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レポート

2021/02/23

第41回日本膵臓学会大会より

膵がんに対する成績向上と副作用軽減を目指した放射線治療の開発

新規抗がん薬との併用や新たな照射法に期待

中西美荷=医学ライター

膵がんでは全身化学療法とのバランスを重視した治療開発を

 伊藤氏によれば、放射線治療の治療開発にあたって、膵がん以外のがんの局所進行例では局所治療としても放射線治療の重みがあるが、膵がんに関しては遠隔への効果に対する全身化学療法とのバランスが非常に重要となる。

 伊藤氏は「消化器毒性や有害事象が少ないもの、高用量の化学療法が投与できるもの、あるいは放射線療法後にもしっかり化学療法が継続できるもの、治療期間を短縮してすぐに化学療法に移れるものが、開発の目指す方向かと思う」と話す。

 局所効果の向上ということで、局所制御の維持や、R0切除(顕微鏡で確認しても腫瘍がとりきれた状態)を目指したコンバージョン手術(まず化学療法や化学放射線療法を行い、病勢がコントロールされてR0切除できると考えられる症例に対して行われる手術)への移行も、放射線治療に期待されている面だという。

免疫チェックポイント阻害薬との併用でさらなる成績向上目指す

 効果を高めるために、殺細胞性抗がん薬2剤の併用や、免疫チェックポイント阻害薬との併用といった、新規抗がん剤との多剤同時併用が検討されている。

 III期の非小細胞肺がん(NSCLC)では、化学放射線療法後に抗PD-L1抗体のデュルバルマブを投与することで生存期間が有意に改善され、これが標準治療となった。そのため、膵がんを含むさまざまながん種に対して、同様の臨床試験が開始されている。

多剤併用での導入化学療法の有用性は今後の課題

 治療成績の向上を目指して、導入化学療法(化学放射線療法の前に行う化学療法)も検討されている。その意義を証明した唯一の試験が、JCOG 1106試験である。A群では最初からS-1と放射線治療を行い、B群は導入療法としてゲムシタビンを3サイクル投与した後に評価をして遠隔転移がなければS-1と放射線療法を行った。

 A群、B群の1年生存率に差はなかったが、2年生存率はA群では36.9%で、B群の18.9%よりも良好だった。この試験の結果から、最初からか化学放射線療法をする方が有望なレジメンであることが示された(Ioka T et al., Jpn J Oncol. 2020; hyaa198. Online ahead of print)。

 これを踏まえて、膵癌診療ガイドライン2019年版では、「化学放射線療法前の導入化学療法は行わないことを提案する」としている。

 ただしこれは、導入化学療法としてゲムシタビンを用いた場合の成績であり、多剤併用による導入化学療法の有用性については明らかになっていない。伊藤氏は、今後、それらについても治療開発を進めていった方がいいのではないかとの見解を示した。

新規照射技術や治療機器、そして粒子線治療の寄与とは

 新規照射技術としての強度変調放射線治療(IMRT)、体幹部定位放射線治療(SBRT)や、陽子線や重粒子線を用いた粒子線治療にも期待がかかる。

 高精度放射線治療の1つである強度変調放射線治療(IMRT)は、コンピューター技術を駆使して、複雑な線量分布を作成する革新的な照射方法である。消化管への線量を落とすことによって有害事象の軽減を図ることができる。また、標的体積内同時ブーストという照射法にて消化管に接していないところに高線量を投与することにより、有効性の向上が期待できるという。

 体幹部定位放射線治療(SBRT)は、腫瘍に対して多方向から1回大線量で線量を集中させるという照射方法で、膵がんに対しては2020年4月に保険収載された。1回から6回の照射で、1週間という短期間で治療を終えることができ、全身化学療法への移行が早いというメリットがある。

 線量増加によってIMRTと同様に高線量域を作ることができるので、有効性の向上が期待できるが、伊藤氏は「1回線量が高いことによって有害事象が強くなるリスクがあるため、臨床試験で慎重に評価していかなければならない」とした。

 こうした高精度放射線治療は、新しい放射線治療機器として高精度放射線治療対応リニアックが開発されたことにより可能となっている。

 MRI搭載放射線治療システムでは、MRIにより照射前、照射中の腫瘍や周囲臓器をリアルタイムで確認でき、治療当日の腫瘍や周囲臓器の位置、形状に合わせた最適の放射線治療計画を立てることが可能である。膵がんに対して海外で臨床試験が進められているが、日本ではまだ保険適応となっていない。

膵がんに対する粒子線治療は先進医療として実施

 X線などの従来の放射線(電離放射線)は、放射線量が最大となるのは体表面から数cmのところで、その後は次第に減少していくため、体の深部に位置している腫瘍に十分な線量を投与するためには、腫瘍周囲の正常組織にある程度の放射線が照射される。

 一方、陽子線や重粒子線(炭素線)などの粒子線は、物質中の原子と核反応を起こして運動エネルギーを失いながら進み、運動エネルギーがなくなった位置で最高の電離を起こして残りのエネルギーを一気に放出する(ブラッグピークという現象)という性質を持っている。このピークを腫瘍の位置に合わせることによって、腫瘍に十分なダメージを与えながら、正常組織へのダメージを最小限に抑え、有害事象の軽減を図ることができる。

 また重粒子線治療はX線照射と比較して生物学的効果が約3倍高いため、さらに有効性の向上が期待されている。膵がんにする粒子線治療は現在、先進医療として行われている。

骨転移や原発巣に起因する疼痛に対する緩和的放射線治療は有効

 膵がんに対する緩和的照射については、膵癌診療ガイドライン2019年版で、「痛みを有する(有痛性の)膵癌骨転移に対しては放射線療法を行うことを推奨する」とされている。伊藤氏は「疼痛対策について、放射線治療医にいつでもご相談いただければと思う」と話す。

 有痛性の骨転移では、放射線治療によって75-90%の疼痛緩和が得られることが示されている。30グレイ/10回/2週間、20グレイ/5回/1週、8グレイ/1回/1日などのスケジュールで照射が行われるが、どのスケジュールでも疼痛緩和率は変わらないため、全身状態や予後あるいは次の治療のスケジュールを加味して、分割照射の線量スケジュールが決められるという。

 また放射線治療により数カ月から半年で再骨化が認められることから、上肢骨や下肢骨などの骨折リスクがある場合、骨折予防目的で放射線治療を行うことがある。脊椎転移によって脊髄圧迫している場合の脊髄麻痺予防としても、放射線治療を行うことができる。さらには、実際に麻痺症状が起こった時の緊急照射として、1~2日で治療を開始すれば、脊髄麻痺が改善する確率が高くなるという。

 膵がんの原発巣は増大すると腹腔神経叢浸潤を起こしやすく、背部痛、心窩部痛によってQOLが低下する。その場合、疼痛の責任部位を中心に、放射線単独であれば30グレイ/10回/2週、また全身状態が良好な場合、化学療法を併用して50-54グレイ/25-28回/5-5.5週で治療をすることにより、それぞれ65-94%、50-80%程度の疼痛緩和率が得られ、鎮痛薬の減量や中止が期待できるという。

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