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レポート

2021/02/16

第51回日本膵臓学会大会より

選択肢が拡がりつつある膵がんの薬物療法

遺伝子変異に基づく治療法も登場

森下紀代美=医学ライター

 膵がんの治療選択肢は、徐々にではあるが拡がりつつある。切除可能膵がんに対する術前後補助療法、切除不能膵がんに対する化学療法の新たな選択肢のエビデンスが得られ、一般臨床で行われるようになっている。遺伝子変異に基づく薬物療法も登場している。

 2021年1月8、9日にWEBと現地のハイブリッドで開催された第51回日本膵臓学会大会の教育セミナー「癌薬物療法」では、膵癌診療ガイドライン改訂委員会の委員で杏林大学医学部腫瘍内科学教室教授の古瀬純司氏が、「膵癌診療ガイドライン2019年版」の改訂版について解説するとともに、2019年以降の薬物療法のエビデンスを紹介した。


切除可能膵がんでは日本から術前補助療法のエビデンスを発信

 膵がんは、外科的切除が標準治療となる「切除可能膵がん」、門脈や動脈に浸潤している「切除可能境界膵がん」、局所進行や遠隔転移を認める「切除不能膵がん」に分けられる。

 まず、ステージI、IIの切除可能膵がんの補助療法について。「膵癌診療ガイドライン2019年版」の改訂版では、術前補助療法として化学療法を行った後、手術を行い、術後補助療法を行うことが推奨されている。

 膵がんでは、術後補助療法のエビデンスが先に得られ、ゲムシタビンが標準治療の時代が長く続いた。しかし、2016年、日本で行われたJASPAC 01試験において、S-1はゲムシタビンと比べて術後の全生存期間(OS)を有意に延長し、ハザード比は0.57となることが報告された(K. Uesaka, et al. Lancet 2016;388:248-57)。この結果、日本ではS-1が術後補助療法として確立している。

 一方、海外では、ゲムシタビンとの比較でOSを有意に延長した2つの併用療法が報告された。ゲムシタビン+カペシタビンはハザード比が0.82(J. P. Neoptolemos, et al. Lancet 2017;389(10073):1011-24)、Modified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)のハザード比は0.64となった(T. Conroy, et al. N Engl J Med 2018;379:2395-406)。mFOLFIRINOXでは、毒性を抑えるため、オリジナルのFOLFIRINOX(オキサリプラチン+イリノテカン+フルオロウラシル+レボホリナート)のレジメンからフルオロウラシル(5-FU)の急速静注を中止している。

 このような結果から、術後補助療法として、米国のNCCNガイドラインではmFOLFIRINOX、ゲムシタビン+カペシタビンが推奨されている。日本のガイドラインでは第1選択はS-1で、S-1が使用できない場合はゲムシタビンとされている。日本では米国で推奨されている併用療法はどちらも使えないが、mFOLFIRINOXについては「公知申請」の形で要望が出されている。

 一方、膵がんの術前補助療法についてはエビデンスがなかった。世界初のエビデンスとなったのが日本で行われたPrep-02/JSAP-05試験だ。この試験では、切除可能膵がんを対象に、手術を先行する群、術前化学療法としてゲムシタビン+S-1を2コース行ってから手術を行う群を比較し、術後は両群ともに標準治療であるS-1を6カ月間投与した。

 手術先行に対する術前化学療法のハザード比はOSで0.72となり、術前化学療法で有意な改善が示された(M. Unno, et al. J Clin Oncol 2019;37(suppl 4):abstr 189)。対象には切除可能膵がんだけでなく、切除可能境界膵がんも含まれたが、サブグループ解析から、切除可能膵がんは全体の結果と同様に良好で、切除可能境界膵がんでは有意差はないものの、良好な結果だったことが示された(S. Satoi, et al. J Clin Oncol 2019;37(suppl):abstr 4126)。

 この結果から、膵癌診療ガイドラインの記載は「切除可能膵癌に対する術前補助療法を行うべきか否かは明らかではない」から、2019年10月に「切除可能膵癌に対する術前補助療法としてゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法を行うことを提案する」に変更された。

 また、末梢血の血中腫瘍循環DNA(ctDNA)で遺伝子変異を調べ、陽性の場合は術後化学療法を行っても効果が低いことが報告されている。

 今後の展望として、古瀬氏は「新たな術前・術後補助療法を確立していく必要がある。現在の術前補助療法はゲムシタビン+S-1であるが、切除不能膵がんに行われるゲムシタビン+nab-パクリタキセルやFOLFIRINOXを導入すること、ctDNA検査を術前・術後に用いて治療戦略を変えていくことなどが今後の課題になると思う」と話した。

切除不能膵がん1次治療はゲムシタビン+nab-パクリタキセル、FOLFIRINOXが標準に

 局所進行または遠隔転移を有する切除不能膵がんでは、治療の第1選択は化学療法となる。根拠となったのは、転移を有する膵がんの1次治療として、ゲムシタビンとFOLFIRINOX、ゲムシタビンとゲムシタビン+nab-パクリタキセルを比較した2つの第3相試験で、ゲムシタビンに対するOSのハザード比がそれぞれ0.57、0.72となり、有意に延長することが示された(T. Conroy, et al. N Engl J Med 2011;364:1817-25、DD Von Hoff, et al. N Engl J Med 2013;369:1691-703)。

 これらの結果から、FOLFIRINOXとゲムシタビン+nab-パクリタキセルは、遠隔転移を有する膵がんに強く推奨され、現在は標準治療として広く行われている。局所進行膵がんではこのようなエビデンスはなく、弱い推奨となっているが、第1選択となっている。

 ただし、日本の臨床では、FOLFIRINOXが使われる頻度はゲムシタビン+nab-パクリタキセルよりも低いことが報告されている。その理由の1つに毒性の強さが挙げられ、骨髄抑制や食欲減退などの発現率が高く、末梢神経障害なども観察されている。

 そのため古瀬氏らは、日本人患者を対象に、毒性を抑えたmFOLFIRINOXの第2相試験を行った。奏効率、無増悪生存期間(PFS)、OSは、オリジナルのFOLFIRINOXの日本人データや海外の第3相試験のデータと大きな差はなく、骨髄抑制は軽減することが確認された(M.Ozaka, et al. Cancer Chemother Phamacol 2018;81(6):1017-23)。

 一般臨床では、mFOLFIRINOXを含むFOLFIRINOXとゲムシタビン+nab-パクリタキセルの使い分けが課題となるが、決定的なエビデンスはないのが現状である。

 そこで、日本から使い分けに関するエビデンスを発信するため、転移を有する膵癌を対象に、ゲムシタビン+nab-パクリタキセル、mFOLFIRINOX、S-IROX(S-1+オキサリプラチン+イリノテカン)を比較する第3相のJCOG1611試験が行われている。主要評価項目はOSで、古瀬氏は「結果が得られるには4、5年かかるが、是非参考にしていただきたい」と話した。

 局所進行膵がんを対象として、ゲムシタビン+nab-パクリタキセルとmFOLFIRINOXを直接比較する第2相のランダム化比較試験、JCOG1407試験も現在進行中である。主要評価項目はOSで、古瀬氏によると、結果は今年得られる見込みであるという。

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