 14)、14番と16番の染色体が入れ替わる転座t(14; 16)が知られている。

 ISSのステージIIIかつハイリスク染色体異常またはLDH高値の患者はR-ISSのステージIIIで5年生存(OS)率は40%、ISSステージIでハイリスク染色体がなくLDH正常範囲内の患者はR-ISSのステージIで5年OS率は82%、IでもIIIでもないものがステージIIで5年OS率は62%と報告されている(J Clin Oncol. 2015; 33(26): 2863-9)。

新規薬剤の登場で予後は大きく改善

 多発性骨髄腫に対する治療は、1960年代に開発されたMP(メルファラン+プレドニゾロン)療法が標準治療として長く用いられてきた。1980年頃からVAD(ビンクリスチン+ドキソルビシン+デキサメタゾン)療法も用いられるようになったが、ほかに選択肢はなかった。

 1990年代に自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が行われるようになり、その後、免疫調整薬(IMiDs)のサリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、プロテアソーム阻害薬(PI)のボルテゾミブ、カルフィルゾミブなどが治療の中心となっていった。これら新規薬剤の登場により治療成績は向上してきている。

 米国Mayo Clinicの報告では、2001年から2005年の治療成績と比べて2006年から2010年の治療成績は向上している(Leukemia. 2014; 28(5) : 1122-28)。日本における調査でも、2000年以前よりも2001年以降の生存予後は改善されている(Blood cancer J. 2015; 5(9): e349)。

 最近では、2019年に初発多発性骨髄腫(NDMM)に対して承認された抗体医薬ダラツムマブや2020年に再発・難治多発性骨髄腫(RRMM)に対して承認された抗体医薬イサツキシマブを用いる抗体療法、2020年に自家移植(ASCT)後の維持療法として承認されたプロテアソーム阻害薬のイキサゾミブも使えるようになり、さらなる予後改善が期待される。

初発多発性骨髄腫治療の基本は導入療法後の移植+維持療法

 初発多発性骨髄腫に使える薬剤はボルテゾミブ、レナリドミド、ダラツムマブの3剤で、これらを組み合わせて治療を開始していく。

 造血器腫瘍の中で、多発性骨髄腫は初回治療として自家移植(ASCT)が有用であるとするエビデンスがある唯一の疾患である。ASCTは、患者自身の造血幹細胞を採取して保存し、大量化学療法を行った後で体内に戻すという治療法。

 初発多発性骨髄腫に対する治療戦略は、自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(APBSCT-HDC)の適応となる65歳未満の移植適応患者と、65歳以上あるいは重要臓器の障害のために移植の適応とならない移植非適応患者によって異なる(造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版、日本血液学会)。

 移植適応患者ではまず、できるだけ腫瘍量を減らすための導入療法を行う。標準的にはボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾンの3剤(BLd)療法が用いられる。名和氏によれば、移植非適応患者が対象ではあったが、SWOG S0777試験においてレナリドミド+デキサメタゾンの2剤(Ld)療法よりも、ボルテゾミブを加えたBLd療法の方がPFS、OSともに良好だった(Lancet. 2017; 389(10068) : 519-527)ことが根拠とされている。

 導入療法後は、G-CSF単剤またはG-CSF+Plerixaforなどを用いて造血幹細胞の骨髄から末梢血への動員を促した上で、連続血球分離装置を用いて末梢血幹細胞(PBSC)を採取し、これをいったん冷凍保存する。大量メルファラン療法+ASCTの後は、残存腫瘍量によってレナリドミドまたはイキサゾミブなどによる地固め療法もしくは維持療法を行って、MRD消失(陰性)を目指す。

 いくつかの試験のメタ解析で、レナリドミドによる維持療法が無増悪生存期間(PFS)だけでなく全生存期間(OS)も延長することが示されており(J Clin Oncol. 2017; 35(29):3279-3289)、移植後には通常、維持療法が行われる。

微小残存病変(MRD)陰性も目指せる時代に

 多発性骨髄腫ではバイオマーカー(M蛋白やFLC)によって治療効果を判定する。IMWG基準では、M蛋白が50%以上減少すれば部分奏効(PR)、90%以上減少すれば非常に良い部分奏効(very good PR)、免疫固定法で血清、尿中M蛋白が消失していれば完全奏効(CR)、FLCが正常化すれば厳密完全奏効(sCR)とされる。

 急性白血病、慢性骨髄性白血病などの血液疾患では、MRD測定により寛解状態の深さ(MRDがどのぐらいまで少なくなっているか)を判定し、これが予後判定や治療効果判定に役立てられている。多発性骨髄腫は、かつてはMRD陰性になることは少なかったが、新規薬剤の登場後はMRD陰性も目指せるようになってきた。MRD陰性になると予後良好であることがわかっている(Blood. 2015; 125(29) : 3059-3068)。

 MRD測定法には、フローサイトメトリー法やPCR法、次世代シーケンサー(NGS)を用いる方法などがある。日本では2019年に、深い寛解状態(MRDが非常に少ない状態)を判定できるマルチパラメーターフローサイトメトリー法が保険適応となった。

 名和氏は「今後は治療の流れの中で、ポイントポイントでMRD検査を組み入れていき、治療強度を上げる、あるいは維持療法中止の目安などに活用していくことになると思われる」と話した。

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