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レポート

2021/03/30

第18回日本臨床腫瘍学会学術集会より

認知機能低下を防ぐ工夫がなされる脳腫瘍の治療

中枢神経系原発悪性リンパ腫には新薬が登場

八倉巻尚子=医学ライター

 頭蓋内にできる脳腫瘍の治療は、腫瘍の大きさや場所、症状、年齢などを考慮して、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて行われる。手術をサポートする技術や薬剤が取り入れられ、全脳照射による認知機能の低下を防ぐ試みも進んでいる。

 2021年2月にバーチャル形式で行われた日本臨床腫瘍学会(JSMO2021)の教育講演で、山形大学医学部脳神経外科の園田順彦氏は、悪性の脳腫瘍に対する最近の治療について解説した。


転移性脳腫瘍はがん患者の10%に

 脳腫瘍は、脳の細胞や神経から発生した「原発性脳腫瘍」と、肺がんや乳がんなど、他の臓器でできたがんから転移した「転移性脳腫瘍」に分けられる。

 原発性脳腫瘍の罹患率は、人口10万人あたり1年で15-25人と報告されているが、「近年のMRIやCTの普及で(症状を伴わない)無症候性の脳腫瘍の頻度が増加しています」と園田氏は説明した。成人では脳腫瘍は比較的まれながんの1つだが、小児がんでは脳腫瘍が全体の20%を占めている。

 このほか原発性脳腫瘍には、放射線被曝などによる二次性がん、遺伝性がんであるリ・フラウメニ症候群、結節性硬化症、神経線維腫症1型(NF1)、神経線維腫症2型(NF 2)もある。

 転移性脳腫瘍について、正確な発生数のデータはないが、欧米の報告ではがん患者の10%が転移性脳腫瘍に罹患するといわれている。日本のがん罹患数を98万人とすると、転移性脳転移は1年間に9万人から10万人と推測され、これは原発性脳腫瘍よりも多い。

 脳腫瘍の分類には、一般的にWHOの分類が用いられ、150種類以上に分類されている。悪性度は4つのグレードがあり、グレードIとIIは良性、IIIとIVは悪性に大別される。代表的な良性の脳腫瘍としては髄膜腫、神経鞘腫など、悪性の脳腫瘍としては膠芽腫(神経膠腫の1つ)、中枢神経系原発悪性リンパ腫、髄芽腫などが知られている。

成人の初発膠芽腫の手術療法と放射線治療

 脳腫瘍の治療指針を決めるときに活用される「脳腫瘍診療ガイドライン」は、2016年に成人膠芽腫、成人転移性脳腫瘍、中枢神経系原発悪性リンパ腫を対象に第1版が発刊され、2019年に改訂第2版が発刊された。園田氏は2019年で改訂されたポイントを中心に膠芽腫、転移性脳腫瘍、中枢神経系原発悪性リンパ腫の治療法を解説した。

 ガイドラインでは、エビデンスレベルやエビデンスの数の多さ、臨床的な有効性の大きさなどから、推奨グレードをAからDに分け、グレードAは「強い科学的根拠があり、行うように強く勧められる」となっている。

 まず成人膠芽腫における手術療法について。ランダム化比較試験は行われていないが、多数例の後方視的研究により、腫瘍の摘出率が高いほど、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が延長することが報告されている。ガイドラインでは腫瘍容量をできるだけ少なくするための摘出術が推奨されている。

 「しかし脳という臓器の特異性から、無理な摘出により重篤な神経脱落症状をきたすことが危惧されます。そのため重篤な合併症をきたさない程度の可及的な摘出を目指すことが現在のコンセンサスになっています」と園田氏は話した。

 放射線治療は、ランダム化比較試験において、放射線治療群は非施行群に比べて生存期間が上回っていたことから、高いエビデンスを持って推奨されている。照射方法に関しては、総線量60Gyを超えた照射を行なった場合、生命予後の延長が期待できるものの、重篤な大脳白質障害をきたすことが報告されている。そのため総線量60Gyを6週間かけて行うこと(1日1回2Gy、5日間/1週間)が推奨されている(推奨グレードA)。

成人膠芽腫の代表的な化学療法プロトコール

 化学療法には、第2世代アルキル化剤であるテモゾロミドが用いられる。テモゾロミドは経口薬で、腸管吸収性に優れ、血液脳関門を通過しやすいという利点を持つ。放射線単独療法に対するテモゾロミドの上乗せ効果を検討したランダム化比較試験で有効性が証明されたことから(2005年)、膠芽腫の標準治療薬として位置付けられている。日本では2006年にテモゾロミドが承認された。

