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レポート

2021/02/02

第61回日本肺癌学会学術集会より

非小細胞肺がんにおける分子標的治療の最近のトピックス

より多くの患者が広く分子標的薬の恩恵にあずかれるような体制作りが大切

八倉巻尚子=医学ライター

 進行非小細胞肺がんでは、初回治療前に遺伝子検査を行って、細胞のがん化やがん細胞の増殖に直接関与する「ドライバー遺伝子」の異常が見つかった場合は、それぞれの遺伝子異常に対する分子標的薬を投与する。新しい分子標的薬が次々に開発されるとともに、複数の遺伝子を同時に調べることができる「がん遺伝子パネル検査」も保険収載され、治療の機会は増えているが、検査体制には課題も残っている。

 2020年11月にウエブ上で開催された第61回日本肺癌学会学術集会の教育講演において、九州大学病院呼吸器科の岡本勇氏が「進行非小細胞がんにおける分子標的治療の現状と限界」と題して話した内容を紹介する。


非小細胞肺がんは初回治療前の遺伝子検査に基づいた治療選択が標準治療

 「ドライバー遺伝子異常の発見と各種キナーゼ阻害薬の開発により、進行非小細胞肺がんの初回治療は、遺伝子検査に基づいた治療選択が標準治療となっており、まさにがんゲノム医療が実臨床に根付いている疾患であるといえます」。岡本氏はこのように述べ、進行非小細胞肺がんに対する分子標的薬の治療について解説した。

 進行非小細胞肺がんに対して保険適用のある分子標的薬が存在する遺伝子異常は、現在のところ6つ。EGFR遺伝子変異とALK融合遺伝子、ROS-1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、NTRK融合遺伝子、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異である。それぞれに対する分子標的薬を使用するにはコンパニオン診断薬(CDx)による検査が必要となる。

 EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子については、コンパニオン診断薬による遺伝子異常の検査が日常診療ですでに広く行われている。ROS-1融合遺伝子は、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いた検査が、BRAF遺伝子変異やNTRK融合遺伝子、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異では、それぞれ次世代シークエンサー(NGS)を用いた検査がコンパニオン診断薬として承認されている。

 しかし検査のために採取された臨床検体の量は限られているため、個別にコンパニオン診断薬を利用すると、検体が足りなくなってしまう可能性がある。そこで複数の遺伝子異常を一度に検出することができる検査法が保険診療で使えるようになった。2019年6月に「オンコマインDx Target TestマルチCDxシステム」(以下、オンコマインDx TT)というNGSを用いた解析法が承認された。60以上の遺伝子異常を同時に解析することができ、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS-1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異のコンパニオン診断薬として承認されている。この4つの遺伝子異常以外でも、NTRKやMET、RET、HER2、KRASの遺伝子異常も調べることができ、これらの結果は研究目的として開示が可能となっている。

主なドライバー遺伝子異常に対する分子標的薬

 EGFR遺伝子変異の非小細胞肺がんには、5つの分子標的薬が承認されている。第1世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるゲフィチニブ、エルロチニブ、第2世代EGFR-TKIのアファチニブ、ダコミチニブ、第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブである。

 オシメルチニブは、「活性型変異EGFRを特異的に不可逆的に阻害する薬剤で、野生型EGFRへの影響が小さいことから、有害事象の頻度が少ないことが期待されています」(岡本氏)。また耐性遺伝子であるT790Mに対しても強力な阻害活性を持つことから、第1世代、第2世代EGFR-TKIと比べて、耐性化が起こりにくいという特徴がある。

 国際共同の第III相試験であるFLAURA試験において、オシメルチニブは第1世代EGFR-TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ)と比べて、統計学的に有意に全生存期間を延ばすことが報告された。現在ではEGFR遺伝子変異のある患者に対する初回治療として、オシメルチニブが広く選択されている。

 ALK融合遺伝子の非小細胞肺がんには4つのALK-TKIが承認されている。第1世代のクリゾチニブ、第2世代のアレクチニブ、セリチニブ、第3世代のロルラチニブである。

