このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2021/01/19

第61回日本肺癌学会学術集会より

肺がんの周術期治療が分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬で変わる

治療効果を予測するバイオマーカーに期待

森下紀代美=医学ライター

 周術期治療とは、治療効果をより高めるために手術前後に行われる治療のこと。非小細胞肺がん(NSCLC)の周術期治療では、従来の化学療法や化学放射線療法に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が検討されるようになってきている。

 第61回日本肺癌学会学術集会では、12月7日から21日まで教育講演がバーチャル形式で行われた。近畿大学医学部外科学教室呼吸器外科部門准教授の宗淳一氏は「肺癌根絶のための周術期治療」と題した講演を行い、術後補助化学療法、術前補助療法、免疫チェックポイント阻害薬・分子標的療法による周術期治療の現状と課題について解説した。


術後補助化学療法では予後や治療効果の予測因子が必要

 「肺癌診療ガイドライン2020年版」では、「病変全体径が>2cmの術後病理病期IA/IB/IIA期(第8版)完全切除、腺癌症例に対し、テガフール・ウラシル配合剤療法による術後補助療法を行うよう推奨する」、また非腺癌症例に対しては「提案する」とされている。

 この推奨や提案は、テガフール・ウラシル(UFT)内服により5年全生存(OS)率が4.6%改善することを報告したメタ解析に基づく(C. Hamada, et al. J Clin Oncol. 2005;23:4999-5006)。IA期では、腫瘍径が2cm未満のT1aではUFTによる改善はみられず、2-3cmのT1bでは改善がみられたことも報告された(C. Hamada, et al. J Thorac Oncol.2009;4:1511-16)。

 術後病理病期II/IIIA期完全切除例に対する術後補助化学療法は、ガイドラインではシスプラチン併用化学療法が推奨されている。

 根拠となったのは、シスプラチン併用化学療法の臨床試験のメタ解析LACE studyで、5年OS率が5.4%改善することが報告された。サブグループ解析では、シスプラチン併用化学療法によりII/III期ではOS率が有意に改善したが、IA期や全身状態を表すPSが不良な患者では有害となることも示された。化学療法のレジメンでは、シスプラチン+ビノレルビンで良好な傾向が示された(J. P. Pignon, et al. J Clin Oncol.2008;26:3552-59)。その後の検討結果も踏まえ、II/III期の術後補助化学療法として、実地臨床ではシスプラチン+ビノレルビンが行われることが多くなっている。

 以上から、術後病理病期IIA期(第8版)完全切除例に対する補助化学療法は、UFTとシスプラチン併用療法のいずれも選択可能となる。宗氏は「個人的な考えとして、シスプラチン併用療法を基本とし、PSが不良な患者などにはUFTが良いのでは」と話した。さらに「UFT、シスプラチン併用化学療法による術後補助化学療法の効果は軽微であり、改善の余地がある」とし、効果をさらに改善するため、後補助化学療法の予後や治療効果の予測因子となるバイオマーカーの同定が必要であるとした。

 LACE studyでは、バイオマーカーとなりうるさまざまな分子の同定を試みたLACE-Bio1研究を行っている。この研究では、腫瘍浸潤リンパ球とβ-チューブリンが予後予測因子として同定されたが、治療効果予測因子は同定されなかった(L. Seymour, et al. Clin Lung Cancer. 2019;20:66-73)。またLACE-Bio2研究では、遺伝子変異量(TMB)がバイオマーカーとなる可能性が示された(S. Devarakonda, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2995-3006)。

多様な集団であるII/III期の肺がんでは異なる治療戦略が必要

 周術期の化学療法は手術の前と後のどちらで行うのがよいのか。この点について宗氏は、それぞれで行われたメタ解析の結果を紹介した。

 術後補助化学療法について解析した前述のLACE study、術前化学療法について解析したメタ解析(S. Burdett, et al. Lancet 2014;383:1561-71)では、どちらも5年OS率で約5%の改善を認め、大きな差はなかった。

 宗氏は「術後補助化学療法のエビデンスが術前化学療法よりも早く確立したことから、複数の術前化学療法の第3相試験が早期に中止され、エビデンスの質、量とも十分である術後補助化学療法が標準治療となった。現在は、術前化学療法は標準治療と言えないと考えられている」と説明した。

