このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2021/02/23

第41回日本膵臓学会大会より

膵がんに対する成績向上と副作用軽減を目指した放射線治療の開発

新規抗がん薬との併用や新たな照射法に期待

中西美荷=医学ライター

 放射線治療は、手術、薬物療法(化学療法)、そして最近登場した免疫療法とともに、がん治療の一翼を担う重要な治療法である。特に膵がんでは、診断された時には切除不能な場合も多く、放射線療法や化学療法の役割は大きい。膵がんに対する放射線治療では、治療成績の向上に加えて、正常組織に放射線が当たることによる副作用を軽減するために、さまざまな工夫や取り組みがなされている。

 2021年1月8〜9日に開催された第41回日本膵臓学会大会における昭和大学医学部放射線医学講座放射線治療学部門の伊藤芳紀氏による教育セミナー2「癌放射線治療」から、膵がんに対する放射線治療の実際と、有用性が期待される新たな放射線治療について紹介する。


膵がんにおける放射線治療の適応は

 がん放射線治療には、治癒を目指す「根治的照射」と、骨転移や脳転移、腫瘍による疼痛や出血、狭窄や閉塞などの症状を和らげる、あるいは延命のために行われる「緩和的照射」がある。

 膵がんでは、局所進行切除不能例に対する1次治療として、放射線療法と化学療法を併用する根治的化学放射線療法が標準治療の1つとなっている。骨転移の痛みがある場合は、これを軽減する緩和的放射線治療の適応となる。また2020年4月、オリゴ転移(少数個の転移のみが存在する状態)に対する照射が保険収載となった。

 切除可能例・切除可能境界例については、臨床試験で術前化学放射線療法の有用性が検討されているところである。

画像で腫瘍の位置を把握しながら照射が可能、治療期間は5~6週間

 がん放射線治療では、多くの場合、リニアックと呼ばれる直線加速装置で電子を加速して、電子線あるいは高エネルギーのX線を体外から標的に向けて照射する「外部照射」が行われる。子宮頸がんや前立腺がんなどでは、管腔内あるいは組織内に密封小線源と呼ばれる放射線物質を挿入して、体内から放射線を照射する「内部照射」が行われることもある。

 実際の外部照射では、放射線発生装置に360度回転するガントリー(照射口を含む筺体)が装備されていて、いろいろな方向から治療をすることができる。最近のリニアックはX線撮影やCT撮影(コーンビームCT撮影)もできるため、照射前の腫瘍の位置を正確に把握して照射を行う「画像誘導放射線治療」が可能だという。

 局所進行切除不能膵がんに対する外部照射のスケジュールは、現在、標準的には通常分割照射で、1日1回1.8-2グレイ、総線量50-54グレイである。総線量50.4グレイ、28回の照射の場合は5.5週間程度の治療期間となる。

放射線治療の副作用はなぜ起きる?

 放射線治療は、放射線の間接作用または直接作用によって腫瘍細胞のDNAを損傷して細胞死に導くことで、腫瘍を減少あるいは消滅させようとする治療法である。

 X線やγ線などでは、放射線が水分子に作用して発生したフリーラジカル(対をなしていない電子[不対電子]を持つ原子や分子)がDNAを損傷する間接作用、重粒子線(炭素イオン線)では放射線自体が直接DNAに損傷を与える直接作用が主体である。

 病巣を切除しないため臓器の形態・機能の温存を図れる、治療後の生活の質(QOL)を維持できて発病前と同様の生活ができる、低侵襲性であるため手術を行うにはリスクの高い高齢者や基礎疾患のある人でも受けられる、通院治療が可能であるなどの利点がある。

 その一方で、腫瘍周囲の正常組織に放射線が当たることによる副作用が課題とされる。たとえば従来の放射線治療で用いられるX線は、体内を通り抜ける性質が強いため、腫瘍にある程度の線量を照射しようとすると、手前にある正常組織、さらには腫瘍を通り抜けた後にある正常組織にも照射されてしまう。

 そのため、放射線治療では、腫瘍に対して十分な線量を届けつつ、正常組織への照射をできるだけ少なくするために、さまざまな工夫がされている。

綿密な治療計画で腫瘍に十分に照射するとともに正常組織への照射を減らす

 1つは、照射を避けたい正常臓器の特性や耐容線量も考慮しながら、どのぐらいの線量をどの範囲に、どの方向から照射するのかなどについて、綿密な治療計画を立てることである。

 照射による有害事象は、臓器の特性によって異なる。直列臓器と呼ばれる脊髄や腸管などは、一部に高線量が当たると重篤なダメージが起こる。一方、並列臓器とよばれる肺や肝臓、腎臓などは、一部に高線量が当たっても、その他の部分が代償性に機能を補ってくれる。

 正常組織の耐容線量に関しては、1回2グレイなどの通常の分割照射により5年間で5%に重篤な副作用が起きる線量(TD5/5)や、5年間で50%に重篤な副作用が生じる線量(TD50/5)が臓器ごとに明らかにされている(Emami B et al., Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1991; 21: 109-122)。

