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レポート

2021/02/16

第51回日本膵臓学会大会より

選択肢が拡がりつつある膵がんの薬物療法

遺伝子変異に基づく治療法も登場

森下紀代美=医学ライター

切除不能膵がんの2次治療では新たな薬剤が選択肢に加わる

 2次治療は、膵癌診療ガイドライン2016年版の「行うことを提案する」から、いろいろなエビデンスが出てきた2019年版では「行うことを推奨する」に変更された。ただし、この時点では複数の薬剤が挙げられたものの、保険未収載だった。2020年4月の改訂版では、保険適用となったイリノテカンのリポソーム製剤(ナノリポソーム型イリノテカン)、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)の場合の抗PD-1抗体ペムブロリズマブ、NTRK融合遺伝子を有する場合のチロシンキナーゼ阻害薬エヌトレクチニブといった薬剤が登場した。

 このうちMSI-Highに対するペムブロリズマブは、がんの種類を問わずに有効であることが報告され、膵がんは1-2%と高い頻度ではないが含まれている(D. T. Le, et al. Science 2017;357:409-13)。日本では2018年12月、化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-Highを有する固形がんに対し、ペムブロリズマブが保険適用された。

 ただし、大腸がん以外のMSI-Highの固形がんを対象としたKEYNOTE-158試験では、膵がん患者22人の奏効率は18.2%(A. Marabelle, et al. J Clin Oncol 2019;38:1-10)にとどまることも示された。そのため一般臨床では、「FOLFIRINOXやゲムシタビン+nab-パクリタキセルをまず行い、その間にMSIを調べていくことになるだろう」と古瀬氏。

 NTRK融合遺伝子は、膵がんでの頻度は5%未満で、大腸がん、肺がん、乳がんなども同様である。乳腺類似分泌がん(唾液腺がん)などの希少がんでは、90%を超える高い頻度でこの遺伝子変異が認められる(E. Cocco, et al. Nat Rev Clin Oncol 2018;15:731-47)。

 NTRK融合遺伝子はこのように稀な遺伝子変異ではあるが、エヌトレクチニブは対象のほぼ全例に有効であったことが報告されている(A. Drilon, et al. Cancer Discov 2017;7:400-9)。エヌトレクチニブは2019年6月、成人および小児のNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対し、世界で初めて日本で承認された。

 また、ナノリポソーム型イリノテカンは、その作用機序から、通常のイリノテカンよりも大幅に少ない投与量で高い抗腫瘍効果が期待されている。

 ナノリポソーム型イリノテカンは、第3相のNAPOLI-1試験で評価が行われた。対象は、ゲムシタビンを含む化学療法後に増悪した遠隔転移を有する膵がん患者で、ナノリポソーム型イリノテカン単独群、5-FU+ロイコボリン群、ナノリポソーム型イリノテカンと5-FU+ロイコボリンを併用する群(併用群)の3群を比較した(A. Wang-Gillem, et al. Lancet 2016;387:545-57)。

 主要評価項目のOSは、中央値が5-FU+ロイコボリン群4.2カ月、併用群6.1カ月、ハザード比0.67となり、併用群で有意に延長した。

 副次的評価項目のPFSは、中央値がそれぞれ1.5カ月、3.1カ月、ハザード比は0.56となり、OSよりも良好なデータとなった。奏効率も、2次治療ではあるが、5-FU+ロイコボリン群の0.8%に対し、併用群では16.2%の結果が得られ、OS、PFS、奏効率ともにナノリポソーム型イリノテカンによる上乗せ効果が得られたと報告された。

 有害事象では、イリノテカンが入っているため、下痢、悪心、嘔吐などの消化管毒性や貧血、好中球減少などの血液毒性が観察された。

 日本はNAPOLI-1試験に参加しなかったため、日本人で有効性と安全性を評価する国内第2相試験が行われた。この試験は2つのパートから成り、パート1ではナノリポソーム型イリノテカン+5-FU+ロイコボリンの安全性や薬物動態などが評価され、パート2ではこの併用療法を行う群と5-FU+ロイコボリン群に患者をランダムに割り付け、安全性と薬物動態、有効性が評価された(T. Ioka, et al. ESMO Asia 2019 132P)。

 主要評価項目のPFSは、中央値が5-FU+ロイコボリン群1.5カ月、併用群2.7カ月、ハザード比は0.60となり、ナノリポソーム型イリノテカンの有意な上乗せ効果が認められた。

 有害事象は、日本人においても、悪心、下痢、食欲減退などの消化器毒性、好中球減少や白血球減少などの血液毒性など、イリノテカンと同様の副作用が観察された。

 これらの結果を受け、2020年3月、ナノリポソーム型イリノテカンは、化学療法後に増悪した治癒切除不能な膵がんに保険適用された。使用の際には、制吐薬を前投与すること、3剤併用で使うことなどに注意が必要である。

 このように2次治療の選択肢が増えたことから、1次治療をゲムシタビンベースで行った場合は、2次治療はFOLFIRINOX、ナノリポソーム型イリノテカン+5-FU+ロイコボリン、S-1のいずれか、1次治療をFOLFIRINOXで行った場合は、2次治療はゲムシタビン+nab-パクリタキセル、ゲムシタビン単剤のいずれかが行われることになる。そして、希少がんの場合は、ゲノムベースの検査からペムブロリズマブ、エヌトレクチニブが投与される。

膵がんでもBRCA遺伝子変異陽性例にPARP阻害薬が承認される

 膵がんでもゲノム医療の検討が進められている。現時点ではあまり薬剤の開発につながっていないが、BRCA遺伝子変異は膵がんと関連することがわかっている。

 BRCA遺伝子変異陽性の膵がん患者を対象に、PARP阻害薬オラパリブの有効性を評価する第3相のPOLO試験が行われた。3000人を超える転移を有する膵がん患者をスクリーニングしたところ、247人(7.5%)に生殖細胞系列BRCA遺伝子変異が見つかり、プラチナ製剤を含む1次治療で16週以上病勢安定が得られた患者154人を、オラパリブまたはプラセボを投与する群にランダムに割り付けた(T. Golan, et al. N Engl J Med 2019;381:317-27)。

 主要評価項目のPFSは、中央値でオラパリブ群7.4カ月、プラセボ群3.8カ月、ハザード比0.53となり、オラパリブで有意に延長した。OSは観察期間が短く、差は示されていないが、今年結果が発表される予定であるという。

 この結果に基づき、米国では2019年12月、プラチナ製剤を含む1次治療後の維持療法として、オラパリブが承認されている。

 日本でも1年後の2020年12月、生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する治癒切除不能な膵がんに対し、オラパリブはプラチナ製剤を含む化学療法後の維持療法として承認された。「日本のデータがなくてもこのように承認されたのは、やはり希少がんであることが大きかったのではないか」と古瀬氏は話した。

 課題もある。現在、米国のNCCNガイドラインでは、転移を有する膵がんにおいては治療開始前に遺伝子変異を調べることとなっている。一方、日本では、がん遺伝子パネル検査、MSI検査は、標準治療がない患者、または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった患者が対象とされている。

 古瀬氏は「遺伝子検査は1次治療中に行うことが現実的であり、プラチナ製剤の治療のタイミングを逃さない配慮が必要。膵臓は組織の生検が行いにくいため、今後はリキッドバイオプシーによる遺伝子解析が期待される」と述べた。

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