 術前治療が考慮されるII/III期の局所進行NSCLCは、リンパ節転移の程度、腫瘍の直接浸潤の程度、腫瘍最大径など異なる病態が混在しているため、多様な集団と言える。そのため、それぞれの病態に応じた治療戦略を考える必要がある。いずれにしても、手術、放射線、抗がん薬などによる集学的治療が必要なことには変わりはなく、外科医、放射線治療医、内科医などで構成される多職種チームで治療戦略を考えることが重要になる。

 パンコースト型局所進行NSCLC(肺尖部[肺の最上部]に発生し、胸壁に浸潤している肺がん)に対しては、切除可能性があれば術前同時化学放射線療法後に手術と術後補助化学療法を行うことが、米国のNCCNガイドラインでも提案されている。切除不能であれば、根治的化学放射線療法を行った後、免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-L1抗体のデュルバルマブを投与することが推奨されている。

 切除可能なT3/4 N0/1局所進行NSCLCには、手術を先行し、術後補助化学療法を行うことが強く提案されている。また術前化学療法、術前化学放射線療法も提案されている。

 同側縦隔リンパ節転移(N2)を有する局所進行NSCLCには、根治的化学放射線療法を行った後、デユルバルマブを投与することが推奨されているが、より治療効果を改善するため、非浸潤性肺がんでは術前化学療法後または術前化学放射線療法後の手術も提案されている。

 ただし、N2肺がんを対象として、術前化学放射線療法後に手術を行う方法と根治的化学放射線療法を比較した第3相試験で、前者の有効性を示したものはない。最も大規模に行われたINT0139試験のサブグループ解析では、術前化学放射線療法後に手術を行う方法は、肺葉切除術ではOSの有意な改善と手術関連死亡率1%を認めたのに対し、肺全摘術(片側の肺をすべて切除)ではOSの改善はなく、手術関連死亡率は26%だった(KS Albain, et al. Lancet 2009;374:379-86)。宗氏は「安全に手術を行うことができれば、術前化学放射線療法が有効である可能性がある」と話した。

 日本の肺癌診療ガイドラインでは、術前化学療法については「臨床病期IIIA期(第8版)に対して、術前プラチナ併用療法を行うよう提案する」、術前化学放射線療法については第3相試験の結果を踏まえ、「切除可能な臨床病期IIIA期(N2)に対しては、術前化学放射線療法を行うよう提案する」と弱い推奨となっている。

術前化学放射線療法後手術の晩期肺障害が3割で長期に残存

 宗氏らは、術前化学放射線療法後に手術を行う方法の晩期肺障害について報告している(J. Soh, et al. Ann Thorac Surg. 2020 Oct14:S0003-4975(20)31666-0)。放射線療法後1~2カ月の時点で放射性肺臓炎が生じる可能性があることは報告されているが、術前化学放射線療法後手術の晩期にどのような肺障害が生じるかについては、これまで詳細な検証はなかった。

 宗氏らは、周術期および術後のすべてのCT画像から、晩期肺障害の有無、程度、経過を検討した。多くは無症状であるが、術後1年の時点で患者の84%に晩期肺障害が発生していた。このうち34%は長期に残存し、空洞形成は22%、アスペルギルス感染症などの慢性感染は9%に認められた。

 空洞形成の累積発症率は5年で22.7%、10年で37.3%、右上葉切除で少なく、右中葉・下葉切除で多かった。また、術後1年時に晩期肺障害を広範囲に認めた患者では、空洞形成が高率に発生していた。慢性感染の累積発症率は5年で6.8%、10年で31.2%、空洞形成や術後1年時に晩期肺障害を広範囲に認めた患者で慢性感染が高率に発生していた。

 いずれの肺障害もOSには有意な関連を示さなかったが、晩期肺障害が進行すると日常生活動作(ADL)を著しく損なう可能性があるため、注意が必要である。宗氏は「術後30日以内に画像で浸潤影を認めた場合は1年後の晩期肺障害の発症が高率となるため、肺炎予防、肺臓炎予防などの対策が重要になると考えている」と話した。