 この試験では、(1)60Gyの放射線治療期間中、テモゾロミド75mg/m2を連日42日間内服し、(2)放射線治療終了後28日休薬の後、(3)維持療法としてテモゾロミド150-200mg/m2を 5日間内服、23日間休薬を1サイクルとし、計6サイクル行うプロトコールが採用されている。

 このプロトコールは有害事象も少なく、報告者の名前からStuppプロトコールと名付けられている。ガイドラインにおいて、成人初発膠芽腫に対し、手術後、テモゾロミドを放射線治療期間中、ならびに放射線治療終了後に投与すること(Stuppプロトコール)がグレードAで推奨されている。

 しかし6サイクルで終了する理論的根拠がないことから、日本では明確な施行サイクル数が定められていないのが現状であるという。またStuppプロトコールでのOS中央値は14.6カ月であることから、さらなる治療法の開発が喫緊の課題となっているとした。

テモゾロミド承認以降の成人膠芽腫の治療法

 テモゾロミド承認以降に、日本で承認された膠芽腫に対する治療法として、カルムスチン徐放性ポリマー、分子標的薬のベバシズマブ、光線力学療法、交流電場腫瘍治療システムがある。

1. カルムスチン徐放性ポリマー

 カルムスチンは、テモゾロミド承認前に米国を中心に使用されていた静注のニトロソレア系製剤だが、血液脳関門を通過しにくいことが問題だった。そこで腫瘍摘出後、手術中に摘出腔に留置する徐放性ポリマーが開発された。日本では2013 年に初発および再発の悪性神経膠腫に対して承認されている。

 カルムスチン徐放性ポリマーは、ランダム化比較試験において、初発悪性神経膠腫を対象に有効性が証明されている。しかしこの試験はテモゾロミドが使用される以前に行われたもので、それ以後のカルムスチン徐放性ポリマーの有効性に関する報告はすべて後方視的研究である。その中でフランスのグループから患者背景をそろえた解析(傾向スコアマッチング解析)で、膠芽腫においては亜全摘出以上の手術が行われた患者においてのみ、カルムスチン徐放性ポリマーの有効性が認められた。

 その結果を踏まえて、日本で現在、ランダム化第III相試験(JCOG1703試験)が開始されている。初発膠芽腫で、亜全摘以上の摘出が見込める患者(20歳以上75歳以下)を対象に、術中に徐放性ポリマーを留置する群と留置しない群にランダム化し、術後は両群ともStuppプロトコールを行う。この試験によりカルムスチン徐放性ポリマーの有効性が明らかになると期待されている。

2. 分子標的薬ベバシズマブ

 ベバシズマブについて、初発膠芽腫に対してStuppプロトコールへの上乗せ効果を検証するランダム化第III相試験が2つ行われた。その結果、2試験ともPFSは有意に延長したが、OSの改善は認めなかった。

 そのため初発の悪性神経膠腫におけるベバシズマブの承認は欧米では見送られた(再発悪性神経膠腫には承認されている)。日本ではPFS、全身状態(PS)の改善が認められたことにより、2013年に初発・再発悪性神経膠腫を対象にベバシズマブは承認された。

3. 光線力学療法

 光線力学療法は、光感受性物質と半導体レーザーを用いた治療法。腫瘍細胞に蓄積する光感受性物質を投与し、手術中に低出力レーザー光を腫瘍に照射して、光線力学反応により発生する一重項酸素で腫瘍細胞を死滅させる。肺がんや食道がんなど多くのがんで承認されており、初発・再発悪性神経膠腫に対しては2013年に承認された。

 悪性神経膠腫を対象とした臨床試験は日本からの2報告のみで、1つの報告では初発膠芽腫患者におけるOS中央値は24.8カ月と良好な治療成績が認められた。ただしランダム化比較試験は行われていない。

4. 交流電場腫瘍治療システム

 交流電場療法は、電極パッドを頭皮に4枚貼り、低周波の交流電場を持続的に発生させて腫瘍細胞の分裂を阻害する治療法。日本では2018年に交流電場腫瘍治療システムが承認されている。この承認は欧米を中心に行われたランダム化比較試験で、PFS、OSともに、Stuppプロトコールに対する上乗せ効果が認められたことに基づいている。

 交流電場腫瘍治療システムにより、Stuppプロトコールのみよりも4-5カ月のOSの延長効果が期待されるが、試験は放射線化学療法が終了した時点で全身状態(PS)が良好な患者に限定した臨床試験だった。そのため「全患者が対象になるわけではないという点と、常時治療機器を携帯しなくてはいけないという負担が解決すべき点と考えられています」と園田氏は述べた。

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