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レポート

2021/03/09

第51回日本膵臓学会大会より

膵がんゲノム診療の現状と血漿検査への期待

コンパニオン診断、遺伝子パネル検査、そして次は全ゲノム時代に

八倉巻尚子=医学ライター

 染色体のDNAに含まれる遺伝情報に基づいたゲノム診療が、膵がんの治療にも導入されている。腫瘍組織を用いて、複数の遺伝子を同時に解析できる遺伝子パネル検査が日常診療で行われるようになっているが、簡易で低侵襲性の血漿を用いた検査(リキッドバイオプシー)への期待も高まっている。

 2021年1月にWEBと現地のハイブリッドで開催された第51回日本膵臓学会大会から、近畿大学医学部ゲノム生物学教室の西尾和人氏による教育講演「膵疾患とゲノム医療」の内容を紹介する。


ゲノムの解析で治療薬を選択する

 ゲノムを解析するには、がんの組織からDNAを抽出し、次世代シークエンサー(NGS)などでDNAを解析して塩基配列を読み取る。がん細胞の塩基配列から、がんの原因となっている可能性のある遺伝子を選定し、治療につながる遺伝子異常が見つかった場合は、その遺伝子異常にあった薬剤を選択する。

 日本は欧米と比べてゲノム医療の整備が多少遅れている状況にあるが、ゲノム医療の実現を「3段構え」で進めている。まず治療薬とセットになっている「コンパニオン診断薬」から取り組みが始められ、次に数百の遺伝子を同時に解析することができるNGSを用いた「遺伝子パネル検査」、そして全てのゲノムを解析する「全ゲノムシークエンス」に広げていくという方策である。「現在は、1段目のコンパニオン診断薬と2段目の遺伝子パネル検査が社会実装されたという状況です」と西尾氏は説明した。

 2019年に遺伝子パネル検査が保険収載下で実施できるようになり、ゲノム診療が本格的に開始されたことから、「がんゲノム診療元年」と称された。遺伝子パネル検査のうち、包括的に遺伝子異常を調べる「がんゲノムプロファイリング検査」(CGP検査)として、「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」と「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」(以下、FoundationOne CDx)が承認されている。CGP検査は、標準治療がない固形がん患者、または局所進行や転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む)が対象。またFoundationOne CDxは一部の薬剤についてのコンパニオン診断薬にもなっている。

膵がんで認められる遺伝子の変化は?

 膵がんでも複数の遺伝子の異常が認められる。腫瘍組織から、“Big4”と呼ばれるKRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4のほか、HER2など、がんの発症に関わり治療につながるアクショナブル(actionable)遺伝子異常、創薬が可能なドラッガブル(druggable)遺伝子異常も検出されている。

 2019年にNTRK融合遺伝子の認められる固形がんに対して、ROS1/TRK阻害薬エヌトレクチニブが保険承認された。NTRK融合遺伝子は、トロポミオシン受容体キナーゼ(TRKA/B/C)をコードするNTRK1/2/3遺伝子と、ほかの遺伝子(ETV6、LMNA、TPM3 など)との融合遺伝子で、膵がんにおけるNTRK融合遺伝子の発現頻度は0.4%程度といわれている。

 エヌトレクチニブは、遺伝子パネル検査の1つであるFoundationOne CDxがコンパニオン診断薬になっている。FoundationOne CDxで検査してNTRK1/2/3融合遺伝子が検出された場合に、保険診療下でエヌトレクチニブを使うことができる。

 エヌトレクチニブは、国際共同第II相試験のSTARTRK-2試験の結果に基づいて承認された。この試験はバスケット型と呼ばれるタイプの試験で、NTRK1/2/3あるいはROS1あるいはALKのいずれかの遺伝子異常があった場合に、それぞれに対応する阻害薬を使う。NTRK融合遺伝子陽性の固形がん患者51人のうち膵がんは3人(5.9%)だった。3人のうち2人で奏効が認められ、奏効率は66.7%だった。またこの試験において、「副次評価項目として頭蓋内奏効率が設定されていたことも1つのポイントでした」。頭蓋内腫瘍の奏効率は50%で、「脳内病変にも効果が期待できます」。