免疫チェックポイント阻害薬は術前と術後の両方で検討

 免疫チェックポイント阻害薬については、術後補助療法として検討する第3相試験が複数行われている。いずれも患者登録は終了しており、解析結果が待たれる。

 免疫チェックポイント阻害薬を用いた周術期治療でも、術前と術後のどちらに行うのがよいのかという疑問が生じる。術前療法のメリットには、免疫環境の保持、細胞死したがん細胞からの抗原の放出による免疫応答の増強、さらに全身治療に対する忍容性が保持されていること、微小遠隔転移に対する治療介入時期が早くなること、術前療法の効果に基づいて術後補助療法の計画ができることなどがある。一方、デメリットには、術前療法に関連する副作用で手術不能となる可能性、術後合併症が増加する可能性、術前療法の効果が乏しく、病勢が進行して手術不能となる可能性などがある。

 治療効果予測因子として、腫瘍内のPD-L1発現量、TMBなどが検討されているが、まだ確立されていない。そうした中、注目されているのがMajor Pathologic Response(MPR)である。MPRは、切除標本について、5mm毎に作成した全スライドの残存腫瘍細胞の割合を測定し、その合計を全スライド数で割り、残存腫瘍細胞割合の平均を算出したもの。この割合が10%以下の場合をMPR陽性と評価する。

 MPRとOS、無病生存期間(DFS:治療後、再発や他の疾患にかかることなく生存している期間)の間に有意な相関が認められたため、近年MPRは、術前療法の術後生存率のバイオマーカーに代用できる可能性が期待されている。ただし、MPRは切除後にしかわからないため、治療介入前に判定できる治療効果予測バイオマーカーの同定が必要である。

 免疫チェックポイント阻害薬を術前療法で評価した臨床試験の1つに、I期からIIIA期のNSCLCにニボルマブを2コースのみ投与し、手術を行ったJHU パイロット試験がある(P. M. Forde, et al. N Engl J Med 2018;378:1976-86)。腫瘍は著明に縮小しており、MPRは45%に認め、病理学的完全奏効(pCR)率は14%となった。なお、術前療法による有害事象で手術が遅延することはなかった。

 この研究では、MPRの予測因子として、治療前に採取した検体のPD-L1の発現とTMBが検討されたが、PD-L1陽性と陰性でMPRに差はみられなかった。一方、症例数は少ないが、TMBが高いほどMPRが多く認められた。

 その他にも、免疫チェックポイント阻害薬を術前療法として評価した複数の臨床試験があり、いずれもMPR率は約20%、忍容性は高いと考えられる結果が示されている。治療効果予測バイオマーカーとして、PD-L1高発現やMPRが有望とする報告があった。

 免疫応答を認める腫瘍(Hot Tumor)と免疫応答に乏しい腫瘍(Cold Tumor)が存在することに着目した治療戦略も提案されている。免疫チェックポイント阻害薬は、Hot Tumorでは有効であるが、Cold Tumorでは奏効しにくいことが考えられる。Cold Tumorに対しては、殺細胞性抗がん薬や放射線療法と組み合わせることにより、がん細胞死や腫瘍抗原の放出を誘導させ、免疫応答を増強することで、免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果を増強することが報告されている(P. Sharma, et al. Science 2015;348:56-61)。

 NADIM試験は、IIIA期のNSCLCのみを対象とし、カルボプラチン+パクリタキセルにニボルマブを加えて3コース投与した後に手術を行う第2相試験。MPR率は74%、pCR率は57%と良好な結果だった。無増悪生存期間(PFS:治療により、増悪せずに安定した状態で生存している期間)、OSも良好で、2年PFS率は77.1%、2年OS率は89.9%となった(M. Provencio, et al. Lancet Oncol 2020;21:1413-22)。

 この他にも、術前化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用する第2相試験が複数行われており、化学療法薬や免疫チェックポイント阻害薬の種類に関わらず、MPR率はいずれも50%を超えていた。有害事象も全体的には許容される範囲だったが、免疫チェックポイント阻害薬単剤と比べて増加していることには注意が必要である。

 さらに、術前化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用する複数の第3相国際臨床試験、放射線療法を追加した術前化学放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用する複数の臨床試験が行われている。

 SQUAT試験(WJOG12119L)は宗氏らの施設が主導している医師主導試験で、IIIA/IIIB、N2のNSCLCに対し、カルボプラチン+パクリタキセルにデュルバルマブを追加した化学放射線療法を行った後に手術を行い、術後補助療法としてデュルバルマブをさらに追加する集学的治療法を検討している。患者登録は順調に進んでいるという。

分子標的薬は術後補助療法で高い効果、術前療法での検討も

 分子標的療法については、EGFR遺伝子変異を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)を中心に、術後補助療法で投与する第3相試験が複数行われている。

