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レポート

2021/01/12

免疫チェックポイント阻害薬の登場でトリプルネガティブ乳がんの術前薬物療法はどう変わる?(その2)

アテゾリズマブの併用でがんが消失した状態「pCR」が増加

森下紀代美=医学ライター

 トリプルネガティブ乳がんとは、ホルモン受容体であるエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体、そしてHER2蛋白質の3つとも乳がん細胞に存在しない乳がんのこと。乳がん全体の10~20%を占めるとされる。

 治療のターゲットとなるホルモン受容体やHER2蛋白質がないことから、内分泌療法や抗HER2療法の対象にはならず、化学療法が行われる。

 治療効果の改善に向け、近年注目されているのが、トリプルネガティブ乳がんに化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用する方法だ。9月に開催されたESMO VIRTUAL CONGRESS 2020(ESMO2020)、11月に開催されたESMO ASIA VIRTUAL CONGRESS 2020(ESMO Asia2020)では、進行乳がんの1次治療、早期乳がんの術前薬物療法として検討された結果が相次いで報告された。

 そこで、早期のトリプルネガティブ乳がんに対する術前薬物療法について、福島県立医科大学腫瘍内科学講座主任教授の佐治重衡氏による解説を2回に分けて紹介する。

 2回目は、術前化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用で注目を集めた臨床試験の1つ、IMpassion031試験について。佐治氏は、術前化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用を評価した国際的な第3相試験、IMpassion031試験の共同研究者も務めている。


アテゾリズマブ+術前化学療法を評価したIMpassion031試験

 トリプルネガティブ乳がんに対する術前化学療法の効果を高めるため、免疫チェックポイント阻害薬との併用が注目されている。この併用療法を評価した主な第3相試験には、化学療法と抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用したKEYNOTE-522試験、化学療法と抗PD-L1抗体アテゾリズマブを併用したIMpassion031試験がある。

 この2つの試験は、使用される免疫チェックポイント阻害薬、化学療法薬、登録された患者数などが異なったが、結果はほぼ同様となり、免疫チェックポイント阻害薬の併用により術前薬物療法の効果が改善することが示された。

福島県立医科大学の
佐治重衡氏

 佐治氏は「2つの独立した試験の結果がほぼ同じであったことは重要。免疫チェックポイント阻害薬はトリプルネガティブ乳がんに有効であること、PD-L1は陽性のほうが多少効果は高いが、陰性でも効いていること、生存期間のデータも統計学的な有意差はついていないが、良い傾向に動いており、併用はおそらく正しいと考えられる」としている。

 KEYNOTE-522試験については前回紹介した(免疫チェックポイント阻害薬の登場でトリプルネガティがんの術前薬物療法はどう変わる? Vol.1)。今回は、化学療法と抗PD-L1抗体アテゾリズマブを併用したIMpassion031試験について紹介する。

 IMpassion031試験の結果は、ESMO2020で発表され(N. Harbeck, et al. ESMO2020 Abstract No. LBA11)、その後ESMO Asia2020でも発表された(S. Saji, et al. ESMO Asia Abstract No. 3MO)(Lancet. 2020 Oct 10;396(10257):1090-1100)。

 対象は、早期のトリプルネガティブ乳がん(cT2-cT4、cN0-cN3、cM0)で、腫瘍径は2cmを超えていること、PD-L1の発現の状態が分かっていること、ECOG PS 0または1(自分の身の回りのことは自分でできる状態)であることとされた。アテゾリズマブと術前化学療法を併用する群(アテゾリズマブ群)、またはプラセボと術前化学療法を併用する群(プラセボ群)に、患者は1対1でランダムに割り付けられた。