 NTRK融合遺伝子の特徴の1つは臓器横断的であること。日本癌治療学会と日本臨床腫瘍学会が共同で「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン」を発出している。この中でNTRK融合遺伝子を有する切除不能・転移・再発固形がんに対してTRK阻害薬の使用は強く推奨され、また初回治療からの使用が推奨されている。

 膵がんではBRCA遺伝子変異もおよそ5%に検出される。2020年12月にPARP阻害薬のオラパリブが、BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵がんに対し、プラチナ系薬剤を含む化学療法後の維持療法として承認されている。

遺伝子パネル検査で得られる情報は遺伝子異常だけではない

 CGP検査としてのFoundationOne CDxでは、各種の遺伝子異常だけでなく、マイクロサテライト(同じ塩基配列の繰り返し)領域の反復異常であるマイクロサテライト不安定性(MSI)のデータも得られる。高頻度のMSIでは、「免疫系に認識されるネオアンチゲンの発現が高い」と考えられている。また高頻度MSIに対して、がん免疫療法の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の臨床的有用性が報告されている。

 さらにFoundationOne CDxでは腫瘍の遺伝子変異量(TMB)が高いかどうかもスコアとして算出される。TMBが高い場合もICIの効果が期待される。昨年、米国ではTMBが高い患者に対して臓器横断的にICIのペムブロリズマブが承認された。

 「TMBは、ICIの治療効果だけではなく、化学療法にも関係することを最近報告しました」と西尾氏。非扁平上皮非小細胞肺がんの術後化学療法として、シスプラチンとビノレルビンを投与する群と、シスプラチンとペメトレキセドを投与する群を比較した第III相試験(JIPANG試験)で、全体では2群に差はなかった(J Clin Oncol. 2020; 38(19):2187-96)。しかしTMBとの関係を調べたところ、EGFR野生型患者で、TMBが高い集団では、シスプラチン+ペメトレキセドのほうが効果は高いことが示された(Cancer Sci. 2020;112(1):388-396)。

 西尾氏らが各種がんに対してFoundationOne CDxで解析を行ったところ、遺伝子変異や融合遺伝子が認められるとともに、遺伝子増幅(コピー数変動)が認められる例が多かった。遺伝子変異がなかったとしても、遺伝子増幅が見つかって次の治療につながる例もあったという。FoundationOne CDxで解析成功率は96.7%と高かったが、検査に出してから結果が返ってくるまでの期間の中央値は41日(21-126日)と長かった。しかし14%の患者で治療薬に結びつけることができ、これは国内外の既報と比べても平均的であるという。その多くは治験に入ることができ、「今後さらに治験に入れる患者さんを増やすことが我々に求められているのではないか」と話した。

全ゲノム解析の時代に向けてリキッドバイオプシーが重要

 今後はゲノム医療の3段目の全ゲノムの時代に入っていく。「全ゲノム解析等実行計画(第1版)」が2019年末に発出された。希少がんを含めて全ゲノム解析を行い、新しい治療法の開発に進めていくこと、またがんだけでなく難病の全ゲノム解析を行うことが計画されている。

 「全ゲノム解析を行って、患者さんがその恩恵を受けられるようになるのはまだまだ先のこと」ではあるが、がん医療への活用には、リキッドバイオプシーによる層別化医療や再発予測、リキッドパイオプシーによるがんの早期診断、がんを予測する技術等の実現が必要であるとされた。

 リキッドバイオプシーは、血液などの液性検体を用いて解析するもので、血中循環腫瘍細胞(CTC)や、血中循環DNA(cfDNA)、さらにcfDNAのうち腫瘍由来の血中循環腫瘍DNA(ctDNA)、エクソソーム中のマイクロRNAなどを検出して、遺伝子変化を調べる。ctDNAの検出方法として、デジタルPCRや従来型のNGSのほか、分子バーコード法やエラー除去を用いるNGSなどが使われているという。

