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レポート

2021/04/06

第18回日本臨床腫瘍学会学術集会より

がん薬物療法で最も早くから使用され、今も現役の殺細胞性抗がん薬

副作用を抑え治療効果を高めるシステムの開発など、現在も進化中

森下紀代美=医学ライター

 がん薬物療法では、殺細胞性抗がん薬、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬が使用される。このうち最も早くから開発されたのが化学療法に用いられる殺細胞性抗がん薬で、現在もさまざまながんに使用され、新たな進化も遂げている。

 2021年2月18日から21日までバーチャル形式で開催された第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2021)の教育講演「入門編 化学(薬物)療法総論I:殺細胞性抗がん剤の種類」では、和歌山県立医科大学附属病院腫瘍センター病院教授の上田弘樹氏が、殺細胞性抗がん薬の種類と特徴、最近の話題について解説した。


殺細胞性抗がん薬の標的は細胞中のDNAと細胞骨格の微小管

 殺細胞性抗がん薬は、化学物質を用いてがん細胞を死滅または抑制させる薬。がん細胞だけでなく、正常細胞も攻撃するため、副作用は共通するものが多いことが知られている。歴史的には、1946年にナイトロジェンマスタードが殺細胞性抗がん薬として初めて発見された。現在外来薬物療法センターなどで主に使われている薬物は1990年代に開発されたものだ。

 殺細胞性抗がん薬は、標的とするものにより2つに分けられる。(1)細胞中のDNAの合成や複製を阻害することで細胞増殖を抑制する薬、(2)細胞骨格の1つである微小管に作用し、細胞分裂を阻害することで細胞増殖を抑制する薬である。がん細胞の増殖に関与する特定の分子に作用し、細胞増殖を抑制する分子標的薬とは標的が異なる。(1)には、アルキル化薬、抗腫瘍性抗生物質、白金製剤、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬の5種類、(2)には微小管阻害薬がある。

 また、(1)の薬には、細胞周期のどの時点においても作用する「細胞周期非依存性」、細胞周期の中のDNA合成期(S期)を阻害する「細胞周期依存性」がある。(2)の薬は、細胞周期の中の分裂期(M期)に作用する「細胞周期依存性」である。

 殺細胞性抗がん薬は、分裂または増殖している細胞に作用するため、一般に細胞増殖率の高い腫瘍に感受性が高く、良く効くとされる。そのため、細胞増殖率が高い骨髄や毛髪、腸粘膜などの正常細胞にも作用しやすく、これらの部位に副作用が起こりやすい。

DNAの複製を阻害するアルキル化薬

 上田氏は、薬の種類と特徴について説明した。まず、アルキル化薬である。アルキル化薬は、DNAの複製を阻害し、細胞死を誘導する。殺細胞性抗がん薬の中では最も歴史が古く、ナイトロジェンマスタード類(シクロホスファミド、イホスファミドなど)、アジリジン類(マイトマイシンC)、アルキルスルホン酸類(ブスルファン)、ニトロソウレア類(ストレプトゾシンなど)、トリアジン類(トラベクテジンなど)に分けられる。

 主な適応として、ナイトロジェンマスタード類のシクロホスファミドは、悪性リンパ腫に対するCHOP療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)、乳がんに対するAC療法(アドリアシン[ドキソルビシン]、シクロホスファミド)/EC療法(エピルビシン、シクロホスファミド)などで使用される。またニトロソウレア類のストレプトゾシンは膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET G3)、トリアジン類のトラベクテジンは軟部肉腫に使用される。

 アルキル化薬に共通する副作用に、性腺機能障害、晩期毒性としての二次性白血病がある。特徴的な副作用として、シクロホスファミド、イホスファミドには出血性膀胱炎があり、これを予防するメスナが投与される。トラベクテジンでは横紋筋融解症が知られている。

作用機序が異なる抗腫瘍性抗生物質

 次に、抗腫瘍性抗生物質である。由来物質による分類のため、薬ごとに作用機序は異なる。この分類には、糖ペプチド性抗生物質のブレオマイシン、トポイソメラーゼII阻害薬(後述)のアクチノマイシンD、アルキル化薬(前述)のマイトマイシンCが含まれる。

 ブレオマイシンは、活性酵素を発生させ、DNA鎖を切断する作用を持ち、胚細胞腫瘍に対するBEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)に使用される。副作用として、発熱、間質性肺炎が知られている。アクチノマイシンDは、ユーイング肉腫や横紋筋肉腫に多く使用される。

白金製剤は改善により腎毒性を軽減

 白金製剤は、アルキル化薬と似ており、DNAの複製や転写を阻害し、細胞死を誘導する。白金製剤には、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンの4種類がある。このうちシスプラチンは、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、頭頸部がん、胃がん、卵巣がんなど多くの固形がんに使用される。腎毒性や悪心・嘔吐の頻度が高く、投与量が蓄積されると聴力障害を起こすことがある。