 術前療法として、まず12週間、アテゾリズマブまたはプラセボを2週毎、アルブミン懸濁型パクリタキセルを週1回投与し、その後の8週間は、アテゾリズマブまたはプラセボの2週毎の投与とドキソルビシン、シクロホスファミドの2週毎の投与を行った。その後、手術を行い、術後にアテゾリズマブ群ではアテゾリズマブを3週毎に11回投与し、プラセボ群は経過観察のみを行った。主要評価項目は、ITT解析対象(試験の途中で脱落した患者も含めた全対象)とPD-L1陽性患者における病理学的完全奏効(pCR:手術で摘出した腫瘍組織でがん細胞が完全に消失していること)だった。

 333人が登録され、アテゾリズマブ群165人、プラセボ群168人となった。このうちPD-L1陽性患者は、アテゾリズマブ群78人(47.3%)、プラセボ群76人(45.2%)だった。

アテゾリズマブの追加でpCR率は16.5%改善

 ITT解析対象におけるpCR率は、アテゾリズマブ群57.6%、プラセボ群41.1%、差は16.5%となり、アテゾリズマブ群で有意に改善した(p=0.0044)。PD-L1陽性患者におけるpCR率は、アテゾリズマブ群68.8%、プラセボ群49.3%で、p=0.021となり、19.5%の差はついたものの、事前に規定された統計学的に有意とするp=0.0184を下回ることはできなかった。一方、PD-L1陰性患者におけるpCR率は、アテゾリズマブ群47.7%、プラセボ群34.4%、差は13.3%だった。

 ただし、リンパ節転移の有無でアテゾリズマブ群とプラセボ群のpCR率の差をみると、リンパ節転移陽性の患者では26.6%の差が開いたのに対し、リンパ節転移陰性の患者では8.8%のみだった。

 また、ITT解析対象における無イベント生存期間(EFS:治療後、イベント[死亡や再発など]が起こらずに生存している期間)、無病生存期間(DFS:治療後、再発や他の疾患にかかることなく生存している期間)、全生存期間(OS)は、いずれもまだデータが成熟していない状態だったが、アテゾリズマブ群で良い傾向がみられた。

 安全性については、各薬剤で報告されているものと一致していた。術前薬物療法に関連するグレード3または4の有害事象は、アテゾリズマブ群56.7%、プラセボ群53.3%に発現した。術前薬物療法に関連する重篤な有害事象は、アテゾリズマブ群22.6%、プラセボ群15.6%に発現した。アテゾリズマブ群で術前薬物療法中に発現したグレード3または4の有害事象のうち、多く観察されたのは、好中球減少症(23.3%)、好中球数減少(12.2%)、発熱性好中球減少症(11.0%)、貧血(8.5%)、白血球減少症(8.5%)、高血圧(6.1%)、肝酵素値上昇(5.5%)などだった。

 特に注目すべき有害事象のうち、アテゾリズマブ群で術前薬物療法中に発現したグレード3または4の有害事象は、発疹(3.7%)、肺臓炎(0.6%)、大腸炎(0.6%)、脳炎(0.6%)、筋炎(0.6%)、急性輸注反応(0.6%)だった。

対象になるのは再発リスクが高い患者

 KEYNOTE-522試験、IMpassion031試験から、術前化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用による良好な成績が示された。次に注目されるのは、今後これらの併用療法が保険承認されたら、どのような患者が対象となるのかだ。免疫チェックポイント阻害薬には従来の化学療法にはない特有の副作用があり、薬剤費も高額となるためである。

 佐治氏は「2つの試験の対象には、たとえば腫瘍径2.1cmでリンパ節転移がない方も入っている。このように再発リスクはあるものの、とても高いとまでは言えない場合、どこまでこの治療をするのか。どのくらいの再発リスクを見込む場合にこの治療を積極的に勧めるのか、実地臨床では悩むことになるだろう」と話した。

 2つの試験から、リンパ節転移陽性の患者と陰性の患者では、pCR率での上乗せ効果が違うことが示されている。また、再発リスクがそれほど高くない場合は、この併用治療をしなくても同じ結果となる可能性があり、そうした患者に副作用のリスクを負わせることになる。