 日本で行われた第III相試験のJ-ALEX試験において、アレクチニブはクリゾチニブに比べて有意に無増悪生存期間を延長した。また副作用が軽いことから、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの初回治療として、アレクチニブが広く使われている。また第3世代ALK-TKIのブリガチニブ(brigatinib)も承認されることが予定されており、アレクチニブが効かなくなった後の薬剤として選択肢が増えることになる。

 ROS-1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにはクリゾチニブが高い効果を示していたが、2020年2月にエヌトレクチニブが新たに承認された。エヌトレクチニブの第I相、第II相試験の統合解析で、奏効率は77%、奏効期間の中央値は24.6カ月と良好で(Lancet Oncol. 2020;21:261)、脳転移のある患者に対する脳内病変の奏効率も高いことが示されている。

新たに非小細胞肺がんの治療薬として登場したMET阻害薬

 2020年には非小細胞肺がんの治療薬として、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性に対する2つの分子標的薬が承認された。METは、EGFR、HER2と同じようにレセプター(受容体)型のチロシンキナーゼとして細胞膜に存在する。HGF(肝細胞増殖因子)が結合すると、PI3/AKT、MAPK経路を介して、細胞の増殖、進展に関わる細胞内シグナルを活性化させる。進行非小細胞肺がんでは、METの遺伝子増幅がEGFR-TKIの耐性機序として報告されている。

 MET遺伝子エクソン14スキッピング変異では、細胞膜近くにあるエクソン14が欠損している。エクソン14が欠損していると、タンパク質分解に重要な役割を果たすユビキチン化が起こらなくなり、細胞膜にMETタンパクが蓄積する。それによりがん細胞の増殖や進展への強い活性化シグナルが入ると考えられている。

 非小細胞肺がんにおいて、米国の大規模な解析によれば、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異は肺腺がん患者の2.9%、肺扁平上皮がん患者の2.1%に認められる。他のドライバー遺伝子異常と異なり、高齢者でも見られ、喫煙や性別とあまり関係ないことが報告されているため、「非小細胞肺がんの診療において、MET遺伝子異常の検査は組織型や臨床背景を問わず、広く検査していく必要があります」と岡本氏は話した。

 MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がんに対して使える分子標的薬は、テポチニブとカプマチニブの2剤が承認されている。これらの薬剤を投与するにはコンパニオン診断薬を用いて、遺伝子異常を検出する必要がある。テポチニブのコンパニオン診断薬はNGSを用いた「Archer MET コンパニオン診断システム」(以下、Archer MET)、カプマチニブのコンパニオン診断薬は「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」(以下、FoundationOne CDx)である。

 FoundationOne CDxは、がん遺伝子パネル検査で用いられるNGSだが、コンパニオン診断薬として用いた場合は、その検査費用と診療報酬の差が非常に大きく、 病院の負担が大きくなることから、「現実的には、初回治療前の検査は困難であるという問題点が指摘されています」(岡本氏)。

非小細胞肺がんで用いられる遺伝子パネル検査の問題点

 ドライバー遺伝子の検出には、1つひとつの遺伝子異常を解析する単一遺伝子検査と、複数の遺伝子を同時に解析できるマルチプレックス検査がある。初回治療前の治療薬選択のために用いられるマルチプレックス検査として、先述のオンコマインDx TTとFoundationOne CDxが保険収載されている。

 FoundationOne CDxは、包括的ながんゲノムプロファイリング機能を持ち、がん遺伝子パネル検査として、標準治療がない固形がん患者や標準治療が終了となった固形がん患者に使った場合の保険点数は56000点である。FoundationOne CDxを用いた場合に、検査会社が病院に請求してくる費用は約42万円だが、コンパニオン診断薬として、Foundation One CDxを使った場合は8万円しか保険償還されない。その場合は病院が30万円以上を負担しなくてはならないことから、現状ではFoundationOne CDxをコンパニオン診断薬として使用することが困難な状況になっている。

 同様のことは、NTRK融合遺伝子陽性患者に対するエヌトレクチニブについても言われている。エヌトレクチニブはROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの治療薬であるが、NTRK融合遺伝子陽性患者に対しても非常に高い効果があることから、2019年6月に承認された。コンパニオン診断薬がFoundationOne CDxであるため、検査費用と診療報酬の差が大きく、初回治療時にエヌトレクチニブを使うためのNTRK融合遺伝子の検査が実質的にはできないという状況が生じている。