 CTONG1104試験では、EGFR遺伝子変異(exon19欠失変異またはL858R変異陽性)、完全切除後の病理学的病期II/IIIA期(N1/2)のNSCLCに対し、術後補助療法として、ゲフィチニブを2年間投与する群とシスプラチン+ビノレルビンを4コース行う群で有効性を比較した。DFSはゲフィチニブ群で有意に改善した(WZ Zhong, et al. Lancet Oncol 2018;19:139-48)。ただし、OSは両群の間に有意差はなかった(WL Wu, et al. ASCO 2020 Abstract No.9005)。試験治療で増悪した後、化学療法群の多くの患者にゲフィチニブを中心とするEGFR-TKIが投与されたこと(クロスオーバー)がその理由と考えられた。

 今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2020)で発表され、注目を集めたのが、第3世代のEGFR-TKIオシメルチニブを術後補助療法で投与したADAURA試験である。New England Journal of Medicine誌にも掲載された(YL Wu, et al. N Engl J Med 2020;383:1711-23)。

 この試験の対象には、EGFR陽性、完全切除が行われた病理病期IB、II、IIIA期のNSCLC、18歳以上(日本と台湾は20歳以上)、WHO PS0/1、シスプラチンベースの術後補助化学療法を行っていない患者と行っている患者の両方が含まれた。オシメルチニブの3年間の内服とプラセボを比較し、オシメルチニブの有効性を検証している。

 主要評価項目である病理学的病期II/IIIA期の患者のDFSは、ハザード比0.17(95%信頼区間:0.11-0.26)となり、非常に高い有効性から、試験は中止となった。宗氏は「この試験も、CTONG1104試験と同様に、多くの患者でクロスオーバーすることが予想され、OSのデータで有効性が確認される必要があるが、大変素晴らしい結果だと思う」と評価した。その後、中枢神経系の再発も抑制する可能性が報告され、今後の最新データが期待される。

 分子標的薬による術前療法も検討されている。CTONG1103試験は、IIIA期N2のNSCLCに対し、術前・術後にエルロチニブを投与する群と術前・術後にシスプラチン+ゲムシタビンを投与する群を比較した第3相試験である(WZ Zhong, et al. J Clin Oncol 2019;37:2235-45)。

 主要評価項目である奏効率は、エルロチニブ群54.1%、化学療法群34.3%となり、エルロチニブ群で良い傾向がみられたが、有意差はなかった(p<0.092)。PFS中央値はそれぞれ21.5カ月、11.4カ月、ハザード比0.39(95%信頼区間:0.23-0.67、p<0.001)となり、エルロチニブで良好だったが、OSは2群間で有意差はなかった。探索的にMPRも調べており、エルロチニブ群9.7%、化学療法群0%で、EGFR-TKIでMPRが得られる症例は免疫チェックポイント阻害薬と比較すると多くない結果だった。

 さらに、オシメルチニブを術前療法に用いるNeoADAURA試験も計画されている。免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を併用する試みもあるが、間質性肺炎の発症の増加や、投与間隔による免疫関連有害事象の増加なども報告されており、注意が必要になる。

再発リスクが高い疾患群の同定と介入が必要

 最後に宗氏は今後の展望について述べ、「周術期治療の適応となる疾患を適切に選出するためには、再発リスクが高い疾患群を同定し、介入することが必要と考えられる」とした。

 1つは、Pure Solid Tumor(充実性の腫瘍)であり、早期肺がんでは予後不良因子と同定されている(A. Hattori, et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2017;154:2102-10)。

 また、血液中に存在する循環腫瘍DNA(ctDNA)を検出することにより、再発を早期に予測することが可能となってきていることを宗氏らも報告しており(S. Ohara, et al. Transl Lung Cancer Res 2020;9(5):1915-23)、臨床応用する試みもなされている(RC Coombes, et al. Clin Cancer Res 2019;25:4255-63)。

 他にも、遺伝子異常をバイオマーカーとして、対応する術前療法を行うアンブレラ試験も行われている。

 宗氏は「これらの取り組みから、適切な治療効果予測バイオマーカーが同定されることが期待される。また、より忍容性の高い治療法や、より効果的な副作用マネジメント法についても、引き続き、取り組むべき課題と言えると思う」と述べた。

この記事を友達に伝える印刷用ページ