 これらの点から、佐治氏は「トリプルネガティブ乳がん患者さんなら誰にでも投与するとまではならないと思う」とし、ひとつの考え方を示した。トリプルネガティブ乳がんは多様性が高いがんであり、その中でどのような患者が免疫チェックポイント阻害薬を使うべきなのか、まだ明らかになっていない。そのため、免疫チェックポイント阻害薬を追加してわずかでも良いので効果を高めるという考え方ではなく、年齢や患者さんの合併症、背景状況なども加味した上で、既存の抗がん薬ではその患者さんが期待している予後を得ることは難しいと考えられる場合に、免疫チェックポイント阻害薬を使用するという考え方だ。

副作用管理が重要

 術前薬物療法で免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになった場合、副作用の管理が重要になる。「早期乳がんに対する術前薬物療法は治すための治療であり、副作用が残ってしまうと、患者さんの負担が大きくなってしまう。リスク・ベネフィットバランスは難しく、副作用のコントロールをいかに上手くやっていくか、副作用をあらかじめどのように予測するかといったことが、早期乳がんでは今後求められる」と佐治氏は話した。

 乳がんでは、他のがん種よりも遅れて免疫チェックポイント阻害薬が導入された。手術不能または再発のPD-L1陽性のホルモン受容体陰性HER2陰性乳がんに対し、2019年9月にアテゾリズマブが保険承認され、1年が過ぎたばかりである。

 免疫チェックポイント阻害薬には独特の副作用、免疫関連有害事象がある。そのため、他のがん種の治療も行っている施設では、すでにチーム医療の体制が整備されていたり、免疫関連有害事象の対策チームが構築されていたりするところが多い。乳腺科医が免疫関連有害事象の経験を積むのはこれからだが、同じ施設にこのようなチームがすでにあることは、副作用の管理に大きな意味を持つ。

 このようなチームがない施設や、乳腺科単科の施設などでは、周囲に相談できる呼吸器内科や内分泌科、アレルギー・膠原病内科の医師がいることが重要となる。また、乳がんの治療では、免疫チェックポイント阻害薬を単剤で使用することはなく、抗がん薬との併用になり、単剤とは副作用のパターンが異なることにも注意が必要である。

 ところで、早期乳がんではないが、ESMO2020では、トリプルネガティブの進行乳がんに対し、新しい作用機序の薬も注目を集めた。Trop-2と呼ばれる、がん細胞に多いとされる分子を標的とする抗体薬物複合体(ADC)sacituzumab govitecanである。この薬剤を医師が選択した既存の抗がん薬と比較した第3相のASCENT試験では、脳転移がない患者における無増悪生存期間(PFS:治療により、増悪せずに安定した状態で生存している期間)のハザード比が0.41(95%信頼区間:0.32-0.52)となり、増悪するリスクが59%低下したことが報告された(p<0.0001)。OSも有意にsacituzumab govitecanで優れる結果だった(A. Bardia, et al. ESMO2020 Abstract No. LBA17)。

 HER2に対するADCであるトラスツズマブデルクステカンも、HER2低発現の進行乳がんを対象に、医師が選択した既存の抗がん薬と比較する第3相試験、DESTINY-Breast04試験が進行中である。ADCについては、トリプルネガティブという枠組みではない形で開発が進みつつあり、いずれは早期乳がんでも検討されることが期待される。

 さらに、術前薬物療法の後に手術を行い、pCRが得られていなかった患者を対象に、「ポストネオアジュバント(術前薬物療法後の治療)」を検討する動きもあり、カペシタビン、ペムブロリズマブ、トラスツズマブデルクステカンが評価される予定となっている。早期乳がんの治癒率を高めるため、さまざまな取り組みが進められている。


免疫チェックポイント阻害薬の登場でトリプルネガティブ乳がんの術前薬物療法はどう変わる?(その1)
がん細胞が消えた状態「pCR」を目指す取り組み

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