 「その問題点を解決するために、日本肺癌学会ではMETやNTRKの遺伝子異常をオンコマインDx TTで検出できた場合に、それぞれの適切な薬剤を投与できるようにする要望書を厚生労働省に提出しています」と岡本氏は話した。

 一方、ROS-1融合遺伝子については、エヌトレクチニブが承認されたときのコンパニオン診断薬はFoundationOne CDxだったが、2020年8月からオンコマインDx TTでROS-1融合遺伝子が検出された患者に対してクリゾチニブだけでなく、エヌトレクチニブの投与も可能になっている。

九州大学病院でのドライバー遺伝子異常の検索

 九州大学病院呼吸器科でのドライバー遺伝子異常の検索の流れが紹介された。まず気管支鏡検査で検体を採取して病理診断を行う。細胞診の結果が出てきたときにClass V(悪性と断定できる異型細胞を認める)、非扁平上皮がんの診断が得られれば、直ちにその細胞診検体をEGFR遺伝子の検査に提出する。続いて、組織診の結果が返ってくるが、その際に腫瘍組織が十分ある場合にはオンコマインDx TTに提出する。

 なお、マルチプレックス検査であるオンコマインDx TTと単一遺伝子検査であるEGFR遺伝子の個別のコンパニオン診断薬は同時に保険請求することができない。そのためオンコマインDx TTを同時に出した場合は、個別のEGFR遺伝子検査は研究費で負担をしているという。またオンコマインDx TTでMET遺伝子異常が検出されれば、直ちに腫瘍組織をArcher METの検査に出す。NTRK融合遺伝子が見つかれば、早めにFoundationOne CDxをがん遺伝子パネル検査として使うことを検討していくとした。

 オンコマインDx TTとEGFR遺伝子の単一遺伝子検査を同時に行う中で、オンコマインDx TTでEGFR遺伝子変異陰性だった48例中のうち2例で単一遺伝子検査では陽性になっていたという。詳しく調べたところ、オンコマインDx TTでは、偽陽性を避けるために遺伝子頻度(allele frequency)が低いものにはカットオフを設けて、陰性と判断するような基準を設けているためだった。そのため今後は、こういった低い遺伝子頻度の遺伝子変異のある患者さんに対して、EGFR-TKIのオシメルチニブ等がどのくらい効果があるかを注視していきたいと岡本氏は話した。

 またオンコマインDx TTの検査には一定量の腫瘍組織が必要となるが、十分な腫瘍組織の量がない場合もある。そのときは細胞診検体を用いて、EGFR遺伝子やROS-1融合遺伝子の検査(PCR法)を行う。さらに残余検体でALK融合遺伝子の検査(FISH法、免疫染色)を行う。その結果、全て陰性であれば、この段階で化学療法や免疫療法に移行する。がんが進行して増悪した場合は、再度、腫瘍組織を生検する。また腫瘍組織が極めて微量の場合は、少なくともEGFR遺伝子の検査を行うことを考えるが、その検査に出す腫瘍組織もないときは、血漿検体を用いたEGFR遺伝子検査を行うという。

 気管支鏡検査で採取できる臨床検体は限られているものの、限られた検体からいかに効率的に遺伝子異常を検索するかが重要な課題であるとした。調べるべき遺伝子異常が多くなっている中で、オンコマインDx TT検査への習熟は必要であり、これには病理診断部との連携が不可欠であるという。また「それぞれの患者さんで得られる臨床検体の量は異なるため、検体の量に応じて、 臨機応変に検査方法を選択していく必要があり、細胞診検体も上手に使っていく必要があると考えています」と話した。

 現在は6つの遺伝子異常に対する分子標的薬が承認されているが、EGFRエクソン20挿入変異やRET融合遺伝子、HER2遺伝子変異、RAS G12C遺伝子変異に対する分子標的薬についても有効な結果が出ている。それらの薬剤が承認され、臨床で使うことができるようになったときは、ますます多くの遺伝子異常を調べなくてはならなくなる。そのため岡本氏は「非小細胞肺がんの治療体系において、コンパニオン診断薬の整備が急がれます。より多くの患者さんが広く分子標的薬の恩恵にあずかれるような体制作りが必要だと考えています」と述べた。

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