 シスプラチンを改良し、腎毒性を軽減したのがカルボプラチンである。多くの固形がんに使用されるが、投与量は腎機能を指標とする必要がある。また複数回投与した後に、アレルギー反応やアナフィラキシーショックが起こることがある。オキサリプラチンは、主に胃や大腸など消化管のがんに使用され、最近では小腸がんにも使用が認められ、胚細胞腫瘍にもゲムシタビンとの併用で使用される。腎毒性は軽いが、特徴的な副作用に急性・慢性の末梢神経障害がある。カルボプラチンと同様、複数回投与した後にアレルギー反応やアナフィラキシーショックが起こることがある。ネダプラチンは扁平上皮のがんに有効で、頭頸部がんや食道がん、子宮頸がんなどに使用される。シスプラチンよりも腎毒性は軽いが、投与時に必要な輸液量が定められている。

代謝拮抗薬のフッ化ピリミジン誘導体は主に消化管のがんに使用

 代謝拮抗薬は、核酸(RNAとDNA)の代謝経路で拮抗阻害し、一部は核酸内に入ってDNAやRNAの合成阻害を起こす。フッ化ピリミジン誘導体(5-FU、S-1、カペシタビンなど)、シチジン誘導体(シタラビン、ゲムシタビン)、チミジン誘導体(トリフルリジン・チピラシル)、プリン拮抗薬(6-メルカプトプリン、フルダラビン)がある。

 フッ化ピリミジン誘導体の5-FUも古くから開発され、現在も使用されている薬で、DNA合成阻害やRNA機能障害を誘導する。現在の主流は、5-FUを開発して内服薬にしたS-1、カペシタビンとなっている。S-1は、5-FU系のテガフールに、5-FUの濃度を維持するギメラシル、消化管粘膜に分布して下痢を軽減するオテラシルが配合されている。カペシタビンは肝臓で代謝され、さらに腫瘍内に入って代謝され、5-FUに変換されるため、腫瘍以外の部位での毒性は低いとされる。フッ化ピリミジン誘導体は、主に消化管のがんに使用される他、乳がん、頭頸部がんなどにも使用され、S-1は膵がん、胆道がんにも使用される。

 シチジン誘導体のシタラビンは急性骨髄性白血病、ゲムシタビンは非小細胞肺がん、膵がん、胆道がんなど多くの固形がんに使用され、オキサリプラチンとの併用で胚細胞腫瘍にも使用される。チミジン誘導体のトリフルリジン・チピラシルは、大腸がん、胃がんに、プリン拮抗薬は主に血液がんに使用される。

 代謝拮抗薬にはこの他に、葉酸拮抗薬のメトトレキサート、ペメトレキセドがある。メトトレキサートは急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫など、ペメトレキセドは非小細胞肺がんに使用される他、悪性中皮腫に対する適応も持つ数少ない薬となっている。

トポイソメラーゼ阻害薬はDNAの再結合を阻害して細胞死を誘導

 トポイソメラーゼ阻害薬のトポイソメラーゼとは、細胞核に存在する酵素で、DNAを合成/複製する際にねじれや歪みが起こらないよう、DNAを切断・再結合する。2種類あり、トポシソメラーゼIは2本鎖のDNAのうち1本を切断し、ねじれや歪みを是正して再結合するのに対し、トポシソメラーゼIIは2本とも切断して再結合する。トポイソメラーゼ阻害薬は、DNAの再結合を阻害して細胞分裂を障害し、細胞死を誘導する。

 トポイソメラーゼI阻害薬で有名な薬にイリノテカンがあり、消化管のがんを中心に、小細胞肺がん、神経内分泌がんなどにも使用される。イリノテカンでは、肝臓の酵素であるUGT1A1の遺伝子多型*6と*28が代謝に関与し、これらを持つ人では骨髄抑制や下痢などが強く出るとされる。腫瘍に対する効果をより高めるため、イリノテカンをリポソーム(リン脂質の膜を重ねて作ったマイクロカプセル)に封入したリポソーム製剤も、最近膵がんに承認された。トポイソメラーゼI阻害薬には、トポテカン、トラスツズマブデルクステカンもあり、トラスツズマブデルクステカンは、乳がん、そして最近では胃がんへの適応も追加された。

 トポイソメラーゼII阻害薬ではアンスラサイクリン系薬剤が有名で、ドキソルビシン、エピルビシン、アムルビシンなどがあり、ドキソルビシンのリポソーム製剤も承認されている。また、VP-16の名前で知られるエトポシドは、晩期毒性として二次性白血病を起こすことが知られている。トポイソメラーゼII阻害薬は、主に血液がんに使用され、ドキソルビシンは乳がんや肉腫、エピルビシンは乳がんにも使用される。

微小管阻害薬は重合と脱重合を阻害

 最後に微小管阻害薬である。細胞骨格の中心を成すチュブリンと呼ばれる蛋白質は、立体構造を作る「重合」、この構造を分解する「脱重合」を繰り返す。この重合と脱重合を阻害するのが微小管阻害薬で、タキサン系薬剤が有名である。タキサン系薬剤には、パクリタキセル、nab-パクリタキセル(アルブミンにパクリタキセルを結合させ、ミセルに封入[後述]した薬)、ドセタキセル、カバジタキセルがある。タキサン系薬剤はさまざまな固形がんに使用され、パクリタキセル、nab-パクリタキセル、ドセタキセルは乳がん、非小細胞肺がんなど、カバジタキセルは前立腺がんに使用される。

