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レポート

2021/03/30

第18回日本臨床腫瘍学会学術集会より

認知機能低下を防ぐ工夫がなされる脳腫瘍の治療

中枢神経系原発悪性リンパ腫には新薬が登場

八倉巻尚子=医学ライター

高齢者の膠芽腫は強度を下げて治療

 再発膠芽腫については、エビデンスの高い治療法はなく、再手術、化学療法、定位放射線照射、緩和治療など、患者に応じて治療選択がなされている。

 高齢者に対しても、Stuppプロトコールに準じた治療が選択されることが多いが、治療強度を下げて患者負担を減らすことを目的に、近年では放射線量を下げ、治療期間を短縮した寡分割照射法を選択する機会が増加しているという。総線量60Gyを30回に分けて6週間で行う従来法と、総線量40Gyを15回に分けて3週間で行う3週間法との比較では、高齢者における治療成績は同等であったという報告がある。

転移性脳腫瘍の治療は全脳照射が基本

 転移性脳腫瘍の標準治療は、転移個数に関わらず、全脳照射が基本になっている。転移個数が1個から4個までの単発あるいは少数個の転移性脳腫瘍では、全脳照射が推奨され(推奨グレードB)、全摘出が可能な場合は腫瘍摘出術+全脳照射、3cm以下の腫瘍には全脳照射+定位放射線照射も推奨されている。5個以上の多数個の転移性脳腫瘍では、全脳照射が標準治療になっている(推奨グレードA)。

 しかし全脳照射では認知機能の低下が問題となっている。そのため認知機能低下を回避する目的で、記憶に関係した海馬を避けた全脳照射を行う試験が行われた。その結果、全脳照射に比較して、PFS、OSは差がなく、 6カ月後の認知機能が有意に優っていたと報告されている(J Clin Oncol. 2020;38(10):1019-29)。今後、海馬を避けた全脳照射が推奨される可能性もあるという。

認知機能低下を防ぐために期待される定位放射線照射

 認知機能低下を防ぐために、定位放射線照射も期待されている。定位放射線照射は全脳照射に勝るというデータはないが、非劣性は報告されている。ガイドライン2019年改訂で、単発あるいは少数個の転移性脳腫瘍に対して、(小細胞肺がんなど薬物療法に感受性が高い腫瘍を除いて)定位放射線照射の単独治療は、全脳照射と同じ推奨グレードになった(推奨グレードC1からBに変更)。

 日本の報告(JROSG99-1試験)では、1-4個の少数個転移性脳腫瘍において、定位放射線治療単独と全脳照射との併用が比較され、頭蓋内再発の抑制効果は全脳照射併用のほうが良好だったが、OSは有意差がなかった。またこの試験の二次解析で、年齢や全身状態、脳転移の個数などのリスク因子で評価したところ、非小細胞肺がん患者88人のうち、予後良好群(DS-GPAスコアが 2.5-4.0)では全脳照射併用群が有意にOSを延長したが、予後不良群(DS-GPAスコアが0.5-2.0)では2群のOSに明らかな差は認められなかった。

 このため「今後はがんの種類や全身状態などによって、治療方針が変化していく可能性が高いと考えています」と園田氏は話した。

 さらに少数個の転移性脳腫瘍に対する腫瘍摘出後の放射線照射として、全脳照射と定位放射線照射を比較した国内ランダム化第III相試験(JCOG0504試験)で、頭蓋内再発までの期間は全脳照射群のほうが良好だったが、OSは2群で変わらなかった。

 多数個転移性脳腫瘍については、全脳照射が標準治療だが、ガイドライン2019年改訂で、腫瘍の個数、体積の合計、照射回数を十分に考慮し、厳重なフォローアップを前提に、定位放射線照射単独治療を行ってもよいという推奨が新たに追加されている。

 この根拠になった日本の試験では、1-10個の脳転移で、最大の腫瘍径が3cm未満、体積が10mL未満、かつ腫瘍体積の総和が15mL以下の患者を対象に、定位放射線照射が行われた。その結果、脳転移が1個の群のOSが最も長かったが、2-4個の群と5-10個の群ではOSに差がなかった。このため体積が15mL以下、10個以下の転移病変では定位放射線照射も治療選択肢の1つになっている。

脳転移に対する化学療法の有効性に期待

 転移性脳腫瘍に関する化学療法は、「まだエビデンスが少ないのが現状で、感受性によっては薬物療法を行ってもよいという推奨にとどまっています」と園田氏は説明した。

 症状のある症候性の転移性脳腫瘍に対しては、放射線治療や手術といった早期治療効果が期待できる治療を優先させることが推奨されている。一方で、薬物療法に感受性が高い腫瘍には、全身薬物療法単独、または転移性脳腫瘍への局所治療と並行して行ってもよいという推奨がされている。またこれに該当しない固形腫瘍では、頭蓋外に明らかながん病変があり、かつ転移性脳腫瘍による症状がない場合は、全身薬物療法を優先してもよいとされている。

 最近の報告では、脳転移のあるHER2陽性乳がんにおいて、抗HER2薬のトラスツズマブとフッ化ピリミジン系薬剤のカペシタビンに、経口チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibを併用する試験群が、プラセボ群に対して有用であることがランダム化比較試験で示されている。12カ月時点のPFS率がticatinib群24.9%に対し、プラセボ群は0%と有意に優っていた(N Engl J Med 2020;382:597-609)。

 手術療法に関しては大規模な臨床試験が行いにくいため、推奨グレードは低いものの、機能予後あるいは生命予後の改善が期待される場合には摘出術が推奨されている。「実際に手術により患者さんのQOLが劇的に改善する場合があり、その後の化学療法などで非常にベネフィットが得られる患者さんもいます」(園田氏)。

中枢神経系原発悪性リンパ腫は薬物療法を先行して全脳照射

 中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)は、中枢神経系に限局した悪性リンパ腫。PCNSLの治療は、ガイドラインで、大量メトトレキサート療法を基盤とする薬物療法を先行し、引き続き全脳照射による放射線治療を行うことが望ましいとなっている(推奨グレードA)。

 高齢者PCNSLには、遅発性の中枢神経障害を軽減するため、初発時の治療として、大量メトトレキサートを基盤とした導入化学療法を行って完全奏効(CR)となった場合は、全脳照射の減量あるいは待機とした治療法を考慮することが推奨されている。

 一部の施設で行われている、自家幹細胞移植を伴う大量化学療法は、現時点では推奨される段階にはないとされている。

 園田氏は、PCNSL治療の課題として2つの点を挙げた。1つは、大量メトトレキサートと全脳照射の治療成績は良好だと言われているものの、OSは33-44カ月であること。治療成績をより向上させるには、メトトレキサートを含む多剤併用療法が必要になるという。

 2020年5月に、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬チラブルチニブが、再発または難治性のPCNSLの治療薬として使用できるようになった。国内で行われた多施設共同第I/II相試験で、忍容性が認められ、良好な抗腫瘍効果(奏効率は63.6%)が認められた。「今後このような薬剤と組み合わせた治療が、有望な治療選択肢になってくると考えられます」。

 2つ目の課題は、大量メトトレキサートと全脳照射における有害事象、特に高齢者で重篤な白質脳症が発生すること。この有害事象を軽減させるためには、「全脳照射を待機的に、あるいは減量照射といった処置が望まれますが、それによる治療成績の低下を避けるためにも、多剤併用薬物療法を高齢者に対しても行う必要があると考えています」と園田氏は話した。

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