 すでに肺がん分野で血漿を用いたEGFR遺伝子変異検査が承認され、昨年はMETエクソン14遺伝子検査も承認された。大腸がんでは血漿中のRAS(KRASとNRAS)遺伝子変異検査が承認されている。血漿での検査をNGSによる遺伝子パネル検査で行う取り組みも積極的に行われており、米国ではリキッドバイオプシー検査の「Guardant 360 CDx」と「FoundationOne Liquid CDx」が昨年承認され、日本でも「FoundationOne Liquid CDx」は承認申請中であるという。

 また、特に外科領域で、術後の再発予測にctDNAが用いられないかが注目されている。微小残存病変(Minimal Residual Disease:MRD)のモニタリングとして、術後に血液を採取して、その中にctDNAの変異があるかないかを見て、再発のリスクを評価する。乳がんや肺がん、大腸がん等で検討が進んでいる。大腸がんではリキッドバイオプシーでctDNAを調べて、術後補助化学療法の省略や再発の早期発見などを目指すプロジェクト「CIRCULATE-Japan」を昨年、国立がん研究センターと日本医療研究開発機構(AMED)が開始している。

膵がんでも期待される血漿中の腫瘍DNAの解析

 膵がんにおいて、ctDNAでも腫瘍組織と同じようにBig4と呼ばれる遺伝子変異などが認められる。ctDNAの役割について、18件の研究(合計で1243人)のメタ解析では、末梢血中のKRAS変異やHER2変異の検出が予後予測につながることが報告されている。また門脈循環でのKRAS変異が転移発生のリスクと関係しているという報告もある。

 膵がん患者24人の全エクソーム解析、77人の標的シークエンス解析を行った研究では、限局性膵がん患者の43%で診断時にctDNAが検出されたと報告されている。また切除後のctDNA検出は再発と予後不良を予測し、ctDNAはCT画像での再発診断よりも6.5カ月早く検出された(Nat Commun. 2015;6:7686)。またこの論文では、治療効果が期待できる遺伝子の変化が3分の1以上の患者で観察されており、「新たな治療法が見出される可能性があることを示しているのではないか」と西尾氏は解説した。

 ただしctDNAでは慢性膵炎患者でもKRAS変異が認められたという報告がある。膵管腺がんとそのほかの膵疾患、あるいは健常人とを区別する特異度は68%と、それほど高くないという指摘もある。

 一方で、リキッドバイオプシーによる薬剤耐性のモニタリングは、膵がんでも有用ではないかと考えられている。また腫瘍組織の検査で確認されているTMBやMSIが血漿検査でも検出できる技術が進んでおり、腫瘍組織が少ない場合に血液で診断できることが期待されているという。

 さらに血漿の検査で、DNAのメチル化パターン(メチローム)を全ゲノム的に解析できるようになってきた。メチル化のパターンは由来臓器特異的であるため、血漿中のDNA(cfDNA)が腫瘍由来か、正常組織由来かを、メチル化を解析することからわかるという。ある報告では、血漿検査でメチル化を解析してcfDNAが肝細胞由来であり、肝障害の程度を示す肝酵素ALTと比べても遜色がない結果だった。この方法は原発不明がんでの臓器特定にも使える可能性があり、希望のある技術ではないかと西尾氏は話した。

 血中循環腫瘍細胞(CTC)についても、膵がんにおいて治療効果や全生存期間に関連すると報告されている。進行膵管腺がん41人で、フルオロウラシル(5-FU)ベースの化学療法を1サイクル行った後にCTC陽性率は80.5%から29.3%に低下したという報告がある。

 膵がんにおいて、治療につながるactionableな遺伝子の変化は必ずしも多くはないが、「検査しなければactionableな変化も認められず、検査をしなければ薬が使えない場合があります。たとえ頻度が低くても、そういったことをチャレンジしていただきたい」と西尾氏。またactionableな変化が見つかった時に、薬が使えないという状況にならないように、バスケット型の臨床試験などを行なって、使える薬を増やしていくという努力をしていかないといけないと考えているとした。

 一方で、actionableな変化がなかった場合は化学療法が適応になることが多いと話した。がんの発生は、たくさんの遺伝子の変化が積み重なって起こる多段階発がんが大部分であり、それには化学療法の効果が期待される。多段階発がんの典型例が膵がんであると説明した。「実際に積極的に化学療法を行って、非常に良好な経過が得られる人をよく見ています」と西尾氏は話した。

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