 微小管阻害薬には、エリブリン、トラスツズマブエムタンシン、ブレンツキシマブベドチン、ビンカアルカロイドもある。エリブリンは日本で開発された薬で、乳がん、軟部肉腫に使用される。トラスツズマブエムタンシンは乳がん、ブレンツキシマブベドチンはホジキンリンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫、ビンカアルカロイドは悪性リンパ腫などに使用される。

副作用を抑え、治療効果を高めるDrug delivery Systemを開発

 上田氏は、殺細胞性抗がん薬における最近の話題も紹介した。

 まず、Drug delivery system(DDS)を用いた殺細胞性抗がん薬についてである。DDSの1つに、抗がん薬を高分子ミセル(高分子の集合体)やリポソームなどのキャリアに封入することにより、抗がん薬の正常組織への集積を抑えつつ、がん組織に選択的に集中させるシステムがある。もう1つは、抗がん薬と抗体を結合させ(抗体-薬物複合体)、がんに発現している抗原に特異的に結合させて、そのがん細胞内に取り込ませて抗がん薬を放出するシステムである。このようなシステムにより、副作用を抑え、治療効果を高めることが可能になる。

 リポソームに封入したリポソーム製剤には、前述のイリノテカンやドキソルビシンのリポソーム製剤、ミセルに封入したnab-パクリタキセルがある。抗体-薬物複合体には、トラスツズマブエムタンシン、トラスツズマブデルクステカンがある。

相同組換え修復欠損に対して殺細胞性抗がん薬では白金製剤が有効

 次に、相同組換え修復欠損(homologous recombination deficiency:HRD)と殺細胞性抗がん薬についてである。DNAは、父方と母方からの二対の2本鎖のDNAで構成されている。一対のDNAが2本とも切断されると、もう一対の正常なDNAを鋳型として複製し、最後に組換えて相同のDNAとして修復が終了する。この仕組みを相同組換え(HR)と呼ぶ。この機構に破綻をきたすと、修復がうまくできず、DNAが合成できなくなり、細胞死に至る。このようなHRの破綻がHRDである。HRに関連する有名な遺伝子にはさまざまなものがあり、BRCA1、BRCA2遺伝子が有名である。

 HRDに対する殺細胞性抗がん薬として、白金製剤の有効性が報告されている。HRDがある進行乳がん患者に対し、白金製剤ベースの抗がん薬治療を行って効果をみたところ、HRDのスコアが中等度から高度になるほど奏効する患者が増加した。増悪した患者はHRDのスコアが低い患者で多かった(E. Y. Zhao, et al. Clin Cancer Res;2017:23:7521-30)。

 膵がんでのデータも日本から報告されている。HRに関連する遺伝子変異を持つ膵がん患者に対し、オキサリプラチンベースの抗がん薬治療を行ったところ、無増悪生存期間(PFS)中央値は20.8カ月となり、HRに関連する遺伝子変異がない膵がん患者の1.7カ月と比べて有意に改善することがわかった(T. Kondo, et al. Oncotarget 2018;9:19817-825)。

 HRDには分子標的治療薬のPARP阻害薬が有効であることが知られているが、「殺細胞性抗がん薬では白金製剤が候補になる」と上田氏。

 日本では、がんゲノム医療として、標準治療がない、または終了したなどの条件を満たす場合、同時に多数の遺伝子を調べる「がん遺伝子パネル検査」が2019年から保険で受けられるようになった。この検査に基づいた治療選択の中で、抗がん薬では白金製剤が推奨されることになる。

 またHRDに対しては、白金製剤以外にも、タキサン系薬剤やアルキル化薬などの殺細胞性抗がん薬をPARP阻害薬と併用する臨床試験が行われている。

免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗がん薬の併用で効果の増強も

 最後に、免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1/抗PD-L1抗体と殺細胞性抗がん薬の併用についてである。

 現在多く使用されている抗PD-1/PD-L1抗体は、ヒトの体の抗腫瘍免疫からがん細胞が逃避している状態を解除する働きをしている。殺細胞性抗がん薬も免疫系に作用し、抗原提示の増強、抗腫瘍免疫の活性化、免疫抑制細胞の除去、腫瘍量の減少などを示し、結果的に免疫療法の増強作用が起こる。こうした作用は殺細胞性抗がん薬の種類によって異なり、現在は肺がんを中心に、免疫療法と殺細胞性抗がん薬の併用が実際の臨床でも行われている。

 上田氏は「殺細胞性抗がん薬は歴史が古い薬で、最近の開発は分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が中心になっている。しかし、がん遺伝子パネル検査で白金製剤が推奨されるなど、まだまだ現役で使用されている薬なので、覚えておいてほしい」と話した。

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