 またNCCN Guidelines Pancreatic Adenocarcinomaや放射線治療計画ガイドライン2020年版では、線量制約として、腎臓は両側腎のV18(18グレイ以上照射される腎体積の全腎体積に対する割合)<30-35%、肝臓は平均肝線量30グレイ以下、V30(30グレイ以上照射される肝体積の全肝体積に対する割合)<40%、胃・十二指腸・小腸は最大線量55グレイ以下、脊髄は最大線量45グレイ以下などと示されている。

 局所進行切除不能膵がんに対する通常分割照射でも、腎臓や肝臓、胃・十二指腸・小腸、脊髄といった正常組織の線量制約が遵守される。ただ、「上腹部では腸管の耐容線量が少ないために、膵がんの治療時には(腫瘍に)十分な線量が当てられないことが問題になっている」という。

事前に治療時と同じ体位でCTを撮って線量分布を吟味

 どの範囲を照射するかについても、十分に検討される。照射の標的体積については国際的な概念・定義があり、画像診断や触診で把握される腫瘍の大きさが肉眼的腫瘍体積(GTV)、これに微視的進展範囲を加味したものが臨床標的体積(CTV)とされる。

 CTVに体内での移動を加味した体内標的体積(ITV)に、さらに毎回の照射の設定誤差を加味して計画標的体積(PTV)が決定される。一般の3次元照射では、照射野辺縁で線量が低下することを考慮して、PTVよりも広い範囲を照射するという。

 放射線治療を行うことが決まると、実際の治療体位でCTを撮像する。その際、治療体位の再現、維持のために固定具を作成したり、用いたりする。

 CT画像はオンラインで三次元治療計画装置に転送され、CTの各横断面における(腫瘍と)正常組織の輪郭を囲んでいき、形状と位置を正確に認識する。そして、その位置関係を見ながら、どのように照射していくかを検討し、3次元線量分布を比較、吟味して、最適の治療計画を立てている。

 また横軸に線量、縦軸に容積をとった線量-容積ヒストグラム(DVH)を用いて、腫瘍や正常組織の照射線量を数値化するによって、客観的に治療計画の良し悪しを評価している。

 治療計画には、三次元治療計画の簡単なもので1時間から数時間、あるいは数日、高精度放射線治療になると、1週間近くを要するという。

新規抗がん薬の併用で1年生存率は60-70%にまで改善

 局所進行切除不能膵がんに対するさまざまな治療法についてのランダム化比較試験における治療成績は、化学放射線療法と化学療法単独が同じぐらいで、放射線療法単独や支持療法よりも長期の生存期間が得られる。化学療法としてフルオロウラシルを用いた場合の生存期間中央値は10カ月、1年生存率は40%である。

 この結果から、膵癌診療ガイドラインでは、局所進行切除不能膵がんに対する1次治療として、化学放射線療法と化学療法単独を提案している。

 ゲムシタビンやS-1などの新規抗がん薬を使用した場合の化学放射線療法の第2相試験も行われている。放射線治療は、通常分割で総線量50.4グレイを照射している場合が多い。S-1については、第1相試験の結果から推奨用量が通常の化学療法単独と同じ80mg/m2/日とされているため、放射線治療期間中に遠隔部位への効果も期待できるという利点がある。

 化学療法としてゲムシタビンあるいはS-1を用いることで、化学放射線療法による生存期間中央値は16カ月を超えるようになり、1年生存率は60-70%、2年生存も25%程度にまで改善されてきている。

 タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)やプラチナ系の薬剤(ドセタキセルとの併用でシスプラチン)、あるいは分子標的薬(カペシタビンとの併用でベバシズマブ、ゲムシタビンとの逐次投与でセツキシマブ)を用いた試験も行われているが、これらについては、期待されたような治療成績改善は得られていないという。

 そのため膵癌診療ガイドラインでは、併用化学療法としてフッ化ピリミジン系の抗がん薬(フルオロウラシル、テガフール・ウラシル、S-1など)、あるいはゲムシタビンを用いることを提案している。

リンパ節領域の制御を抗がん薬に任せることで副作用を軽減

 局所進行切除不能膵がんに対する化学放射線療法の主な副作用は、急性期では消化器毒性や骨髄抑制があり、遅発性の副作用としては、胃や十二指腸の潰瘍や出血の可能性に留意が必要だという。

 従来、局所進行切除不能膵がんに対する化学放射線療法で化学療法としてフルオロウラシルを併用する場合、リンパ節領域の制御も図るべく、大動脈周囲リンパ節も含めた広い範囲に対して予防的リンパ節照射が行われていた。

 しかし、併用する化学療法としてゲムシタビンやS-1など新規抗がん薬が用いられるようになって以降は、リンパ節領域の制御は抗がん薬に任せて、照射体積を小さくするようになっている。それに伴い、消化器毒性などの有害事象が軽減されている(Cornelius J. McGinn et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2003; 56: 10-15)。

 こうしたことから、膵癌診療ガイドライン2019年版でも、「大動脈周囲リンパ節への予防照射は行わないことを提案する」としている。

  • 1
  • 2
この記事を友達に伝える印刷用ページ